転生魔王   作:さとうさん

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一話「魔王よりまし」

 なんだ、この身体は。

 弱りすぎだろう。

 死にかけというか、死んでいるところを私が無理やり動かしているような、そんな感じである。

 

 とりあえず、どうにかしようと身体の魔力を総動員して肉体を癒し、私の精神で存在を補強する。

 数分もすると、ある程度身体の自由がきくようになった。

 しかし、立ち上がろうとするとふらつき、壁に背を預ける恰好となる。

 

 どうしたものか。

 

 そう思って改めて周囲を見渡すと、先ほどの猫の死骸が目に映る。

 どうやら死にたてのようで、肉体的には死んでいるが魂はまだ残っているようだ。

 ちょうどいいので利用しよう。

 

 這うようにして猫に近づくと、まだ温かいその腹に手を乗せて術式を組み立て魔力を送る。

 すると猫の身体は一瞬魔力によってひかって、まるで操り糸に動かされるような不自然な動きで立ち上がった。

 

「にゃー」

 

 私の顔を見ると、不思議そうに鳴く猫にさらに魔法をかける。

 世界に存在するために必要な肉体と魂の割合をいじり、魂に比重を置くことによって、肉体的に死んでいる猫を生き返らせ、そしてある程度意思疎通ができるようにしたのだ。

 

「これはこれは、幼子と思っていましたら、魔法使い様でしたか」

 

 猫が話しかけてきたので、適当に頷く。

 

「ああ、そんなようなモノだ。ちょっと助けてもらいたくてな」

「ほほう、猫の手を借りたいと?」

 

 目を細めて、片足を上げて問うてくる猫、なんとも愛らしい。

 

「うむ。どうにも記憶が曖昧で、ここがどこかも分からない。そして身体も弱っている。とりあえず雨風を凌ぎたいのだが」

「そのためだけに、死んで召されるのを待つばかりでだった私を起こしたと」

「怒っているかな?」

「いいえ、むしろ恩を感じております。まだまだ知りたいことが山ほどもありましたので」

 

 猫が恭しく頭を下げる。

 この魔法は、魔物と意思疎通するためのものだが、そこらの魔物よりも猫のほうがしっかり話ができていることに驚いた。

 どうもかなり知的なようである。

 なんとも頼りになりそうな雰囲気に安堵した。

 

「それはよかった。では頼めるかな」

「もちろんですとも。近くに人のいない家があります。どうぞついてきてください」

 

 猫に先導され、まだあまり言うことを聞かない身体に鞭打って、細い路地を進んでいった。

 どうにもここは、住居が密集しているらしく、あちこちから人の気配が感じられた。

 時折、猫が振り向きこちらを確認する中、人の気配のしない家、というにはあまりにぼろい、そんな建物のような何かにたどりつく。

 

「この隙間から中へ」

 

 そう言って、猫は建物の裏手にある隙間を足で指す。

 そこには、猫には大きく、人がくぐるには小さい穴があいていた。

 

「まぁ、この身体ならいけるか」

 

 四つんばいになって穴に身を入れると、意外なほどすんなり通ることができた。

 猫も続いて入ってくる。

 

 中は荒れ果てており、家具も何もない状況であったが、雨はそこそこ凌げているし、風に関しても大穴が開いていようと外に比べればましである。 

 とりあえず、濡れた服を脱ぐと、転がっていた毛布というには少々粗末な布を身体に巻いて、横になった。

 

 あまりにいろいろなことがあった。

 猫から知識を吸収したいし、状況を整理もしたいのだが、それよりもなによりも寝たい。

 私は、寄り添ってきた猫のぬくもりを感じながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 まぶしさを感じて目を覚ました。

 どうやら屋根にはところどころ隙間があり、雨は上がって、日は高く昇っているようである。

 身体の調子も、死にかけに比べれば相当いい。

 

 欲求にしたがって、上半身を起こして大きく伸びをする。

 すると、腹の上にいた猫が、膝の上に着地した。

 

「おはようございます」

「ああ、おはよう。というか、まだいてくれたのか」

 

 特に契約しているわけでもないし、頼みごとも完遂してもらった。

 それでもなお、猫が残っていたことに少々驚いた。

 すると、そんな私の顔を見て、猫が目を細め、笑ったように見えた。

 

「私は恩をお返ししたいと思っております」

「ここまでの案内でよかったのだがな」

 

 実を言えば、この知的な猫から情報を得たかったが、それは最初の頼みごとには入っていなかった。

 生き返らせた分の報酬は、すでにもらっているのである。  

 そう伝えようとしたが、その前に猫の足が私を制した。

 

「なによりも、私の勘ではありますが、あなたさまと一緒にいると楽しそうでありますし」

「そうか……それは助かるな」

 

 何と言えばいいか分からずに、とりあえず本心を晒す。

 そんな私の膝の上に座ると、猫はこちらを見て問うてきた。 

 

「それで、これからどうしますか?」

 

 どうする、か……

 あれからどうなったのか、そして一体なぜこんなことになっているのか、調べたいことは山ほどある。

 猫に事情を説明したり、あとできることなら契約もしたい。

 しかし、今はそれよりなにより、優先すべきことがあった。

 

「空腹を満たしたい」

 

 

 

 

 

 魔王のときも空腹感というものはあった。

 あったのだが、それは無視できるレベルのものだった。

 しかし、この身体ではまったくもって無視できない、不快感が襲ってきている。

 

「食事ですか……人の食べるものとなると、私でもなかなか。盗ってきてもいいのですが、如何せんあまり量を持って来れませんし。貨幣があればどうにかなるのですが」

「貨幣か。持っていないな」

 

 生乾きの服を着て、ポケットを漁るが、何一つ入っていない。

 そもそも服自体ぼろくて、ポケットにも穴が開いてた。

 

「そういえば、ここから少し遠いですが、親のいない人の子を集めている場所があります。そこでは食事も出てたと記憶しています」

「ほう、行ってみるか」

「分かりました」

 

 そう言って、猫は立ち上がると、例の穴から外へと出た。

 私も続いて建物を出ると、猫の後を追っていく。

 

 来たときは暗くて分からなかったが、どうもここは人の町の中であり、ぼろ屋の並ぶ一角のようだ。

 遠くには、比較的背の高い建物が見え、更に奥には町を囲っているであろう高い壁が見える。

 そして、周囲からはうかがうような視線を感じる。

 

「私のような者は珍しいのか」

「この辺では珍しいかもしれませんね。あなたさまのような幼子は、町のもっと外周の方に多いですから」

「なるほどな、まぁそうか」

 

 ちょっと視線を移せば、私よりは幾分か上等というか、ぼろくはない服を着た子供がいる。

 つまり、私は人の中でも下級の方に見えるのだろう。

 なんとも、人の底辺とは……それでも魔王よりかはましか。 

 

 そんなことをつらつら考えていると、いつの間にか道を塞がれていた。

 

「しゃべる猫がいるっていうから来てみたが」

 

 三人の男が道を塞ぎ、猫とその後ろの私にぶしつけな視線を送ってきた。

 

「猫がしゃべるのは珍しいのか」

「どうでしょうか、私はあまり会ったことがありませんが」

 

「本当にしゃべりやっがた!」

「よ、よし、捕まえろ!」

 

 なぜか、慌てたようにして網のようなものを取り出す男たち。

 とりあえず、魔法で燃やす。

 

「な、なんだこりゃ!?」

「あちっ、あちぃ!」

 

 慌てて網を放り出す男たちを横目に、猫とともに歩き出す。

 どうも網が大事なようで、火消しに躍起になっていて、こちらには気づいていないかった。

 

「申し訳ありません、どうにもしゃべると目立つようです」

「みたいだな、あれくらいどうにかできればいいのだが。どうにも魔力がおぼつかない」

 

 横に来て、小声で話す猫に、こちらもとりあえず小声で応答する。

 先ほど魔法を行使して分かったが、魔王のときのように無尽蔵に魔力があるわけではなさそうなのだ。

 身体も歩けるようにはなった程度であるし、あまり無理はできない。

 魔力は段々と回復はしているようだが、猫を復活させるために使った魔法は結構な負担になっているようだ。

 

「まぁ、それでも……魔王よりはましだ」

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