剣の丘を目指す者   作:未来

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強襲

「ふぇ……ぐすっ……」

 

「あぁ、もう、私が悪かったから、泣かないの」

 

アイエフに手を引かれ、涙目を擦るラム。

 

いくら女神が相手とはいえ、子供相手に大人げない真似をしてしまったと、泣きじゃくるラムに罪悪感を感じつつ、悠理に助けを求めてみるも、悠理は悠理で、何故か、懐かれてしまったロムを相手にしている。

 

肩車で、いつもより倍は高い視点にキャッキャッとはしゃぐロムに、むしろ悠理が助けて欲しいと視線を向ける。

 

お互い慣れない子供相手に疲れ切っていたが、相手が女神候補生ともなれば放っておくわけにもいかない。

 

戦力にはならずとも、情報源にはなるのだ。

 

少なくとも、公衆の面前で勧誘活動が出来る程に侵攻されているルウィーで悠長な真似をしていれば、今度こそ先を越されかねない。

 

「ねぇ、二人とも、ゲイムキャラって知ってる?」

 

「知ってる」

 

とにかく話を切り出そうと、単刀直入な質問に、即答したのはロム。

 

ラムに視線を向けると同じく、首を縦に振った。

 

「でも、ミナちゃんが、教えちゃダメだって」

 

「ミナちゃんって、ルウィーの教祖よね……まぁ、国家の機密をそう簡単に話すわけにはいかないか」

 

思わぬ好感触だが、やはり最低限の口止めはされている。

 

やはり、教会に赴き、教祖から直接話を聞くしかないと、結局変わらぬ結論が出た時、郊外から地響きと共に破砕音が鳴り響いた。

 

音の方向から舞い上がる雪の規模は、ただ事ではないと示していた。

 

「アイエフ、その二人を連れて教会へ急げ。

俺は、様子を見てくる」

 

「分かった、気を付けなさいよ」

 

ルーン魔術を発動させ、一息に屋根まで跳躍すると、屋根を伝い、粉塵が舞い上がる場所へと走る。

 

いくら悠理の視力とはいえ、粉塵が上がり視界が不自由な中、その内部を見ることは出来ない。

 

だが、悠理たちがルウィーを訪れ、その存在を知られた直ぐの事。

 

それが、ただの偶然とは考えづらく、その予測は、一分の狂いもなく的中していた。

 

5mを超えようかという巨大な機械、二本の腕には、それぞれ巨大な刃が握られており、その一本一本が家屋を破壊するには十分な威力を持っている。

 

明らかに戦闘を目的にして作られたその機械を相手に、飛び回る小さな影があった。

 

「ネプギア、無事か!」

 

「はい! でも、まだ避難していない人たちが!」

 

逃げ遅れた住民たちを庇うように、注意を引きつけるが、ネプギアの膂力でさえも、あの巨体から繰り出される刃を受け止めるのは決して楽なことではない。

 

しかし、その攻撃が逃げ遅れた人々に当たろうものなら、簡単に命を落してしまう以上、ネプギアは躱すという選択肢を取れない。

 

削り取られていく体力に焦りが生じ始めた時、ゾクリと、悪寒が走った。

 

「――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)

 

空間を捻じり切りながら突き進む歪な剣が、その巨体の頭部を消しとばす。

 

後ろを振り向くと、黒塗りの弓を構えた悠理の姿。

 

鉄すらも容易く断ち切る、ネプギアのM.P.B.L(マルチプルビームランチャー)

 

その一閃ですら断ち切ることのできない装甲を容易く抉り取った、その威力に戦慄するも、頭部を失ってなお動こうとする機械に、止めを刺さんと飛翔する。

 

頭部を失い視覚情報を失った機械はネプギアの姿を捕えることが出来ず、破損している頭部の頭上にいる事に気付かない。

 

「これで、終わりです!」

 

光を凝縮した光熱剣が頭部から真っ二つに焼き切る。

 

ようやく機能を停止し、焼き切られた巨体が崩れ落ちた。

 

「悠理さん、これは……」

 

「あぁ、どうやら、向こうもなりふり構っていられなくなったようだ」

 

破壊された街並み、運ばれていく怪我人を見て、沈痛な面持ちで呟くネプギアに、淡々と事実を告げる悠理。

 

ネプギアにとっては初めて見る景色だが、悠理にとってはありふれた一面でしかない。

 

それ故に、怒りと悲しみに表情を歪ませているネプギアとは違い、冷静な判断を下した。

 

「教会へ行くぞ。ここに居ても俺たちが出来ることは少ない。

アイエフも向っている、何か情報を得ている筈だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十中八九、罠ね」

 

遥か昔に犯罪神が作りだしたとされる殺戮兵器キラーマシーン。

 

数百体はいるとすら言われているそれらを、ゲイムキャラの力で封印していたという、教祖の情報の基、既にゲイムキャラは破壊されているという結論。

 

そして、その上で、一体の身を送り込んできた意味を、アイエフはそう断じた。

 

「だが、罠だとしても、俺たちが逃げれば、ルウィーは壊滅する。

それだけの性能があると見せつける為の、襲撃だろう」

 

「余程、ユーリの存在が目障りってわけね」

 

マジェコンという違法装置を配り、信仰シェアを集めていた犯罪組織の行動とは一転した、強襲。

 

衆目で堂々と勧誘活動を行えるほどに侵攻していた功績を捨てでも、ここで悠理を排除するという意思の顕れ。

 

悠理が逃げれば数百体の殺戮兵器がルウィーを蹂躙し、その波は他の都市にも及ぶ。

 

ならば、必ずこの場でその危機を排除しなければならない。

 

「でも、あれが数百体なんて、勝てるわけ……」

 

そう、その危機を見過ごすことができないことは、誰にでもわかる。

 

だが、女神でさえも簡単には倒すことのできない殺戮兵器が待ち受けている場所へ、無策で向かったところで殺されに行くようなものだ。

 

現状、女神候補生の中でも最強の戦力であるネプギアでさえ、一度に3体を相手にするのがやっとだろう。

 

それも、致命打を与えられる攻撃が光熱剣以外になく、常に全力を維持し続けなければならない以上、百どころか十すらも不可能と言わざるを得ない。

 

沈痛な雰囲気が教会を包む中、ふと、否定したくても出来ない思考がよぎる。

 

あの時、ネプギアが下っ端を庇わなければ、違う展開になったのではないかと。

 

実際は、例え、そうだったとしても、さほど今と変わらないだろう。

 

ネプギア達がルウィーについた時点で、ゲイムキャラは既に破壊され、殺戮兵器は復活していたのだから。

 

だが、ネプギア達の存在を犯罪組織に気付かれることがなかったとしたら?

 

少なくとも、ルウィー襲撃はなかった。 すでに手遅れだったとしても先手を打てたかもしれない。

 

後悔はしないと誓った。

 

だが、敵を庇ったうえで、罠と分かりきっている場所へ悠理が向かい、死なせてしまったら?

 

それは分かっていたことだった。

 

黄金の剣を前に悠理に問われた時から、こういう時が必ず来ると。

 

それでも立った、自分だけが苦境に立たされるなら、立ち向かえた。

 

しかし、何よりも大事な人が天秤に掛けられた時、不屈だと思っていた心は簡単に折れ始めている。

 

三年前のあの時よりも、強くなったつもりでいた。

 

実際、実力も精神も強くなっただろう。しかし

 

――――――――結局、肝心な時に私はまた、何も……できないの……

 

「アイエフ、女神たちの指揮を任せる。

俺が戻ってくるまで、この街の守護を頼む」

 

「――――――はぁ!? あんた、もしかして!」

 

「あぁ、向こうの要求は俺だろう。

仮に失敗したとしても、俺が死ねば、ルウィーに攻め込むことはないはずだ」

 

「そんなの絶対にダメです!」

 

一見合理的に見える采配だが、悠理を生贄のように扱うことに異を唱えようとうとした矢先、ネプギアの絶叫がアイエフの言葉を遮った。

 

「ユーリさんが死ぬなんて間違ってます!

私が、私があの時、庇ったりしたから、あうっ!」

 

悠理の死というという言葉に過剰反応するネプギアの額を、指で弾き黙らせる。

 

確かにネプギアが庇わなければ、別の展開があったかもしれない。

 

だが、そもそもの原因を考えれば、こうなるまで放置していたルウィーそのものにある。

 

さらに言えば

 

「仮にと言ったはずだ。 俺だって、何の勝算もなく言ったりはしない」

 

そう、勝算はある。 それもかなり高い確率で、殺戮兵器を殲滅し、犯罪組織を壊滅する手段が。

 

錬鉄の英雄と呼ばれた先代エミヤの技術や能力を余すことなく引継ぎ、その欠点さえも克服した悠理に、物量戦を挑む愚かさを思い知らせることが出来る、とっておきが。

 

「勝算はあるのね?」

 

「あぁ、エミヤの名に於いて誓おう。 この街は俺が護る」

 

その言葉に、アイエフは沈黙し頷いた。

 

エミヤ、その名が悠理にとって神よりも尊く、重いものであるか知っているが故に。

 

「私も……私も付いていきます!」

 

「駄目だ。 またいつ、あれが来るか分からない以上、予防策である君はここに残って、俺が戻るまでアイエフの指示に従え」

 

ネプギアの言葉を一蹴するが、却下されることを分かった上での発言であるが故に、置いていくならば行かせないと、悠理の行く手を阻む。

 

「私も行く。 道案内必要」

 

ネプギアに便乗しロムまでもが、付いていくと言い出し、手に負えないと、アイエフに視線を向けると、黙って首を横に振られた。

 

「まぁ、いいんじゃない。 あっちだってあんたを相手にするくらいなんだし、全戦力を集中させている筈でしょ。 戦力が必要なのは、こっちじゃなくてそっち。

一応、二人とも女神なんだし、失敗した時に逃げ道くらい確保できるでしょ」

 

頼みの綱であるアイエフに裏切られ、渋々頷くが、やはり、ルウィーが手薄になることは懸念点。

 

ルウィーにもそれなりの戦力は有るだろうが、殺戮兵器相手に戦えるかと言えば不安の一言だ。

 

「アイエフ、いざという時はこれを使え」

 

投影し渡したものは、剣とも槍とも言い難い刃が付いた、武器だった。

 

「武器に頼るような戦いが身に付かないように、強力なものは渡すつもりはなかったが、今のアイエフならば、力の扱いを間違えることはないはずだ」

 

渡した宝具は、インド神話に登場する武神・帝釈天が持ち、雷を操ったと言われる金剛杵(ヴァジュラ)

 

無論、神造宝具の一つでもある金剛杵を投影できるはずもなく、渡したものはその概念を込められた偽物(レプリカ)

 

しかし、偽物とはいえ、金剛杵の名を冠すそれは、並の宝具を凌駕し、絶大な力を誇る。

 

「分かってる。 それに、こっちにも頼りないけど女神がいるんだし、一体や二体くらいどうにかして見せるわよ」

 

「はぁ!? 私もロムちゃんに付いていくに決まってるでしょ!」

 

「道案内は二人もいらないわよ。

それに、あれだけ、私にコテンパンに負けたんだから、今日くらいは私の指示に従いなさい」

 

「うぅ……ロムちゃん……」

 

「頑張って、ラムちゃん」

 

救援の声を期待したロムは、あっさりとラムを見捨て、見捨てられたラムは、がっくりと肩を落した。

 

「采配は決まったな。 急ぐぞ、今日の内にケリを付ける」

 

 




久しぶりにオンラインゲームにド嵌りしてしまい、更新遅れて申し訳ないです。

次回が、ルウィー編クライマックス。

圧倒的戦力差をひっくり返す悠理の策とは!

まぁ、なんとなく察しはつくと思いますが、王道展開大好きなので、お口にチャックでお願いします。

では、また次回。
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