魔法少女リリカルなのは The Annihilation Swords and Fists 作:zwart
「ついた………」
鉄騎と戦った部屋を抜け、ブレシアとジュエルシードの反応を追ったクロノ達は、何の罠も妨害もなくあっさりとジュエルシードの元に辿り着いてしまった。
「偽物とかじゃないよな………」
「………少なくとも、ここに母さんがいるのは確かだよ。魔力の反応がある」
だが、母の姿はない。魔力反応は皆捉えているのだが………。
「ジュエルシードも本物だ。大分危険な状態だけど」
部屋の内壁は何らかの機材やそれらを繋ぐ配管で一部の照明が隠れている状態で、全体が薄暗い。部屋の中心では台座の上でジュエルシードが不規則に輝いている。魔力のような何かが激しく空間を打ち付けているのが魔導師には解った。
「どうすれば安全に停止できるんだ?」
「待ってくれ、これに似た装置を遺跡発掘中に見ることがあるんだ。大抵は停止してるんだけど………」
「封印したら止まらないの?」
「ジュエルシード側の力が強すぎて全員が協力しても負けちゃうよ。それにこのジュエルシードはただ暴走してるんじゃない。核融合炉みたいな何らかの動力炉に組み込まれた上で意図的な暴走をしてるんだ。だからブレシアの作った正規の制御システムに緊急停止シーケンスを発動させた方が安全」
早口で言いながらユーノが部屋の左手にあるコンソールに手をかけた。そして頷きながら幾つかのスイッチを切り替える。
「まさか生きてるのをみたことがあるのか?―――管理局法違反だぞ」
「ちゃ、ちゃんと報告して調査隊を呼んだよ!………と」
ガタンと思い物を床に降ろしたような音が響き、
「とりあえず、外部からかかる魔力の流れを停めたからこれ以上状態は悪化しない。炉の暴走も収まる。けど―――」
「ああ、流石に分かる。ジュエルシード自体は発動したままだから次元震は止まらない」
「………ダメだ!これ以上の操作はパスワードか何かが必要みたいだ」
『話は聞いたよ!こっちに制御情報を回して下さい。解析してパスを割り出します!!』
アースラのマシンパワーならそれも叶うと、そう思ったクロノだが、
「ダメだ!! 情報をコピー出来ない!!」
『そんな………』
『次元震反応、さらに大きくなります!! これ以上はアースラの距離でも危険ですッ!!』
『まて、転移反応一つ!これは―――!?』
なんだろう、これ。
フェイトは今、自分の置かれた状況を理解していなかった。
視界が真っ白で、空気の感覚がつかめない。
………というか、もしかして体がない?
試しに手を目の前にかざしてみようとする。イメージは象を結んで目の前に自分の手が現れるが、やはり体を動かしたという意識はない。
まさか次元震に巻き込まれて死んで黄泉の世界に来たのかとも思ったが、それだと自分の他に誰もいないのはおかしい。
と思ったらいた。クロノ、ユーノ、アルフ。みんな困惑して顔を見合わせている。しまった全員いるならばやっぱりここは黄泉とか天国とか地獄そういう世界なのかと思ったが、その瞬間にさらに人数が増えた。それは大人と子供が一人ずつで、
なのはと母さん!?
二人は手を繋いでこちらに向かってきている。二人は揃って同じ方向を指さしていて、その方向にはジュエルシードが輝いていた。
そして二人がまずジュエルシードに手をかざし、そこに魔力を溜めた。
母となのはの莫大な魔力が形成するのは封印術式。だが圧倒的に出力が足りない。
恐らくこの空間は次元震の予震が作り出した何らかの異空間。なのはがなぜいるのかは分からないが震源にいた人間がそこに落ちて、一緒にジュエルシードも落ちた。
その場合、異空間側にいるフェイト達でなければジュエルシードを止めて次元震を防ぐことはできない。アースラには、少なくとも速効性のある戦力で未知の次元に到達可能なものはないのだ。
そしてもはやジュエルシードに対して可能なアプローチは封印しか残されていない。
この空間には肉体を持ち込めていないようなので声は出ない。だが伝播するまでもなく彼らの目的は同じ方向を向いていた。
六人が両手にありったけの魔力を収束し、ジュエルシードを押さえつける。
例え全ての魔力をここで使い果たしてもいい。
例え元の次元に戻れなくてもいい。
ただ、届け。
届け!!
ジュエルシードをめぐる一連の事件は幕を閉じた。あの時、プレシアがなのは達と共同で発動させた封印魔法は成功し、全てのジュエルシードは安全に回収された。
何故プレシアが最後に協力したのか、それは分からない。封印術式を行使した後、彼女は激しい衰弱状態に陥り、今現在意識不明のままアースラに確保され、医療処置を受けている。だが死んだわけではない。彼女が起きた時に話を聞きだすことが出来れば、事件いよいよ収束することだろう。
この後に事後調査とフェイトの裁判を控えるものの、アースラスタッフと高町なのは等協力者にとっては一つの終わりを迎えたのだ。
傷の治療が済んだらアースラはなのはを降ろすため、地球に到着する。フェイトとアルフは病室でなのはと一緒にいた。クルー達は邪魔をしないように最低限の監視をするのみだったが、そのさなかに突然の全艦放送が割り込んできた。
『エマージェンシー!! 第98管理外世界地球の日本待機局員との連絡途絶!! さらに同国首都圏で大規模火災を観測!!』
「―――え?」
最初に気付いたのはブリッジの通信担当官だった。彼は日本にいた局員に事件の収束と、協力者の帰還のため停泊する旨を伝えようとしたところ、一人はデバイスと繋がるのに本人が出ず、もう一人はデバイス自体の反応がない状態だった。規定に従い艦長への報告と再度の通信を試みたが失敗。
「彼らの待機地点をモニターして」
艦長の命令の元サーチが飛び、影像がメインモニターに映し出された。
瓦礫が燃えていた。
「該当区域に生存反応ありません!」
「サーチ区域拡大。エイミィは現地のネットワークから情報をサルベージ!」
サーチは都市のど真ん中で周囲10キロ圏内にアリ一匹として生命がいないことを断定し、エイミィはネット上の情報を読み込んだ解析を読み上げた。
「速報値の解析結果出ました!現在東京周辺は………攻撃を受けている可能性!? し、詳細は不明ですが質量兵器による空爆もあったようです!!」
「広域観測でも同様の結果が出ました。現場の広域映像出ます!!」
赤と黒、灰色のまだら模様がモニターに映し出される。
あらゆる場所から炎が噴出して燃え広がる。無傷な建物など無く、幾つかのビルは半ばから折れ曲がり隣に寄りかかるか押しつぶすかしている。燃えているのは都市部とその周辺だ。東京都心と神奈川県の東側に火災は集中していた。
「っ………、なのはさんのご自宅、海鳴市はどうなっているの!?」
「………爆撃と思われる火災の中です………」
「艦長………」
「っ、とにかくできるだけ多くの情報を集めて下さい。なのはさんには起きたときに私が説明するわ」
リンディは葉木の魔法は一切使うな、という言葉を思い出していた。
(彼はこの攻撃に関わっている?だとしたらどう関係しているの?)
(そもそも誰が、何のためにこれほど広域の破壊を?)
彼女の混乱、疑問はもちろんそれだけではなかったが、その一切の疑問が答えを得る前に2日がたち、炎は鎮火してなのはも覚醒した。
終章
ブレシア・テスタロッサによるジュエルシードを用いた次元震発生未遂に関する報告書。
宛:時空管理局次元犯罪捜査部
報告者:クロノ・ハラオウン
本案件はプレシア・テスタロッサと彼女の娘アリシア・テスタロッサの魔導師クローンフェイト・テスタロッサ、その使い魔アルフらによって起こされた特A級次元犯罪です。
まず彼女達はユーノ・スクライアが外縁次元での活動中に発見して、管理局本部に移送中だったロストロギア「ジュエルシード」の強奪を試み、結果的に第98管理外世界、通称「地球」の日本国首都圏に漂着する事態となりました。
ユーノ・スクライアとプレシア等は個別にジュエルシードの回収を始め、結果、ユーノ・スクライアが現地で得た協力者、高町なのは(推定A~Sランク)とフェイト・テスタロッサによる戦闘が多発。またジュエルシードによる小規模な次元震も観測されました。
我々アースラはユーノ・スクライア及び高町なのはに協力を要請し、第98管理外世界にて活動中だったフェイト・テスタロッサとその使い魔の制圧にかかりました。これに前後し、現地の魔導師栗原葉木による質量兵器を用いた妨害がありましたが、より危険なプレシア等の犯罪捜査、鎮圧に全力を注ぎました。
ジュエルシードはプレシアの制作した暴走特化型動力炉に組み込まれプレシア邸で発動したものの、重軽傷者数十名を出しながらも突入、封印回収に成功しました。
最後に、プレシア・テスタロッサ等が本事件を起こした動機についてですが、フェイト・テスタロッサについてはプレシアを母と認識し、彼女のために行動したまでであり、プレシアは当初彼女の娘アリシアを蘇らせる為にジュエルシードの暴走を利用し、幻とされるアルハザードに向かおうとしたととれる言動が伺えましたが、後日の捜査で彼女自身が何らかの洗脳を受けていたことが発覚しました。さらにプレシアは事件後に昏睡状態に陥っており取り調べが不可能な状態です。以上より両名については当事件における責任能力に著しく欠けると思われます。また、プレシアはフェイト共々プレシア邸での協力者二名を含む魔導師三名のジュエルシード封印に協力したことが証言されております。
以上をもちまして、事件担当官による第一回報告とさせていただきます。
とても穏やかに、彼は目を覚ました。彼は硬いベットの上に横たわっていた。
「ここは………ッ」
少し声を出しただけで激痛を感じた。肺か、喉か。呼吸器に異常をきたしているらしい。周りを見回すと、麻色の布と自身の腕に点滴が通してあるのが見えた。どうやら自分は大きな医療テントの端で治療を受けているらしい。今は夜なのか支柱にぶら下げたカンテラの明かりに照らされたテントの中には他にも数名の患者と、赤十字の描かれたダンボールがあった。そして自分のベットの前にダンボールを置いて座って、疲れたのかそのまま寝ている人。あの空爆の中、生き残った人々だろう。
あれからどれだけの時間が過ぎたのだろうか。あの鷲鼻の男は一体何者で、襲撃や空爆にどんな意味があったのか。疑問は幾らでも思いついたが、それについて考えをめぐらせられるほどの気力は残っていない。
自分のベッドサイドにダンボール箱を置き、その上に座って寝ている、妹が無事だった。それだけで彼の思考はゆるんでいた。仕方ないと思う。今はとても疲れているから、いろいろ考えるのは後にしよう。
「スグ………」
思わず名前を口にした。彼女も頭や脚に包帯を捲いている。自分の右手が彼女に握られているのが分かった。悩むのは後回しにしたはずが、頭の中には疑問や不安が増殖していく。目元の涙の跡は、心配をかけたということか、それとも誰かが―――。
やはり止めよう。後にどんなものを突きつけられるかは分からないが、どの道今の自分に出来ることはない。何かも分からない敵を相手に戦い、俺達は敗戦したのだから。
少年はもう一度目を閉じ眠りについた。
大変長らくお待たせしました。以上をもって無印編の完結とさせていただきます。A’s編の投稿はまだ掛かると思いますが、仕方ない読んでやろうという方はもう少しお待ち下さい。