幾億と存在する世界の歴史が流星のように流れてゆく。
全ての情報が集約されているその場所には、当然、悠理という根源によって生み出された究極生命体の過去も記されていた。
世界の根本を塗り替えると言われている第六魔法。
その誕生を防ぐために生み出され、そして、ガイヤとアラヤの抑止力によってその存在を否定され、地上に零れ落ちた、究極生命体の成り損ないこそ、衛宮悠理という存在。
悠理に備わっていた超常の神秘、
しかし、得られるはずの力を失ったからこそ、与えられるはずの使命を失い、人間として自我を獲得することができたのだ。
そこからは悠理が記憶している通り、死に瀕しているところを衛宮士郎に拾われ、エミヤとして各地の戦場をめぐり、その果てにゲイムギョウ界へと渡ることになった。
だからこそ疑問が残る。
確かに悠理はただの人間ではない。それは確かなことであるが、それだけで、《赤い影》が自我を獲得するほどの憎しみを抱かれ理由にならない。
だが、その答えは、悠理がこの場所に訪れたことが示ししている。
根源へ繋がる正当な道をその身に宿してるだけでも、魔法を宿す者を殺すという使命を帯びた《赤い影》にとっては殺す理由に足りる。
だが、それとは別に、より大きな理由が《赤い影》を突き動かしていた。
悠理の特殊な出生による、本来備わっていた力。
それは、世界が恐れていた第六魔法そのもの。
世界の秩序を守るという使命を帯びているのならいざ知らず、今の悠理は人間としての自我を確立している。
人間が第六魔法を手にしてた時、それは既知世界の終焉を意味が故に
『―――――――コロス』
憎しみによる殺意が、無色の世界を染め上げる。
世界を守護する、同じ使命を帯びた同類が、今まさに既知世界に終焉を齎そうとしているのだ。
力が薄まったことにより、抑止力は悠理の存在を見失い、正当な道を辿るが故に抑止力は反応しない。
抑止力の支配下では、悠理を止めることは出来ない。だからこそ、死神がその憎しみで犯罪神の傀儡から自立したように、自我を確立するほどの強い感情が必要だった。
故に憎む。悠理を止めることができるのは、同じ使命を帯びた己だけだと知るからこそ、その使命を全うするがために。それが創造主たるものに背くことだとしても。
「―――――――それでも、俺の意志は変わらない」
肉体という器を脱ぎ捨てた精神体が故に、向けられる強烈な殺気は、死に至らしめる毒となる。
その毒に蝕まれながらも、その強靭な意思は変わらない。
託された想いがある。叶えたい願いがある。辿り着きたい場所がある。
そして、今この時、悠理の帰還を信じ戦う仲間がいる。
例え、この道が、世界の破滅に続いていようとも
「そこをどけ亡霊。世界は俺が救ってやる」
殺意に蝕まれながらも一歩、また一歩と足を進める。
殺意による弊害は激痛だけではない。
突如、右足の感覚が消え、次の一歩で左腕の感覚が消えた。
視界にはノイズが走り、既に、その耳に音は届いていない。
それでも、その歩みは止まらない。
感覚のない右足を引きずり、定まらない視界の中、根源の中心である渦を目指す。
常人なら発狂を通り越し、ショック死してもおかしくない激痛の中、折れることなく歩き続ける悠理に、更なる追い打ちがかかる。
潰れた肺から、空気と共に血を吐き、暗転した視界と感覚の消えた両足は、既に歩いているのかすら、悠理には分からない。
『シネシネシネシネシネシネシネシネシネしシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネしシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネしシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネしシネシネシネシネシネ、セカイノタメニコロス』
這いつくばる悠理を掴み、その首に手をかける。
叩きつけられる憎しみは、悠理の自我を侵食し、思考を塗りつぶす。
誰と戦っているのか。何のためにこの場所を訪れたのか。そして、何のために戦っているのか。
薄れていく意識、削ぎ落とされる記憶の中、最後に残ったのは剣の丘―――――――――――ではなく、絶望の中で手に入れた答えを示し、仲間を誇る少女の笑顔。
「――――――あぁ、そうだったな……」
一片の曇りもない殺意に、その瞬間、驚愕の色が混じる。
首を絞める手を、その右腕が引き剥がそうとしている。
死神との戦いで失われ、ネプギアの祈りによって復元した右腕。
無論、肉体という器を排除したこの世界に、復元した右腕にいかなる加護があろうとも意味などない。
そもそも、復元したというだけで、悠理の右腕は何一つ特殊な力を帯びているわけではない。
だが、その右腕は、ネプギアの祈りを認めた証。
想いの強さこそ全てのこの場所において、これほど強いものはない。
第六魔法などなくとも、紡いだ想いによって世界を変えた少女が与えた右腕は、《赤い影》の憎しみに打ち勝った。
驚異的な力で、その手を引き剥がし、奪い返した全てで、《赤い影》と対峙する。
既知世界を護るため、憎しみによって自我を得たその想いは、世界を越えた死神にも劣らない。
だが、ネプギアはその死神の憎しみすら凌駕したのだ。
ならば、出来ないことはない。誰にも負けない想いならば、この胸にある。
――――――――――手にするは鋼の剣、心に抱くは剣の丘
憎しみに染まった世界は、剣の丘に塗りつぶされる。
その手には、無骨な黒白の夫婦剣。
十字に刻まれたその傷が、この戦いの勝敗を語っていた。
その最期まで、既知世界の為に戦い続けた戦士に、黙祷を捧げ、その丘から見える景色を見た。
灰色の空、草の根も生えない荒野に墓標のように突き刺さる無限の剣。
孤独と無を極地であり、人間が辿りつく一つの極点。
「どうだ、ここから見える景色は?」
不意に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「――――――夢に見た景色だ。嬉しいに決まってる、最高の気分だ。――――――ここに辿り着けば、そう思えると思ってたよ、士郎さん」
振り返ると、悠理の前でその命を終えた時と変わらない、衛宮士郎の姿がそこにあった。
「久しぶりだな、悠理」
「あぁ、久しぶりだ、士郎さん」
時を越え世界を越え、再開した師弟。
師である衛宮士郎が辿り着き、そして、悠理も同じ場所へと辿り着いた。
その背中に憧れ、幾重もの修羅場の果てにようやく辿り着いた場所。
「それは間違いだ。お前は、最初からここにいたよ。ただ、気付かなかっただけだ」
悠理の思考を読んだかのように、悠理の誤りを指摘する。
その指摘を、悠理は否定しない。
孤独と無の極地、それは、衛宮士郎を失ったときに既にあったもの。
衛宮士郎の死後、悠理はすでにその場所に立っていたのだから。
そうだとしても、悠理はこの場所を目指す理由があったのだ。
その答えを得たからこそ、今悠理はこの場所にいる。
「士郎さん、俺は行くよ。
この丘を越え、荒野を踏破して、その先の景色を見てくる
そして――――――――――――――」
争いの中、心をすり減らし、生きる理由を求めた。
否、そもそも、生まれ落ちた時にその存在理由を奪われた悠理は、争いの中でなくとも求めたただろう。
そんな時に、憧れた背中があった。
その結末の末に辿り着いた場所が、孤独と無の極地であろうとも、その生き方に憧れ、戦い続けたその先に、ようやく手に入れたもの。
「また、ここに戻ってくる。
何もないこの場所に、花を添えるために。
何もないこの場所に、平和の為に尽力した者たちの墓を作るために」
それが、悠理が見つけた成すべきことであり、成し遂げたいこと。
人間が人間である限り争いは終わらない。
それでも、争いを憎む人いる。誰かを助けたいと願う人がいる。
その名も知らぬ人たちの墓標を刻み、その想いを永遠に語り継ごう。
元より、この身は世界を救うために作られた存在。
ならば、人々の意志など関係ない。世界の為に、救われてもらう。
「強くなったな、悠理。
正直、俺はお前にエミヤを継がせたくはなかった。
お前はきっと、その最期に俺と同じ道を辿ると思ったからな。
だが、良い仲間を持ったな」
「あぁ、自慢の仲間たちだ」
士郎に背を向け、歩き出す。
今この時、悠理の帰還を信じ戦っている仲間たちの元へ。
「――――あぁ、そうだ……」
ふと思いついたことの為に、足を止める。
この為にこの場所を訪れたのかもしれないと思うほどに、やっておかなければならないこと。
「士郎さん――――――――――歯を食いしばれ」
振り返りざまに、顔面を殴り飛ばす。
ゴキリと、骨が折れる音と共に、倒れ込む士郎を見下ろし
「これは、凛さんを泣かせた分。
勝手に死んだ分は、戻ってから、ぶん殴ってやる」
「―――――――――ははっ、行ってこい悠理。お前の望むどこまでも」
救われたような顔で、最期の言葉を託す。
その言葉を受け取った悠理は、根源の中心にある渦へと飛び込み、正真正銘、最期の戦いへとその身を投じた。
女神救出編というよりも、ギョウカイ墓場編といった方が正しい気がしてきましたが、それも次回でラスト。
fateで最期を締めくくると言えばやはりあれしかありませんよね!
完結まで残り2話です