魔法少女リリカルなのは The Annihilation Swords and Fists 作:zwart
バタバタと外が騒がしい。恐らく追加の武装局員を庭園に送るか、先程迎撃された局員達が戻ってきたりしたのだろう。
アルフは意識を失って倒れたフェイトに付き添って艦内の隔離病棟にいた。照明は消されて、新たに庭園に突入したなのは達を映す小さなモニタの光だけが部屋を薄暗く照らしていた。
「クソッ」
予測できた筈だった。プレシアの本性をフェイトが見せられたらどうなるかくらい。ジュエルシードを集め終わったフェイトがどういう扱いを受けるかくらい。リニスもいないのだから、自分が予測していなければならなかったのだ。
自分の優しい主は絶対に私を、いや誰も責めないだろうけど、それでも勝手に自分を責めることにした。そうしなければ主からパスを通して流れてくる悲しみと絶望の感情に呑まれる気がしたから。それで泣いて、目が曇るようなことになっては今は困る。
「やっぱり、あの子達が心配だから私も行ってくるよ」
彼女も庭園の突入に加わる気だった。今そこでは大量の無人魔導兵器が稼働している。戦力は多いほどいいに違いない。
フェイトは答えない。それを確認した上で部屋を出ようと振り返ると、自動ドアのロックが勝手に解けて扉が開いた。
「葉木?」
その向こうにはバリアジャケットと大して変わらない格好の少年が立っていた。
「よォ、邪魔するぜ」
アルフの返事も待たずにズカズカと部屋に侵入してくる姿は、しかしと言うべきかやはりと言うべきか何時もより落ち着いていた。
「フェイトはやっぱり起きないな」
ベットサイドまで歩いた葉木はアルフに声を掛けた。
「そうだね。ショックだったんだよ」
それから暫く二人とも黙っていた。
「……アルフはなのは達の所に行くんだろ?」
「まあね。フェイトも心配だけど、起きるまでは何も出来ないから」
そうか、と呟いた。
「俺は悪いけど、地球に戻らねェと行けない。だから代わりにコイツを置いていくことにした」
言って葉木は上着のポケットから十字架を取り出してフェイトの左手に握らせた。
「それは?」
「氷風、俺のデバイスだ。他に御守りに渡せるモンが無くてよ」
ミッドの人間に拳銃渡す訳にはいかねェしな、と笑う。
「何か大事な用でもあるのかい?」
別に冷たいとか思いはしないが、少し寂しい気がしないでもない。
「まあな……さて、俺はそろそろ行くが、フェイトとなのは達によろしく言っといてくれ」
「自分で言ったらどうだい?」
「ハハッ」
ベットサイドから離れた葉木が笑い、その足元に魔法陣が展開してその姿を掻き消した。
「じゃあ、今度こそ。私も行ってくるよフェイト。必ず戻ってくるから」
魔法陣が消えるのを見届け、もう一度主の顔を見てからアルフも部屋を飛び出した。
***
「チェーンバインド!」
「ストライクインパルス!」
「アクセルシューター!」
巨大な空間で桃青緑の閃光が乱舞する。それらは侵入者から扉を守るべく配置された無数の鉄騎を拘束し、割り砕き、撃ち抜いて機能を停止させていく。それを為すたった三名の魔導師は誰もが強力な強度を有し一撃たりとその身に傷を負ってはいないが、不利な状況におかれていた。
「数が多い!」
そう、鉄騎の数は文字通り無数。───流石に上限はある筈だが、壊した先から専用ゲートを通り湯水のように投入されている。勿論それらは攻撃、回避、防御をある程度こなすので一撃必倒とはいかない。必然的に士気も体力も徐々に削られていた。
「なのは、右三体!」
「了解!!」
攻撃手段を持たないユーノは近づいてくる敵をひたすらバインドで絡め捕り、攻撃をシールドで防ぎながら完全に足を止めて二人のレーダー役をしている。前衛がクロノでS2Uで殴ったりスティンガースナイプを撃ったりしている。スティンガーレイは鉄騎の装甲を貫通しなかった。なのはは二人の間から本日三発目くらいのディバインバスターを放って7、8体を纏めて仕留めた。
だが3人の視界の中には未だ20体以上の鉄の塊が蠢いている。非殺傷設定など最初から存在しない巨大な刃は、間違い無く外見通りの威力を発揮することは明確だ。
そしてとうとうジリ貧状態だったユーノのバリアがミシリと音を立てた。
「しまった!!」
「ユーノ君!?」「ユーノ!!」
二人とも気づくが、それぞれの相手に阻まれすぐにはフォローに迎えない。追加の打撃がユーノのシールドを襲った。
「くそ、壊れる……!?」
その瞬間はすぐに訪れ、都合四本の鋭い刺突が砕かれた緑の魔力の尾を引いてユーノに迫り───。
「間に合った!!」
オレンジ色の鉄拳に吹き飛ばされて鉄屑と化した。
「何故君が……!?」
「大丈夫、リンディって人には許可貰ってきたから!!」
ストライクアーツを駆使して戦う閃光の使い魔アルフだった。
今アルフが2体破壊して、1体補充されつつある。なのはの壊した分は既に補充が完了して合計29体が道を閉ざしている。
対する魔導師達は4人になった。
***
眠りとは、死んだり特別大きな損傷を身体に受けたりしない限りいつか目覚めるものだ。
だからフェイト・テスタロッサも何時までも寝ているということはなく、寧ろ戦闘指揮中のアースラの病室では早々に起きるのが道理だった。
「ん……」
薄目を開ける。暗闇だ。まだ夜なのだろうか。しかし視界の左側が妙に明るい。もしかして窓が開いていて、そこから朝日が差し込んでいるのか。
「っ……!?」
思った以上に眩しい。というよりその小さい光源は窓ではなくモニターの画面だった。
ばしっ
画面の中は母のいる庭園内部を映しており、三人の魔導師が鉄騎の集団と戦っている。その光景がトリガーとなって彼女は一気に覚醒した。
───お前は目障りな玩具人形ガラクタだ処分してやる消えてなくなれ。
途端にそれだけが全てを支配する。否定しようとする度に母の声は肥大化して溢れ、瞬く間にフェイトの思考はズタズタに引き裂かれて意味を無くしていく。
その思考の欠片も視点が定まらない。自分の記憶の中途半端なところから『自分』が入れ替わっていることを唐突に認識した頭は混乱して、本来のフェイト・テスタロッサとアリシア・テスタロッサのどちらと自己を認識するか天秤に掛けており、保護者に存在否定されたフェイトは軽くなっている。振り切れないのはアリシアの本物を見て個体が『偽物』であると認識したからだろうか。
「アリシア」ならば母に愛される。「フェイト」は否定された。「フェイト」は「アリシア」の劣化コピーですらない。「フェイト」は「アリシア」たりえない。「プレシア」は「フェイト」を「アリシア」を望んで製造した。「フェイト」「アリシア」だったら良かったのに。「フェイト」造られた人形。「人間」でも「アリシア」でもない。「プレシア・テスタロッサ」の生み出した「廃棄されるべき失敗作」「フェイト・テスタロッサ」は望まれた存在ではない?
ピキッ、ピキキキ……バキンッ!!
病室にフェイトの大事なものが砕けていく音が響き、
「え…?」
ベットサイドで戦斧のエンブレムが不規則に明滅していた。無理な状態で駆動しているため発光する度に亀裂が増えていくが、彼は構わない。
「バルディッシュ?」
殆ど条件反射で魔力を送った。亀裂はこれ以上増えなくなり、発光の方向が一点に絞られた。ベットサイド、バルディッシュのすぐ横の面だ。
「紙…」
『すぐに戻ってきます。』
紙にはそう、ミッド語で書かれており、なのは、ユーノ、クロノの名が書かれていた。全員モニターの中で鉄騎相手に戦っていた。
手の中に硬い物を握っていた。手を開くと、
「……十字架?」
「いえ、栗原葉木のデバイス『氷風』です。はじめまして、フェイト・テスタロッサさん」
バルディッシュの修復演算を補助しましょう、と言った途端に二機のクリスタルの点滅が同期した。
「フェイト……?」
モニタの中にいる3人、否。いつの間にかアルフが加わり4人になっていた。それに加えてデバイスを置いていった葉木。
「私はフェイト……?」
そっか…。みんな、『フェイト・テスタロッサ』を認めてくれた。母さんは私を捨てちゃったけど、
『Yes sir』
「私は…」
私は、今から本当にフェイト・テスタロッサだ。
『Get set』
真っ暗な闇に、金色の閃光が溢れた。
***
学校を休んだ真人は武師となる申請の為に桐ヶ谷本家に向かった。辛くも長老や他の武師の了承を得て目的を果たせたのはひとえに祖父、十蔵の推薦だったおかげだろう。
───本家は、戦力を集めたがっておる。それも雑兵ではなく機械化部隊を単独で相手取れる逸材達を、な。
爺ちゃんは俺にそれが可能だと言った。自分では自動小銃の部隊を倒すのも到底不可能だと思っているが、間違い無く本家は戦争をする気だ。ヤクザの抗争とかお家騒動とかってレベルではなく国家間でやるような規模の戦争を。
───いや、救援を依頼されたと言うべきか。
本家にいる間、やたら
ともあれ現在桐ヶ谷和人は本家の命で東京のビル群の中で武装して待機していた。武装といっても反りが殆どない刀が二本だけだが。ついさっきまで裏庭の蔵で埃を被っていたものだが点検整備と試し斬りはしたので要求されるスペックを満たしているのは確認している。
「蛇が出るか鬼が出るか…何も出ないってのは、希望的観測なんだろうけど」
そして、それは来た。
ズン、という重く腹に響く振動が東京を揺らす。小学生の軽い体は簡単に揺さぶられてあまり衛生的とは言い難い地面の上で転んだ。
「いった…今のは何だろう?」
顔を上げて、ビルの隙間から黒煙が立ち上るのが見えた。
爆発、だろうか。
『…聞こえるか、和人』
『…第一武師殿』
桐ヶ谷の作戦室からの通信だった。定時ではないから、異常事態だろう。
『爆発は見えたな』
『はい』
『ならば備えろ。敵が来るぞ』
"敵が来る"。その不吉な一言を残して桐ヶ谷最強の使い手は一方的に無線を切断した。常に一切の無駄を省こうとする彼の言葉を信じるならば、これがおさらく敵なのだろう。
通信が切れた直後に現れた男、長い砂色のコートを羽織ったニット帽。手に大振りのナイフをぶら下げていた。だが何かがおかしい。
「おじさん、敵?」
「裏切リノ国ニ破滅アレ?」
イントネーションがおかしい。日本語が通じない訳ではなさそうだが。
「うらァギリノク弐にふ終アれ!?」
ズギャン!!と男は自分の足ごとアスファルトを砕いて突貫してきた。
「うッ!?」
瞬きする間もなく鈍色の刃が右の視界を埋め尽くした。