剣の丘を目指す者   作:未来

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遠き日に至る理想郷

「―――――ユーリさん、大丈夫ですか……」

 

「―――――あぁ、すまない、助かった……」

 

剣を杖に立ち上がる二人を、驚いた眼で見る死神。

 

それもそうだろう。何より生きていることに驚いているのは悠理も同じだ。

 

平等に終末を与える炎を受けて、生きている道理がない。

 

たった一人、その炎の力を目の当たりにしても尚、闘志を燃やしているネプギアを除いて。

 

「ほぅ、まさか、粛正が為の憎悪(レーヴァテイン)を受けて尚生きているとはな」

 

下した剣を再び構える死神。

 

一度は奇跡的に生き残ることができたが次はない。

 

あの魔剣の前にいかなる宝具を持っても太刀打ちすることは出来ず、観測者の書(アーカイブ)をもってしても打ち破ることのできない炎がある限り、死神の勝利は揺るがない。

 

加えて、悠理を庇ったネプギアはその機動力を神速たらしめていた、翼を失っている。

 

悠理も同じく、致死に至るほどではないとはいえ大きい火傷を負い、万全とは言えない。

 

誰がどう見ても絶望的な状況。

 

「――――ユーリさん、1分時間を稼いでくれませんか」

 

それでも尚、ネプギアは心を折らない。

 

それがほんの僅かな勝機であろうと、否、たとえ、勝機がなかったとしても切り開く。

 

ここが分岐点。何もできない自分から抜け出すため、大切なものを全て護り通すため、負けることなど許されない。

 

「―――――いいだろう、この命、君に預けよう」

 

ネプギアと初めて会ったとき、彼女はとても弱い少女であった。

 

架せられた宿命の重さに潰れ、涙を流し助けを求めることしかできなかった。

 

そんな少女が、今、この絶望的な状況でも前を向き、勝利を睨んでいる。

 

その瞳は、悠理がよく知っている。

 

叶うはずのない理想。それを知って尚、力の限り、命の限り、突き進む悠理の憧れの男。

 

「ああ、時間を稼ぐのはいいが―――――――別にあれを倒してしまっても構わないな?」

 

だからこそ、先人として、跡継ぎの少女に未だ追い越されるわけにはいない。

 

何より、女に護られるだけなど、男の意地(プライド)が許さない。

 

「ユーリさん、それ死亡フラグです……」

 

「ふっ、なに、元より、死を覚悟しなければ太刀打ちすらできない怪物だ。

その程度の運命を覆せず、勝てるはずがないだろう」

 

「――――――そうですね……やっちゃってください、ユーリさん!」

 

ネプギアの声を背に、死神へと駆ける。

 

その手には先代エミヤから愛用している干将・莫耶。

 

だが、並みの宝具であれば打ち合うことすら許されない魔剣を前にはあまりにも無力。

 

投擲した夫婦剣は一振りで融解し塵と化す。

 

迫る死の一閃を回避し、耐火性を極限まで向上させ、塵と化す刹那の間に魔剣を打ち剣筋をそらすが触れるだけで武器を破壊される特性だけでなく、そもそも生物としての能力差に劣勢に立たさせる。

 

この状況で1分という時間を稼ぐという難行は、天賦の才と練磨した技術を併せ持ち、武器を何度も投影できる悠理でなければ1分どころか、1秒すら持たないだろう。

 

「よく躱す。だが、私は剣だけではないぞ」

 

横薙ぎに振るわれた魔剣を後方に飛び、回避した有利に迫る、魔法によって生み出された黒槍。

 

「―――――ック、観測者の書――――!」

 

鏡合わせに生まれた黒槍は、打ち合い相殺するが、そのすべてを相殺したわけではない。

 

死神と距離を開ければ、魔剣の炎が今度こそ悠理とネプギアを滅ぼす。

 

故に、黒槍が相殺しあう危険地帯にあえて踏み込まざるを得ず、急所だけを外し、斬りかかる。

 

腹部に刺さった槍は内臓こそ外しているが、発する激痛は悠理の剣技を鈍らせる。

 

極限まで研ぎ澄まされた集中力と、剣技があってこその所業は、一つでも書いた瞬間天秤は傾き始めた。

 

魔剣による攻撃こそ防いでいるが、その代償に、打撃や魔法による攻撃は、確実に悠理の体力を奪う。

 

残り20秒、このままでは、魔剣による攻撃ではなく、削り殺しによって悠理は敗北する。

 

「――――――死ね、エミヤ!」

 

絶え間ない攻撃にさらされ、膝を折った一瞬の隙。

 

その決定的な隙を逃すことなく、魔剣による一振りが降ろされる。

 

「観測者の書――――――!」

 

だが、勝負を決めにかかった時こそ、悠理にとって反撃に移る最後のチャンス。

 

並行世界へ斬撃を飛ばす防御術。

 

前方にしか効果は及ばないそれではあるが、これ以上ない奇襲の足掛け。

 

「――――――無駄だ」

 

だが、対界宝具である魔剣は、並行世界の壁を突破し、悠理の右腕を焼き切った。

 

「――――――――がぁぁあああああああッ!」

 

斬られた瞬間、その傷は強制的に焼き塞がり、意識が飛ぶほどの激痛が悠理を襲う。

 

かつて、同じように腕を切り落とされた屈辱を、同じ形で返した死神。

 

―――――――だからこそ、ここにきて初めて、慢心という油断をさらした。

 

「ぐぎッ! おぉ……うぉおおおおおおおおお――――――――――!」

 

生命としての性能も、武器の性能も及ばない。

 

唯一勝る技術すらも、多くの傷によりその精彩を欠いた。

 

命を懸けても、勝てるはずのない戦い。

 

ならば――――――――腕の一本くらい、くれてやる!

 

「―――――――なに……!」

 

右腕を切り落とし勝利を確信した死神は、その慢心故に、止めを刺す返しの刃を振るわない。

 

死に体でありながら、絶望に染まらない瞳を見た時にはすでに遅い。

 

残った左腕が魔剣を持った手首ごと切り落とした。

 

「―――――お、のれぇぇええええええええええッ! エミヤぁあああああああああああ!」

 

断頭の鎌が再びその姿を現し、振るわれたその一閃を受け止めた、悠理は踏ん張ることもできず吹き飛ばされるが、その視線だけは死神を捕らえていた。

 

全投影連続掃射(ソードバレルフルオープン)――――――――!」

 

吹き飛ばされながらも、撃ちだされる宝具。

 

魔剣には遠く及ばないそれらであれど、魔剣を失った死神には命を脅かす暴力の豪雨。

 

その豪雨を前に一歩も引かず打ち落とすもその数故に、捌くことなどできず、その身に突き立てたれる剣。

 

だが、心臓を破壊されても死ぬことはない、人外の化生は、体を貫かれた程度は死なない。

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)―――――――!」

 

突き刺さった剣だけではなく、弾かれ死神の周辺に刺さる宝具の全てが、内に秘めた神秘を解き放ち、断末魔の声すらかき消す轟音の元、死神の体を神秘の爆発が巻き込む。

 

体を貫かれて死なぬのならば、死ぬまで殺すのみ。

 

「――――観測者の書……憎悪に魅入られたのならば、その炎の中で朽ちろ!」

 

死神が放つ粛正が為の憎悪に比べれば劣るものの、その威力は剣の丘にあるすべての剣を越える頂上の神秘。

 

魔剣を失った死神に防ぐ術はなく、憎しみの炎は神秘の爆発に身を焼かれる死神へと叩きつけられる。

 

 

 

 

 

「――――――――舐めるなぁぁああああああああああああッッッ!」

 

 

 

悠理が放った炎は、死神を護るように宙に浮く魔剣によってかき消される。

 

憎しみの炎が大地を突き破り、火柱を上げる。

 

切り離したはずの魔剣は、死神の手に握られ、炎が死神を取り囲む。

 

天に掲げる魔剣に纏う炎は、まさしく終末の炎。

 

もはや、悠理にできることは何もない。

 

否、たとえ、ゲイムギョウ界の全ての戦力をかき集めたところで、どうにかできるものではない。

 

天を灼く炎は、神話に存在する世界の終焉そのもの。

 

放たれれば最期、ギョウカイ墓場に収まらず、ゲイムギョウ界という世界全てを焼き尽くし、神々の黄昏を再現するだろう。

 

だが、そんな危機にも関わらず、悠理は終焉など訪れないと知っているかのように、気軽に言葉を投げかけた。

 

「――――時間稼ぎは十分だったか?」

 

例え世界の危機であろうと、やるべきことは変わらない。

 

二つの誓いを胸に、終末の炎でさえ跳ね除ける淡い光に包まれたネプギアは、その瞳を開いた。

 

「――――はい。でも、約束を破った罰は受けてもらいますよ」

 

失われた腕を見て、非難の視線を向ける。

 

その視線に渋い顔をするも、約束を破ったのは事実。

 

「それはいいが、あれが放たれればそれどころではないぞ?」

 

心にもないことを言い、話を逸らそうとする悠理に、じっとりとした視線を向けるネプギア。

 

だが、真実、あの炎は世界を滅ぼすまで止まることはない。

 

最大火力を誇り、神造兵器と互角に打ち合える、闇夜を照らす聖焔の祝福(カリバーン・エネルゲイア)をもってしても、終末の炎の前には無力。

 

それでも、ネプギアの自身は揺るがない。

 

「大丈夫です。私の夢は、あの人が求めた理想郷は、あんな炎に負けません」

 

その手には、黄金に輝く鞘。

 

それは、あの奇跡の会合で騎士王から渡された、決して届かぬ理想郷。

 

あの炎の中で、ネプギアと悠理が生きていたのも、この鞘の力。

 

そして、悠理が稼いだ時間の中、ネプギアは、内に埋められたその鞘を形にして見せた。

 

「――――ならば、見せてみろ。君の理想が世界を救うに値するかを」

 

言葉を交わしていたそのわずかな間に、魔剣の炎は最大に膨れ上がり、滅びを齎さんと、雄叫びにも似た熱波が荒野の大地を揺るがす。

 

その炎を前に鞘を掲げるネプギア。

 

ネプギアが一人生き残るだけならば、簡単な話。

 

この鞘の前には、いかなる攻撃も遮断される。

 

だが、それだけでは足りない。護るべきはこの世界の全て。

 

 

 

「滅びろ、終焉が為の憎悪(レーヴァテイン)――――――――――!」

 

 

 

ついに放たれた終末の炎を前に、ネプギアは鞘を手に翳す。

 

恐れることはない。

 

この手に持つのは、騎士王が夢見た理想郷。

 

背負うのは、三代にに渡り受け継がれてきたエミヤの尊き理想

 

そして、胸に抱くは、二つの想いを汲み上げ、叶えると誓った最強の祈り。

 

その祈りが、今ここに形を成した

 

 

 

遠き日に至る理想郷(アヴァロン・エンテレケイア)―――――――!」

 

 

 

鞘を為していた光の粒子が、優しくも眩き光を放ち、世界を包み込む。

 

それは固有結界に似て非なる、神の御業。

 

心象風景をもって世界を塗り替えるのではなく、一つの世界の創造。

 

光の粒子に囲まれたこの空間は、ネプギアが遠き日に至る理想郷

 

「―――――ば、かな……!?」

 

世界を滅ぼす炎は、初めからなかったかのように消え去る。

 

それも当然。騎士王がエミヤがネプギアが願った理想郷に、終末の炎など存在しない。

 

そこは、笑顔溢れる、誰もが傷つかない世界。

 

故に、この世界においてネプギアが拒絶するすべての事象は無力化される。

 

それだけではなく、ネプギアの傷ついた翼は癒え、悠理の失った腕も復元する。

 

「――――認めん、認めん認めん認めん認めん!」

 

歯を食いしばり、その命を魂を憎しみに染め、この世界を打ち破ろうとするが、悉くを無力化される。

 

無限の魔力供給を行っていた、《赤い影》との接続も切れ、その命を燃やし尽くした死神は、ついに膝をつく。

 

「―――――私たちの勝ちです」

 

既にネプギアが手を下すまでもなく、その生命を終える死神。

 

だが、その生命の最期まで、死神は変わることない。

 

命乞いなどもってのほか、自らの信じる理を否定するエミヤを最後の最期まで憎み切った。

 

「覚えておくがいい。貴様らは必ず私が殺す。

奈落の底から何度でも甦り、貴様らを焼き尽くしてやる」

 

その祈りの強さは個にして最強のものだろう。

 

死を越え、世界を越えたその憎しみは、誰にも否定できない一つの祈りの形。

 

「それでも、私たちは、必ず理想を、この世界を形にして見せます」

 

たとえそれが個として最強だとしても、ネプギアの祈りは一人だけのものではない。

 

届かないと知り、幾つもの絶望の果てに夢見た理想。

 

だからこそ、ネプギアは負けない。否、負けることなど許されない。

 

死神の姿が薄れ、その存在が希薄となる。

 

憎しみの炎は奈落の底に、再び会いまみえるその時まで燃え続ける。

 

「―――――勝ったな」

 

「はい。私たちの勝ち――――――――――ッ!」

 

遠き日に至る理想郷による世界が消え、勝利を讃えあうその時、ギョウカイ墓場の大地が揺れる。

 

それは死神によって囚われていた犯罪神の復活。

 

ギョウカイ墓場の大地を憑代に、その禍々しい姿が力を使い果たした悠理たちの前に立ち塞がった。

 




遠き日に至る理想郷(アヴァロン・エンテレケイア) EX

全て遠き理想郷が、妖精卿にその身を置くことで、全ての干渉を遮断するのに対し、遠き日に至る理想郷は、妖精卿とも異なる新世界を具現化させる、魔術を越えた魔法の領域にある神の御業。
その世界は使用者が望む理に支配された世界となり、ネプギアが創造した世界は、ネプギアが拒絶する全ての干渉を無力化する、究極の盾。
その副次効果として、この世界に存在する全ての存在は、体の傷がいえる。
実際、死神の傷も癒えてはいたが、魂を燃やし尽くした死神は、その存在を保てず消滅した。

ラスボスは倒そうともまだまだ、女神救出編は続きます。

力を使い果たした二人に立ちはだかる最後の壁。

未だ悠理を憎む《赤い影》。

そして、ネプギアが悠理に伝える言葉。

ラストまで一気に突っ走ります
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