魔法少女リリカルなのは The Annihilation Swords and Fists 作:zwart
それは甲が予測した郊外にあるテロ屋どもの穴蔵を襲撃した時のことだった。
立地は森林。その中で哨戒していた男に掌締を食らわす瞬間に、訪れた。
だちゅっ
それは水っぽい音をたてて葉木の右腕から力を奪い去った。
「コレはッ」
即座にバックステップ。木の影に身を隠す。
―――狙撃かッ。
ダン、ダン、と。急かすように立て続けに木の幹を穿つ弾丸が傷に響く。幸い弾丸は貫通しているようだが、この戦いで右手は使えない。
使えない以上は邪魔なので脱いだ上着で無理やり身体に固定する。
さて、利き手は沈黙したが、どうするか。
思い切って木の陰を飛び出し全力疾走する。ライフル弾が追って放たれるが、追いつかない。ならばまだやりようはあると判断した。
とりあえず隠れ家からワラワラ出てきたザコ共に5.7ミリをばらまく。片手ではリロードできずにマガジン一本分だけ撃ち尽くすと、木の陰から別の陰へと狙撃に対する盾を確保しつつ最小限の動きで敵に肉薄、三肢で接近戦を挑む。
一人目の顔面を殴って鼻を折り、二人目の脇腹につま先をめり込ませ、三人目、四人目を抜きはなった拳銃の乱射で打ち倒し、五人目を倒す前に限界がきた。
「Shit!」
狙撃。こちらの動きに合わせたそれは一瞬前に自分の頭があった場所を通過。次は中てられる。
狙撃兵は一番嫌な敵だ。一度狙われたら生き残るのは至難の業。歩兵が狙撃兵を倒すことなど不可能に等しい。
全力で敵の射線から逃れ、拳銃をリロード。
どうする……。
普通なら逃走するのが最善策だ。このままじっとしていても敵歩兵に囲まれれば、あるいは狙撃兵が移動すれば終わりだ。ではどこへ逃げる。
森林を走るのは不可能だ。歩兵はまだいるし、森林故に速度も出ない。
タアンと、背にする木が銃撃に振れる。
……位置は変わっていない。
安堵したその時、正面からアサルトライフルを構えた男が顔を出した。
ほとんど条件反射的に発砲。ヘッドショット。がたりと崩れ落ちた男の手から得物が零れる。
レーザーポインター付のアサルトライフルが。
木の陰から出ないように慎重にアサルトライフルを拾い上げる。
この時点で自身の行いの馬鹿さ加減に呆れたが、既に。覚悟を決めていた。否、腹をくくっていた
残った気力を振り絞って男の死体の影で片手撃ちの伏射姿勢をとりドットサイトを睨みつける
マズルフラッシュが視界に見えて、すぐ側の木の皮を抉った。
その銃撃が見えた場所にセミオートで連射する。小口径高速弾が浪費され続け、7発目で敵の右肩を捉えた。
───狙撃兵の無力化完了。
カウンターショット、なんて大層なものではなかった。偶々敵が此方に気付かず、なおかつリロードの最中で、風もあまり無かったから死なずに済んだ。ついでに言うと10発目が中ってくれたのも偶然だ。
───天童式戦闘術には『銃身一体の境地』というのがあるが、習得すべきだろうか。
ともあれまだ戦闘自体は終わっていない。残りの歩兵を片付けるか、この場を離脱するか。正直言って狙撃されないのならばただの消化試合だ。なので、
「おーしお前等、ちょっと俺のヤツアタリに付き合いやがれ」
ドイツ語で啖呵切った。
***
帰り道、それっぽく右肩の傷を包帯で巻いてカモフラージュして通りを歩いていた。自前で適当に治療したが、氷風と合流したら治癒魔法使って治すか。
と、通り道の露店で真っ赤な林檎を見つけた。小腹が空いていたので店の前にスポーツバックを起き、財布を取り出した。
如何なヨーロッパと言えどこの季節に厚着はキツいものがあるが、店主は深い緑のパーカーのフードを目深に被っていた。
「林檎をくれねェか、婆さん」
「2つで3ユーロよです
声に、驚く。顔が見えなかったから丸まった背格好とパーカーの柄で婆さんと決めつけたが、聞こえた声は随分若かった。
「スマン、婆さんじゃなかったのか」
「ハア……あなた絶対モテませんね」
差し出された手に代金を載せる。
「何でだよ」
「自分の発言を省みて下さい」
むう、と店頭で考え込む葉木。端から見れば小学三年生がおやつの果物をどれにするか悩んでいるようにも見えている。片腕を吊して目つきも悪いが。
「林檎です」
「あ……、ああ」
(モテないというところではなく)何か問題発言をしただろうかと、一瞬考え込んだ葉木は差し出された林檎の意味を一瞬忘れていた。
「あー、悪かったな。失言に気づいた。二言目だろ」
店主、というか少女は葉木の目の下を差し、
「いえ、そちらもお疲れのようですし、気にしないで下さい」
「ああ」
本当にに気にするのを止めた。
「それじゃ」
「またお越し下さい」
スポーツバックを担ぎ店の前から去る。歩きながら林檎を食った。
残った芯を捨てようとして、
「……そういや、罰金だっけか」
別にバレなければいいと思うが、生憎人の目も警察の目も多い往来だ。流石に誰かが見咎めるだろう。
「食うか」
結局ヘタまで全部食べてしまった。
***
「無茶をしましたね、マスター」
林檎を土産に部屋に帰ったら、氷風がどことなくキレた口調で出迎えた。
「……今、扉開ける前から気付いてなかったか?」
「この距離でマスターのバイタルを感知できないとでも?ええ、半径一キロ以内に入った時点で気付いていましたとも」
そんな機能あったのかよ。ともあれ、
「分かっていた筈です。あなたは狙撃をするのも対処するのも出来ないというのに。どうせその右肩も狙撃でしょう?」
「まあな…」
「まあな、じゃありません。だから私を連れて行けと言ったのに。私なら弾道を予測して念話で伝えるくらい造作もなにのですから」
ここで「魔力が残留したらどうすンだよ」とか聴いたら、
「魔力を零すようなヘマなどしません、伊達に隠密に特化してませんから」
から続く更に長い説教が始まるので止めておく。というかこのデバイス、本気でキレると逆に静かになるので怖い怖い。
結局小一時間説教食らってから腕の治癒に入った。結局部屋の返却時間ギリギリに終わって結構焦ったが、終わったからいいだろう。
この次の話、一話だけデータが見当たらない……。