魔法少女リリカルなのは The Annihilation Swords and Fists   作:zwart

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東西で喧嘩と交渉

カウントが0になった瞬間、4人はそれぞれの相手と平行して東西に飛んだ。

 

なのはとフェイトは東へ、クロノと葉木は西へ。全員が高位の空戦魔導師適性をもつため互いの距離は一気にスフィア射程の三倍近くに広がった。

 

 

 

 

西側

 

先に仕掛けたのはクロノだ。接近と同時にデバイスを棍の振るい側頭部を狙う。

 

「ダリぃ打撃だ」

 

その先端を掴み止めて、開いた手で拳を握り胸板に突き上げるような殴打をたたき込んだ。

 

「グッ…ッ」

 

とっさに後方へ跳び、クロノは辛うじて致命傷を逃れた。信じられないくらい速く重い一撃。確実に近接戦では負ける。追撃を許さないつもりで兎に角スフィアを放った。

 

当たる。

 

───なに?

 

今の攻撃は牽制程度で、それこそロクに狙いも付けずに放ったものだった。顔をしかめて残る光球を切り払う動きに淀みはないが、それは次に繋がらない完全な守勢だ。打撃の威力から想像した強さと余りに噛み合わない打たれ弱さに訝しむ。

 

クロノは罠かなにかかと推測しつつ更にスティンガー・レイを追加する。結果、葉木は背を向けて逃走ともとれる回避運動を取った。しかしその速度もまだまだ追いつける範囲だ。この時点でクロノは結論に至った。

 

───こいつ、魔導師としてはそれ程強くない!!

 

「スティンガー・レイ!!」

 

大型のビルを避けるため減速した葉木へ容赦なく10本の鏃を飛ばす。それらは葉木ごとビルの壁面を破砕して一時的に粉塵が視界を遮った。

 

「まだだッ」

 

ここで追撃して戦闘不能にする。それが最善だとクロノは判断した。

 

迷わずに追撃の魔法を選択して、しかし魔法を放とうと振り上げた杖が、警報を鳴らした。

 

enemy's magicpower rising(敵、魔力の圧力上昇を確認)

 

素早い反撃が来る。或いはここまで読んだ罠だったのか。

 

「射撃、弾速4!」

 

粉塵を突き破りピックのような形の細長い魔力弾が三発高速で飛来する。その向こうでは葉木が壁面に立って撃ち終えた拳銃形態のデバイスを構えていた。

 

避けきれないと判断したクロノはシールドを斜めに展開して弾く。だが葉木の攻撃は終わっていない。

 

ずどんと足を踏み鳴らしてビル壁面から横方向へ飛びだし氷風を振り降ろす。その刀身は易々と音速を超えて旋回し集められた魔力を鋭く飛ばす、疑似的な有射程斬撃を生み出した。

 

「グアアアアッ!?」

 

クロノはほぼ無音の追撃に対応できずもろに横腹に食らい、背にしたビルに叩きつけられる。だが葉木も無傷ではない。背中に最初に来たスティンガー・レイを受けていた。

 

「まだ終わらねェだろ?」

 

「…当たり前だ」

 

回答は更なる砲撃と共に送られた。

 

 

 

 

東側

 

こちらは完全に拮抗していた。フェイトの方がなのはより技量で勝るものの、治りきっていない傷が足枷になって僅かに動きが鈍くなっていた。

 

そしてなのはも今までただ戦ってきたわけではない。短時間だがその間に覚えられるだけの知識をかき集め、更に近接戦のイメトレもしてきた。

 

───幸い私の周りにはお兄ちゃん(小太刀二刀流無双)とか葉木くん(斬/打撃マニア)とかいるし……。

 

それに、奥の手も考えてある。勝つ準備万端でなのははこの戦いに臨んでいた。

 

一方のフェイトも負けるつもりはない。当然だ。これに勝てばジュエルシードの収集を完遂できるのだから。

 

───葉木が傷を治してくれた。余程の無茶をしなければ痛みはしない。

 

今まで以上に本気の彼女は、相手も本気の真剣勝負であるが故に最高の状態で戦えていると言っていいだろう。

 

互いの位置を何度も入れ替えながら、最大速度で飛行、スフィアを繰り出す。その衝撃でビル群の窓は飛び散り流れ弾や追突は呆気なくレイヤーを突き崩していく。距離が離れたら全力の雷撃と砲撃が撃ち合わされ、一帯を滅ぼす。

 

後ろを取られたフェイトはフレアのように雷撃の球を撒き散らし牽制となのはの減速を狙った先制攻撃を行う。ほぼ真後ろにいたなのはは速度を落とし回避軌道をとり、しかし並行して魔力をチャージ。全ての攻撃を避けきった直後に足場を固定する陣を展開。

 

「ディバイン、バスターッ!!」

 

撃った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

あの子が、今までとは違う大きな砲撃を撃ってきた。流石に砲撃型なだけあって迫る光は強烈なプレッシャーを与えてくる。

 

───大丈夫だ。

 

己に喝を入れて光柱をやり過ごすために、しかし失速しないようにギリギリの位置へ体を滑らせる。

 

轟という音と共に視界のすぐ横をレイヤー建造物を粉々にする暴力が通過する。フェイトはそれを無理やり意識から外して最後の魔法の準備(詠唱)に掛かった。そして魔法が完成して間もなく砲撃が霧散していく。

 

「今!!」

 

タイミングを見計らい翻り温存した速度で切り札の射程に滑り込んだ。狙い通りに桃色の砲撃が終了した瞬間だった。この時点なら彼女はまだ足場を固定していて動けない。魔法を発動する。

 

「あっ!?」

 

それは設置型のバインドだ。それなりに時間を掛けて編んだ術だから簡単には壊れないはずだ。自分の魔力の限界が近そうだから一撃ノックアウトのための戦術を選んだ。

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト!!」

 

巨大な魔法陣と共に大量の魔力の球が形成されて左右上下に展開する。それらは砲身だ。秒間七発の雷弾を掃射する現時点で最強威力の魔法。

 

「ファイアッ!!」

 

躊躇いなく命令。同時に速射砲の豪雨がなのはを襲った。僅かに逸れた球が建造物を砕き粉塵が白いバリアジャケットを隠す。15秒の掃射のが終わり、ほんの一瞬攻撃が止んだ。だがフェイトの攻撃はまだ終わらない。

 

「スパーク……」

 

雷球が掲げられたらフェイトの手に集まり、掲げる本人の三倍はある巨槍に変貌した。

 

見据え、まだ煙の収まらないその場所に投擲する。

 

「エンド」

 

文字通り雷速で走った巨槍は着弾と同時に半径20メートルの空間を蒸発させた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

互いに真っ黒なバリアジャケットを纏い戦うクロノと葉木だったが、アースラのモニターで見ているスタッフの誰もが二人を見間違えたりはしなかった。

 

戦い方がまるで違うのだ。

 

生きてきた文化も違う別人どうしなのだから確かに身体の使い方に差異があるのは当然だが、二人とも魔導師という点で一致しており、共に使うのはミッド式の魔法のみだ。開始直後はリンディ艦長以下殆どの隊員がいつ質量兵器が出るかとヒヤヒヤしていたがその兆しもない。黒い剣士に振るわれる技には未解析のものもあるがあくまで魔法だった。

 

「しっかしよォ」

 

モニタの中で葉木がバリアジャケットに付いたフードを踊らせながら言葉を発した。当然この間も法撃打撃が両者の間を交錯している。

 

「…なんだ!!」

 

向こうは余裕そうに話す状況でこちらはあまり気を抜けないということに少し不満だ、という顔でクロノが答える。

 

「よっと……。あの二人、何で戦ってるンだ?つかフェイトの母親って何者だよ」

 

「知らないでここに来たのかお前!?」

 

ズパン!!と互いのデバイスを弾き合った。

 

「悪いかよ。アイツがここに来たいっつったからアシになってやっただけだ」

 

『|wait man.…You had your own objective to came here.Don't you?《ちょっと待てオイ。…マスター自身にここに来た目的があったでしょう?》』

 

葉木は世にも珍しい(かもしれない)主にキレるデバイスを持つ手でもう片方の手と打ち合わせて、

 

「そういやそうだった」

 

忘れるなよ、とアースラスタッフ全員が心の内外でツッコんだ。

 

「あー、確かに僕に用があるとか無いとか言ってたような……」

 

「そう、ソレだ。まあ、正確には管理局所属リンディ提督殿と交渉がしたい、といったところか」

 

「何が目的だ」

 

「悪りい話じゃねェから安心してとっとと回線繋げ」

 

どうせ観るなり聴くなりしてるんだろ?と空に向かって叫ぶ。奇しくもその目はアースラのモニター越しにリンディを見る位置にあった。

 

──いったい彼は私と何を交渉したいのでしょう。……聴いてみるしかないわね。

 

「栗原葉木との回線を開いて。クロノ執務官には現場での待機命令を」

 

程なくして栗原葉木を正面から捉えた映像が艦内モニタに映った。おそらく向こうの正面にもリンディが映っていることだろう。

 

「アースラ艦長、リンディ・ハラオウンです。栗原葉木ですね」

 

「ああ、栗原葉木だ。回線を開いてくれて感謝します。交渉がしたい、というのは聞いていると判断していいですか」

 

「ええ、聞いているわ」

 

「なら早速……」

 

いつの間にか彼は画面の中でデバイスの刃を収めていた。替わりに手をポケットに突っ込み小さな何かを握っている。

 

「これから3日間程、地球から離れていただけますか?ああ、勿論高町達の戦闘が終わってからでいいですから」

 

それは全くもって意味不明な要求だった。判断に必要な状態が皆無で是非とも言えない。まあ、それは向こうも分かっているだろうが。

 

「理由を聞いても?」

 

「ええ。……と、先に言っておきますが、別に俺が事件を起こしたりロストロギア使って星壊そうとかするわけじゃないので」

 

「これから3日間、この世界で如何なる魔法とそれに準ずる現象を起こしたくないのです」

 

クロノがいかにもミッド人らしい質問をした。

 

「何故だ?魔法はこの世界で使用されているあらゆるエネルギーソースよりクリーンな代物だ。それを拒む理由はどこにある」

 

「ああ、そういう意味じゃない。この世界以外の技術を一度締め出したいんだ」

 

そこで彼は言葉を区切る。だがこれだけの説明ではますますもって意味が分からなくなるだけだ。彼は一体何を隠しているのか。

 

「……とりあえず今の段階では何とも言えないわ。それに此方に全く見返りがありません」

 

「じゃあコレでどうですか?」

 

葉木はポケットから手を出して広げて見せた。その手の上には

 

「ッ!!」

 

八つの青い宝石──ジュエルシード。残り全てがその手にあった。

 

「これと、クロノ執務官への謝罪と、後で3日の間に何があったか説明するものを置いていくので、それで手を打ってもらえないでしょうか」

 

ジュエルシード自体は管理局に対し交渉材料には成りえない。だが、ジュエルシードを集めるのにかけた労働は違う。それは管理局に対する協力行為であり、最低でも感謝状くらいは贈らなければならない。また次の作戦においてプレシアの庭園に突入する前に全ての石の所在が分かるのは大きい。

 

後の方は好意的に捉えればの話だが、実際に今石を持っているのは彼で、クロノは有効打を与えることが出来なかった。

 

「一つだけ、質問があります」

 

「なんですか」

 

「あなたは何を目的に動いてるのですか?」

 

これで多分、私の心は決まるだろう。この正体不明な少年の意味不明な要求を承諾するか、しないか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

目的ねえ……。てかぶっちゃけた話よくOK出そうとしてるなあの人。

 

まあ、他に交渉材料なかったけどよ。

 

「目的ねえ……」

 

改めて己に対する疑問を口に出す。果たして俺は目的をどう説明すべきだろうか。

 

プリンチップ社に対する復讐と、自国の防衛……なんて考えたことはないな。

 

『───あいつらを倒せば、きっと私達のいる世界は今より良くなる筈だよ』

 

『彼が死んで、かなみがあれだけ悲しんだ。これ以上同じ目に遭う人が出ることを僕は許容出来ない』

 

そういや、かなみや健悟はたまにそんなこと言ってたなあ。それで俺は…………、

 

「──うき君!葉木君!!」

 

「…あ、失礼。少し考えていました」

 

目の前の画面でリンディ・ハラオウンが嘆息する。

 

「そうですか。それで答えは出ましたか?」

 

そうだ、目的。俺個人としての復讐でないならば、この世界にいる唯一の■■■メンバーとして代弁するならば、

 

「普通の平和だ」

 

「……え?」

 

「俺の目的は、普通の、許容出来る範囲の不平等を内包した平和だよ」

 

かつて自分の生活圏内ですら叶わなかったのに、それでも諦めないと彼等ならば言うんだろう。例えどんな異世界でも、どんなに不利な状況でも。

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