魔法少女リリカルなのは The Annihilation Swords and Fists   作:zwart

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多勢に無勢

鮮血が散る。不意打ちだが、それにしたって有り得ない加速だった。

 

「等アッ!!」

 

間一髪で眼窩から脳を突き刺されるのを避けた和人は皮膚を削り取られた頬の傷みを我慢して、或いは闘争本能から派生した報復衝動に背を押されて右の束頭を男の鳩尾に叩き込んだ。男が咳き込んでいる間に脇を抜けて刀を振るに十分な距離をとり───更に三歩後退した。

 

また今の加速をされたら、不意打ちでなくても危険だ。しかし……、

 

「これが、斬り合い」

 

今まで真剣で祖父に稽古を付けてもらったことが無いわけではなかったが、それでも刃に乗る殺気が全然違った。

 

───落ち着け。あれは殺気じゃなくて怒りや憎悪の類だ。力押しに強くなるかもしれないが技で攻めてくる本家の連中の方が強敵だった筈だ。

 

熱を冷まし、『殺す』目的で刀を構える。未熟な剣士の手で血に塗れる二刀に内心で謝ろうとして止めた。本家にあった刀だ。どうせ浴びるほど血を吸っているだろう。

 

「グルゥアアアアアアアアッ!!」

 

爆発するような加速で男が突進する。だが一度見た動きだし、トップスピードも最初より遅い。解っていた。あの自傷する加速は、連続して成功しない。蹴る脚が既にボロボロなんだから当たり前だ。足を入れ替えても同じこと。踏み込みが甘くなりバランスが崩れやすくなる。

 

「───斉ッ!!」

 

接触の瞬間に深く踏み込んで、左右の刀を×字に斬り上げる。

 

和人が立ち上がった時、遥か背後で男が両脚の付け根と左肘を切断されて血の海に沈んだ。

 

「……戦闘終了」

 

和人は背後の死体を見るかどうか迷った。間違いなく即死しているのは判るので死亡確認ではなく、感情の問題だった。

 

殺した者の義務として、それが可能な限りこの男の顔は覚えておくべきだ。そういう義務感やら使命感が振り向けと言うが、和人は見たくなかった。惨殺死体を確認する、自身が殺人者であることを認めることが怖かった。それで戦えなくなるのは何より嫌だった。

 

これくらいの斬り合いで恐怖するなと自己を激励した。こんなことではたった一人さえも守れやしない。今回は自分の殺した死体が偶々背にあるが、これから先正面で倒れる敵は必ずいる。だからここで自分の出した犠牲を記憶することから逃げるな。躊躇するな。さあ見るんだ。

 

そして和人は、両目をしっかり開いて振り向いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

さて、と葉木は低めのビルの屋上から望遠器具で眼下を見下ろしていた。東京の大通りは警察ののマーキングをされた特殊車両が銃を乱射してまんまパニック映画の状態だ。

 

「やっぱり警察官じゃないな」

 

窓から銃撃している男はターバンは巻いてないが肌が黒いからアジア系ではなさそうだ。運転してるのは白人に見える。つーかそもそも日本の警察はあんなデカい装甲人員輸送車持ってないだろ。戦車並みだぞアレ。そこの制服警官は拳銃なんざ撃っても意味ねェからさっさと自衛隊に支援要請しろよ。

 

こんな遠方で助言しても仕方ないから葉木は使っていた望遠器具───ミサイルの誘導照準機ともいう───で装甲車に狙いを付けてスイッチを押し込んだ。

本当はジャベリンATGMが良かったのだが余りに高いのでミサイルSA-7という中古品も出回っている地対空ミサイルだ。古風なレーザー誘導なので着弾まで照準機の狙いを付け続けなければならないが、まあこの距離で奇襲ならば大した問題ではない。そのとおりに単発式の弾頭は運転席の窓に着弾、戦争用の爆発で東京の片隅を彩った。

 

弾頭は一つしか携帯していないし、次のアクションは間違いなく小銃の攻撃に阻まれるので発射機を捨て置いて屋上を後にする。

 

「甲、次の目標を指示してくれ」

 

フードを被って隠してあるヘッドセットから返事が返ってくる。

 

『いいのか?まだユニット撃破には至っていないようだが』

 

「足は潰した。もう特殊警察や自衛隊の歩兵だけで制圧できる」

 

『了解した』

 

甲がネットワーク経由で見ているのは警視庁の防犯カメラ監視施設の映像だ。正直いつまで気づかれずにいられるか不安だが、行けるとこまではこの手段で敵影を探す。

 

『次は―――何だこれは』

 

「どうした」

 

『銀座に正体不明の構造体が出現。昆虫の足の付いた戦車のように見える』

 

また甲も人間臭くなったものだ。悪いことではないが、報告の意味を悟るのに若干の時間を要した。悟りたくなかったというのが正しいか。とにかく、アレだ。細長い足が付いてて、頭が戦車の砲塔といったら。市街地戦用の多脚戦車だろ。

 

オイオイ冗談じゃねェぞ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

状況は最悪だった。アルフが到着して各人の負担が減り、殲滅も近いと思われた時だった。今までとは違う機種の機体が出て来てクロノが対処しようとした時だ。

 

「アレは僕がやるから皆は取り巻きを近づけないでくれ」

 

あからさまな砲台からの砲撃を予測してジグザグに動くクロノ。案の定砲撃型だったようで飛来する特大の魔力塊を全てよけて接近。振動打撃「ストライクインパルス」を脳天(と思われる)に叩き込んだ。

 

「硬い!!」

 

「クロノ、離脱して!」

 

え、と思う間もなく機械の巨体からアームが伸びてクロノの周りに結界を多重展開。更に自身にも一枚張ってしまった。バインドも使われ、クロノは完全に動きを封じられた。

 

巨体に見合う動力源があって初めて出来る、単純故に破り難い力業。勿論いつかはクロノが内側から破るだろうが、時間稼ぎと戦力分断は大きな意味を持つ。

 

結果として───圧倒的劣勢だった。クロノは未だに最後の結界を破れず、なのは達は追い詰められて全員が背を預け合ってギリギリで対処していた。

 

「っ!早くジュエルシードの暴走を止めないといけないのに!」

 

「あとどれくらいで臨界点だい!?」

 

「もうそんなに掛からないと思う!!」

 

時間がない。嫌な汗をかきながら必死で敵の数を減らしていくことしか出来ないことがもどかしい。

 

ピキッ…パリン

 

「スティンガースナイプ、スナイプショット!!」

 

漸くクロノが結界を脱して捕獲用機体を撃破した。

 

「やった!」

 

その一瞬なのはの意識がそちらに向かい、明確な隙を生み出した。

 

「なのはああっ!!逃げろおおおおお!!」

 

「え…?」

 

気が付いた時にはグレイトヘルムのような頭の、真っ暗な目が目の前にあった。

 

固く鈍い打撃音がして、白い陰が宙を舞った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

何だこれは。

 

和人の目の前に転がる死体は、確かに彼自身が初めて殺した敵だった。切断されて流血してる部位は全て身に覚えのあるものだった。ただ一つを除いて。

 

うつ伏せになった上半身にくっついて転がっているその頭、ダーバンが外れてその内側が見えていた。

 

そう、頭がみえている。但し|額から後頭部までがごっそり切除されて人工皮膚で断面を塞がれた平たい頭が《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。

 

「うっ…」

 

何の前触れもなく見せられた意味不明な光景に嘔吐感を覚えた。追い討ちをかけるように足元が揺れる。それは日本人なら殆どが体感したことのある揺れで、

 

「地震か…?」

 

 

 

 

「チクショウやりやがったな」

 

『監視カメラで確認出来るのは3台までだ。あと、そろそろ警視庁のセキュリティーに気付かれる』

 

「了解した。監視カメラからは撤退してくれ。…それにしてもあんな正規軍レベルの兵器どこから湧いて出やがった」

 

その時、ぐらぐらっと地震めいた振動が足に伝わってきた。

 

「!そォか…」

 

急いでケータイの緊急地震速報サービスにアクセス……地震発生なし。

 

つまり、この揺れは多脚戦車が近隣でアスファルトを割って地下から出現するのが原因だということだ。……多脚戦車の移動かもしれないが、ここまで大きな揺れは最大速度で駆けたりしない限り発生しないだろう。

 

そして彼の予想はすぐに証明された。

 

ドガガガガガガガッ!と音を立てて後ろの舗装道路が爆発する。慌てて手近なところにあった自販機の影に飛び込み飛び散るアスファルト片への盾にするが、あえなく粉砕。ペットボトルや缶が潰れたり散乱したりした。

 

道のど真ん中に、しかもこんな真っ昼間に大穴開けてくれやがった奴は、市街地戦用の灰色の迷彩に塗装された六本足を順番に穴の縁に引っ掛けて巨体を外に持ち上げた。

 

「これで、4台目かよ」

 

全ての脚の関節上部にサーモセンサー装備の対人機関銃が設置され、接地面のスパイクもビルを登るためフックのような非打ち込み式アンカー。砲塔に搭載されているのは速射重視の小口径タイプと思われる。……現時点で地上最強、平均戦闘(・・)機動速度は実に80キロを超える化け物が到来した。

 

人目は…ない。全員道が爆発した時点で逃げている。

 

サーモセンサーが葉木の体温を感知して対人機関銃が一斉に銃口を向けた。

 

「上等!」

 

掃射と同時に地を蹴り走り出す。前には出ない。脚の内側は入った瞬間に散弾の嵐に見舞われるのが判っているため横に、戦車の周りを一周するように走りながら背中の竹刀袋を開けて霧風を引き抜く。穴だらけになって吹き飛ぶ竹刀袋を尻目に一本の脚に狙いを定め、鯉口を切った。

 

「天童式抜刀術、一の型一番。───滴水成氷」

 

刀が縦に空間を割り、延長線で複合装甲と炭素繊維筋肉を切断する。射程距離のある斬撃は天童式抜刀術の十八番だ。間もなく多脚戦車の脚が二本、ずれるようにして落下した。

 

まだだ。脚が3本以上残っているうちは奴は戦闘可能……!!

 

数は減ったが対人砲の脅威は健在だ。先程とは逆回りに走って狙いを逸らして次の攻撃の機をうかがっていると、敵に新しい動きがあった。

 

脚が位置を変え、地面と水平だった砲塔が斜めに傾いだかと思うと、猛スピードで旋回した。

 

まさか、と思う間もなく速射砲の砲身が横殴りに突っ込んできて、葉木は人間野球ボールになり向かいのビルに打ち込まれた。

 

窓を容易に突き破り、そこはどこかの会社のオフィスだったようでパソコンやら観葉植物やらを薙ぎ倒して、反対側の壁に半ば埋もれた状態でようやく停止した。

 

「グ……ゲホッ……」

 

なんだアレ。本当に戦車かよ。物はちゃんと用法に従って使えよ。

 

と思ったらガラス窓から見える多脚戦車の砲身先端に台形のスパイクが見えた。放熱用の煙突かと思ったらどうやら格闘兵器らしい。クソが。そういうのはサン○イズに任せとけってンだ。

 

「……つーかサイズからしてアレ、同じ類の兵器に使用するモンだろ。人間相手に使ってんじゃねェよ」

 

悪態をひたすら吐く。そのうちに身体の感覚がジワジワと戻ってきた。動くか?……動いた。驚くことに鍔が壊れても刀身には曇りすらない霧風を手の内に確認し、壁から這い出した。速射砲の銃口が此方を向こうとしている気がするが気にしない。まず立たねェと。

 

たっぷり5秒はかけて立ち上がった。一拍遅れて速射砲に捕捉される。

 

「チッ……三の型八番、雲嶺毘却雄星(うねびこゆうせい)ッ」

 

ズドン、という炸薬が破裂する音と共に人の頭程もある弾頭が発射された。

 

葉木が斬ったのは床だった。しかし雲嶺毘却雄星は殆ど使ったことがなく完全な切断には至らないどころか霧風が弾かれて手から離れてしまう。ヤケになって震脚を叩き込み漸く床に穴が開き、間一髪で階下に退避した。

 

「さて……ここからどォするか」

 

依然として多脚戦車は健在、霧風は上の階だ。

 

腹は決まっていた。

 

 

 

 

 

刀が無いなら、あとは拳で挑むのみ。

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