魔法少女リリカルなのは The Annihilation Swords and Fists 作:zwart
『この地に寄生する卑しき民草は、偉大なる神の子を欺き、あまつさえ欲望のままに富を集める正義無き徒である。神を信じぬままに己の心に一切の疑問を持たない愚か者である。憎むべき欧米と十字架の僕である。彼等の元に一切を残してはならない。これは我らの神と全ての同胞に捧げる聖戦である。………この地に───』
あるビルの倒壊後、その柱の影で、和人は静かに携帯無線の電源をオフにした。
「………指揮車両どころか、一般回線まで割り込まれたのか」
10回以上の敵兵との遭遇戦を経て、更に多脚戦車の侵攻で道が瓦礫で埋もれたりしていたせいで和人は自分がどこにいるのか分からなくなっていた。せめて自衛隊や警察を含めた味方の情報を手に入れようと無線機の受信範囲を広げた結果が今の放送だった。
ふと、いっそ回線を取り戻してしまおうかと思ったがどの程度の強度を持つクラッカーが相手にいるのか分からないし、そもそも手元のケータイは幾度目かの戦闘で地面に叩き伏せられた時に木っ端微塵に砕けているので回線に介入のしようがないことにすぐに気付いた。
「けど、まだだ」
まだ全滅したとは限らない。無線が復活するかもしれない。何より───負けを認めたとして、その後がない。ここは日本の首都、東京なのだ。
今一度周囲をよく見渡す。断続的に続く砲撃とコンクリートの崩れ落ちる音。遥か遠方に陽光に照らされて反射する点。空気の微振動。何一つを見逃さず、少しでも敵兵を削るために。
積極的に殺人に走ろうとしていることを和人は自覚していなかった。
(見つけた)
刻むような空気の振動、重低音―――車両だ。
柱の影から顔を出すと、迷彩塗装の装甲車が走っているのが見えた。自衛隊の装甲車だが銃座にいるのは敵兵だ。小銃を下げた平服の男、背負っているのはロケットランチャーだろうか。運転席から滴る血がそこにいた自衛隊員の最期を知らせていた。
(あれを倒すには……。くそ、結局近づいて倒すしかないか)
元より刀二振り以外に得物は無いのだ。
少し考え、和人は正面から責めることにした。側面からよりは銃座に狙われにくいと思ったのだ。先ずは運転している敵を止め、車両を止める。
とりあえずの作戦を決め、和人は二刀を構えてじっと車両の接近を待つ。
「まだ、まだ……今!!」
半分勘便りのタイミングははたして完全に合い、飛び出した和人は上手く装甲車と向き合うことに成功した。
「っ!!」
大きい。遠目には大して見えない車高も、間近で見ると迫力が違う。そして足を止めたら振り向いた銃座に撃たれて死ぬだけだ。
「ああああああっ!!」
だから和人は全力疾走した。銃座に目は向けない。顔の横を抜けていく弾丸も旗にしない。猛烈な勢いで近づいてくるボンネットのみが眼中に置かれる。
そして二者は接触し──一瞬で離脱した。
弾かれてコンクリートの地面に墜落する和人を尻目に装甲車は真っ直ぐ走行し───全速力で瓦礫の山に突っ込んだ。
「よし………撃、は……成功、だ………」
むくりと起き上がり、装甲車が完全に燃えている事を確認する。体のほうは少し気怠い感覚があるが、まあ五体満足なので良しとしよう。刀も二振り揃っている。
勝ちだ。と、和人は判断した。
「いやはや、素晴らしい。たった一瞬の交錯でまず装甲に護られたエンジンを突き刺し、次に運転席と銃座の兵の首を跳ね、その課程で我が兵の攻撃を一切受けないとは。君の年で、しかもこのような平和ボケした連中の中で育ったものがこれほどの戦闘能力を持っていようとは流石に思わなかったよ」
カチャリと瓦礫を踏む音と共に頭の後ろで長ゼリフが発せられた。
ピクリとして振り向くと、そこには何かおかしい存在がいた。
───人か?
そう見えた。五体があり、二本脚と二本の腕を備えている。スキンヘッドに緑の目は2つ。鷲鼻と白い肌は男が白人であることを告げている。だが、何かが違う。男の着るスーツにも、なぜか不吉で仕方が無い胸元の小さな黒い手の柄のネクタイ以外、背丈や声、その出で立ちには一切の異常はない。
ただ、ひどく場違いな気がした。
「オジサン、誰だよ」
「私の名前はリヒャルト・トラクル。親しみを持ってトラクルおじさんと呼んでくれ。君は何という名前なのかな?」
「アンタみたいに怪しさ全開のオジサンには教える気にならないな」
一切の恐怖を抱かずに、傷どころか服を乱れさせもしないで立っているなんて、今の東京ではありえない。なのに嗤っている。
「ここで何をしているんだ武装もしないで。何で笑っていられるんだこの状況で。お前は一体全体何者だ。───君の頭にある疑問はこれくらいかな。そして私はサービスは積極的に行う人間だから私が何者かだけ答えよう」
「私はリヒャルト・トラクル。この世界であらゆる殺し合いの支援をし、また戦争の目的を提供する、銃弾の歴史の信奉者にして遂行者だ」
「意味が分かるように言ってくれ」
「君の理解力の低さを私のせいにしないでくれたまえ。ほら、オーストリアでは世話になったじゃないか」
何のことだろうか。オーストリア………うん、行ったこと無い。流石に赤ん坊や幼稚園児だっ頃に旅行で行っていたら忘れているかもしれないが。
………今までに会った覚えは無いしどう見ても俺の関係者だとは思えない。
「人違いじゃないの?」
「冗談は休み休み言いたまえ。君みたいな我が社の製品を破壊しまくる餓鬼が同じ国に二人といてたまるか」
「いやでも俺オーストリア行ったことないし。あと今更だけど日本語上手いなオジサン」
「トラクルおじさんと呼びたまえ」
「あ、それ無理だから」
「何故?遠慮する必要はない」
「そうじゃない。アンタが言った会社の製品ってのは、多脚戦車や自走機銃、あとは脳なしの兵隊とかだろ。オーストリアで核爆弾を作ろうとして国家憲兵に阻止されたのもアンタの組織か?とにかくアンタは敵だ。悪いけど見逃す気は無いぜ?」
「あれは予行演習に過ぎなかったのだがね。実際には落とすこと自体を目的としていて中身も核ではなかった。しかし何故そのようなことを知っているのかね」
「調べたからな。リヒャルト・トラクル、アンタを拘束する」
「馬鹿な」
ニヤリと笑みを浮かべ、トラクルが一度足踏みした。すると地響きが起き、すぐに戦車の駆動音に勝るほどになって地面をグラグラと揺らす。
「何をした!」
「なに、この都市は立派なインフラを地下に持っているじゃないか。せっかくだからそっちも壊そうと友人が聞かなくてね」
メキメキとリヒャルトの前で地面が割れて、巨大な四角錐の鉄塊が出現する。軽トラックほどもあるそれの地表からの露出部分はツルリとした表面からゴツいロボットアームが二本突き出している。先端に付いているのは溶断器だろうか。
「………は?」
いきなり現れた用途不明のマシンを前にして和人の思考が停止した。なにしろ腕の生えたピラミッドがたけのこみたいに生えてきたのだ。
「死になさい」
ピラミッドの向こうから聞こえてきたリヒャルトの声に何か返す前に前面が展開、幾多の砲身がせり出してきた。
「やっば………!!」
瞬く間に銃弾りゅう弾砲弾その他がピラミッドからばら撒かれて炸裂した。アスファルトが剥けて、瓦礫や崩れかけた壁面にまんべんなく弾痕が刻まれる。
文字通り見える景色を粉微塵にしてピラミッドは砲撃を止め火器を内部に格納した。
暫く建材が崩れ落ちる音だけだったが、どこからか叫び声がした。
「一人にこの火力は過剰だろ!?」
「死んでいないなのだからまだまだ不足のようだ。なに、安心したまえ。間もなく一帯を焼き尽くす焼畑が行われるから、そうしたら君も死ぬことになる」
「なに?」
互いの位置が分からないため弾丸も剣戟もなく言葉だけが続く。
「何をする気だ」
「これ以上のことを話す気はない。我々も撤退しなければならないからね」
「なんで東京を襲撃した」
「それも答える気は無いが………最後に一つだけ、我々の攻撃目標は東京だけではない」
その言葉を最後に男の声は途切れ、変わりに騒々しい轟音が遠い空から降ってくる。
「これは………自衛隊の戦闘機―――?」
違った。高速で飛来するそれは高空を飛びながら腹に抱えた流線型の束を落としていく。それが12×3編隊。
「爆撃!! 焼畑ってこれのことか!!」
気付いたところで意味はなく、地上戦で装備を破壊された自衛隊も米軍も弾丸の一発として爆撃機にむけて撃つことも出来ずに爆弾が降り注ぐ様を見るだけ。
そして和人のいる区画にも爆弾は例外なく落ちた。