「――――――これも、思惑通りってわけ?」
その知らせを聞いたアイエフは、引き攣った顔で、隣で同じように顔を引きつらせている悠理へと問いかけた。
「これが、そう見えるなら、諜報員を引退したほうがいいだろうな」
嫌みを飛ばしあう程度には冷静でいるものの、歴戦の戦士である二人をもってしても、その知らせはあまりにも予想外のものだった。
女神排斥派の組織による妨害の証拠を掴み、隠し持っていたゲイムキャラを奪還しただけではなく、犯罪組織の主戦力である四天王の一角を打倒したという快挙。
悠理でさえ、初見殺しの手札を何枚も切らざるを得ない人外の化生を倒したことは、確かに驚きではあるものの、それだけの下地があること知っていたからこそ、まだ納得はできる。
だが、正道を征くネプギアが不得手だと思っていた智謀戦すら、敵の罠を見抜き、証拠を掴む確かな策略をもってしてあえて罠に嵌まり、覆して見せた。
なにより、この知らせが届いたのは、ネプギアがルウィーを発った三日目。
移動と拠点作りに一日、この知らせが悠理の元に届くのに一日だとすると、これだけの戦果を挙げるために、ネプギア達が行動したのは実質一日だ。
悠理の思想に、救世主たるものが抱く疑問に、思い悩んでいた少女ができることではない。
「なんていうか……私の面子丸潰れよね……」
額に手を当て、乾いた笑いをあげるアイエフ。
それも仕方のないことだろう。女神たちに人類が犯した罪を背負わせないと、意気込んでいたというのに、妹分でもあるネプギアに先を越されるという結果。
少しはこっちの面子を立ててほしいと、恨み言の一つも言いたくなるというものだろう。
しかし、アイエフ以上にこの戦果に、動揺しているのは悠理だ。
四天王を倒したということは、その力は既に悠理に匹敵するものとなっている。
もっとも、ネプギアと
その堅牢な装甲と強力無比な量力故に動きが鈍くとも強者であった勇者だが、俊敏であり、勇者の装甲をも貫く強力な武装を持っていたネプギアだからこそだ。
これが、他の四天王であれば、無事に勝利できるとは言い切れないだろう。
だが、そうであったとしても、悠理に並ぶ力を得たことは変わりない。
そして、思い出すはネプギアと交わした約束。
この体を大事にして欲しいという、効果も期限も曖昧な約束だが、悠理を抑えられる実力を持ったネプギアが傍にいることを考えれば、悠理の行動をかなり制限されることになるだろう。
いっそのこと、ネプギアが不在の内に、ギョウカイ墓場へ乗り込み、全ての敵を殲滅し、女神の救出のみを任せイストワールと交わした密約である、別の世界への転移をしてしまおうかとも思案する。
元より、この世界は犯罪組織すらいなくなれば、悠理がいた地球とは比較にならないほど平和だ。
その脅威を排除できたのなら、この世界にエミヤは必要ない。
アイエフにすら伝えていない密約故に、動くのならば早いうちがいい。
確かに、ネプギアは後継者として優れた人材ではあれど、エミヤの悲願とは別に、悠理にも成し遂げたいことがある。 その為にもここで足止めを食らうわけにはいかない。
「―――――――どこに行くのよ?」
「なに、ちょっとした野暮用だ」
席を立つ悠理に、目敏く反応したアイエフが問いかけるが、イストワールとの密約も、ネプギアとの約束も知らないアイエフが、悠理の行動を読むにはあまりにも情報が足りない。
あっさりと引き下がるアイエフを背に、転移門がある、プラネテューヌへと発とうと部屋を出た先に
「あ、ユーリさん。ただいま戻りました」
後ろに手を組みにっこりと、小首をかしげるネプギアがそこにいた。
「―――――――あぁ……随分早かったのだな……
力を使い果たして、しばらく動けないと聞いていたのだが」
「はい。まだ、全快というよりも、動くだけで精一杯なんですけど、なにか、嫌な予感がして……
――――――――それとも、私が戻ってきては不都合なことがありましたか?」
ゾクリと、いいようない悪寒が走る。
小首をかしげるその仕草は、年相応の少女のもので、容姿が優れたネプギアは一枚の絵画と言ってもいいだろう。
だが、それ故に、あえて年相応を装い、油断を誘うその所業に戦慄が走る。
――――――――いったい何があった……!?
悠理の知るネプギアは、強い意志と正しい正義感を持ちながらも、繊細な少女だった。
少なくとも、悠理の行動を牽制するために、腹芸を用いるような少女ではなかったはずだ。
「―――――いや、なに、無理をして祟っては、これからの戦いに支障をきたすと思っただけだ」
「ごめんなさい。気を使わせてしまって……
あと数日も経てば回復すると思いますので、一緒にお姉ちゃんたちを助けて、ゲイムギョウ界を救いましょう!」
ぐっと手を握りしめ、決意を燃やすネプギア。
すっかり立ち直ったネプギアに驚いているアイエフだが、もっと別の意味で驚いている悠理を前に、ネプギアは突如体勢を崩し、悠理のほうへと倒れこんだ。
「あはは……ごめんなさい。 やっぱり、まだ、歩き回るのも辛いみたいです……」
明らかに顔色が悪く、額にも冷汗が見えるネプギアは、本人の申告通り、歩き回るのもやっとの状態。
ぐったりと、悠理に身を寄せるネプギアに、悠理は観念した。
「部屋まで運ぼう。 アイエフ、コンパを呼んできてくれ」
「――――えぇ……後で話は聞かせなさいよ」
どこか不自然な悠理とネプギアの様子に勘付いたアイエフだが、深く追及することなく、コンパを探しに一足早く、部屋を出る。
続くように、ネプギアを抱えた悠理も、ネプギアの客室へと足を進める。
「ユーリさん、どうしても伝えておきたいことがあります……」
悠理の首に回した手をぐっと力を籠め、よりその体を密着させる。
高熱を疑うほどに、赤くなった顔で、悠理の耳に届くように確かな声で想いを伝えた。
「―――――ユーリさん、貴方を愛しています」
嘘偽りのない真っすぐな瞳で、そう告げたネプギアに、悠理は用意していた答えを告げた。
「―――――悪いが、俺が君の想いに応えることはない」
ようやく気付くことができた確かな想いに対する返答は、確固たる拒絶の言葉。
孤独と無の極地である剣の丘に、同行者は不要。
悠理が悠理であるが故に、その答えは、その過去を知っているネプギアは誰よりも正確に予測することができた。
「でも、私は、諦めませんから」
だからこそ、その答えに少し傷つく表情を見せたものの、その想いは揺らぐことない。
それでも尚、その想いを伝えたのは、確認のため。
たった一度の拒絶で、諦めてしまえる程度の想いならば必要ない。
ネプギアが想い描く夢は、その程度の挫折で挫ける心では成すことなどできはしないのだから。
「だから、ユーリさん、私にエミヤの名をください」
それは、果てし無き夢の始まり。
もう、後戻りはできない、少女の旅立ちの宣言だった。
「はい。まだ、全快というよりも、動くだけで精一杯なんですけど、なにか、嫌な予感がして……
――――――――それとも、私が戻ってきては不都合なことがありましたか?」
翻訳→「ユーリさんが逃げそうだったので無理をして戻ってきました。図星でしたか?」
「ごめんなさい。気を使わせてしまって……
あと数日も経てば回復すると思いますので、一緒にお姉ちゃんたちを助けて、ゲイムギョウ界を救いましょう!」
翻訳→「私が全快するまで、待っていてくださいね。絶対に一人で戦いになんて行かせませんから(にっこり)」
純粋で清楚なネプギアはどこにいったのだろうか……
でも、エミヤを口説くなら、これくらい仕方ないよね?