「また、派手にやってくれたみたいだね」
気を失ったネプギアとユニを抱え、教会へ戻ると、呆れた表情の神宮寺が出迎えた。
「今回の件で、俺に責任を問うのは筋違いだと思うが?」
「分かっているさ、ユニを嗾けたのはボクだ。
それに、あそこは近々更地にする予定だったしね、君たちが派手に壊してくれて、むしろ助かったくらいだ」
したり顔で語る神宮寺に、一発くらい殴っても許されるのではないかと、悠理らしくもなく苛立ちを表に出すが、それもすぐに霧散した。
ネプギアとユニ程ではないにしても、悠理も少なからず傷を負い、体力も消耗している。
不毛なやり取りをするくらいなら、少しでも早く休みたいという心が先行した。
「――――――――礼を言わせてくれ」
おそらくユニが今の台詞を聞けば、何か裏があるのか勘ぐってしまうほど、殊勝な態度に、悠理は足を止めた。
「ユニの姉であるノワールは、優秀な女神でね。
おそらく、総合的な能力なら女神で随一だろう。
それだけに、ユニは少々、歪んでしまったが、その歪みも君が解消してくれたようだ」
ラステイションを救い、ユニを立ち上がらせた悠理には、教祖として頭が上がらない程に大きな恩だ。
もっとも、教祖であるが故に、女神を超え、プラネテューヌと親交が深い悠理に、大きく肩入れをすることが出来ないのも事実だ。
だからこそ、これは神宮寺ケイ個人としての言葉。
祖国を救い、友であるノワールの妹であるユニを立ち上がらせた、恩人への感謝。
「立ち上がったのは、彼女の意志だ。俺は何もしていないさ」
少なくとも、悠理は一度、立ち上がることのできなかったユニを見限った。
そこから、立ち上がることのできたのは、手を差し伸べたネプギアと、自身の足を打ち抜いてまで、戦うことを選んだユニだ。
遥かに格上である悠理に向かって、勝利を諦めず、引き金を引いたユニの勇気は、確かに悠理に届いた。
その気高い意志を、自身の手柄だと言えるほど、悠理は恥知らずではない。
「―――――――――君がそういうのならそういうことにしておくよ」
立ち去っていく悠理を、沈黙のまま見送る神宮寺は、静かになった広間で、天を見上げた。
三年もの間、囚われ続けている友へ。
近い未来、再開できる予感を胸に、一皮むけたユニを思い出し、クスリと笑みを浮かべた。
「ノワール、うかうかしていると、ユニに追い越されるかもしれないよ」
「無事、ゲイムキャラさんの協力を得られたわけですけど……」
「ネプギアが復帰するまでは、動けそうにないわね」
怪我自体は、ほぼ完治しているのだが、死が間近に迫る、本当の死線を初めて経験した体力と精神までは回復することが出来ず、未だ目を覚まさずに眠ったまま。
例え、目を覚ましたとしても、用心の為、数日の間は休息が必要だろう。
これからの行動について、意見を交わしていた時、部屋をノックする音が響いた。
「――――――あっ……えっと、……ちょっと、顔を貸しなさいよ……」
その音の主は、ネプギアと同じく倒れていたユニ。
まだ、傷は治りきっていないのか、体には包帯を巻いたまま、バツの悪い表情で悠理を連れ出した。
アイエフとコンパに見送られ、連れてこられたのは、何丁もの銃が飾られている部屋だった。
しかし、人気のない場所に連れて来たは良いものの、言葉が見つからず、視線が泳いでいるユニに対し、言葉を投げかけた。
「どうやら、怪我は大丈夫のようだな」
「――――――こんなのかすり傷よ、明日には完治してるわ」
当然、そんなはずがなく、ただの強がりだ。
迫りくる剣群、苛烈な剣戟に対応していたネプギア程ではないにしろ、ユニも相応のダメージは負っている。
目を覚ますのが早いだけで、失った体力は戻っておらず、動き回るのも一苦労な状態だ。
「そうか、ならば安心した。
可能な限り、加減はしたつもりだったが、後に残る怪我をしていないか心配していたところだ」
「ふん! そうやって余裕ぶってるのも今の内なんだから! アンタなんて、すぐに追い越してやるわよ!」
売り言葉に買い言葉、分かりやすい挑発の言葉を与え、話しやすいように誘導する。
挑発されたことと、気を使われたことも相まって、そっぽを向いてしまう。
だが、昨日までのように、憎しみに近い嫉妬はなく、悠理を前にしても、ユニの心は晴れやかだ。
「俺の寿命が尽きるまでに、頑張ることだな」
歪んだ劣等感から抜け出しつつあるのなら、これ以上、悠理の出る幕はない。
最後に、もう一つ挑発の言葉を残すと、踵を返す。
「待って!」
しかし、部屋を出ようとする悠理を、ユニは呼び止めた。
「―――――――――一度しか言わないから、よく聞きなさい」
立ち去ろうとする悠理を、引き留めるように外套の端を指で摘まみ、意を決して、すぅっと息を吸った。
「―――――――――ありがとう。 アタシみたいな、嫌な奴に、目を掛けてくれて」
口にすべきは謝罪の言葉だったのかもしれない。
ユニが劣等感に支配され、無茶な行動を繰り返していた時、ラステイションを救ったのは悠理だ。
その悠理に対して、酷い態度を取っていた自覚はある。
しかし、それでも選んだのは謝礼の言葉だ。
もう、後ろは向かない、前を向いて歩くという、ユニなりの宣言。
「今はまだ、一緒には行けない。
今、あんたに甘えたら、また、立てなくなるかもしれない。
でも、今より、もっと強くなったら――――――――――」
「まったく、神宮寺も同じ勘違いしていたが……」
振り返ると、顔を真っ赤にして悠理を見上げる、ユニ。
短い付き合いの悠理でも、素直ではないユニの性格では、余程恥ずかしかったのだろう。
そんな人間臭い、女神の頭に、優しく手を置いた。
「あの時、自らの足を打ち抜き、変わろうとしたのは君自身の勇気だ。
誇れ、君は、女神四人を打ち破った
その勇気があれば、必ず、君は強くなれる」
その言葉は、ユニが何よりも欲しい言葉だった。
三年前、未熟だったが故に連れて行ってもらうことが出来なかった。
それから三年間、努力し続けても、結果はついてこずに、誰にも認めてもらえなかった。
自分さえ認めていればいいと、他者を排除した、孤高の強さなんて持っていない。
だから、誰かに認めて欲しかったのだ。
努力を、勇気を、そして可能性を。
「――――――――任せときなさい! すぐに強くなって、犯罪組織なんてぶっ飛ばしてやるんだから!」
嬉し涙を流す、歪みのない晴れやかな笑顔。
これなら何の心配もいらない、歪みのない真直ぐな勇気は、これから折れることなく伸び続けていくだろう。
それはきっと、衛宮士郎が理想とした世界へ、繋ぐ一歩だ。
だからこそ、この一歩を無駄にしないためにも、この世界は必ず救う。
決意を新たに、ラステイションの舞台は幕を閉じ、次なる大地の舞台は幕を開ける。
女神候補生全員攻略してハーレムルートとかは、絶対にないのでご安心を。
しかし、悠理とネプギアは意外と相性が悪いので、時間は掛かるでしょうが、頑張ります。
次回はちょっとした閑話。
急速に仲が良くなった悠理とユニ、それを見たネプギアが……
みたいな話、になる予定。