剣の丘を目指す者   作:未来

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赤き胎動

四つの大陸の中心にして、歩いてはいけない次元の狭間に存在する、女神が囚われているギョウカイ墓場。

 

亡霊の怨嗟が木霊する、奈落の場所に、今や半分となった四天王が集結していた。

 

「まさか、死神(マジック)に続き、勇者(ブレイブ)まで討たれるとは……

これはまずい! 非常にまずいぞ!」

 

「ハッ! そんなことどうでもいいんだよ! 俺は強いやつと戦えればそれでいい。

早く来い早く来い早く来い! 早く俺の渇きを潤してくれぇ! 」

 

「――――――ぬぅ、これだから戦闘狂は、あてにならぬ……

新型のマジェコンが完成したとはいえ、増産する設備もなければ、規制も厳しくなっておる。

何か手はないものか……」

 

この三年間、否、それよりも以前から優勢を維持し、ついには女神すら捕縛した犯罪組織だが、異世界の英雄の登場により、その優勢も崩れ去り、最高戦力の四天王の二角を討たれた。

 

さらに悪い知らせは続き、勇者を討ったのはエミヤではなく、未熟だということで放っておいた女神候補生であり、エミヤを封じ込めるはずのリーンボックスの罠も、打ち破られた。

 

犯罪組織も事実上壊滅、残るは四天王の二角のみ。

 

それも、単純な戦力では討たれた二角には及ばず、いつ攻め込まれてもおかしくはないこの状況は、最早打つ手はなく、栄華を誇った犯罪組織に黄昏が訪れていた。

 

頭を抱える変態(トリック・ザ・ハード)と狂笑する凶刃(ジャッチ・ザ・ハード)を傍に、生命維持装置に繋がれ、生き永らえている死神は、湧き上がる憎悪とは別に、狂気とも呼べる憎悪を感じていた。

 

その矛先は、腕を切り落し、心臓を破壊し、瀕死の重傷とかつてない屈辱を与えた英雄エミヤ。

 

信仰(シェア)を独占したいた時期とは異なり、既に犯罪組織への信仰は失われ、その恩恵なき今、死神の命を繋ぎ止めているのは、狂気と呼べる憎悪。

 

塞がらない傷から生じる激痛は、意識を飛ばすことも許さず、英雄エミヤに敗れてからこれまで、その憎悪は一瞬も途切れることなく発せられ、いつしか、その狂気に同調する存在を感じていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――チカラガホシイカ

 

その執念は世界を越え次元を超えた存在に届く。

 

開くことのない瞼の裏に訪れる、《赤い影》。

 

この世界において最強と言っても過言ではない存在である死神でさえ、その存在は同じ位階に存在する生物ではないと一目で確信する。

 

だが、死神はそれに臆することなく、《赤い影》へと手を伸ばす。

 

信仰は奪われたとはいえ、不完全ながら犯罪神を降臨させるだけの力は、この三年間の内に蓄えられた。

 

残るは、その力を降ろす器を用意するのみ。

 

そして、その器は四つに分かれた四天王の肉体。

 

既に、犯罪神の復活は止められない。 器である四天王を倒せば犯罪神は復活し、時間をかければ完全な状態の犯罪神が世に降臨し、このゲイムギョウ界を滅ぼす。

 

だが、一つだけ、犯罪神すらも滅ぼす可能性を持った、英雄エミヤだけは生かしておくわけにはいかない。

 

だからこそ、己が使命を失っても、等しく感じる狂気を帯びた憎悪に、手を伸ばす。

 

否、そんな建前などなくとも、憎悪に魅せられた死神は、力を求めた。

 

皮肉にも、英雄エミヤによる敗北が、犯罪神の傀儡から脱却させ、個として自立したからこそ、《赤い影》への交信に成功したのだ。

 

―――――――――――――――――――――――――ケイヤクセイリツダ

 

ここに世界との契約は成された。

 

世界を破滅させる犯罪神を復活させようとした、破滅の使者は、世界を守護する使者へと生まれ変わる。

 

頭が割れるような頭痛と共に、詰め込まれる情報に、《赤い影》の正体を理解し、己がいかなる契約を結んだのかを理解した。

 

それは信仰していた神への明確な反逆。 今の死神は世界を滅ぼす神の存在を狩る、秩序そのもの。

 

故に、その行動は、傀儡であった己との決別だった。

 

「――――――へぇ、どういうつもりだよ、死神……?」

 

瀕死の重傷を負っていたはずの死神は、世界との契約により、万全の状態へと回復していた。

 

その手には、血の滴る大鎌を持ち、足元には断末魔すら上げることを許されなかった、かつての同胞が崩れ落ちている。

 

「なに、犯罪神の復活が我らの目的だろう。

その為の器を用意したにすぎん」

 

「――――――ハッ、そうかよ…… だったら、てめぇもその器になりやがれぇ!」

 

狂笑と共に、禍々しい黒矛が振り下ろされる。

 

凶刃にとって、敵か味方かなど些細な違い。強者との死闘を渇望し続ける狂戦士に、技術や戦術など存在せず、ただただ、力の限り敵を屠る。

 

単純ゆえに強力な一撃を、死神には真正面から受け止める。

 

「ハハハハハハハハハ! そうだ、これだぁ! 俺はこれを待ってたんだよ!」

 

切斬、刺突、打撃、薙ぎ、払い、そして投擲。

 

その巨大さ故に刺突だけではなく、多方面においてその力を発揮させる。

 

中華の最強の武人の一角として数えられる、呂布奉先が持つ、人口宝具・軍神五兵(ゴッドフォース)と類似した性能を持つ凶刃の矛から繰り出される攻撃は、強力無比。

 

息をつく暇もない乱舞を前に、死神をも押し返した。

 

「ギャハハハハハハハハハハハハハ! あぁ……最高だ、最高の気分だ……」

 

これまでにない強者の戦いに、恍惚の声をあげ、黒矛を天に掲げる。

 

三年もの間、退屈な墓守として縛り付けた、己が主神だが、この闘争の為ならば、それすらも感謝し、これからも忠誠を捧げよう。

 

狂気と信仰、そして至高の闘争による興奮に、その巨体が宙に浮き、禍々しい狂月を背に、天に掲げた黒矛が妖しい光を帯びる。

 

「あぁ……なぁ、おい、死ぬんじゃねぇぞ? 三年も待たされたんだ、お前には俺を満たす義務がある。

だから死ぬな、闘えよ、死んでも闘え、闘って闘って闘って闘って闘って闘って闘って闘って闘って闘って闘って闘って、俺を絶頂させろやぁぁぁああああああああああああ!」

 

天に掲げられた黒矛は、天を覆い尽くす黒矛を召喚し、凶刃の雄叫びと共に増した重力を纏い、大地を砕かんと、禍々しい輝きを増した狂月より破滅の審判が下される。

 

「―――――――崇め奉れ狂気の宴! 磔十字を捧げる殺戮の夜(ワルプルギス)!」

 

天を覆う黒矛は、虐殺された魔女たちを磔にした十字架。

 

異端者を拒む人類の業を模した、磔十字を捧げる殺戮の夜は、己以外を殺戮するまで止まらない凶刃の真実。

 

シェアエナジーを吸収するために生かしたまま捕らえておいた女神すらも、巻き込むその一撃は、最早己が主神の復活など頭にない。

 

そも、犯罪神の司る役割を、その身に架せられた凶刃は、殺戮以外の機能を有していない。

 

犯罪神が甦らなければ、己が、世の全てを殺戮するのみ。

 

故に、この行動は、何一つ背信行為ではない。

 

魔女を虐殺したように、生きとし生けるもの全ての命を絶つ、十字架を前に、死神は静かに、囚人の命を刈り取る断頭台のように、大鎌を上段に構えた。

 

これより顕現するは、一つの神話。 世界を滅ぼした地獄の炎。

 

世界との契約により与えられた魔剣が、その姿を現す。

 

鎌に収束する赤黒い魔力は、剣の形をとり、天地を揺るがし、その熱量は空間すら歪める。

 

「―――――――――粛正が為の憎悪(レーヴァテイン)

 

振るわれた魔剣は、異界にて一つの神話を終わらせた炎の魔剣。

 

その炎の前に、一夜の惨劇など物の数ではない。

 

人の業も、魔女の怨嗟も等しく、灰燼と化す秩序の剣。

 

それは、ネプギアの闇夜を照らす聖焔の祝福(カリバーン・エネルゲイア)と対を為す、善悪関係なく、世を乱すものを焼き尽くす魔剣。

 

その炎の後には何一つ残ることはなく、惨劇の夜ごと凶刃は払われた。

 

死神が犯罪神の眷属ではなくなったことにより、最後の器が犯罪神に捧げられ、人知れず、破滅の邪神が降臨し――――――――――――――――――――――魔剣の一刀の元、滅ぼされた。

 

しかし、器を破壊されようとも、次なる器を求め彷徨う亡霊こそ犯罪神の本体。

 

封印から解き放たれた犯罪神はその本体を消滅させなければ不滅。

 

あらゆる物理攻撃が意味をなさない故に、封印という手段をとるしかない存在。

 

「今、この空間が消えるのは困るのでな。

私がやつを殺すまでは、生かしておいてやる」

 

だが、それも世界との契約を果たし、■■の使者である《赤き影》と同化している死神にとって、犯罪神などいつでも滅ぼせる程度の存在でしかない。

 

世界に仇を為す存在故に滅ぼすが、その前に、果たさなければならない憎悪(おもい)がある。

 

「さぁ、来るがいいエミヤ。

塵も残さず、消し去ってくれる……!」

 

全ては狂おしいほどに憎い、存在である男の為に。

 

全てを投げ打ち、憎悪を胸に、英雄の到来を待ち受ける魔王がここに誕生した。




――――――ラスボス爆誕

女神救出編? 

あります、ありますよ? 

ただ、その続きがないだけです。


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