「ふんふ~ん♪」
フィアッセさんの曲を鼻歌で機嫌よく鳴らしながら、釣竿が動くのを待つ。
つっても、別に湖や海に投げ込んでいるわけでなく、次元に投げ込んでいるので、魚が釣れるようなことはないだろう。
本日の久遠センサーによると、何かが釣れるかもとのことだったので、こうして暇つぶしもかねて釣竿を垂らしている。
「おっ、本当にかかるとは」
釣竿に反応があり、竿の先端がしなったのでひくと、中々の手応えが返ってきた。
「よいっしょー」
「うわぁっ!?」
さらに力を込めて引き込むと、竿の先端にはちょいとロン毛の少年が食いついていた。
まぁ、食いつくというよりは、針に引っかかっていただけだが。
「な、なんだ!?」
突如、体を引っ張られるような感覚があり、踏ん張っていたんだが、踏ん張りきれずに結局体が宙を浮かんだと思ったら、背中から地面にたたきつけられてしまった。
「ううむ。確かに釣れはしたが、これといって食うわけじゃねぇからなぁ……戻すか」
「待て待て待て!」
猫のように持ち上げられ放り投げられようとしたが、慌てて止めると、恐らく今の俺の状況を作った犯人はすんなりとやめた。
「誰だお前は!」
「貴様に名乗る名などない!」
「えぇっ!?」
キリッとした表情でそんなことを言ってくる目の前の男。てか、犯人の癖に逃げも隠れもしないで、俺をおちょくってきてやがる。
「おー、よくおちょくってるのが分かったな」
「心を読まれた!?」
「表情から推測しただけだよ。そこらへんは得意でね。それより、ようこそ時の庭園に」
「時の庭園?」
「俺が住んでいるこの場所のことだよ」
言われて周りを見渡せば、さっきまでいた海鳴市の風景とは似ても似つかない場所だった。
なんというか、太陽もあるし、空もあるけど、なんかこう……ジオラマみたいな感じだ。
「さて、自己紹介がまだだったね。俺は緋凰紅莉。しがない剣士だよ」
「結局自己紹介するのかよ!?」
「ネタに走っただけだからね。こちらの都合で来てしまったんだ、最低限の礼儀はしなきゃね」
「しょっぱなに捨てようとしただろ!」
「いや、呆けているうちに戻せば白昼夢と思うかもしれないじゃん」
「するか!」
くそっ!さっきから、調子が狂う。なんだよこいつは。
『あー、テステス。ちょっといいかの?』
「誰だ?」
イライラしているところに、この場所一体に声が響き渡った。この声はアポロニアス様か。
『あー、わしは堕天使族生死管理部部長のアポロニウスというのじゃが』
「神様じゃん」
「お前!失礼だろ!」
不遜な態度を取るのもいい加減にしろよな!?
『あー、俊輔、気にするでない。こやつは、下手な神すら殺せるような奴じゃから、下手にこっちから喧嘩を売っても一銭の特にもならんわい」
「へ?」
「失敬な。俺より実力が10倍くらいあるならまだしも、それ以外なら殺せるぞ」
アポロニウス様の言葉に驚いた俺だったが、緋凰紅莉はさらに爆弾発言をしやがった。
「俺の好きなアニメに『生きているなら、神様だって殺して見せる』ってのがあるけど、俺の場合は見えさえすりゃ、斬れないものなんてねぇ」
『まぁ、よいわい。わしの言いたいことは全く別のことじゃし』
なんか、アポロニウス様がすげぇ投げやりになってしまっている。大丈夫かな?あとで、フォローしてあげないと。
「んで、神様がなんのようです?」
『そこにいる山本俊輔なのじゃが、無事に元の世界に戻してあげてくれんかのう?転生したばかりじゃし、こちらのミスで死なせてしまったものじゃし』
「テンプレだなぁ」
『耳が痛いわい。んじゃ、頼むぞ』
そういうと、世界を覆っていた不思議な感覚はなくなった。
「神様ですか。空想のものばかりと思っていましたが、違ったようですね」
「うわっ!?」
後ろから声が聞こえて思わず変な声を上げてしまった。振り返ると、ネコ耳メイドが!
「要のところの神様にあったことなかったか?」
「知りませんねぇ。あの人はいつも、次元の壁を裂いてやってくるじゃないですか」
なんだか、頭がおかしい会話をしている。ダメだ、冷静になれ。こいつらの、会話を聞いていたら頭が湧いちまう。
「さて、お客人。ようこそ、時の庭園へ」
「それはもう、俺が言ったよ」
「あら」
「俊輔君だったね。まぁ、とりあえず、うちに来い。このまま帰っても面白くもないだろう」
いや、俺としては面白い面白くないとかの問題じゃないんだけど。
なんとも、言い出しがたい雰囲気になってしまったので、黙って紅莉さんの後をついていくと、和風と洋風の家が混ざり合ったような家が見えてきた。
「どうぞ」
「あ、どうも」
「すまんね。妻は出かけてしまっていて、ここにはいないんだよ」
妻帯者だったのか。無茶苦茶な奴だからてっきり独り身だと思った。
「その顔ですと、紅莉に妻がいることが意外と思っている顔のようですね。一つ言っておきますと、紅莉は女たらしですよ?あの子を娶る前まではハーレム状態でしたし」
「ひでぇ。俺はそんなもの作った記憶はない。クロードと一緒にするな」
「しっかりと明言していたクロードの方がましでしょう」
とりあえず分かったのは、こいつは女の敵だということだ。ランカやシェリルがいなくてよかった。
「あれ?お客さん?」
おくからひょこっと表れたキツネ耳の美少女が紅莉さんのもとに駆け寄って尋ねている……こいつ、ケモナーか!?
「そうだよ。ほら、久遠が朝に言っていただろ?何かが釣れるって。だから、やってみたら、釣れたのがこの子だったんだよ。ほら、挨拶しな」
「うん、こんにちわ」
「こ、こんにちわ」
か、かわいいな。無垢な子というのは、この子のためにあるのかもしれない。
「言っておくが、久遠に手を出したりちょっかい出したりしたら……殺すぞ?」
「っ!?」
紅莉さんから一瞬だけだが鋭い殺気が放たれた。それだけで、俺は息をするのを忘れそうになるくらいに、心を締め付けられる。
てか、別に手を出しませんから!!
「それじゃ、帰るかい?」
「えっと、その……紅莉さんは強いんですよね?」
「さぁ?強さに興味はないから、知らないね」
「興味、ない?」
「俺は、俺の目的のためだけに剣を振るうからね。誰より強い。誰よりも優れている。とかの、評価は興味ないんだよ」
よくわからないな。神様を殺せるというのならば、弱いわけがない。それとも、何か特殊な能力でも持っているんだろうか?
「どうしてそんなことを聞くんだい?」
「えっと、その……俺と戦ってほしいかなって」
「いいよ」
「いいんですか!?」
「戦いに関しては、余程のことじゃない限りは、受けるつもりだからね」
そういって、紅莉さんは立ち上がるとそのまま外へと向かって行ってしまった。あれ?俺もついていく流れか?
「一つ言っておきますが、殺気は出さないようにしてくださいね。殺気を出して、攻撃すれば、紅莉は反対に殺しにかかりますから」
慌てて後を追おうとしたら、メイドさんがそんなことを言ってきた。物騒なのは、そうなんだけど、なんというか極端すぎる。
「さてと、俊輔君はどこの世界に転生したんだい?」
「えっと、リリカルなのはって世界なんですが、知ってます?」
「知っているよ。てか、俺もそこの世界の出身の転生者だしね」
またもや爆弾発言いただきましたーーっ!さっきから、ぽんぽんと出てくる単語に度肝を抜かれっぱなしだよ!
「それじゃ、デバイスは持ってきているだろ?」
「はい。ユリ、セットアップ!」
《Standby Ready……Set Up!》
バリアジャケットに身を包み、両腰・後ろ腰に銃と剣が現れる。
「へぇ、カドラか」
腕を組んだままだ紅莉さんは関したように俺を見る。紅莉さんはいつの間にか、白いロングコートを纏い、腰には刀が差してあった。
「それじゃ、行きます!」
「遠慮なくどうぞ」
相手は日本刀を使うような人だ、遠距離はそこまで強くないだろう。まずは、双銃を抜いて、紅莉さんに向かって放つ。
紅莉さんが防御なり避けるなりする間に、接近戦に持ち込もう。
放ち終わった双銃を素早く腰に戻して、魔力弾に追従する形で一気に駆けると、驚くべき光景が目に入る。
紅莉さんはあろうことか、腕を組んだまま動かずに近づいてくる弾丸をただ黙ってみているだけだった。いや、どちらかというと、俺を見ている。
まさか、本当は弱いんじゃ。神様を殺せるとうのは、本当に特殊な条件がそろった時に可能なだけなんじゃ。
そう思いながら、とりあえず放った弾丸の数は少ないため、万一のことを考えて距離を詰めていったら、驚きの光景があった。
俺の魔力弾が紅莉さんに触れると思った瞬間、魔力弾が掻き消えたのだ。
その事実を目のあたりにして、俺の脚は止まってしまう。
それと時を同じくして、シャランという鈴がなったような音が響いた。
「どうした、こないのかい?」
「っ!?」
紅莉さんの言葉に我に返り、双剣をもって斬りかかる。
しかし、紅莉さんは初めから攻撃がそこに来るのが分かっているように、たやすく俺の攻撃を避けた。
あれから、どれくらいの時間がたったんだろう。俺の攻撃は一向に当たらず、肩で息をしているのに対して、紅莉さんはケロっとしている。
「う~ん。まだまだ、荒いね。要修行といったところかな」
「はぁはぁ、げほっ」
未だに呼吸が整わず、咳き込んでしまった。これほど、疲れたのなんて初めてだ。
「魔力量もいいんだろうけど、それを使いこなせていないし、君の近接技術に至っては、まだまだと言わざる得ないよ」
「くっ。攻撃をしない人が、何を……」
思わず、言葉遣いが乱暴になってしまった。だが、偽らざる気持ちであるのも間違いがない。
「それも戦略の一つさ。最小限に動けば疲れづらいからね」
理屈は分かる。けど、納得はできない。
「それじゃ、一回お休み」
紅莉さんのその言葉を最後に俺は意識が落ちて行った。
「はっ!?」
「俊輔!」
「俊輔君!」
気が付けば、シェリルとランカが俺の近くで泣きそうな顔で覗き込んできていた。
「いきなりいなくなったと思ったら、倒れて現れるのよ!心配させないでよ!」
「ずっと、起きなくて、もしかしてもう起きないんじゃないかって心配したんだよ!」
そうだったのか。体に異常はなさそうだ。
つーか、さっきのあれはなんだったんだ?もしかして、夢か何かか?
「よっと。二人とも、心配かけてごめん」
二人に頭を下げると、今回だけだからとくぎを刺されたけど、許してくれた。
「ん?」
ベッドから起き上がろうと、手をついたら何やら手紙があった。
『起きないようだったから、元の世界に送り帰しておいたよ。いつでも、来ればいいさ 緋凰紅莉』
どうやら、夢じゃなかったようだ。夢であってほしかった。