「やぁぁぁああああああッ!」
女神救出へあと一歩のところで、立ち塞がった四天王の一角、
その壁を切り払うため、悠理の負担を減らすため、渾身の力を籠め、剣を振り下ろす。
一切の躊躇もなく、初撃から手加減無用に振り下ろされる、
防御不可、悠理でさえ真っ向から受け止めることをしなかった必殺技。
「迷いのない、良い太刀筋だ。
だが、この俺を切るには温すぎる!」
しかし、初撃必殺の剣を迎え撃つ大剣は、焼き切れるどころか、鍔迫り合いになることすらなく、暴風にさらされる枝葉のように、ネプギアを吹き飛ばした。
「ネプギア!?」
「―――――っ、大丈夫……」
空中で体勢を立て直し、再び剣を構えるが、その手は鈍器で殴られたかのように痺れていた。
出鱈目すぎる膂力に、光熱剣でさえ、いとも簡単に受けられてしまった。
これが、三年前、姉である守護女神を四人まとめて倒した四天王の力。
たった一太刀交わしただけで、大きく離れた力の差を思い知らされる。
「―――――プラネテューヌの女神候補生よ、貴様、気付いていたな」
質問の意図が理解できないユニたちは沈黙するネプギアへと視線を向ける。
「先ほどの奇襲といい、俺に対し迷いなく剣を振ったことといい、こうなることを予測していたとしか思えん。
実に興味深い。 こうなることを予測していながら、なぜ、あえて罠にかかったか、聞かせてもらうか」
「―――――貴方たちが、リーンボックスに入ってから尾行している時に、これが罠だということは気付いていました。同時に、ゲイムキャラが未だ破壊されていない可能性が高いと思っていました」
ゲイムキャラが眠るこの場所は、人知れず暗殺するにはあまりにも好条件な場所だ。
火山地帯という過酷な環境に、徘徊する多くのモンスター。
帰ってこなければ、モンスターによって殺されたと思っても何ら不思議ではない。
そんな好条件の場所に、呼び寄せる最高の餌を壊してしまえば、教祖からそのことがネプギア達に知れ、計画はご破算になってしまう。
「そして、これが本物とすり替えられた偽物だということも」
ラムの手からゲイムキャラと思っていたディスクを受け取ると、そのまま、地面に叩きつけた。
「本物は、貴方たちと手を組んでいる女神排斥派の組織の元ですね」
「―――――解せんな。 なぜそこまで分かっておきながら、ここに来た?」
ここに目的のものはなく、待ち構えているのは罠。
事実、一歩間違えればラムは致命傷を負っていただろう。
だが、それを踏まえてなお、ここに赴く必要があった理由を、ネプギアは、取り出した。
「いくら、確証を持っていたとしても、敵対する私が告発したところで意味がありません。
だから、その証拠を手に入れるために、ここに来ました」
取り出したのは、ネプギアお手製のレコーダー。
それを見た瞬間に、勇者は利用されていたことを理解し、笑い声をあげた。
「ふふふ、ふははっははははははははは! 見事! 実に見事だ!」
女神候補生を抹殺するはずだった罠は、ネプギアの智謀によって事を企てた女神排斥派の喉元に突き立てる刃と変わる。
犯罪組織との癒着、女神候補生の抹殺計画、ゲイムキャラを隠し持った証拠を公にしてしまえば、その信用は地に墜ち、隠し持っていたゲイムキャラも手に入れることができる、起死回生の一手。
そのすべてはネプギアの思惑通り嵌まったが、その最終工程が未だ残っていた。
「だが、それも全ては、ここから生き残ることができればの話」
先の打ち合い、そして、袋路地である状況を一手で覆す智謀。
それを見せられた、勇者は大剣を構え、秘めた力を解き放つ。
「侮っていた無礼を詫びよう。
貴様らを我が敵とし、全身全霊を持って、斬る!」
力を抑えていた状況でさえ、手も足も出なかった勇者が、その真の力を解き放つ。
肌で感じるその威圧は、あまりにも容易く死の未来を連想させる。
「―――――みんな、巻き込んで、ごめんなさい……」
強大な敵の前に生きて帰れる可能性はあまりにも小さい。
ネプギアの描いたこの状況に一つだけ誤算があるとすれば、それは、四天王という大物が出張ってきたということ。
ルウィーでの悠理の戦果を見て、四天王クラスの戦力は悠理に当ててくるだろうという読み外れ、最後の最期で絶体絶命の危機を迎えている。
「なに謝ってんのよ。 あいつをぶっ倒せば、あとはお姉ちゃんたちを助けるだけなんでしょ?」
「そうよ! さっさとあんな奴倒して、この暑苦しい場所から帰りるんだから!」
「だから、ネプギアちゃんは悪くない」
「―――――ありがとう、みんな」
生きて帰る。 その決意を胸に、女神の姿へと変え、各々が武器を取る。
かつてないない強敵の前に、竦むことなく、刃を向けた。
「その意気やよし。 来るがいい!」
勇者から見れば、あまりにも小さな力。
しかし、油断や慢心はなく、全力をもって小さき力を迎え撃つ。
「言われなくとも! その自信叩き潰してあげる!」
ユニの魔銃が唸りをあげ、ロムとラムの杖に光が灯る。
数えるほども馬鹿らしい散弾が一気呵成に銃口から放たれ、火が、風が、氷が、雷が、その視界を覆う規模で、勇者へと迫る。
だが、その弾幕は攻撃の意味すらなさない。
防ぐという挙動すら見せず、その弾幕へと突貫する勇者の歩みは落ちることもなく、傷の一つでさえ負わせられない。
「―――――っ、出鱈目にもほどがあるわよ!」
火山地帯に生息する強靭な魔物でさえ百は死んでいるであろう、暴力の嵐を、降り注ぐ雨粒のように、意にも返さず突き進む、非常識さに歯噛みする。
「ロム、ラム、大きいの行くわよ! エクスマルチブラスター!」
「ロムちゃん!」
「うん!」
「「Eフォースブリザード」」
絶対零度の氷棺は、倒すまではいかずとも、その動きを止め、その隙を突きさすように迫る魔力の奔流。
即席のコンビネーションとはいえ、その威力は絶大。
「無駄だ!」
しかし、それすらも、勇者の進軍を止めるには至らない。
ほんの数秒間、足を止めることができた氷棺は、魔力すら使わない、単純な膂力によって破壊され、魔力の奔流は一刀のもとに引き裂かれる。
―――――――――だが、それは、予想内のこと。
「やぁぁぁああああああッ!」
効果がないと分かっていた弾幕は、視界を奪い、真打であるネプギアの位置を隠すため。
そして、大技はほんの数秒とはいえ、意識を傾けるため。
正面から戦って勝てないのは百も承知。
ならばこそ、奇襲をもって、勝利をつかむのみ。
勇者の真上へと飛びあがっていたネプギアは、ユニの攻撃を防ぐために大剣を振るうと同時に、推力に重力を乗せ急降下する。
勇者の弱点、それは、その巨体故の鈍さ。
絶大な威力を持つ大剣も、一度振るえば二の太刀が届く前に、ネプギアの剣がその身へ届く。
二度はない一度限りの奇襲に全てをかけ、眩き光をその剣に纏い、渾身の力をもって振り下ろした。
「無駄だと言ったはずだ」
――――――これ以上はない、最高のタイミングにおける最高の攻撃は、勇者の体を切ることはなく、無防備にさらされた体にて受け止められていた。
「――――――そんな……!」
女神候補生である四人の中で、最高の火力を誇る光熱剣。
しかし、その光熱剣でさえ、勇者の体に傷をつけることは叶わない。
それはすなわち、どれだけ綿密な戦略の元、奇襲を成功させたとしても、勝機はないということ。
その絶望的な真実の前に、戦場において致命的な隙をさらしてしまったネプギアは、唯一の優位点であった機動力を生かすことなく捕まり、投げ飛ばされた。
「―――――――――ぁかっ……!」
その勢いは岩壁を砕き、崩落させるほどの威力。
叩きつけられたネプギアは動くことすらできず、その崩落に巻き込まれた。
「ネプギア!?」
「余所見をしている暇などないぞ!」
大剣より放たれる死の旋風は、とっさに障壁を張ったロムとラムを吹き飛ばし、一撃のもとに女神候補生の戦線を崩壊させた。
後ろにいたユニは、直撃こそ免れたものの、立つのがやっとという傷。
崩落した岩壁から抜け出した、ネプギアも、強い衝撃に体中の骨に罅が入り軋みをあげ、内臓にもダメージを追っている。
「ふん、やはりこの程度か。
所詮、女神など過去の産物、新世界を築く我らの敵ではない」