剣の丘を目指す者   作:未来

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約束された勝利の剣

悠理が根源より帰還する前、世界の存続をかけた戦いは、苛烈を極めていた。

 

敵は、小さくとも一つの大陸、その質量は天文学的数値。

 

たとえ、動きが愚鈍であろうとその巨体故に、その効果範囲は広大。

 

故に、空を飛ぶことのできないアイエフは勿論、ユニ達、女神候補生もその攻撃の範囲から離脱することは難しく、機動力の劣るアイエフを庇いながらでは不可能に近い。

 

「ラム、肘!」

 

「―――うん!」

 

そんな中でも、だれ一人欠けることなく戦い続けることができるのは、アイエフの的確な指示あってこそ。

 

握りつぶそうと伸びる腕の肘の内を、氷柱が打つ。

 

いかに巨大とはいえ、人体を模している以上、関節を打たれれば強制的に、関節は曲がる。

 

勢いはそのまま、強制的に関節を折られた腕は、人体の胸に当たる部位を打ち、盛大に崩壊させた。

 

だが、その巨体の一部を破壊したところで喜んでなどいられない。

 

崩壊した部位は、大陸の一部。

 

数百メートルの高さから降り注ぐ大陸の破片は、隕石じみた質量を持ち、破壊をまき散らす、大厄災。

 

視界を覆い尽くす、岩石群を光が打ち抜き消滅させる。

 

「ユニ、遅い!」

 

「―――――ったく、好き勝手言ってくれる……わね!」

 

ユニの恨み事ももっとも。

 

ただ打ち抜くだけならまだしも、消滅させるともなれば、必要な魔力は桁違いに跳ね上がる。

 

しかし、消滅させなければ、破片が増え、破壊範囲が増えるだけ。

 

ロムに抱えられ、岩石群の中を飛翔するアイエフにして見れば、ユニの射撃こそ生命線。

 

無茶だろうがやってもらわなければ、押しつぶされてお陀仏だ。

 

ユニの援護を受け、高く高くへ飛びあがるその先、ひと際大きな岩盤がその行く手を阻む。

 

懐から取り出すのは、破壊の槌。

 

「ぶち抜け、金剛杵(ヴァジュラ)―――――――――!」

 

金色の杵は、雷光となり岩盤を貫き、天にまで伸びる極光。

 

その光を辿り、犯罪神の頭上へと辿り着いた。

 

「ロム、最期頼むわよ!」

 

「うん! アイスコフィン―――――――!」

 

出し惜しみなし、最大規模の氷柱が肩と腕に発生し、関節を固定する。

 

飛び降りたアイエフを捕らえようとする腕は、固定された氷柱がその動きを阻害し、犯罪神の頭上に着地したアイエフは、歪な短剣を振りかざす。

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)――――――――!」

 

突き刺さった短剣は、あらゆる神秘を初期化する、最強の対神秘宝具。

 

それはたとえ神と呼ばれる存在であれど関係はない。

 

あらゆる物質を器として操る犯罪神の能力を打ち破り、大地を元に作り上げられた器が、崩れ去る。

 

「――――――はぁ、はぁ……いい加減辛くなってきたわね……」

 

息を荒げるアイエフと同様に、三人の魔力も限界に近い。

 

犯罪神から大地の器を引き剥がしたのは、既に三度目。

 

悠理から預かっている宝具も、そのほとんどが限界。

 

だが、引き剥がしたのもつかの間、既に犯罪神の核は、再び大地を器とするため集めている。

 

「――――――待たせたな」

 

まるで狙ったかのようなタイミングに、疑いの眼差しを向けるも、その表情は感情を隠しきれていなかった。

 

「――――ったく、遅いのよ」

 

「ほぅ、俺が戻ってくるまでに倒すんじゃなかったのか」

 

「そんな減らず口叩くくらいなんだから、あれ、倒せるんでしょうね?」

 

「当然だ。お前たちが身を張って稼いでくれた時間だ、無駄にはしない」

 

すれ違いざまに、手を合わせる。

 

パンッ、小気味のいい音を鳴らし、バトンを受け取った。

 

向かう先には、傷つく仲間たちを前に、歯を食いしばり力を蓄えていたネプギア。

 

「行くぞ、ネプギア。あれをこの世界から消滅させる」

 

「―――――はい!」

 

差し出された手をネプギアは握り返す。

 

その瞬間、ネプギアは奇妙な感覚にとらわれる。

 

目の前にいる悠理が、物理的にも精神的にも近くに感じられる。

 

「――――成功したようだな」

 

「ユーリさん、いったい何を……?」

 

「詳しく説明している時間はないが、君の力を借りるために、霊的な回路を結んだ。

慣れるまで違和感があると思うが、我慢してくれ」

 

根源へと至り、手にした第六魔法。

 

その力の本質は、歴史という一つの物語を外から読むことのできる観測者としての権能。

 

その権能の前に、あらゆる力は無力。

 

過去を改変し、未来を定めることのできる力は、いかなる力をもってしても、その存在を歴史から抹消される。

 

世界の理すらも塗り替える、まさしく、既知世界に終焉を齎す究極の神秘。

 

だが、悠理には魔力を受け入れるための器としての機能はあれど、魔術回路もなければ、竜の因子も存在せず、自力で魔力を生成することができない。

 

そもそも、世界の終焉など、《赤い影》の杞憂に過ぎないのだ。

 

なぜならば、劣化した悠理の体では、第六魔法を行使する魔力はおろか、その行使に耐えられる体ではない。

 

そして、それは悠理も予想していた通りのこと。

 

悠理は最初から第六魔法など必要としていない。

 

危険を冒しその場所へ至った理由は、根源へと至ることで、全ての情報を手に入れること。

 

「――――投影開始(トレース・オン)

 

必要だったのは、とある聖剣の情報。

 

衛宮士郎では投影できなかった最強の幻想(ラスト・ファンタズム)

 

―――――――――創造の理念を鑑定し

 

ネプギアから力が流れ込む。

 

悠理の観測者の書(アーカイブ)では、衛宮士郎が不可能だったことは当然再現できない。

 

―――――――――基本となる骨子を想定し

 

だからこそ、衛宮士郎を超える、この投影を成功させるために必要なものは二つ。

 

一つは、投影に必要な情報。

 

もう一つは、その聖剣を投影するための莫大な魔力。

 

―――――――――構成された材質を複製し

 

そこで目を付けたものは、悠理の過去を夢見たというネプギアの話だ。

 

何の繋がりもないはずの二人を繋ぐもの。

 

それは、ネプギアも悠理と同じく世界から生み出された存在ということ。

 

悠理のように人が通れるほどの道は繋がっていなくとも、魔力が通る程度の道ならば繋がっているのではないかという可能性に賭けた。

 

――――――――制作に及ぶ技術を模倣し

 

そして、その賭けに悠理は勝った。

 

根源を通じて回路を結んだ二人。世の魔術師が聞けば卒倒しかねない回路の結び方だろう。

 

――――――――成長に至る経験を共感し

 

しかし、賭けに勝ち、全てが狙い通りだとしても、その投影は苦行を伴う。

 

莫大な魔力の行使に、ネプギアの額から汗がにじむ。

 

人間に許された領域を超える神造兵器の投影に、悠理の体が悲鳴を上げる。

 

――――――――蓄積された年月を再現し

 

残る最後の一工程。

 

繋いだ手を手を強く、強く、握りしめ、その細部に渡るまで一部の誤差もなく組み上げる。

 

――――――――あらゆる工程を凌駕し尽くし

 

そして、その輝きは二人の手の間に現れる。

 

人々の祈りの結晶を星が鍛えた、星の息吹を束ね光と成す、希望の剣。

 

――――――――ここに幻想を結び剣と成す!

 

彼の騎士王が振るった聖剣はここに再現され、その鞘と同じく、ネプギアの手に収まる。

 

その強力さ故に懸けられている誓約は、悪しき存在である犯罪神故に、全て解放されている。

 

聖剣に星の息吹を束ねた光が輝き、眩き光が暗黒の空を照らす。

 

「見せてくれ、君が信じる希望の光を」

 

力強く頷いたネプギアは、その聖剣を両手で持ち、天に掲げた。

 

如何に巨大な犯罪神を目の当たりにしても、その眼に恐怖などない。

 

その輝きの前に、敵などいないと知るが故に。

 

「――――――――約束された(エクス)

 

その光に脅威を感じた、犯罪神が腕を伸ばす。

 

胴体の構築を放り出し、腕にのみ集約された大地の器の大きさはこれまでの比ではない。

 

岩盤すら打ち抜いた金色の杵をもってしても、止めることはおろか、打ち抜くことすらできい質量と密度をもって、その光を覆う。

 

だが、この光は人々の希望であり、理想の結晶。

 

その光は、破滅を司る邪神であれど、陰らすことなどできはしない―――――――!

 

勝利の剣(カリバー)――――――――――――――――!」

 

 

放たれた光は拮抗すらすることなく、一方的に大陸によって作られた腕を消滅させる。

 

大断層を生み出し、突き進む光の奔流を阻むモノは何もない。

 

苦し紛れにその体を巨大化させようと、その光の前には無力。

 

犯罪神を構成した器は灰燼と化し、暗黒の空を切り開く。

 

勝利を讃えるように、降り注ぐ光の粒子の元、犯罪神は器を失い丸裸となった。

 

「――――――よくやってくれた。後は任せてくれ」

 

最強の聖剣の元、犯罪神は器を失ったが、その本体はいまだ健在。

 

如何に、最強の聖剣であれど、あらゆる物理的干渉を受け付けないその本体に傷をつけることなどできない。

 

だからこそ、悠理は、その力を宿し、瞳を開いた。

 

それは、犯罪神を完全に消滅させるために手にいれた異能。

 

赤銅の瞳は、深い深い藍と変わる。

 

万物の終着点である死を連想させその瞳に移る世界は、黒い点から延びる線がいたる所に存在していた。

 

根源至りあらゆる情報を閲覧できるが故に、万物の死を視覚化させることは、今の悠理でもさほど難しいことではない。

 

だが、同じ人の死ならばいざ知らず、万物の死を視続けることは、処理できないほどの莫大な情報を常に送り込まれていると同義。

 

頭が割れそうな頭痛と共に、目からは血が流れるが、そんな痛みよりも目に視える景色に狂いそうになる精神を保つ方が苦痛だった。

 

その瞳を宿す者は、正気ではいられない。

 

それも当然だ。当たり前に存在している大地や空は、その瞳を持つ者にとって、簡単に崩れ去るものでしかない。

 

これまで信じていたものが全て崩れ去り、ほんの僅かなことで、この世の全ては死に至る。

 

だからこそ、あらゆる物理干渉を受け付けない存在であったとしても、この瞳には、その死がはっきりと移っていた。

 

自らの体に走る線に気が狂いそうになりながらも、弓を引く。

 

番える矢は、赤き猟犬の名を関する、絶対必中の剣。

 

「――――――赤原猟犬(フルンティグ)

 

放たれた矢は、寸分の狂いもなく、黒い点を射抜く。

 

神殺しという偉業の最期にはあっけない最期。

 

「――――――終わったの……?」

 

誰かがそう呟く。

 

その呟きは、やがて歓声と変わり、長き戦いの終わりを告げる。

 

その歓声に安堵した悠理は、張り詰めていた意識が緩む。

 

崩れ落ちる体を優しく受け止めたネプギアは、二度と離さないと誓うように抱きしめた。

 

「お疲れ様です、ユーリさん。

――――――私たちは、勝ちましたよ」

 

「あぁ、俺たちの勝ちだ」

 

不可能だと思っていた、全てが救われる世界。

 

それは、たまたまの偶然かもしれないが、今ここに、確かに存在した。

 

かつてない充実感を胸に、悠理は意識を落とし、心から信じられる仲間に、その身を預けたのだった。

 




観測者の書(真)

世界の根本を改変するといわれる第六魔法。
歴史という本の内容を書き換えることのできる、まさしく究極の神秘。
その本来の力を使えば、天と地はひっくり返り、その存在を歴史から抹消することもできる万能の力。
しかし、劣化した悠理の体ではその力の行使に耐えられず、実質使用不可。
本編では、死の情報を視覚化するという直視の魔眼を開眼させるという、比較的、歴史の改変が小さいことに使われた。



fateが絡む作品ならば、最終幕に約束された勝利の剣は欠かせませんよね。

次回エピローグにて、完結です。
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