「さて、いろいろと聞きたいことはあるが、どういうつもりか教えてもらおうか」
ネプギアをベッドに寝かせ、自らも椅子に腰かけると、ネプギアの発言に言及を始めた。
ネプギアの告白事態は、想定していたことではあるが、エミヤの後継になるという発言は、あまりにも予想外だ。
「その前に、ユーリさんは私との約束を覚えていますよね?」
「――――あぁ、約束を反故にしようとしたことは謝ろう。
まったく、何があったか知らないが、可愛げがなくなったものだ」
あのタイミングで倒れたのも、自らの体力を計算していたのではないかと邪推してしまうほどに、今のネプギアは、油断できない。
事実、こうして、逃げ道を潰されるばかりか、ネプギアの傍に座らされているのだ。
これが狙っているのであれば、その末恐ろしさに戦慄するしかない。
「あの、せめて抜け目がなくなったと言ってくれませんか……?
好きな人に可愛げがないと、言われると、少し傷つくんですけど……」
「事実だ。そもそも、なぜ俺なんだ」
確かに弱っていたところに、言葉をかけることはしたが、一筋縄ではいかないネプギアがそれだけで心を傾けるとは思えず、そもそも、人に好まれるような生き方はしていない故に、心底理解に苦しむ悠理。
そんなことを本気で言っている悠理に、クスリとネプギアは笑った。
「そういうところですよ。わざと自分を悪者にして、私の方から心が離れていくようにしたり、厳しくても、本当にその人のことを想ってあげる、その優しさが好きなんです。
だから、そうやって自分を貶めようとしなくてもいいですよ。私には逆効果ですから」
ほんのりと頬を染め微笑むネプギアに、悠理は顔をしかめる。
悪態をつこうと皮肉を言おうと、好意的に解釈される相手に、何を言えばいいというのか。
「―――――エミヤを継ぐと言ってるんです。少しくらい可愛げがなくなっても仕方ないですよね」
「―――――冗談ではないらしいな」
エミヤの名が出たとたんに、剣呑な雰囲気が悠理から発せられる。
確かに、悠理はネプギアを高く評価しているが、それはあくまで伸びしろを考慮した場合だ。
少なくとも、悠理が知っていたネプギアに、エミヤを継ぐ資格があるとは思えない。
「本気です。私の夢を叶えるために、その肩書が必要なんです」
僅かながらとはいえ、気押されるほどに静謐な瞳。
強い意志は変わらぬまま、しかし、理想のみを夢見て、現実から目を背けていた以前とは違う。
現実を見据え、その先にある理想を掴もうとする本当の強さを秘めた瞳。
「私の夢は、ユーリさん、貴方を幸せにすることです」
「――――――なん、だと……?」
思いもよらない、ネプギアの夢。
驚愕する悠理を、聖母のような微笑みと、歴戦の戦士のように強い瞳が、言葉を紡ぐ。
「その為に、私がエミヤの理想を叶えます。
ユーリさんが、本当に叶えたい願いを見つけても、優しい貴方ことです。
先代エミヤの悲願から目を背けることなんてありません。
だから、代わりに私がエミヤを継ぐんです」
「―――――人一人殺せない君が、本当にできると思っているのか?
君は、人類の裏切りを赦し、人類の為に戦うことができると?」
ネプギアの指摘は正しい。
悠理がこの先、その命を懸けて叶えたい願いが出来たとしても、衛宮士郎から託された想いが悠理を戦場へと駆り立てるだろう。
全てを救うという衛宮士郎の理想を継ぐことができなかったにも関わらず、エミヤの名を継いでしまった贖罪は、次代のエミヤにバトンを渡すまで終わることはない。
それを、ネプギアが継ぐというのならば、願ってもないことだが、簡単に折れるような少女に、エミヤの名はあまりにも重すぎる。
自ら滅びへと向かう、人類は救われるべきなのか?
ルウィーの戦いの後、ネプギアが直面した問いを、再び問いかける。
「言いましたよね、私の願いはユーリさんを幸せにすることです。
だから、どれだけ裏切られようと、それが人類の意志に反することであろうと関係ありません。
エミヤの理想の為に、救われてもらいます」
全ては愛する人の為、そこに人類の意志など関係ない。
人類の救済も、女神としての使命も、叶えたい夢の為に成し遂げると傲慢に言い切る。
それこそ、黄金の剣に誓った願い。
「それに、私は人を殺しません。
私が、私のまま、ユーリさんを愛するために、全てを救います。
その最期に、私の人生が誇れるものである為に、私は戦うんです」
そして、理想の果てに待つ、騎士王と交わした誓い。
その二つの誓いを胸に、ネプギアは剣を取る。
そこに、もう迷いなどなく、理想を阻むモノはすべて切り伏せるのみ。
「―――――望まない結末が待っていたとしても、その決意は変わらないか」
「―――――はい」
「愚かだな君は。 叶うはずのない理想に、その人生を捧げるか」
全てを救うことなどできるはずもない。
それは、長く戦場を渡り歩いてき、エミヤとして生きた悠理が一番よく知っている。
「ユーリさん、忘れていませんか?
私は女神です。 人間の常識なんて女神には通用しません!」
「―――――ふっ、そうだったな……
いいだろう、この戦いが終わったとき、エミヤを継ぐ資格があるか、再び問おう」
全てを救うことなどできはしない。
その結論は未だ変わりはしない。
だが、この少女ならば、出した結論を覆してくれるかもしれない。
そんな、何一つ信じる根拠のない予感に苦笑する。
「その、ですね……ついでに、私とお付き合いしてくれるかも考えてくれくれませんか……?」
「悪いが、君を女性として見ることはない」
「即答しないでください! 私だって傷つくんですよ!」
「ふむ、しかし、態と嫌われるような態度をとるところが好きだと言っていたはずだが?」
「うぅ~、ユーリさんの意地悪! でも、大好きです!」
僅かな羽休めの時間は、穏やかな笑顔で過ぎ去っていく。
それは、常に気を張ってきた悠理にとっても、心安らぐ一時だった。
その時間は、最期の戦いの舞台が幕を開ける、その時まで続くのであった。
珍しく、本当に珍しくこの小説で、僅かながらにも和気藹々としている場面が出てきました。
ここまで長かったですが、悠理は一向にデレてはいないので、ネプギアの恋路は前途多難ですね。
次回の投稿はしばらく時間が空くかもしれません。
では、また次回。
最終章、女神救出編の開幕です。