ほんの数秒後に訪れる死の未来。
その絶望的な状況の前に、ユニの叫びがネプギアの胸を打つ。
人間の醜さを知り、世界の残酷さを知った。 現実の前に理想は敗れた。
伝えるべき想いも言葉も失い、戦う理由すら見失った。
だから、妥協した。今この瞬間も前に進み続ける悠理に置いて行かれないように、その背中に届くことはなくとも、せめて見失わないように。
これ以上、傷つきたくないから、理想のハードルを下げ、現実に屈した。
―――――恰好悪いなぁ……
負けるのが怖くて、本来の目的すら見失って、それでも諦められないと中途半端な想いのまま戦った結果がこれだ。
仲間を危機にさらし、全てを失おうとしている。
―――――私は、あの夜、この剣に何を誓った……!
愚者ですらない、ただの臆病者に成り下がって、ただ生き永らえることを選んだか?
違う。 違うだろう、不安も恐怖も絶望も、全て与えられるものではなく自ら望んだはずだ。
力の差も、女神の使命も立場も、全てをもって否定されたとしても、進むと決めた。
もう、後悔だけはしないと誓ったはずだ。
――――この想いは、この理想は、たった一度の敗北で諦められるほど軽いものじゃない!
迫りくる終末の一撃。
次の瞬間には死をもたらす、それを前に、ネプギアは剣の丘を思い浮かべた。
悠理の理想の場所であり、ネプギアにとっては現実の象徴であり、力の具現だ。
だからこそ、この絶望的状況に、その一節を口ずさむ。
「―――――体は」
力なき正義に意味がないように、力なき者の理想に居場所はない。
だからこそ、力を求める。 あらゆる理不尽を跳ね除ける圧倒的な力を。
全てを救うことは出来ない?
あぁ、確かにそうだろう。 個の力なんてたかが知れている。
あの悠理でさえ、先代エミヤの錬鉄の英雄でさえ、現実の前に敗れ去った。
「―――――剣で出来ている」
内から溢れだす、これまでに感じたこともない力の奔流を、当たり前のように制御し、女神の姿へとその姿を変える。
白の衣装は黒く染まり、その手には輝きを増したM.P.B.L。
その一閃は理不尽な死を与える旋風を切り伏せ、終末の未来を切り開く。
「―――――私は、負けられないんです……!
どんな敵が立ち塞がろうと、どんな試練が訪れようと!」
譲れない想いがある。 叶えたい願いがある。
その前に現実という壁がふさがるのならば―――――――――!
「私の理想を阻むモノはすべて切り伏せます!」
そう、人間が定めた常識など知ったことではない。
人の身で叶わない理想だとしても、この身は人間を超越した女神の体。
ならばできなことはない、剣の丘を越え、現実を理想で塗りつぶす。
答えはここに。 すでにあの夜に誓っていた。
人類は救われるべきなのか?
その問いに答えを出した、ネプギアにもう、迷いはない。
「未だ、それほどの力を隠していたとはな。
だが、ここが貴様らの死地であることには変わりはせん!」
覚醒したネプギアを前に、慢心なく大剣を構える勇者。
現実という壁を具現化した強大な敵。
その膂力から繰り出される一刀は必殺、堅牢な鎧はどんな攻撃すら弾き返す。
「――――――征きます」
だが、今のネプギアは残酷な現実を切り伏せる、理想の剣。
口ずさんだ一節通り、その体は一本の剣。
故に、その結果は当然のことだった。
「――――――なん、だと……!」
もはや、視認すら不可能な高速移動。
呼吸を読み、対象の思考と気配を見切る、心眼。
勇者が持っているその眼を持ってしても、ネプギアは捕らえられない。
それも当然、いくら動きを予測しようと、勇者が大剣を振る刹那よりも、ネプギアが始点から終点まで移動する刹那が短い。
ならばと、その動きを止めんと、旋風が巻き起こる。大剣より発生する旋風の範囲は広大。威力も劣らない勇者が持つ技の一つ。
一度はネプギアを墜落させた旋風が再び、巻き起こされる。
流れを変えるはずの一撃―――――――――――――だが、刹那の後、致命的な思い違いをその身に刻まれた。
「―――――ぐぅっ!? まさか……!」
旋風に巻き込まれたはずのネプギアは、勇者の体に刃を深々と突き刺さしていた。
勇者の思い違い。 それは、ネプギアが最高速度で飛翔しているという思い込み。
それ故に、見誤った。
旋風を巻き起こす一刀の刹那、唯一の安全圏である勇者の懐に到達できるという可能性を。
「―――――お、のれ……!」
刃を突き刺したネプギアへと手を伸ばすも、既に底に離脱したネプギアを捕まえることは出来ない。
傷つけられるはずのない装甲に、幾重もの傷を刻んだネプギアの剣は、魔力を収束させなければ発動できなかった
その熱量は以前とは比較にならず、そして、一つの技を編み出していた。
「
これまで、剣に纏わせることしかできなかった光熱を、斬撃に付与して放つ、勝利すべき黄金の剣の本来の力。
その威力はシェアエナジーにより増幅され原典をも超える。
本来Bランクの宝具である勝利すべき黄金の剣は、Aランクにすら匹敵する、持ち手に勝利の栄光を与える光輝の剣へと昇華した。
飛来する光の焔は、ネプギア達を壊滅に追い込んだ死の旋風をも凌駕し、勇者の体へと光輝の刃を突き立てた。
「――――――見事」
堅牢な鎧に包まれた核が露出するほどに破壊され、膝をつく勇者。
大剣は焼き切られ、もはや立つことすらできない体でありながら、その眼光は衰えることはない。
「俺の敗北だ。 だが、ただでは死なんぞ……!」
「――――――――――ッ!」
迫る悪寒がネプギアを突き動かし、瀕死の勇者に止めを刺さんと飛翔する。
だが、その刃は勇者へと届くどころか、膨大な熱量に、近づくことすらできない。
その熱量は勇者の体すら融解し、破滅へのカウントダウンが始まった。
「女神よ、地獄へと付き合ってもらうぞ……!」
勇者の最期の悪あがき。 膨大な力の源である核を暴走させ、自らの身さえ滅ぼす大爆発を起こす、捨身の攻撃。
その威力は絶大、世界地図から山が消え、代わりに大きなクレーターが記されるだろう。
いくらネプギアとはいえ、三人を抱え爆発の範囲外へ逃げ切ることは不可能。
「―――――――だったら、爆発する前に破壊します……!」
核を護る膨大な熱の障壁を前に近づくことは出来ない。
ならば、障壁を打ち破り核を破壊する、一撃を放つのみ。
最低限、女神化を維持するだけの力を残し、持てる力のすべてをM.P.B.Lに収束する。
収束した光は、ネプギアを包み込み、尚輝きを増してく。
――――――――――――――足りない……! もっと、もっと……!
勝利すべき光輝の剣ですら、核を破壊するには至らなかった。
Aランク宝具に匹敵するではなく、正真正銘Aランクの宝具以上へと到達しなければならない。
――――――――――――――早く……早く早く早く早く早く早く……!
勇者すら圧倒したネプギアの全力ならば、Aランク宝具以上へと届くだろう。
だが、あと一手、時間が足りない。
収束魔力光と同じく、鼓動を早める核が大気を震わせ、破滅の瞬間を告げる。
未だ、核へとは届かない。 だが、届くまで収束していれば爆発に巻き込まれ命を落とす。
一か八か、足りないままで撃つか、引き金に指が伸びたその時
「ノーザンクロス―――――――――!」
「アブソリュートゼロ――――――!」
核を護る熱の障壁を、極大の魔法が削り取る。
後ろを振り向くと、ユニの肩に支えられ、杖を構えるロムとラムの姿。
「あんたばっかりにいい格好させるもんですか!」
女神化すらできず、欠片の魔力も残っていない体で、二人を支えるユニ。
そして、自身の足では立つこともままならない傷を負いながらも、残る魔力を総動員して障壁を削るロムとラム。
「みんな……!」
未だ核へと届かせる程の威力には届かない。
だが、それはネプギア一人の話。 満身創痍になりながら障壁を削った、三人の力が足りない力を補い、勝利への道を切り開いた。
「
撃ちだされた光は、障壁を突き破り核へと突き刺さる。
その光はまさしく、絶望の闇を切り開く聖なる焔。
そして、その身に余る大きな理想を宿す者を導く聖なる剣。
破滅の絶望を呼ぶ核は、聖焔に包まれ塵となり、光の粒子が降り注ぐ。
長いようで短かった戦いの終わりを告げ、この戦いの果てに得た答えを胸に、ネプギアは再び険しい理想の道のりを歩き始めた。
勝利すべき光輝の剣 B+
斬撃に光熱を付与して放つ、勝利すべき黄金の剣の真名解放と類似した攻撃。
威力は、シェアエナジーにより増幅され勝利すべき黄金の剣を上回る。
闇夜を照らす聖焔の祝福 B+~A+
全魔力・シェアエナジーを収束して放つ、大砲。
収束した力によって威力は変動、最大収束時には、神造兵器にすら匹敵する。
もっとも、そこまで至るには5分以上、動けず、撃った後は文字通り空っぽの状態となるため、まさしく、最終決戦奥義である。
リーンボックス編の激闘を終え、残るは後日談で閉幕。
厨二成分多めでお送りしたリーンボックス編、閑話を少し挟んで、いよいよ女神救出編に移ります。