魔法少女リリカルなのは The Annihilation Swords and Fists   作:zwart

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雷鳴

なのはの足元からフライヤーフィンの光が消えて、あっという間に落下を開始した。

 

「くそ!」

 

アルフは目の前の敵の破壊より押しのけることを優先して隙間を作り、なのはの救助に向かおうと試みるが、何重にもなった陣を前に突破口を開けない。辛うじて開けることの出来た小さな穴からユーノがチェーンバインドを放つ。クロノも群がる鉄騎を無視して落下するだろうと目測した地点へひた走った。

 

「なのは!!」

 

「間に合えっ……!!」

 

だがクロノは遠すぎた。どんなに宙を駆けても落下する彼女の体に届きそうにない。そしてユーノのバインドがギリギリで白い袖に触れて───途切れた。

 

唖然とするユーノの見下ろす先、目障りなくらい巨大な剣が鎖を引きちぎっていた。その先にある騎士甲冑の悪魔のような面貌がゆっくりとユーノに振り向きつつ縦に割れた。内側には巨大な銃口が一つ、光を灯して鎌首をもたげている。

 

───死っ―――!?

 

容赦なく放たれた銃撃に対してユーノは反射的に身をよじったが、完全には避けられずに被弾した。

 

「ユーノ!!」

 

「ッ!!…僕は大丈夫!! それよりなのはは……」

 

誰もが注視し、必死に手を伸ばす中、しかし呆気なく床に激突した。レイジングハートが衝撃吸収用のバリアを張ったが生きているかどうかは分からない。。腹に伺える傷からはどくどくと血が溢れて早くも水溜まりを作りつつある。

 

「レイジングハート、バリアジャケットを再構成して圧迫止血を!!」

 

『roger!!』

 

だが、逆境は続けて訪れた。

 

今までアルフとユーノに群がっていた鉄騎達が軒並み降下を始めた。向かう先は一つしかない。

 

「クソ、なのはを完全に殺しきるつもりだ!!」

 

「何をしてるんだエイミィ!! 早く転移を!!」

 

『さっきからやってるわよ!! でもエラーが連発してて……システムに異常はないから多分妨害か何かされてる!!』

 

「そんな…」

 

「なんとかしてくれ!! 時間は稼ぐ!!」

 

先頭の鉄騎が到達するより早くなのはの前に辿り着いたクロノがS2uでシールドを展開する。

 

『分かってる!! 妨害外の空間からそっちに送った救援がそろそろ着くからそれまで持ちこたえて!!』

 

クロノは三体同時の体当たりを喰らって返事をする余裕も無い。元々特別得意というわけでもないシールド術式を、更に構築しきる前に初撃を貰ってさらに脆弱になっている。果たしてあと5秒保つか。誰が増援に来るのかは解らないが間に合わないだろう。その前にシールドは押し潰されて、僕は死ぬ。

 

―――けれど、なのはだけは守ってみせる!!

 

そして。

 

もう着くよ、という通信越しのエイミィの言葉より先に、盛大な爆発と叫び声が届いた。

 

「ハアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

彼らのいる巨大な部屋の天蓋に穴が穿たれ、生じた破片も全て追い越した何かが衝撃波で更に瓦礫を粉砕する。誰の目にもその何かが映ることは無い。ただ駆け抜けた後の破壊だけがその時は見えた。

 

一直線に落ちる軌道上にいた鉄騎は一様に割られて、あるいは引きずられて一瞬のうちに装甲を白熱させてた。超高温の奇っ怪なオブジェが大量に作られる。

 

速度を落とすことなく着地。否、激突して床を盛大に陥没させた。擂り鉢状に作り直された足場で鉄騎が転び、倒れる前に駆け抜ける光に斬られて停止。最後になのはとクロノを襲う鉄騎も纏めて薙払って殲滅した。

 

ようやく光るナニカが動きを止め、その輪郭をあらわにする。

 

眩い稲妻の輝き。

 

右の手にはここにいる全員が何度か目にした戦斧型のインテリジェントデバイスが鎌の形態をとり、右胸には一度S2u打ちと合わされた拳銃型のデバイスがホルスターに挿されている。

 

ツインテールに纏めた金髪が風に靡き、

 

全身の各所から生えた黄金の翼が消失、漆黒のバリアジャケットをに身を包んだのはフェイト・テスタロッサだった。

 

 

 

 

最初の落下、フェイトは殆ど何も考えずに身を下に加速することに専念していた。鎧を切断したのも引きずったのも、実は半分くらいは攻撃を外している。彼女の頭にあったのは、

 

「よくも、この子を……」

 

着地したフェイトは、鎧に対する怒りに任せて鎌を構えた。

 

『思考加速にブレが生じます。冷静になって下さい』

 

「ッ!!」

 

分かっている。だから出来るだけ自分の感情を抑えて、

 

「行きます」

 

光翼を再展開して鉄騎の集団に飛び込んだ。

 

『オーバークロック……』

 

氷風の電子音が聞こえた瞬間、視界に映る全てが色落ちしたスローモーション映像のようになり、最大限のソニック・ムーブを発動して増速した筈の自身の身体が元の速度に戻る。

 

思考が加速した身体に追いついているのだ。

 

フェイトは今までソニック・ムーブの出力をある程度抑えていた。速すぎたのだ。以前ブレシア邸で行われたシュミレーションでは、音速を軽く超えてしまった。

 

『……30間、地上で機動に耐えられると判断します』

 

十分過ぎる。

 

「ッ――――!!」

 

声にならない声を作り、ピクリとも動かない灰色の鉄騎を片っ端から斬りつける。固まっている敵を全て両断するのに体感で18秒しか掛からなかった。残りの12秒で作れるだけのフォトン・ランサーを作り出し、出来た端から空中にいる鉄騎へ撃つ。

 

『……30秒経過。オーバークロック終了』

 

ソニック・ムーブを解除。時間が戻り、疲労が一気に押し寄せる。だが集中力だけは切らさずにフォトン・ランサーの行く先を睨む。

 

数は41。全ての雷槍が的を貫いてた。フェイトが通り抜けた地上、そして空中で一斉に爆発が起きる。その爆風と魔力の奔流は彼らのいる空間全体を打撃し、天蓋を破られたことで既に破壊が進んでいた『結界』を完全に打ち砕いた。

 

『テレポート可能、いくよ!!』

 

エイミーの通信と同時になのははアースラへ転送された。

 

ふう、とフェイトは息をついた。彼女の事はひとまずアースラのスタッフに任せるしかない。最後にもう一度鉄騎の残存がいないか確認してバルディッシュを杖型に戻した。

 

「フェイト!」

 

うん?と振り返った先から何かに視界を遮られた。あったかい。

 

「フェイト、フェイトフェイトぉ……!!」

 

「あ、アルフちょっと、くるしい……」

 

「心配したんだよ……!!」

 

全く聞いていないので自力で顔をアルフの肩上に出した。

 

「ただいま」

 

両腕ごとホールドされていて背中に手を回してやれないが、まあ問題ないだろう。

 

と、アルフの背中越しに見える向こうにボロボロのクロノがいた。

 

「凄いな君は。あれだけの速度で飛んで、敵を斬るなんて。本当に僕と同年代か?」

 

「あれは葉木が貸してくれた氷風のおかげ。氷風が私の体感時間を引き伸ばしてくれたから」

 

「……葉木って本当に何者なんだろう」

 

まあいい。とクロノは続けた。

 

「今、アースラから連絡があった。なのはの処置を開始、十中八九問題なく回復出来るだろうと」

 

「そっか」

 

「『あの年で都市破壊級の魔導師が、そう簡単に死ぬか』だそうだ。……ドクターは君の方を心配していたぞ?」

 

「私は大丈夫だよ」

 

「そうか。なら病み上がりで済まないがなのはの抜けた穴を埋めてもらいたい」

 

「本気かクロノ!?」

 

ユーノだ。今まで鉄騎が射出された穴に結界を張って回っていたが、作業が終わって戻ってきたらしい。

 

「ブレシアはフェイトの母親なんだぞ!」

 

「ユーノ、やらせて。私は母さんと話をしたくてここに来たから」

 

「フェイト!? ダメだよ!! またひどいこと言われるに決まってる」

 

「それでも、もう一度会いたいんだ」

 

見返されたアルフは二の句を告げなくなった。

 

 

 

 

………今までにないくらい強い目線だよ。

 

今まで、数えるのが馬鹿らしいほど彼女の赤い瞳を見つめたアルフだが、それでも気圧された。

 

この覚悟は相当だ。きっともう誰も私の主を止められない。

 

今フェイトは高町なのはのリボンと栗原葉木のデバイスを手にしている。恐らくそれらが覚悟を決めさせた起爆剤で、持ち主達は背中を押す存在なのだろう。

 

ならば、と。アルフは思った。二人には感謝しなければ。

 

真紅の目に、ここまで見惚れたのは初めてだ。

 

 

 

 

「では、これからの流れを説明する」

 

咳払いをして、クロノが全員に言った。

 

「状況は最悪だ。此方はこの部屋での足止めで全員が疲弊した。更にジュエルシードの暴走臨界までそう時間がない。だから───」

 

クロノは思った。これから先を進むのには二手に分かれ、ジュエルシードとブレシアを捕縛する斑と、ジュエルシードを起動させ続ける動力炉を破壊する斑に分けるべきだ。そうすればどちらかが致命的なミスを犯しても補完が効く。

 

 

 

「―――だから、全員でブレシアの元に行く。行ってジュエルシードを停止、ブレシアの確保に全力を注ぐ」

 

馬鹿な作戦だ。これでは道すがらにたった一本の虚数空間の割れ目があるだけで全員が足止めされ、次元震は避けられないものとなる。

 

「分かった」

 

「うん」

 

「了解。でもクロノ、君らしくないんじゃないか?」

 

「会って間もないだろう、僕とお前は。互いに知らない部分が多くて当然だ」

 

ユーノの向こう、まだまだ乾ききらない血だまりを見て、クロノは自覚した。

 

これ以上、だれも傷つけられたくない、のかもしれない。

 

でも、ならばこそ今すべきことは思考にふけることではない筈だ。

 

「───さあ、行くぞ。もう本当に時間がない」

 

だだっ広い庭園を、クロノは先頭に立って走り出した。

 

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