剣の丘を目指す者   作:未来

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閑話 ネプテューヌの受難

「ねぇ、君がユーリ?」

 

それは、ギョウカイ墓場での激闘から数日後。

 

直視の魔眼が残ってしまった左目を、眼帯で覆ったことにより、どうしても遠近感に狂いが生じていた。

 

弓を引くものとして、手痛い損害だが、嘆いたところで何も変わりはしないと、片目でも正確無比な射撃を取り戻すため、ひたすらに弓を引いていたとき、ネプギアよりも幼い、しかし、どことなく面影を残す紫色の紙をした少女に声をかけられていた。

 

「そうだが……君は一体何者だ? ここは教会の者以外立ち入り禁止だと聞いていたが?」

 

「ふふーん、聞いて驚け! 私こそ――――――」

 

「お姉ちゃん!」

 

無い胸を張り、尊大な態度で名乗ろうとしていたとき、よく耳にする声が遮る。

 

小走りで駆けてくるネプギアと、隣で、手を振っている少女を懐疑的な視線で見比べる。

 

「もう、まだ、目覚めたばっかりなんだから無茶しちゃだめだよ!」

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶ! ほらみてみてー!」

 

空中で三回転を決めて、無邪気に笑う姿は、どう見ても姉には見えない。

 

何かの間違いではないかと、眉間にしわよせるが、ネプギアは変わらず姉と呼称しているのだ。

 

世の中には理不尽だと分かっていても納得しなければならない時がある。

 

それが今だと悟った悠理は、考えることをやめた。

 

「それで、ネプギアの姉が、俺に何の用だ?」

 

「ネプギアの姉じゃなくて、ネプテューヌ!

いやー、一度は噂の英雄を見ておきたかったんだよねー。

それにしても、凄い連射だね! まさに発百中ってやつ」

 

訓練場に、距離も方向もバラバラに立つ人形にはすべて矢が突き刺さっている。

 

さらに、ただ立っていただけではなく、ランダムに現れる人形全てに当てる技量に感心するネプテューヌだが、ネプギアは反対に神妙な顔でその結果を見ていた。

 

「――――ユーリさん、やっぱり、左目の影響が……」

 

「その件に関しては十分説教は受けただろう。二度目は勘弁してくれ」

 

確かに全てには当たっているが、中心に当たっているのは7割程度。

 

特に左側に現れていた人形にはかろうじて当たっているだけでなく、視界が塞がれている以上、反応が遅れていた。

 

「分かってます。でも、また、自分を犠牲にしようとしたら、本気で怒りますからね」

 

「あぁ、分かっている。俺も君に殴り飛ばされるのはもう、こりごりだ」

 

背伸びをして、眼帯が掛けられた左目に手を添え、悲しげに微笑むネプギアを、優しくなでる。

 

仲間というには、あまりにも甘い雰囲気に、疎外感を感じるネプテューヌ。

 

いつもなら、支離滅裂な会話で周りを盛り上げているはずなのだが、口を挟むタイミングを逃してしまいっていた。

 

「それと、約束忘れていませんよね?」

 

「今から迎えに行こうと思っていたところだ」

 

「それじゃあ、行きましょう!」

 

悠理の手を引き、訓練場を後にするネプギア。追いかけてきたはずの姉はすっかり忘れられ、茫然としている。

 

だが、そんなことはいざ知らず、楽し気に手を引くネプギア。

 

「ちょ、ちょっと待った! 二人でどこ行くの!」

 

雰囲気に当てられたネプテューヌが、我を取り戻し、嫌な予感を感じながら、叫ぶ。

 

「これから、ユーリさんとデートなんだ。夜には戻ってくるから、あんまり無茶しちゃだめだよ、お姉ちゃん」

 

死神との戦いで一度は、右腕を失い、ネプギアとの約束を反故にしてた罰として、悠理とのデートを取り付けたネプギアだが、そんな背景を一切知らないネプテューヌは、最愛の妹を取られたショックと、妹に先を越されたというショックに、魂が抜け、膝から崩れ落ちるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「アイちゃん、アイちゃん、アイちゃん! 大変なんだよ、アイちゃん!」

 

「あー、はいはい、仕事してから聞いてあげるわ」

 

仕事から逃げ出していたネプテューヌを、イストワールの指示により探していたアイエフは、態々、向かってきたネプテューヌを捕まえ、首の襟を引っ張り連行していた。

 

「仕事なんかしている場合じゃないんだってば! ネプギアが、ネプギアが、ネプギアが!」

 

「ユーリとデートでしょ? 本人から聞いてるから知ってるわよ」

 

「どうして、止めないの!?」

 

「止められるわけないでしょ? あの娘止めるなら、世界滅ぼす方が簡単なくらいなんだから」

 

それは比喩でも何でもない。悠理を幸せにする想いが世界を滅ぼす炎に打ち勝ち、犯罪神を真っ向から灰燼にする聖剣を振るい、世界を救ったのだ。

 

加えるなら、英雄エミヤの名声は、このゲイムギョウ界において揺るぎのないものとなっている。

 

政治的な意味でも、渦中の二人がくっつくのであれば、決して悪いことではない。

 

悪いどころか、全女神の中でも頭一つ飛びぬけたネプギアを抑えられるのは、現状悠理しかいない以上、悠理がプラネテューヌ所属となれば、武力面において他国の追随を許さないものになる。

 

「でもでも、ネプギアには、まだ早いよ!」

 

「その辺は、ユーリが上手いとこかじ取りするから心配いらないわよ。

あんたは、人の心配しないで、自分の仕事をする」

 

「うわーん! 定職も持ってない男に妹はやれるかー!」

 

「はいはい、そういうことは、やることやってから言いなさい」

 

 

 

 

 

「勝負よ、ユーリ!」

 

寝静まった深夜、再び訓練場で弓を引いていると、気合の入った掛け声とともに刃を向けられる。

 

元の世界ならばともかく、少なくともこのゲイムギョウ界において、奇襲を受ける覚えのない悠理だが、刃を向ける相手の瞳に宿る女神の証と、紫色の髪に、一人だけ心当たりがあった。

 

「―――――ネプテューヌか……?」

 

「ええ、そうよ! 英雄だか何だか知らないけど、ネプギアは渡さないわ!」

 

そういう理由かと、降りかかる理不尽にため息をつくが、見方を変えれば決して悪くない状況に、悠理は手に持っていた弓を消し、両手を上げた。

 

「――――どういうつもり?」

 

「なに、その件に関してなら、俺たちは敵ではなく味方になれると思ってな。

これは、こちらに敵意がないという意思表示だ。

信じられないならば、このまま斬るがいい」

 

流石に、無抵抗の相手を斬るのは抵抗があるのか、剣を降ろし、悠理の言葉に耳を傾ける。

 

妹とは違い、簡単に乗せられる姉に内心、ほくそ笑み、言葉を続けた。

 

「正直な話、あれには俺も困っていてな――――――」

 

「―――――私の妹に不満があるですって?」

 

喉元に突き付けられる刃に、冷や汗を流す。

 

これは、話を聞いているようで、自分の都合のいい部分しか聞いていない面倒なタイプだと、ネプテューヌの人物像の修正を行う。

 

扱いやすいなどとんでもない。ネプギアとは別方向で面倒である。

 

「いや、不満などないさ。困っているのは彼女の立場と俺の立場でな。

知っての通り、俺は英雄などと称されているが、国のトップと釣り合うとは思えんだろう?」

 

「でも、アイちゃんもいーすんも、賛成していると聞いているわ」

 

「あぁ、確かに、俺が万全の状態ならばな。

だが俺は先の大戦で片目を失った影響で、万全の状態とは程遠い。

見てみろ、今の状況を。俺は君の攻撃に全く反応ができなかっただろう?

今の俺は過去の栄光を被った、偽りの英雄でしかない」

 

勿論、全てはネプテューヌを偽るための嘘だ。

 

そもそも、直視の魔眼を封じるために、眼帯で目を覆っているだけで、視力を失ったわけではない。

 

精神的影響を除外するならば、眼帯を外した悠理の力は、恐ろしいほどに飛躍する。

 

ネプギアでさえ、全て遠き理想郷(アヴァロン)により、干渉を遮断しなければ、防ぎきることは不可能だろう。

 

しかし、ネプテューヌは、そのことを知らない。

 

更に、力が落ちたことを偽るために、ネプテューヌの攻撃にわざと反応しなかったのだ。

 

「――――――つまり、貴方はネプギアを諦めるのね?」

 

「諦めるもなにも、元より俺は流浪の身だ。

彼女の将来を考えても、俺如きが、釣り合うとは最初から思っていない」

 

そう言い切ったユーリに、ネプテューヌは、剣を降ろし、眼帯がつけられた左目に手を添える。

 

「―――――ごめんなさい。私たちが不甲斐ないばかりに、関係のない貴方に戦わせたばかりか、こんな後遺症を」

 

「気にしなくていい。人助けは趣味のようなものでな、世界一つ救った代償としては安すぎくらいだ。

代わりに、君とネプギアが力を合わせ、これらからこの世界を護ってくれればいいさ」

 

「えぇ、任せて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネプギア! これから一緒に頑張ろうね!」

 

悠理と交わした約束に、正義感を燃やし、溢れる感情を誰かに伝えたくて堪らないネプテューヌは、深夜にも拘らず、ネプギアの部屋の扉を開け、開口一番大声で叫んだ。

 

その大声に何事かと、深夜の教会に光が灯る様に、苦笑するネプギア。

 

「――――えっと、どうしたのお姉ちゃん?」

 

「ユーリの左目の分まで、頑張ろうねって言いに来ただけ!

よーし、明日から頑張るぞー!」

 

やる気をみなぎらせるネプテューヌだが、溢れる感情を誰かに伝えたいのは、何もネプテューヌだけではない。

 

念願だった初デートを終えたネプギアも、誰かに惚気話を聞かせたくて仕方ないのだ。

 

そして、一番最初に聞かせたかった人物がやってきたのだ。

 

これ幸いと、惚気話を口にするネプギアに、当然、ネプテューヌの表情は険しくなる。

 

「旅をしている時もね、私にだけ、マフラーを掛けてくれね」

 

「最期の戦いの時は私を強く抱きしめてくれて」

 

「見て、ユーリさんが私の為に作ってくれた剣だよ」

 

どれも嘘ではないし、真実ではあるのだが、前後の状況を鑑みれば、それは半ば必然を伴うこと。

 

しかし、場面を切り取り伝えられたそれを聞く側にしてみれば、悠理がネプギアに好意を持っていると思えるものばかり。

 

そして、ネプギアは最後の締めくくりに爆弾を落とした。

 

「――――――それにね、私とユーリさんは一つに繋がってるんだよ」

 

朱に染まった頬に手を当てて語るネプギアに、ぴしりと、何かが割れる音が鳴る。

 

無論、繋がっているのは、魔力を流す回路なのだが、長々と聞かされる惚気話に、デート直後の夜。

 

そこに、その言葉を聞けば、そっちの意味で捉えたネプテューヌは決して責められるものではないだろう。

 

無言で立ち上がり、女神化をしたネプテューヌは、窓に足をかけ、訓練場まで飛び降りた。

 

訓練場であろう場所から聞こえる剣戟と怒号。

 

そして、必死に宥めようとする声が、静かなプラネテューヌに響き渡る。

 

「ふふっ、お姉ちゃんを差し向けて説得させようなんて無駄ですよ、ユーリさん。

私たちの将来の為に、しっかり、お姉ちゃんとお話ししてくださいね♪」

 

 




着実に腹黒属性をものにしているネプギアと、翻弄されるネプテューヌの回でした。

一番とばっちりを受けたのは勿論悠理です。

本編が重い感じだったので、閑話はコメディよりです。

次回は不幸属性の彼女が登場です。

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