あなたに捧げる金盞花   作:プー太郎

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ナルト、異世界に行く。


第一話 異世界

 

 それは一瞬の出来事だった。

 

 街一つを更地に帰す大きな術式。本来ならば発動する事の無い禁術に分類されるそれは、術者十余人を犠牲にして見事に発動してしまった。

 射程範囲の広さは到底ナルトの脚でも逃げ切れるものでもなく、生か死かの瀬戸際において唯一逃げ切る事が出来るだろう手段の実行可能性を議論している間も無かった。対象となる目印のない空間移動は、誰も試したことの無い未知の領域。結果も見えない危険な行為。しかしそれに頼る他なかった。

 敵の術式が目も眩むほどの光に覆われる直前に、ナルトはどうにか印を組み終える。

 

 街を包み込んだ光のドームが消えた後、そこには草一本も残っていない焦土が広がっていた。

 

 

 

 

 

     第一話   異世界

 

 

 

 

 

 あちらこちらに意識が引っ張られるような、眩暈にも似た症状に襲われていたナルトに次いで訪れたのは、背中への衝撃だった。受け止めたのが柔らかな土だった事が幸いして大したダメージは受けなかったが、それでも予想していなかった衝撃に息を詰める。

「……っここ、は」

 先程まで立っていた森とは少し異なる雰囲気に気付き、すぐさま体勢を立て直す。何故場所が変わっているのかと思考を巡らせた所で、空間忍術を使った事に思い至る。

(成功、したのか?)

 素早く周囲に視線を走らせて敵らしき人間がいない事を確認すると、次に自身の身体を調べる。

 装備に不備はない。

 身体にも異常なし。

 術の所為で莫大なチャクラを持って行かれたが、体調も至って万全。

 自身に掛けた変化も解けてはいない。

 己の身一つ無事であれば、此処が何処であろうと生きていける。そうして漸く張り詰めていた緊張を解いた。

 背後の木に凭れて見上げた満月は中天に座し、暗闇を抱く森に僅かばかりの光を射している。忍(己)の時間はまだまだあるようだ。

(ったく。証拠隠滅の為に街一つ道連れかよ)

 ナルトの任務が殲滅であり、図らずとも任務を達成出来たものの、危うく巻き添えを食うところだったのだ。その心中は決して穏やかではない。

「兎にも角にも、いい加減動きますか」

 唇だけでそう呟いてから影分身を四体、作り出すと、それぞれの方角に走らせる。ナルトの落ちた場所が何処に位置するのか、特定する為だ。

 各方面への情報収集は影に任せてナルトは周辺で一番高い木に飛び移った。軽い動作で上へ上へと登り、天辺から辺りを見下ろす。

 周囲は正しく森だった。

(おいおい……マジで何処だ、此処?)

 ナルトは暗部総隊長という立場上、それこそ火影と張るくらいには様々な土地へ行った事がある。だから多少飛ばされても直ぐに場所を特定出来ると踏んでいた。しかしこれはどういう事だろうか。ナルトの予想は外れ、此処は見たことのない地形をしていた。

 さりとてナルトも人間である。他の人間よりも他国を知っているとは言え、世界の全てを知っている訳ではないのだから、見知らぬ土地の一つや二つあっても当然の事だろう。

(頼むぜ、分身たち)

 細い枝に腰を下ろすと、フードを下ろし暗部面を横にずらす。するりと黒髪が頬を撫でた。

 黒髪金瞳は暗部用の変化だ。もう十年以上も愛用している姿だから、男であると言う事も戦闘には向いているし、いっそこっちが本当の姿だと本人ですら間違えそうになる。ただ今回もやはり、暫らくはこのままで過ごさなければならない予感がする。

 ふぅ、と息を吐き、瞼を下ろす。影とリンクを繋げば、四人分の情報が流れ込んできた。

(北は海に着いたか。こんな短時間で海に着くって事は北に飛ばされたか?)

 東へ向かった影は未だ森の中を疾走している。南の方はいくつか村を発見したようだ。西は……と意識を向けたナルトは、そっと口角を上げた。

(まるで樹海みたいな鬱蒼とした森。誰も来ないような場所なのにトラップが凄い。数、威力共にハンパねェな。こんな広範囲に仕掛けるのは大変だったろうに。計算され尽くした配置、何かあるって言ってるようなモンだが……それさえも罠か。いっその事このまま誘導に乗っても――)

「――っと」

 影の方に意識を傾け過ぎたようだ。すかさず目を開けて、バランスを取り直す。その際に枝がしなり音を立ててしまったが、近くに人はいない為に問題なく済んだ。

「いよいよもって認めるべきか……」

 先程から流れてくる四体の影からの情報。

 それらを辻褄が合うように纏めると、どうにも嫌な推測しか成り立たない。

(此処は火の国じゃない……否)

「異世界、か」

 口に出してしまってから、自分の発言に眉を顰めた。

 北の影はあの後、漁村を見付けた。そこで垣間見た人々の衣服や生活、南の村々も同様の些か古い生活をしていた。東の影が発見した城の城主は、聞いた事もない名の男だった。

 今が寝静まる夜中だからか。己の知らぬ他国だからか。ならば朝が来れば或いは……と胸中に浮かび掛けた淡い期待をすかさず否定する。

 ナルトの優秀な頭脳が、たった一つの可能性を叩き出しているのだ。朝が来ればその推測は確実な裏付けを手に入れて、事実となるだろう。己の出した完璧な答えを否定する方法を、愚かに成れないナルトは持ち合わせていなかった。

(兎に角、情報が足りない)

 此処がどのような世界なのか。

 山奥に篭もるにしてもどこかに属するにしても、今後の身の振り方を決めるには情報が足りない。となると、今出来る事は情報を集める事だけ。

 今日一日は情報収集のみに追われて終わりそうだと、深く息を吐いて幹に凭れ掛かる。

 南に放った影も海に着いた事から陸地はどうやら東西に伸びているらしいと当たりと付けて、影を更に二体作り出し、東西に走らせた。

 

 

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