劇場版ガンダムSEED-Affection/New world- 作:山葵豆腐
プロローグ
宇宙に煌く無数の光。
その一つ一つが絶望と悲しみの断末魔で彩られた爆発によるものだと、戦場にいる誰もが知っていた。
白金の髪をした少年は、淡い水色の瞳で敵機を捕捉する。
何度と見た忌々しい光景、戦場。
血に染まった油臭い世界に、天使―――誇張表現などではなく、その絶対的な力は人ならざるものの所業にしか見えなかっただろう―――は颯爽と現れる。翼から分離した八基のドラグーンと、驚くべき高機動性、そして何より人間離れしたパイロットの反応速度によって、味方機の大半は為すすべもなく無力化されていく。
「……フリーダムッ!」
目の前を飛び回るは、翼から蒼い光の粒子を撒き散らす、金色に光る関節をもったMS《ストライクフリーダム》だった。
少年は舌打ちをしながらも冷静さを失うことなく、最強の武装天使へと向かっていく。
ストライクフリーダムのドラグーンは蒼い軌跡を描きながら、少年の乗るMS《レジェンド》のドラグーンの描く軌跡と交差していく。互いにビームを撃っては避ける、避けては撃つの攻防を繰り返す。何回、何十回、何百回と。
空間認識能力は相手の方が上らしく、ストライクフリーダム本体の正確無比な射撃によって、レジェンドのドラグーンは一つ、また一つと落とされていく。
―――命は……何にだって一つだ!
声が聞こえた。
少年の記憶の中にこびりついている、呪いのような声が。
しかし動じることなく、レジェンドの周囲に浮遊しているドラグーンを、ストライクフリーダムに向けて射出した。
―――その命は君だ!
そうだ、呪いなのだ。
この身に染み付いた絶望の記憶も、因縁の記憶も……。
ストライクフリーダムは引きつけていたレジェンドのドラグーンたちを捉えると、両足のスラスターを噴射させて減速。射程内に入ったドラグーンを両手に持ったビームライフルで次々と撃ち落としていく。
合計で四基のドラグーンが一秒間のうちに撃墜された。
―――彼じゃない!
少年はその言葉に反発することなく、静かに頷いて操縦桿を大きく引いた。
同時にストライクフリーダムは周囲に集まった蒼いドラグーンたちはとともに、全身にある全ての火器―――両手のビームライフル、両腰のレールガン、胸部のビーム砲―――を展開し、一斉砲火を行った。
「そうだ。俺はレイ・ザ・バレルじゃない。ましてや、あの男でもない!」
レジェンドに残された五基のドラグーンを前面に展開。直後、大きな爆発とともにレジェンドの全身が黒煙に包まれる。
「俺は志を持った一人の人間だ!」
直前に展開したドラグーンがストライクフリーダムの砲撃の身代わりとなった。しかし完全に防いだわけではない。爆発によって減衰したビームがレジェンドの右腕、左脚、バックパック、頭部を貫く。
鳴り止まないアラートを吹き飛ばすように、少年は叫んだ。
「彼らとは違う!」
頭部のアイカメラが露出し全身から黒煙を噴出させている状態は、まるで幽鬼だ。
爆風の中、砲撃後の無防備な状態のストライクフリーダムへとレジェンドは突っ込んでいくと、左手に持ったビームサーベルを胸部に突き刺す。
金色に輝く胸部のビーム砲が光り出すがもう遅い。
すでにビームサーベルはストライクフリーダムのコックピットを焼き貫いていたのだ。
「……人類を導くのは俺だ」
最強の天使は呆気なさすぎる最後を自覚できぬまま、無数のプラズマを四散させながら爆発した。残骸が飛び散る中、両腕を失ったレジェンドは静かに佇む。
そこに残ったのは少年、ただ一人。
『シュミレーション終了です。お疲れ様でした』
少女の淡白なその声とともに、白金の髪の少年は深く息を吸いながら、ヘルメットを脱ぐ。鮮やかな髪色とした少年は、長い髪の毛を後ろで一つ括りにしている。
「これで証明されただろ。俺は全盛期のキラ・ヤマトよりも強いということが。奴が現役を引退した今、俺は世界で一番優秀なコーディネーターだ」
シュミレーターから出ると、四方をコンクリート打ちの壁で囲まれた小さな部屋にある木の椅子に腰をかけて、歩み寄ってくる紫の瞳の少女を見つめた。
「ロキ・ラ・レヴァティ。貴方が優れた人物であることは分かりました。しかし我々「コピーシリーズ」はオリジナルの「木星コーディネーター」とは程遠い完成度……失敗作として見られています」
少女は白磁のような肌に茶髪のショートカット、スラリとした体型はまるでモデルのようであるが、兵士としては弱々しさしか感じない。可憐な少女がどうしてこのような無骨な部屋にいるのかと人は言うだろうが、ロキには分かった。
この少女の瞳の奥には、ナイフのように研ぎ澄まされた憎悪がこもっていることが。
「コピーシリーズとは言いながらも、遺伝子的にはスーパーコーディネーターと大して変わらない。むしろ優れた人間の細胞や遺伝子情報を埋め込んでいる分、俺たちのほうが優れていると思われて当然なんだがな。奴らは俺たちからそれを抜いた、”ただ”のスーパーコーディネーターだ。なのに……」
「それは〝持たざる者の嫉妬゛です。プライドの高い「木星コーディネーター」なら尚更、自分の作ったものが、自分たちよりも優れているとなれば、「コピー」などという安直なネーミングをして価値を下げようとするのは当然」
「だが本質的には、俺たちも木星で生まれたコーディネーターだ。まるで市民権がないような言い方をされると困るな。そうは思わないか、シエラ?」
「ごもっともです」
少女の名はシエラ・ナラ。ロキと同じ立場にいるコーディネーターの少女だ。
「まずは上の奴らに俺たちが優秀であることを思い知らせる、いいな?」
「はい」
ロキとシエラのいる部屋の奥の壁が開き、ガラス張りの向こう側に一体のMSが現れた。従来のMSとは一線を画す、曲線が多く見られる生物的なフォルムをしており、二本の角が前方に突出している頭部はまるで能面の般若のようだ。真紅の装甲に彩られたその機体の頭部にあるモノアイが、一瞬煌く。
「降魔の日は近い」
「また血が流れるんですね」
「ああ、しかし血が流れるのはこれが最後だ。」
ロキは人を殺すために存在する兵器を目の前にして、その言葉を呟いた。
「人がこれ以上、争わないためように……俺たちが世界を変えるんだ」