剣の丘を目指す者   作:未来

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人間の力

「ぜぇ……ぜぇ……お、おぼえときなさいよ……」

 

「動きは格段に良くなったが、力の分配はまだまだだな」

 

極寒のルウィーで汗をかくほどに息を切らし、恨みがましい目で見上げてくるアイエフ。

 

対称的に、息ひとつ切らさず、腕を組みながら、冷静に評価を下す悠理。

 

今回のように衝動的に始まることは珍しいものの、この光景は、既に何度も経験したももの。

 

こうした手合わせも既に十回、身体能力の拡張を行ってはいないとはいえ、それでも人間としては破格の身体能力と技量を持つ悠理に、息を切らしているとはいえ、大きな怪我もなくついてきている。

 

一級品の才能、そしてそれを十全に生かす、強い向上心。

 

人間では女神を超えられないという固定概念がなくなった今、アイエフは依然と比べ物にならない技量を手に入れていた。

 

「さて、そろそろ本当に教会に向かうぞ。

いい加減、ネプギア達も心配するころだろう」

 

大きな怪我もないため、すぐに治療を終える、教会へと足を運ぼうとした時、キラキラした目で悠理とアイエフを見ている少女がいた。

 

「ねぇ、あの子って」

 

「あぁ、人質にとられていた子供だが……」

 

悠理とアイエフが視線を向けると、おたおたと慌てふためき、物陰へと隠れてしまう。

 

意図がわからず、互いに顔を見合わせるが、やはり、理解できず、再び視線を向けると、顔を半分だけ出して、悠理たちの様子を伺っている。

 

そこで、ようやく、怯えているのだと理解すると、肩の力を抜いたアイエフが近づいていく。

 

少女の方は、やはり、少し怯えが残っているのか、一歩もそこから動こうとはしないものの、逃げ出すようなことはなく、少女へと接触することになった。

 

「こんにちわ。 私はアイエフって言うんだけど、名前は?」

 

「ロム……」

 

「そう、ロムちゃんね。 どうして、私たちを見ていたのか教えてくれる?」

 

「ぴゅんぴゅんって、凄かった」

 

優しく問いかけるアイエフに、緊張を解いたのか、再びキラキラした目で二人の組手に想いを馳せているロム。

 

確かに、小柄なアイエフが宙を舞いながら、悠理の攻撃を捌き、時には攻める一進一退の攻防は、子供の目から見れば特撮アニメを直に見ているようなものだっただろう。

 

「それから、助けてくれて、ありがとう」

 

「どうやら、恥ずかしいところを見られてしまったようだな……」

 

悠理がロムを助けたことを知っているということは、あの後も、あの場所に留まりネプギアとのやり取りを聞いていたということ。

 

少女に言い負かされるだけでなく、終いには泣かせてしまう醜態を見られては、苦笑するしかない。

 

「きちんとお礼を言えるなんて偉いわね。

でも、ルウィーも安全とは言えないんだから、もう一人で出会いちゃだめよ」

 

犯罪組織の目的が犯罪神の復活ならば、信仰(シェア)の確保の為、一般人に怪我を負わせるようなことは殆どないものの、今回のように、巻き込まれる可能性は0ではない。

 

今回こそ、悠理がいたからこそあっさりと人質を取り戻すことに成功したものの、アイエフ達だけなら、そう簡単にはいかなかっただろう。

 

「ん、大丈夫。だって、私―――――」

 

身を案じるアイエフに対し、無邪気に微笑みながら、正体を明かそうとした瞬間、その声は突然の襲撃によって遮られた。

 

「ロムちゃんを、返せー!」

 

飛来する小さな影は、鉛筆型の杖を振りかざし、アイエフへと迫る。

 

その速度は重力も相乗し、小さな子供にしては目を見張るものがあった。

 

「ラムちゃん、ダメ……!」

 

アイエフを目の後ろから、勘違いをおこし、恩人へと迫る双子の妹に静止の声を上げるが、頭に血の昇っているラムには、風を切る音に遮られ耳に届かない。

 

数秒後に訪れる惨劇に強く目をつぶるロム。

 

だが、再び目を開いたときに、視界に入ったのは、腕を後ろにとられ関節を取られているラムの姿。

 

「―――――あ、あれ?」

 

この場で最も、何が起きたのか理解が及んでいないラムは、雪に体を沈めながら素っ頓狂な声を上げる。

 

次いで、アイエフの非難の声が上がった。

 

「見ているだけじゃなくて止めなさいよ」

 

「不意打ちに対応できるかの抜き打ちテストだ」

 

ふん、と鼻を鳴らし、捕まえた襲撃犯へとようやく目を向けると、首をかしげる。

 

「ねぇ、この子ってもしかして……」

 

「あぁ、その衣装に目、どうやら、それがこの国の女神候補生らしいな」

 

「だったら、尚更止めなさいよ!」

 

「人の上でしゃべってないで、早く離せー!」

 

怒鳴るアイエフに被せて、体を雪に埋められているラムも続く。

 

ごめんごめんと、ラムの上から体をどかすと、改めてルウィーの女神候補生であるラムを見た。

 

薄い赤の混じった銀の髪と、白を基調にピンクが混じったレオタードのような衣装。

 

なにより、瞳の印が女神だということを明確に告げている。

 

「ルウィーの女神候補生は双子だって聞いてたけど、もしかして……」

 

ちらりとロムに視線を向けると、そこには、ラムと同じ女神化したロムの姿。

 

背格好は全く同じだが、唯一髪色だけはラムと対照的に、青入り混じりの銀髪。

 

そして、やはり瞳には女神の証。

 

「ふふーん! そうよ、私たちがルウィーの双子女神候補生ロムちゃん、ラムちゃんとは私たちのことよ!」

 

「ぶい……」

 

自慢げな顔でポーズを決める二人だが、悠理もアイエフも、まず感じたのは失望。

 

ネプギアもユニも確かに未熟ではあるが、少なくとも戦う覚悟は出来ているし、それなりの実力も備わっている。

 

だが、この二人に限ってはあまりに幼すぎる上に、不意打ちを掛けたにも拘らずアイエフにでさえ、簡単に抑え込まれる程度の実力しかない。

 

その程度の実力で、犯罪組織との戦いで肩を並べられるはずがない。

 

「誘拐犯、覚悟! いくよ、ロムちゃん!」

 

「ダメ。この人達、私を助けてくれた」

 

「えー! でも、あいつ、私を押し倒したんだよ!」

 

「それは、ラムちゃんがいきなり襲うから」

 

しかし、そんな悠理とアイエフの心情とは別に、簡単に取り押さえられたことが気に障るのか、一向にロムの話を聞こうとしないラム。

 

加えて、いつも味方のはずのロムが、アイエフの味方をしていることも一押しとなり、窘められるも、敵意を隠そうともしない。

 

あからさまな敵意とはいえ、子供相手にムキになるほど幼稚ではないアイエフだが、あえて一歩を踏み出した。

 

「いいわ、そこまで言うなら掛かってきなさい。

一度、きつい灸を据えてあげる」

 

悠理との手合わせで実力が付いていることは実感でいている。

 

だが、それが本当に女神に比類出来るものなのか。

 

どうしても手心を加えてしまうネプギアでは、測ることのできない絶好の機会故に、刃を取った。

 

「ふんだ! さっきは油断したけど、今度はそうはいかないんだからね!」

 

静止するロムを振り切り、杖を構えるラム。

 

油断云々は強がりなのか分からないが、少なくとも、前線で戦うタイプでないことは確か。

 

元々、技術の代わりに魔法が発展している国の女神候補生。

 

高まる魔力は、尋常ではなく、幼いとはいえ女神の一柱だということを肌で感じ取れるほど。

 

未だに静止を呼びかけるロムを、悠理が説得すると、止めるものは何もなく、ルウィーの街はずれで、女神と人間の戦いが静かに幕を上げた。

 

 

 




原作とちょっと変わり、アイエフ対ラムというカードになりました。

相変わらずヒロインがヒロインしてない状況ですが、仲直りイベントも予定しているので、そこでヒロイン力を発揮してもらいます。

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