劇場版ガンダムSEED-Affection/New world-   作:山葵豆腐

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その3

「そう言えば四時に班員の点呼があるんだったぜ! 早く戻らなきゃ!」

 

 テンナは用事を思い出して倉庫から飛び出す。そんな彼の背中を追ってミラウラも飛び出してきて、彼の横に付いた。

 

「わ、私もついていきます!」

「ちょ、お前は赤服だし、他にやることあるだろ!」

「四時から記念式典のMS操縦のリハーサルがありますが、問題ありません!」

 

 赤服の生徒たちはアカデミー卒業生代表として式典用MSによる演目を行うらしい。ふと隣のハンガーを見ると、すでに赤服を着たアカデミーの同級生が式典用の装飾を施されたジンに乗り込んでいた。

 腕時計を見ると、すでに四時をオーバーしているではないか。

 

「ど、どっどどどど、どのみち遅刻なのです!」

 

 冷や汗をダラダラかきながら、震えた唇と涙が溢れ出そうになっている瞳で無理やり笑ったミラウラは、親指を立ててテンナの前に出した。

 

「はぁ……ま、お互い、教官への言い訳でも考えようぜ」

 

 ふと、テンナは誰かにぶつかるとバランスを崩して、尻餅をついてしまった。対するぶつかった人間は動じることなく、静かに手を差し伸べてくる。整備士の作業着を着ており、テンナの足元に帽子が落ちてくる。

 

「大丈夫ですか?」

 

 作業服を着た少年は後ろでくくった白金の長髪を揺らしながら、水色の瞳でテンナを見つめている。目が合った。同性なのに思わず見とれてしまうほどの美貌を持った少年だ。魔性の、というと大袈裟だろうか。性別問わずに、その美しさに引き込まれてしまいそうな危うさがそこにはあった。

 

「……は、はぁ。すみません、急いでいて」

「君は……」

 

 白金の髪の美少年はテンナを見て何かに気がついたようだが、その表情を一秒で切り替えて、語り始めた。

 

「いえ、ちょっと髪の色が珍しくて」

「……そうっすか」

 

 初対面でこの髪の色に言及してくる人間は、彼が初めてだ。思わず美少年の麗しい顔を拳でめちゃくちゃにしてやりたい衝動に駆られるが、必死に抑え込む。

 差し伸べられた手を掴んでテンナは立ち上がると、

 

「あ、ありがとうございました」

 

 よく見ると白金の髪の美少年の後ろには、茶髪の少女が佇んでいるようだった。顔は前髪に隠れて伺えない。

 

 お辞儀をするテンナに視線を合わせることなく、白金の髪の美少年は遠くを見つめる。

 演目の練習をする式典用MSたちは、実体剣を掲げて切り合う動作のリハーサルを行っていた。ミラウラによれば、コズミック・イラの戦争と平和の歴史を中世の騎士たちに当てはめて表現している演目らしい。最終的に騎士たちは悪を打ち取り平和を手にする……そのクライマックスにストライクフリーダムがサプライズで登場するとか。

 

「平和を表現するものが戦争の象徴でもあるMSだなんて。皮肉だとは思いませんか?」

「言っていることは何となく分かるけど、いきなりどうしたんですか?」

「いえ、ちょっと思うことがありまして。それでは失礼します」

 

 白金の髪の美少年は帽子を拾い上げると深々と被り、その場を後にする。ふと立ち去る間際に後ろに佇んでいた少女の表情が見えた。どこにでもいる普通の少女だ。しかし前髪の隙間から見えた瞳の色は、テンナと同じ紫だった。

 

「あの子―――」

 

 自分と同じ瞳の色だなんて珍しい、とテンナは見とれてしまった。

 

「どうしました?」

「いや、あの子、可愛いなぁと」

「そ、そうですよね……」

 

 それを聞いて少し落ち込んだ様子になったミラウラだが、テンナにはその理由がまったくもって分からなかった。

 

「どうせ私の胸元にあるのは無駄な脂肪の塊ですよあはははうふふおほほ―――」

 

 何故かナイーブになっているミラウラを横目でテンナは見ていると、突然プラント全域に警報音が鳴り響いた。

 

『プラント内に敵性勢力の侵入を確認しました。住民の方は速やかにシェルターに避難してください。繰り返します、プラント内に敵性勢力の侵入を確認―――』

 

 警報音とともに式典の準備をしていた兵士たちは訓練通り、有事の際の動きをし始める。

 

「敵!? 所属はなんだ! テロリストなのか!?」

「それを確認するのは後でいい。MS隊出撃! 敵MSの撃破に迎え!」

「整備班、MS出撃準備はできているか!?」

「一番機から三〇番機までならすぐに出せます! 残りも急いで!」

『了解! アイスウォルフ隊、全機出撃』

『同じく、ゴルニコフ隊出撃する!』

 

 ハンガーから次々と出撃する緑と白の機体色をしたリゼルディアや、ザクウォーリアの発展機でもある《ハイザックカリバー》が、テンナたちの見上げたプラントの空を飛翔していた。

 

 ハイザックカリバーは、深緑がベース色になり肩にあった大型シールドが手持ちになった以外はザクウォーリアとほぼ同じ外見をしているが、動力炉がリゼルディアと同じ新型動力炉になりPS装甲も強化されていたりと、中身はほぼ別物となっている。とはいえ、リゼルディアと比べれば旧式であることには違いない。ザフトでは隊長機や指揮官機にリゼルディアが、それ以外にハイザックカリバーが配備されているというかたちだ。

 

「て、敵!?」

 

 ひぃっと叫びながらミラウラはテンナの袖をギュッと掴んで、同じように空を見上げる。プラントの空にはザフトの機体は多く見られるのに、敵機らしきものは視認できなかった。

 

「……全部で四〇機ほど。テロリスト鎮圧にしては大袈裟すぎる数だな」

「敵はどこにいるのでしょうか……」

 

 ふと空に浮かんでいる楕円形の物体を見つけた。大きさはMS三機分ほどか。武装のようなものは見当たらないが……。

 

「あれが……敵?」

 

 テンナには宙に浮かぶそれは、オブジェのようにしか見えなかった。

 そんな前衛的な近代芸術作品に見とれていると、遠くのほうから声が聞こえてきた。同じ班の青髪の少年たちだ。テンナたちに向かって手を振りながら叫んでくる。

 

「おーい! シェルターはこっちだぞ! せっかくのデートが台無しになったところだろうが、今は避難が先決だぞ?」

「へいへい、わかってるっての。てか、デートじゃねーし」

 

 青髪の少年が指さした先には軍本部であろう三階建ての真っ白な建物があった。その地下にシェルターが存在する。そこへ逃げ込めば安全だろう……と思った、が。

 空を飛んでいたはずのハイザックカリバーの巨体が建物に向かって、黒煙を吹かせながら落ちてきたのだ。建物を押しつぶし落下した機体は直後、激しい爆発を引き起こす。

 

「きゃっ!」

 

 爆風が吹き荒び、ミラウラは踏ん張っていることができずに吹き飛ばされて、腰あたりを強く地面に打ってしまった。

 

「何だよ……あれ」

 

 再びテンナが見上げたプラントの空は、先ほどまでの平和な青ではなく、血に染まった炎の赤とドス黒い煙で覆われていた。次々と撃墜されていくザフトのMSたち。まるで隕石のように基地に撃墜されたMSが降り注いでいく。

 

 周囲が紅蓮の炎に包まれた時、再びテンナは班の皆のいる方向を見た。無事だ。早く合流してシェルターに逃げ込まなければ。いや―――。

 

 シェルターに逃げ込んで助かるものなのか、これは?

 

 一瞬の戸惑いを振り払い、テンナはミラウラに手を出した。

 

「掴まれ!」

「は、ははは、はひぃっ!」

 

 恐怖のあまり失禁してしまったミラウラから目を逸らし、テンナは彼女の手を掴んで引いた。何とかミラウラが立ち上がれたところで、班の皆のところへ走り出そうとした。

 

「漏らしたことは皆には黙ってやるから、行くぞ」

「たたたた、助かりますぅ……」

 

 その時だった。

 物凄く巨大な何かが地上に荒々しく降り立ったのは。

 

「あれは……巨大な、蜘蛛!? ……MA(モビルアーマー)!?」

 

 四本脚を大地に突き刺し、竜の顎のような頭部を持った奇怪な兵器が黒煙の中から姿を現す。今までに見たことのない、まるで怪物のようなフォルムにテンナは思わず立ち止まり、恐怖で動かなくなった両足を何とかしようと必死にもがく。

 

 だが体は中々言うことを聞かない。

 

 テンナは戦争を知らない。

 目の前に現れた兵器に殺意が乗り込んでいるという経験、生まれて一五年の間でしたことなどなかったのだ。

 

「テンナ、助け―――」

 

 ちょうど巨大な蜘蛛型のMAの真下にいた班の皆、そのうちの青髪の少年が右手を伸ばしながらテンナたちに向かって駆け出してきた。しかし機体の中心から拡大してきた結界(おそらくビーム状の何か)が青髪の少年を飲み込んでいくように、焼いていった。

 

 やがて少年の脚は消え、胴体も消え、声も消え、恐怖と苦痛に歪んだ顔も消え、最後に残った右手が地面に落ちるのだった。

 

「嘘だろ……こんなの……」

 

 アカデミー入学以来の友人たちを一瞬にして失った。その絶望に打ちひしがれたテンナは腰を落として、だが涙は出ない。瞳に涙が滲むたびに、彼の周囲を吹いている熱風がそれを乾かしていくのだ。

 

 そんな中、残ったザフトのMS隊がビームライフルによる一斉射撃を開始する。だが放たれた光の奔流の全てが結界の中へと吸い込まれていくのみで、本体にはかすり傷一つ付けられないままで終わってしまう。

 

 陽電子リフレクターでもこれほどの数のビーム射撃を無効化できるわけではない。そもそも炸裂するというよりはまるで水の中に落ちていくように吸い込まれていっているのだ。

 

 四本脚の関節部分が展開し、砲身が飛び出す。そこから伸びていった赤く細いビーム、というよりレーザーは立ち向かってきたMSのほぼ全てをなぎ払う形で、胴体ごとコックピットを焼いていく。

 

 十数もの爆発が一斉に起こり、為すすべもなくザフトのMS隊はその戦力のほとんどを、およそ三〇秒で喪失したのだった。

 

 勝てるはずがない。

 未来人か。それとも宇宙からの侵略者か。

 中に乗っているパイロットが触手だらけのエイリアンだったとしても驚かないだろう。

 

 レーザーの照射を終えた蜘蛛型MAは結界を一時解除すると、本体部分の装甲を展開して熱を外部に放出した。

 

「に、逃げましょう!」

 

 そう言ったのは意外にもミラウラのほうだった。今度は彼女がテンナを引き上げて、手を掴んで走り出した。先ほどいた倉庫に緊急避難シェルターが二つあったという。

 

「アーモリーワンが落ちそうでも、シェルターからザフトの戦艦に避難すれば脱出できるかもしれません! 死にたくない……死にたくないです!」

 

 ミラウラの瞳に大粒の涙が浮かんでいたのを見て、テンナは決意し、彼女の手を振りほどくと一人で走り始めた。こんな時に頼りないままじゃいけない、そうテンナは感じたのだ。

 

 幸運にも閉じたシャッターは爆発によって半壊しており、その隙間から倉庫内に入ることができた。整備士たちは避難したようで、倉庫内はディアクティブモードとなったストライクフリーダムが立っているだけの閑散とした場所になっていた。

ちょうどコンテナが積み重なったところの隣に緊急避難用シェルターはあった。

 

「あそこか!」

「はい! 行きましょう!」

 

 そうミラウラ言った次の瞬間、倉庫に撃破されたリゼルディアが突っ込んできて、シャッターを捻じ曲げながらコンテナ群へ突っ込んでいく。コンテナの中にあったものが激しい爆発を起こして、破片が飛び散ってくる。

 

「大丈夫か、ミラウ……ッ!?」

「痛い……痛いっ!」

 

 破片の一つがミラウラの右太ももを深く切り裂いたようで、苦痛を表情に浮かべながら彼女は地面に倒れていた。出血量も多く、支え無しでは立ち上がることも不可能だろう。

 

 駆け寄ったテンナは緑の制服脱ぎ捨て、下に着ていたカッターシャツの袖を千切ると、それを巻いて止血を行った。

 

「あともう少しなんだ。ほら、掴まって!」

「あ、ありがとうございます……」

「生きるぞ、二人で……」

 

 たくさんの友達が死んだ。全課程を修了し晴れてアカデミーを卒業するはずだった若者たちの命が、たった一機の兵器による大虐殺で消えていった。いったい何人が生き残っているのか……今のテンナとミラウラには考える余裕すらなかった。

 

 倒れたミラウラを抱え上げるとシェルターまで運び、その横で下ろす。シェルターの作動ボタンを殴るように押すが、扉は開かない。代わりに、既にこのシェルターの中に避難している男性の声が無線を通じて聞こえた。

 

『このシェルターは人がいっぱいなんだ! 他をあたってくれ……』

「せめて一人だけでも……ッ!」

 

 他のシェルターといっても、そこまで距離はかなりある。全力疾走しても生きてたどり着ける確率は高くないだろう。

 

 それでも女の子を置いて逃げるようなことはできなかった。

 

「女の子なんです! それに怪我もしている! お願いします!」

『……わかった、一人だけだぞ!』

 

 そう言うとシェルターの扉は開いた。ミラウラを抱えて彼女を扉の向こうに置くと、

 

「テンナくん!? そんな……」

「お前は怪我をしているんだ! 俺は他のシェルターに行く! 大丈夫、生きて帰るから」

 

 テンナはミラウラの反論も聞かずに扉を閉めるボタンを押した。扉の強化ガラス越しにミラウラが必死に訴えかける様子があった。

 しかし暫くしてもエレベーターは降りることなく、停止したままだった。

 

『おかしいな。マシントラブルか!? 違……火が……爆発!? うわぁぁ――――ッ!』

 

 シェルター内にいた男の悲鳴と爆音が重なり合った瞬間、無線は途切れた。どうやらシェルター内で大きな爆発が起こり、ミラウラの乗ったエレベーターも機能を停止したようだ。開閉ボタンも反応しない。

 

「そんな……ッ! ミラウラ! 今すぐ助ける!」

 

 テンナは全体重をかけてシェルターの扉にタックルをするがビクともせず、近くにあった破片をぶつけるが、それでも傷一つ付かない。当たり前だ。数発の銃弾も耐え抜くような強化ガラスをただの十五歳、それも肉体強化もされていないナチュラルが何とかするなど無理な話だ。

 

「クソ! 砕けろよ! 開けよ!」

 

 もう誰かを失うのは御免だ。必死にテンナはシェルターの扉を殴りつける。血が滲むほど殴りつけた後、ふと中にいたミラウラが何かを言っていることに気がついて目を向けた。

 

 携帯端末で文字を打って、それを強化ガラス越しのテンナに伝えようとしていたのだ。

 

 頬を伝う涙を拭いながら、ミラウラは精一杯の笑顔を作ってそれを見せた。

 

―――私を置いて逃げてください。

 

 泣き虫なミラウラが必死に涙を堪えながら、死の恐怖よりも、大切な人の無事を考えて打った文章だった。

 

 今テンナが逃げれば、ミラウラはシェルターのエレベーターに閉じ込められたままだろう。ここも長くはもたないはずだ。爆風は大丈夫でも、これ以上正体不明の機体による破壊活動が続けば、たとえ強化ガラスの内側にいる人間でも無事では済まない。

 

 それに止血したとはいえ出血が酷い。一刻も早い処置が必要になってくる。

 

 つまり放って置いたミラウラに待っているのは、死だ。

 

 かと言って今のテンナには彼女を助け出すほどの力はない。MSの力を借りてミラウラをエレベーターから助け出そうとしても、MSの巨大なマニピュレーターでは彼女ごと押し潰しかねない。正確な操作なら可能だが、そんなことしているうちにあの蜘蛛みたいなMAに気づかれて攻撃されるだろう。

 

 万策尽きたか。

 いや、一つだけ方法がある。

 二人とも助かる方法が。

 

「俺が……」

 

 しかしそれは絵空事に等しいことだ。

 

「俺があの蜘蛛型MAを倒す」

 

 無謀極まりないことだった。第一、十二分に戦闘が可能なMS自体、この倉庫にはない。あるのは最早、旧式となった式典仕様のストライクフリーダム一機のみだ。

 

「これしか二人が生き残る方法はないんだ」

 

 しかしテンナは退かない。彼は一つの可能性を考えていた。たとえ火器装備がないストライクフリーダムでも、あのMAを倒せるかもしれない、有り得るはずもないと万人が口を揃えて叫ぶであろう、そんな可能性を。

 

 戦争はヒーローごっこでないのは重々承知の上だ。

 人を助けるという志の元で、蛮勇を振りかざすのは愚かな選択である。

 

「勝てるかと聞かれたら、正直微妙……でも生き残れる可能性を見逃すわけにはいかない」

 

 ましてやスポーツのように一発逆転が可能な局面など、ありはしない。

 自分の父親、キラ・ヤマトなら可能かもしれないだろう。とは言うものの、今いるのはスーパーコーディネーターの父ではない。ただのナチュラルの息子だ。

 

「直感に頼るな……頭を使え……俺にはそれしかない」

 

 しかしMSを前進させることに半年も要したからこそ、見えてくるものがある。

 単純な力で負けているからこそ、それ以外で補う術をテンナは覚えていた。

 敵の機体性能、パイロットの癖、弱点……それを見る目だけは誰よりもあるはずだ。

 

「ミラウラ、少し待っていて」

 

 そう言い残して駆けたテンナはハシゴを伝って、ストライクフリーダムのコックピット前に立った。

 かつて父―――キラ・ヤマトが乗り、人類の自由と平和を守った伝説の機体。

 自分にそれを乗りこなせるなんて思ってはいない。

 

 だが今は力が必要だ。

 

 蜘蛛型MAを倒し、ミラウラを守り、友の仇を討つための力が。

 コックピットに乗り込む。一〇年間、誰にも深く座られることのなかったであろうシートは妙に硬く、馴染まない。座り心地はアカデミーの旧校舎の教室にある古びた木の椅子よりも悪い。

 

 昔、ここに父親が座っており、何を思いながら戦っていたのか。

 はっきりとは分からない。

 

「……コーディネーター用のOSでも大丈夫。アカデミーでもずっとそうだったしな」

 

 でも何となくだが分かる。

 おそらく今のテンナと同じように、何かを守るために戦っていたのだろう。譲れない何かを守る、そんな気高き志とともに。

 

 テンナはメインモニターのタブレットを開き、起動シークエンスに入った。サブモニターに映るのはザフトのマーク。

 

MOBIE SUIT NEO OPERATION SYSTEM

      Z・A・F・T

 

G ENERATION

U NSUBDUED

N CLEAR

D RIVE

A SSAULT

M ODUL

 

 かつて父親はその頭文字を取って「GUNDAM」と名付けたらしい。現在は核エネルギーでは動いておらず、ゆえに稼働時間は無限ではない。外部からの電力供給無しだと、もって一〇分といったところか。

 

「ガンダム、か。いい名前じゃないか」

 

 テンナはタブレットのキーボードの上で両手の指を踊らせる。しかしぎこちない。

 

「ニュートラルリンケージ……これか。イオン濃度は正常。メタ運動野パラメータ更新……今のMSのOSは自動更新だから、設定が……パワーフロー正常に作動。今はこれでいい。全システム……オールグリーン」

 

 テンナは前を見る。メインモニターに映し出された光景は、炎に包まれた戦場だった。無数のMSの残骸があるなか、遠くのほうに四本脚の蜘蛛型MAが見えた。

 もう逃げることはできない。

 息を大きく吸い込み覚悟を決めたテンナは、前方にいる敵を見据える。

 

「ストライクフリーダム、システム起動」

 

 頭部の双眸が輝き、全身がフェイズシフト装甲の展開によって色づいていく。胸部の黒も、翼の青も、関節部の金も、かつて宇宙を自由自在に駆け抜けた頃のままだ。何も変わってはいない。

 

 ストライクフリーダムの足元に倒れていたリゼルディアの残骸が爆発し、炎が渦巻き、黒煙が全身を包む。

 

 それは蒼天の剣。

 

 平和と自由の象徴。

 

 だが腰のレールガンは祝砲。胸部のビーム砲にはエネルギーが充填されておらず、ただの胸飾りとなっている。頭部バルカンも豆鉄砲で、エアガンの弾がそのまま大きくなったようなもの。翼のドラグーンも撃てない。

 両腰に備えられた実体剣のみが唯一の攻撃手段だ。しかしそれも二〇年以上前にザフトの主力機であるジンが使っていたもので、PS装甲の前では無力に等しい。

 

 かつてキラ・ヤマトが一騎当千の力を発揮した機体も、今や旧式のMS。それが式典仕様なのだから、もはや案山子以外何者でもないはずだった。

 

「やってやる。俺が守るんだ……ミラウラを!」

 

 それでも少年は立ち上がる。

 

 自由とか、平和とか、それよりももっと近しいところにある、たった一つの大切な命を守るために。

 

「テンナ・ヤマト、フリーダム……行きます!」

 

 自由の翼が再び戦場に舞い降りた。




     次回予告

 平和の日は突如として終焉を告げた。
 人は焼かれ、大地は崩れ、涙と悲鳴が広がる。
 そして、少年は戦火へ身を投じるのだった。
 再び混沌とした戦場に舞い降りた剣は、いったい何を求めるのか。
 次回、機動戦士ガンダムSEED-Affection/New world-

    「戦火の中で」

 絶望の業火を、振り払え、フリーダム!
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