転移門を潜った先、そこは、ネプギアにとって三年越しに踏む因縁の場所。
何もできずに敗北した過去を、幾つもの試練を乗り越え、その大地を踏みしめた。
「―――――なんだか、前に来た時と様子が違うわね……?」
「はいです……なんだか、静かすぎて不気味です……」
ネプギアを救出した、アイエフとコンパが揃って、不自然なほどに静かだと指摘する。
特異な空間に存在するはずのモンスターの気配も、この地に堕とされた亡霊の怨嗟も聞こえない。
あるのはひたすらの静寂。 深部まで進もうとも、依然遭遇した墓守すらそこにはいない。
敵の本拠地にも関わらず、あまりに不自然な状況に、警戒心が募る。
緊張感が高まる中、進んだ先、女神が囚われている場所に、それらはいた。
囚われの女神の上に、幾重もの鎖によって雁字搦めにされた霞のような思念体。
そして、それらを背に、立ちはだかる守護者が、その隻眼の瞳を開いた。
瞬間に叩きつけられる殺気は、気圧されるというだけに収まらず、体感する重力を数倍に感じされるほど。
闘いに慣れていないものであれば、それだけで窒息しかねない暴力的な意思の前に、武器を構えることができたのは悠理と、ネプギア、そしてアイエフの三人。
つい先日に死線を潜り抜けた残り三人の女神候補生を、その殺意だけで圧倒する
「――――――この時を、待ちかねたぞ、エミヤ」
「やはり、死んでいなかったか」
人間ならば三度は死んでいる重傷を負わせたが、目の前に立つ死神を見ても驚きはしない。
敵は元より冥府の使途、人外の化生。 その命を確実に摘むまで、安心などできるはずがない。
「だが、待っていたのは貴様だけだ」
悠理から視線を切り、隣に立つネプギアへと向ける視線は、殺意などではなく、むしろその逆である慈悲すら感じさせる。
「女神ならば連れていくがいい。
そして、エミヤを殺した後、犯罪神にも止めを刺そう。
この戦い、お前たちの勝利だ」
囚われていた女神を開放し、放り投げる。
宙を舞うその身を受け止め、息を確認するが、衰弱しているだけで死んではいない。
悲願であった女神の救出、それをこんな形で成し遂げたことに、疑惑の眼差しが死神へと集まるが、そんな視線は頓着すらしない。
あるのは、ただ身を焦がす憎しみの炎。
生者を冥府へと送る断頭の鎌が、空を切る。
「ネプギア、アイエフ、女神たちを連れて行け。
どうやら、あれの目的は俺のようだ」
「嫌です。また、約束を破るつもりですか?」
まるで、悠理の言葉を予測したかのような即答。
間違いなく言うことを聞かないであろうと予想したいた悠理は、苦い顔で頭をかいた。
「分かった。私たちは一度、ねぷ子たちを連れて戻る。
犯罪神は倒れ、女神も救出できたんだから、最低限、私たちの目的は達成できた。
だから、あとはあんたたちが生きて帰れば、文句なしのハッピーエンド。そうよね、ネプギア?」
死神の殺意を前にしても怯むことのなかったアイエフの実力は、悠理から渡された幾つかの宝具や、様々な近代武装によって、女神に匹敵するものになっている。
だが、この戦いにおいて最低限必要とされる身体能力に到達していない。
これが死神ではなく、凶刃であれば、その身のこなしと戦術でアイエフも戦いに加われただろ。
しかし、立ち塞がるは、最低限の能力がなければ、戦術すら立てられない怪物。
一目でそれを悟ったアイエフは、全員が生きて帰ることができる最善策を提示した。
「アイエフさん、お姉ちゃんをお願いします」
「あんたたちも死ぬんじゃないわよ」
気を失っている女神たちを連れ、帰還するアイエフ達が立ち去り、残ったのは三人。
既に世界は救われた。
これより行われる闘争は、意味も意義もない、ただの私闘。
しかし、その戦いは、ゲイムギョウ界始まって以来、最大の戦いとなるだろう。
「―――UNLIMITED BLADE WORKS. 」
長き呪文の果てに、塗り替えられる心象風景。
緋色に広がる空のした、荒野に突き刺さる墓標の如き、無限の剣群。
剣戟の極地たる世界は、たった一人の敵の為に現れ、牙をむく。
「これが貴様の目指すものか……
あぁ、ようやく納得がいったよ。この憎悪の意味が」
固有結界によって広がる心象風景を、眺めていた死神は、自分でも不思議に思うほどの憎悪の理由を、剣の丘に見出した。
敗北という屈辱が源泉の憎しみだと思っていた故に、全力の悠理を倒してこそ、この復讐は幕を閉じる。
だからこそ、足手まといとなるアイエフ達を逃がし、固有結界も無抵抗で展開させた。
だが、違ったのだ。 この憎しみの理由はただ敗北したというだけではなかった。
「―――――見るに堪えんな、貴様らエミヤは。世界に巣くう害虫。その醜悪さはまったくもって見るに堪えん。
それほど、世界の理が耐えられないならば、このくだらない世界に引きこもっていろよ」
強き者が弱き者を食らう、弱肉強食こそ世界の理だと死神は謳う。
しかし、エミヤの生き方はその理の否定。
強者であるはずのエミヤが、弱きものを救い、そして弱き者に殺される。
それが無意味で無価値なものだと知って尚、闘い続けるその生き方は、死神の生き方の全否定だ。
故に憎む、そのような異端者に敗れたことを、その存在がこの世から消え去るまで、憎しみの炎は燃えつつづける
「ならば、なぜ女神を生かしておいた。
貴様の理屈であれば、生かしておく必要のない存在だろう」
「世界との契約を結んだ時の誓約だよ。
私から見れば弱者とはいえ、あれでもこの世界を守護し統治する為の道具だ。
無論、私の目的を邪魔するものは、例外だがな」
悠理の隣に立つネプギアへと視線を向ける。
これが最後の警告。しかし、ネプギアはその警告を受けて尚、一歩も引くことはない。
「だったら、私もその目的に含まれますよ。
私は、エミヤの意志を継ぐものだから」
三年前に敗れ去った因縁の敵。
恐怖と挫折の象徴である死神に、刃を向ける。
それがたとえ、どれほど強力な敵であろうとも、理想を阻むモノは切り伏せると誓った故に。
「――――――そうか。ならば、その一族をここで断つ。
来るがいい、エミヤ、そしてエミヤを継ぎし女神よ。
この憎しみの元、塵も残さず消し去ってくれる」
真っ先に動いたのは、3人の中でも最速の機動力を持つネプギア。
残像すら残す、初速にて最速を為す、神速を刃に乗せ、
敵は神すら超える死の具現。その結果の予想は容易であるが故に、受け止められたネプギアは、留まることなく、縦横無尽に飛び回り、あらゆる角度から斬撃を加える。
しかし、その高速の斬撃は、死神に届くことはなく、ネプギアの動きに慣れてきた、死神は反撃に移る。
背後から迫る刺突は躱し、方向転換をする停止の一瞬を狙い、断頭の刃が迫る。
「――――――――ッ!」
しかし、身を引いたのは鎌を振るった死神。その刹那に空間を捻じ曲げながら進む螺旋剣。
忌々し気に矢先を見ると、鷹のように鋭い眼が、刹那の隙を狙い定めている。
そして、当たればただでは済まない援護を一切恐れることなく、ネプギアは神速の機動力を落とすことなく、追撃を加える。
その連携はまさしく阿吽、縦横無尽に飛翔し、すれ違いざまに斬撃を加えるその間隔は一秒にすら満たない刹那。
更に恐ろしきは、紫色の影を残し、多角形を描く、常人であれば視認すらできないネプギアの機動力を一切削ぐことなく放たれる、正確無比な援護射撃。
唯一の隙である多角形の頂点。方向転換の為、その速度が0になる刹那に飛来する宝具。
その援護射撃がネプギアの多角形連撃を完全なモノへと昇華させ、死神を完封する。
「――――――小賢しい!」
防戦一方の状況を打開するために、放たれた炎は、死神を中心に爆発的に広がっていく。
いくら機動力を持っていても、死神に届く道がなければ、その力も発揮できない。
その炎は、多角形連撃の起点を飲み込み、防戦一方の状況を打開する一手。
「
しかし、光の焔は、炎の壁の一点を破り、死神への道を切り開く。
「―――――はぁぁあああああああ!」
それはまさしく紫色の流星。
重力・機動力・遠心力・膂力、あらゆる力を込めた斬撃が、死神の真上から落ちる。
ぶつかり合う鎌と剣。
刹那、世界は停止し、世界を震わせる衝撃と共に時は動き出す。
剣戟の音とは思えない轟音の元、広がる炎を吹き飛ばし、大地を陥没させた流星は、死神に膝をつかせ、その衝撃を真っ向から受け止めた腕は、骨が皮膚を突き破り血を吹き出す。
その衝撃は内臓にすら達し、強靭な肉体を持つ死神でなければ、受け止めたところでそのまま押しつぶされ、肉片すら残らないほどの一撃。
しかし、それだけには終わらない。
ネプギアと死神を囲う無数の剣群は、ネプギアが離脱すると同時に剣群が死神へと殺到する。
その剣群はすべて宝具。
防ぐことはおろか躱すことすら不可能な質と数をもって、その命を刈り取る――――――――はずだった。
「―――――
殺到する剣群を焼き払う赤黒き炎。
その手には、あらゆる魔剣の頂点に立つ、一つの世界を閉ざす炎。
その魔剣の前には、剣の丘にある宝具など雑多の剣と変わりはしない。
「――――貴様、それをどこで……!」
「貴様を憎んでいるのは私だけではないということだ。気付いているのだろう?
貴様がただの人間ではなく、そして、私が契約した存在に」
眼帯によって隠されていた瞳が、赤き炎を宿しその瞼を開く。
その背後に見える《赤い影》。
二つの憎悪が重なり、魔剣は妖しき光を灯す。
そこにあるだけで、喉を焼きかねないほどの高熱を発し、空間を歪める。
「――――よほど、俺が気に入らないということか……」
「あぁ、私はその生き方が、これはその存在が憎い。焦がれるほどの憎しみが私たちを引き寄せたのだよ。
全ては、貴様を殺すために。この全霊を持って貴様の存在を否定しよう」
世界を越え、奇跡さえも引き寄せた想いは、炎となりて剣の丘を融解していく。
しかし、仮定でしかなかった、己の存在は、死神の言葉によって確信に変わる。
この世界にきて見た夢。
だが、それを知ったところで、この戦いの行方は変わらない。
「――――――――ユーリさんは、絶対に死なせません!」
その想いは相反するものであれど、その絶対値だけは負けないと、再び神速に乗って死神へと斬りかかる。
いかに強力な武装とはいえ、多角形連撃と悠理の援護射撃があれば、封じることができる。
だが、その思い込みは、その魔剣と剣を交わした時、正される。
「―――――あぁ、貴様も同じく滅ぼそう。エミヤの意志は私の全霊を持って排除する」
光り輝くM.P.B.Lを侵食する赤黒き炎。
瞬間に距離をとるが、あらゆるものを融解するはずの光熱剣は、魔剣の炎に焼かれていた。
刹那の間、剣を合わせただけだというのに、M.P.B.Lの切っ先は融解しその輝きを失っている。
ネプギアのM.P.B.Lと同じく、剣を合わせたものを焼き切る防御不可の刃。
だが、その熱量はネプギアのそれとは桁が違う。
あらゆる小細工を力でねじ伏せる絶対強者の剣を前に、多角形連撃は封じられた。
――――――ならば、取れる手段は一つだけ。
M.P.B.Lが輝きを取り戻し、光を収束していく。
力をもって力を凌駕せんと、持てる力の全てを光へと変換してく。
「―――――愚かな。この剣と打ち合うつもりとはな」
光り輝くM.P.B.Lは対照的にどす黒く染まる魔剣。
収束する力は、この世の理すらも変え、その力に耐えきれなかなった大地は崩壊し宙を舞う。
魔力が視覚化し、迸る紫電。
収束された魔力を先に解き放ったのは死神の魔剣。
「
世界滅ぼした炎が、現世に降臨する。
その炎の前に固有結界は崩壊し、ギョウカイ墓場へと戻るが、変わる風景は誤差でしかない。
赤黒き炎の後には塵すら残らない、終焉の世界。
「
対するは、鏡合わせの終焉の炎。
ネプギアの収束は、死神の全力を引き出す囮。
それがたとえ神話の炎だとしても、あらゆる神秘を再現する、悠理にのみ許された究極の神秘。
いかに魔力を収束しようと、その規模・性質をも再現する故に、神秘による攻撃では悠理を倒すことは出来ない。
――――――――だが、死神が契約を果たしたのは、悠理と同じく■■より生まれし存在。
激突する炎は天を焼き、地を崩壊させる。
互角であるはずの炎は、徐々に押されていく。
「―――――馬鹿な……!?」
魔剣・粛清の為の憎悪。
その魔剣は、彼の英雄王が持つ星産みの力を宿し、天と地を切り開いたといわれる乖離剣に匹敵するする出自を持つ神造兵器。
北欧神話の終焉、
その威力は測定不能であるEX。
その出自に違わぬ規格外の威力を持つ魔剣だが、それだけでは、悠理の観測者の書を越えることは出来ない。
粛清の為の憎悪、この魔剣に秘められたもう一つの能力は、抱く憎悪によって威力が変わる変動性。
故に、その神秘を再現する悠理の観測者の書では打ち破れない。
込められた魔力を再現したとしても、持ち手によって威力が変動する宝具故に、その優劣を決めるのは内に秘めた憎悪。
悠理では世界を越える憎悪を持つ死神には敵わない。
「―――――終わりだ、エミヤ」
観測者の書によって生み出された終末の炎は打ち破られた。
瞬間に、炎に特効性のある宝具を投影するが、格下の宝具など終末の炎の前には無力。
足止めを果たすことなく塵と化し、悠理を焼き尽くさんと迫る。
「――――――ユーリさん!」
迫る炎の前に、ネプギアが悠理を庇うように抱きしめる。
だが、その炎の前に人一人の壁など無力。終末の炎は、抵抗虚しく二人を飲み込む。
勝利を確信した死神は剣を降ろす。
炎の中で淡く輝く光を見落としながら。
オリジナル宝具であり、乖離剣に匹敵する神造兵器。
能力は出自通り、世界を終わらせるという規格外の炎を放ち、真名解放しなくとも高熱を放ち、神造兵器レベルでなければ、切り結ぶことすら不可。
憎悪によって威力が変動し、世界を越える憎悪を持つ死神はこの魔剣の最大の威力まで引き上げる。
ラスボスらしいチート武装の前に敗れた悠理とネプギアです。
やっぱり、ラスボス戦は一度敗れてからのが王道。
反撃に移る二人に勝機はあるのか。
では、また次回です