「ネプギア、ストップ」
「はわっ!?」
今にもスキップしそうな程、上機嫌に歩いていたネプギアのマフラーを掴み、緊急停止させる。
勢い余って、首が圧迫され咳き込むネプギアを物陰に引き込み、視線を向ける。
「あれは、下っ端……!」
正体を隠そうともせず、勧誘を行う下っ端に、犯罪組織という自覚はあるのかと言いたい所だが、それを素通りしていく民が、ゲイムギョウ界の治安の悪さを示している。
幸いと言っていいのか、見向きもされない下っ端だが、今の状況が如何に深刻的な状況か分かっていない子供たちは、下っ端の言葉に乗せられ、違法ツールであるマジェコンを使用している。
「ルウィーも、無事とは言い難いわね」
「プラネテューヌとラステイションの活動拠点はほぼ壊滅だからな。
他の二国に戦力を集めていてもおかしくはないが、だからと言って、見過ごせるものでもないな」
「そうね、これ以上、
「あぁ、二度も同じ手が通じるとも考えづらい。
大した情報も持っていないだろう、あれにはここで退場してもらおう」
「―――――――え?」
その不吉な呟きに振り向いたときには既に悠理の姿はない。
しかし、ゾワリと背筋をなぞる殺気が、悠理の狙いを示していた。
高まる殺意を敏感に察知したネプギアは、物陰から飛び出し、下っ端を突き飛ばした。
「な、ななななななんだ!? て、てめぇはクソチビ! いきなり、襲いかかってくるなんて―――――」
突き飛ばされ激情する下っ端だが、次の瞬間、その場所に矢が突き刺さり、声が出なくなる。
分かりやすく向けられる殺気。 恐慌状態に陥る下っ端を庇うように剣を構えた。
「早く逃げて下さい! ユーリさんが狙ってます!」
「ふ、ふざけんな! てめぇに助けてもらう必要なんてねぇんだよ!」
ネプギアの声を聴かず、恐怖よりもプライドが勝った下っ端は、近くにいた子供を人質にとる。
苦し紛れの安全策だが、目に見える安全に気を許した下っ端。
「出てこい、エミヤ! こいつがどうなってもいいのか!?」
人質を得て、強気になった下っ端に返答代わりに返ってきた返事は二本の矢。 上がるは苦悶の絶叫。
正確無比に放たれた二射は両腕を貫き、人質を容易く開放する。
両腕を潰され、尚も何処からか狙いを定めている悠理から逃げる術はない。
ここにきて、ようやく、プラネテューヌで告げられた言葉が、比喩でもなく本当の宣告だということを悟った。
――――――――――二度はない、己の浅はかさを恨むがいい
放たれる第三射、迫る死に、固く目をつぶる下っ端。
「――――はぁ、はぁ……逃げて、早く!」
だが、その三射目も、下っ端に届くことはなかった。
間一髪で、矢を弾くことに成功したネプギアだが、次も防ぐことが出来る自身は欠片もない。
何時、何処から飛んでくるか、分からない緊張感がネプギアの体力を奪い、極寒の地であるにも拘らず、額には大量の汗が浮かんでいる。
「――――く、くそがぁぁああ!」
ここに居ても殺されると嫌というほど理解した下っ端は、脱兎のごとく駆けだして行く。
下っ端が無事逃げ切ることが出来たことを確認すると、張りつめていた緊張が解け、雪の上に腰を落した。
「敵を見逃すだけでなく、態々、身を危険にさらしてまで敵を助けるとは、どういうつもりだ」
厳しい目で、座り込んでいるネプギアを問い詰める悠理。
その厳しい目を、フラフラと立ちあがりながら、真正面から受け止めた。
「ユーリさんなら、殺さずに捕まえることだって出来たはずです! なのに、どうして!?」
「単純な話だ、あれがここにいるということは、狙いも同じだろう。
ならば、先を越されないように手を打っておく事に越したことはない」
「それなら、尚更、捕まえて法の裁きに任せるべきです!」
ネプギアの主張は正しい。
確かに、下っ端とはいえ犯罪組織に属している以上、罪人であることに間違いはない。
だが、罪人だからとはいえ、いきなり死刑はやり過ぎである上に、弁解も聞かず問答無用で死を与えるなんて常識外れにも程がある。
だが、その正論を受けても、悠理の主張は変わらない。
「今の世情で、真っ当に法令機関が動くとでも、本気で思っているのか」
「―――――それは……」
犯罪組織に属している下っ端が大手を振って勧誘活動を行っているにも拘らず、法令機関は何一つとして行動を起こさない。
それは、このルウィーだけに限った話ではない。
かつてのラステイションも、犯罪組織の工場だと分かっていても、教祖である神宮寺でさえ、表だって手を出すことはできず、悠理が影から潰すという力技に出たのだ。
「なにより、君が逃がしたあれが、何の関係もない人間に危害を加えた時、怨嗟の声は君にも向けられる。
その時、君は後悔をせずにいられるか」
ただ、良かれと思って、逃がした罪人が更なる罪を犯した時、非難の目は、必ず逃がした善人に向けられる。
―――――――――なぜ逃がしたのか?
―――――――――お前が逃がさなければ被害を受けずに済んだのに!
―――――――――お前の所為だ! 罰を! 罪人に加担した者すべてに罰を!
客観的に見れば、罰は罪を犯した罪人にこそ与えられるものだろう。
だが、被害を受けた者たちは、災禍を起こした原因全てに罰を望む。
その災禍が大きければ大きい程、大衆の声は正当化され、何の罪もない善人に不当な罰を与える。
その時、その善人は後悔せずにいられるか。
ただ、助けただけ。 それなのに、返ってくるのは不当な罰。 その理不尽を恨まずにいれるはずがない。
その理不尽に立ち向かい戦い続けた者を、悠理が知る限り一人しかいない。
「――――――ユーリさんが言うことは正しいと思います……」
ネプギアの答えに、悠理は安堵を覚えた。
それでいい、それこそが正義なのだと。 全てを救うなど空想のお伽噺でしかないのだと。
「――――――でも!」
だが、それでもいたのだ。
誰からも愚かだと蔑まれ、都合よく利用された後に裏切られても、諦めることなく理想を叶えようとする男が。
「それは、ユーリさんが苦しんでも、貫き通さなければならない正しさなんですか……!」
涙ながらに掴みかかってくるネプギアを振りほどくことも、言い負かすこともできない。
なぜなら、それは、過去の衛宮士郎と悠理の関係そのもの。
「悔しいじゃないですか! ユーリさんはこの世界の為に戦ってくれているのに!
どうして、人殺しの罪なんて背負わなければならないんですか!」
最後の最後まで理想を叶えるために、小数を切り捨てることをせずに、結局、力を及ばずに小数を切り捨てた。
その度に、涙を流し、血反吐を吐きながら、諦めることなくその理想に挑み続ける。
その背中を見るたびに、止めろと、無駄だと、せめて少しだけでも妥協してくれと、願った。
「どうして、受け入れるんですか……! 私は、そんなに頼りになりませんか……!」
どうして、何も言わずに、死んでしまったのか。
どうして、多くの人を救ったのに、その最期がすべての罪を背負っての処刑なのか。
どうして、頼ってくれなかったのか。
衛宮士郎との死別が今の状況と重なり、泣き崩れるネプギアに、かける言葉が見つからない。
ネプギアの気持ちは痛いほどわかる、だが、悠理も引くわけにはいかないのだ。
背負ったものがある。託されたものがある。辿り着きたい場所がある。
悠理では、衛宮士郎の理想を真の意味で受け継ぐことが出来なかった。
平和な世界を目指すことはできても、誰も傷つかない世界を目指すことはできない。
だからこそ、少しでも理想に近づけるように戦い続ける。
未だ空っぽの心を埋める理想は見つからない今、衛宮士郎への贖罪こそが悠理の生きる意味なのだから。
「すまない、少し頭を冷やしてくる」
縋り付くネプギアを引き離すと、雪が舞う街並みへと一人歩き去っていくのだった。
ところで、ネプギアって何歳くらいなんでしょうね?
作中では年の差とか書いてしまいましたが……
一応、ネプギアは10代中盤、悠理はキャラ設定で不明とか記載してますが実年齢はその生まれから本当に不明、見た目は20代中盤というところです。
10歳くらいならありなんですかね?
まぁ、まだまだ遠い話になりそうですが……