「お、出来た」
狙った的が勢いよく吹き飛ぶのを見て、あっけからんと口にしてしまう。俺の言葉を聴いた、兄さんや美由希が近くに寄ってきた。
「出来ているな」
「本当だ。凄いよ紅莉!」
俺がやった結果に兄さんも美由希も感心する。
「前から、飛針技術は私よりも上手かったけど、今回は恭ちゃんより速いなんて」
「黙れ、馬鹿弟子。しかし、抜かれたか」
美由希の感想にムっとしながらどこか残念そうに呟く兄さん。
「飛針技術ってわけじゃ、無いんだけどね」
俺は俺で、美由希に対して苦笑いで答える。俺が持つのは天命の針技術であって、攻撃的ではないのだ。まぁ、母さんは狙ったところに針を投げれるだけの技術もあったし、俺も練習はしていたけど。
「コツは、徹を込めて放つって感じかな?」
「なにそれ、難しすぎ」
「徹はあくまで、打撃の延長だから飛針に込めるというのは無理があるが」
「でも、俺の感覚はそんな感じだよ?」
数週間前に、兄さんの護衛依頼に助っ人として一緒に行ったときに、そこで会った性格が破綻した神父もどきが、ナイフを使って相手を盛大に吹き飛ばしていたのだ。
兄さんや俺も対峙したときに喰らったのだが、勢いよく獲物がかちあげられ、焦ったものだ。その時は何かしらの魔法でも使ったのかと考えたのだが、エアからはそんなものは観測できなかったという報告を受け、技術だと判明した。
帰ってきてから、兄さんと美由希を交えてあの時に相対し、喰らった感触を元に色々と考察しながらやっていたら、漸く出来たわけだ。
徹の技術は何も御神や緋凰の専売特許ではない。御神は名前がついているけど、緋凰には無いように、流派や技術によってまちまちだ。
ただ、総じて古式武術には存在している傾向が強い。
色々と考えていたら、なにやら鉄砲で撃ったような音が聞こえてきたのでそちらを見てみると、兄さんの的が勢いよく吹っ飛んでいた。
「ふむ。こんなものか」
「ちょっ、恭ちゃん無理って言ってなかったっけ!?」
「無理に近いとは言ったが、不可能とは言った記憶はないぞ」
「二人ともやっぱり人外だよ!」
なにやら美由希がすげぇ失礼なことをほざいていやがる。確かに魔法を交えた俺は人外だが、生身のときは人間だよ。兄さんと一緒にするな。
「しかし、これがあれば防刃、防弾性の服を着ていても、飛針が有効活用できるな」
「だねぇ」
飛針の弱点は厚手の装備を選ばれると役に立ちづらくなることだ。生身の部分を狙うのは当たり前だが、兄さんクラスのプロフェッショナルになると、装備は勿論のこと、生身の部分の防御もしっかりしているため、飛針が役に立ちづらくなるしなぁ。
「うぅ……」
美由希がなにやら不貞腐れながらやっていたが、四、五回練習したらできていたのだから、人のことは言えないと思う。まぁ、才能の固まりだし当然といえば当然だけど。
「兄さん達には小刀もあるし、あれでやれば更に威力増すんじゃない?」
「ふむ、そのうちやってみるか」
既に自由に放つことができるようになった兄さんに提案してみる。まぁ、練習するにしても、装備もわりと高いからそうそうできるわけではないだろうけど。
「緋凰」
「どしたの、ボス?」
隊の合同演習が終了し、シャワーを浴びた後、ソファーで寛いでいたら、ボスがやってきた。報告書は例の如く、エアにまかせっきりだ。
「近々予定されている、本局との合同任務なのだが」
「そういえば、そんなのもあったね」
いやぁ、レジアスのおっさんが滅茶苦茶、苦い顔していたのが印象的だった。あのおっさん、どれだけ本局が嫌いなんだよって言いたいぐらい嫌ってるからなぁ。
まぁ、鼻持ちならぬエリート意識が強い連中が多いのも事実だけど。
「それでだ。その任務にだが、お前に行ってもらうことになった」
「えぇ……」
「しかしな、本局の武装隊にお前の知り合いがいるのだろう?」
「ええ、まぁ」
「今回の任務にあたって、その知り合いの名前があったのでな」
「マジで?」
「本当だ。データを送るぞ」
ボスから送られてきたデータを見てみると、そこにはなのはの名前とヴィータの名前があった。どうやら、二人も今回の任務には出張るようだ。
「マジだ。了解しました、緋凰准尉行って来ます」
「ああ。お前に言うのもあれだが、気をつけてな」
ボスの激励に敬礼を返してから準備を行う。まだ日程的には余裕があるが、まぁ気心の知れた奴だけって訳じゃないし、嘗められるのもあれだからな。
「地上首都防衛部隊からやってきた、緋凰准尉です。よろしくお願いします」
「うむ。地上戦においては君達のほうが理解が深い。よろしく頼む」
合同任務の当日、やってきた世界にいた武装隊の隊長に挨拶すると、わりとすんなりと受け入れられた。
「君は確か、高町とヴィータ、両名と仲がいいとのことだな」
「はい」
どうやら、先に情報を集めていたようで、なのは達との仲を尋ねられた。
「武装隊の仲でも若きエースの二人と仲がいいとのことだ、君も相当なものを秘めているんだろう。期待しているよ」
「期待されるのは嫌いじゃないので、頑張ります」
俺の返事に苦笑いで答える部隊長。部隊長に案内された待機スペースに待っていたのは、武装隊の面々だ。
中にはやはり地上からということで嘗めた視線を送ってくる奴もいるが、そんなのはさせたい奴はさせておけという感じ放っておいて、目的の人物を探す。
「紅莉君!」
探していると、右側から慣れ親しんだ声が聞こえてきたので振り向くと、なのはが小走りでやってきていた。
「こちらでは、初めまして、高町二尉」
なのはに向かって敬礼をすると、ピタリと止まる。
「ぶ~、意地悪……」
ホッペを膨らませていじけるなのは。すると、隣から軽く頭を小突かれた。
「あんま、苛めてやんなよ。こいつ、機嫌が悪くなると黒くなるからな」
腕を組みながら、さらっと恐ろしいことをいうヴィータ。なにやら、武装隊の人たちも覚えがあるのか、微妙に顔が青い?
「よっ、久しぶり」
「そうだな。向こうでもこっちでもあまり会えてないからな」
クロードなんかは、ここ最近はなんとか余裕を見つけては、俺達の鍛錬に混ざりだしたのだが、ヴォルケンズなんかは全く会えていなかった。
「相変わらず、ちっこいな」
「うっせぇ!」
全く見た目が変わらないのでからかうと、気にしていたのか大声を上げて脛を蹴ろうとしてきたので、足を上げて避ける。
「避けんな!」
「無茶言うな。避けなきゃ痛いだろう」
さらにつっかかってくるヴィータの頭を抑えて抵抗する。なんか、このまま手をぐるぐる回してきそうだ。それはそれで微笑ましいが。
「ヴィータちゃんばっかり……」
横からどんよりとした空気を感じてみてみれば、なにやらなのはが顔を俯かせている。
「ま、まてなのは!これは、紅莉がからかったからで!」
「私には他人行儀なのに、ヴィータちゃんには」
「上司にタメ口を使えとな?無茶を」
「オメーも刺激すんな!」
因みに、ヴィータと俺は同じ階級である。隊服についている、エンブレムで確認済みだ。
「てか、お前はいつのまにそんなに昇進したんだ」
「ん?テロ犯を直接捕まえたり、テロった馬鹿共を制圧していたりと、色々と直接の手柄が重なりまくってなぁ」
しかも、いつだったか忘れたが、出勤していたらボス達は任務で出かけていたために、待機組みとして訓練場で刀振っていたら、別の場所で事件が発生して一人向かって制圧したとかもあったりした結果、なにやら昇進させなければ流石に問題だと思われたらしい。
給料が上がるのはいいんだが、余計な責任も増えるため、いいんだか悪いんだか。
「また、私を除け者にして……」
「わー!待て待て!」
「総員退避ー!ご光臨なされるぞー!」
和やかなムードから一転、阿鼻叫喚である。
「こりゃ大変だ」
既に幻武を発動させ、退避済みである。ちょっと離れてみているのだが、四方八方に逃げ回っているなぁ。
「紅莉君どこ!」
セットアップしたなのはが、あちらこちらに視線を向けるが、残念ながら俺を見つけられないようだ。
「レイジングハート。ブラスター1!」
《マスター、落ち着いてください》
「だったら、ロードカートリッジ!スターライトブレイカーであたり一面を攻撃すれば紅莉君も巻き込めるはず!」
《落ち着いてください》
「紅莉、出てきやがれ!流石に洒落にならねぇ!」
いやぁ……はっはっは……、調子に乗りすぎた?超やべぇ……なのはが、ここまでやるとは思わんかった。
「てい」
「うっ」
なのはの後ろへと回り、首に手刀を落とすと、なのはは小さなうめき声を上げて倒れそうになるのをやさしく受け止める。
「一体何がなのはをここまでにした?」
「ここ最近じゃ、家に帰ってもすれ違ってばかりで会えなくて寂しいって言っていたからな」
「あー……」
俺となのはじゃ出勤タイムが違ったり、土日に行くなのはに対して平日に動く俺とじゃ確かに……それに、この前は兄さんに付き添って海外行っていたからなぁ。
「まぁ、何とかフォローしておくよ」
「頼む」
ひと悶着はあったものの、無事に任務へと向かう準備が整いつつある。
「さて、今回の任務だが、遺跡調査だ。なにやら、ここで不穏な動きがあったとのことで、今回は武装局員での調査が目的となる。
皆、注意するように。また、ここの調査が終了次第、解析班への引渡しもあるから、見逃すなよ?」
『はい!』
隊長からの指示に全員、確りと返事をする。
「遺跡調査ならユーノの出番じゃないのか?」
「ユーノ君は無限書庫の整理で忙しいし」
「それに、あいつってクロノからの依頼でいつもヒーヒー言っている気んだけど」
極寒の地の遺跡調査――正確には遺跡跡だが――にうってつけの人物の名前を挙げるが、言われて見れば、確かにあいつって忙しいイメージがあるな。
「それにしても、寒いね」
「ったく、バリアジャケットあるのに寒いってどんだけだよ」
「修行が足りんな、二人とも」
エアに格納してある予備のコートを二人にかけてやりながら言う。
「紅莉君は寒くないの?」
かけてやったコートに腕を通しながら尋ねてくる。隣のヴィータも同様に頷く。
「暑さ、寒さ、息苦しさなどの劣勢な状況でも普通に動く、っていう修行をしてきたからな。これくらいなら問題はない」
「お兄ちゃんもそうだけど、紅莉君ってやっぱり人外だとおもうの」
「同感」
「失敬な」
なんで、こう周りのやつ等は揃って兄さんとセットで同列視するんだか。俺は兄さんほどまだ人間はやめていない。
「それにしても、不穏というよりも戦闘後って感じだな」
「ああ」
色々と調査しているのだが、所々の傷は真新しいし、壊れ方も自然ではない。こういう部分では古くから存在していたヴィータも同じ意見のようだ。
「そうなの?」
戦闘力はあっても、そういったことには疎いなのはが首を傾げながら尋ねてくる。
「ああ。ただ、気になる点もあるがな」
「何かしんねーけど、隠蔽しようとした後があるんだが、それが全部じゃねーんだよ」
俺の言葉にヴィータが詳しく説明を追加する。そうなんだよなぁ、隠すつもりなら全部するはずなんだが、まるで見つけてくださいって感じで中途半端すぎる。
他の隊長クラスやレベルが高い人もうすうすは気づいているようで怪訝な顔をしている。
「っと、ここの調査も終わりかな?次の担当に行こう」
「了解」
「おう」
持ち回りの一箇所が終了したので、なのはを先頭に俺とヴィータが続こうとしたとき、突如空気が動くのを感じた。
「なのは!飛べ!」
「え?」
なのはに叫びつつ、懐にしまっていた針を取り出し、なのはの横へと投げつける。呼ばれた当のなのはは俺の意図が分からずに立ち止まってしまっている。
投げた針は何も無いはずの場所なのに弾かれ落ちる。
「飛べぇっ!」
「っ!……あ」
もう一度、大声で叫ぶと何かを察したなのはが飛び上がろうとするが、その動きが一瞬鈍く、その場に倒れこむ。
「なのは!」
「!」
ヴィータが叫んでいる間に既に、なのはの隣までやってきていた俺は刀を振りぬいていた。手に響く感触が、人などではなく、どこか機械を思わせるようなものだ。
すぐさま、刀を鞘に仕舞い、なのはを担ぎ離れる。
「ヴィータ!さっきの位置にでかいのを!」
「あ、ああ!」
俺の指示にヴィータが戸惑いつつもすぐさま反応し、ギガントフォルムを起動してそこら一体を押しつぶす。
「なのはっ!」
やはり機械だったのか軽い爆発が起きるが、ヴィータは関係なしとばかりにこちらにやってくる。
「ちぃっ」
なのはを抱いていたが、手にヌルっとした感触が伝わってくるのを見て嫌な予感がよぎる。
「悪いな、なのは」
なのはの返事も聞かずに、なのはのジャケットを無理やり破きながらまくり上げると……
「なのは、なのは!」
「落ち着け、ヴィータ!」
「おめーは心配じゃねえのかよ!家族だろうが!」
「心配に決まってるだろうが!慌てたところで状況が改善すんのか!」
「っ、わり」
怒鳴られたのに対して、つい怒鳴り返してしまった。ただ、そのおかげか、ヴィータが若干だが冷静さを取り戻してくれたようだ。
「レイジングハート、なのはを寝かせるなよ。こんな極寒の地で気絶させられたら致命傷だ」
《命に変えましても》
レイジングハートの答えを聞きつつ、なのはに止血効果と鎮痛効果のある孔に針を刺していく。一歩間違えれば死に至らしめる恐ろしい場所だが、それは未熟者がやることだ。俺は冷静に焦らず、だけど素早く処置を施していく。
「痛むかもしれんが、うらむなよ」
「うぅ……あぁっ!」
なのはの腹の傷に針を直接差し込む。ちぃっ、結構深い。
「ヴィータ、これ以上は医療班を呼ばなきゃきつい。あと、シャマルに連絡を」
「お、おい。どこに行くんだ!」
「残りのやつ等も片付けてくる」
「あ、アタシは!」
「なのはの傷を押さえておいてくれ。いくら止血針を打っても万全じゃないし完全に抑えられない」
「わ、分かった!」
ヴィータになのはを任せ、近づいてきていた残りの機械共を速攻で片付けると、全体通信をかける。
「武装局員全員に告げる!高町二尉が謎の機械兵器に襲撃された。また、この遺跡に未だに複数存在している。よって、これから広範囲攻撃をしかける。局員全員は避難、または一箇所に固まり最大防御を!」
『コール1より緋凰准尉へ』
「はい」
『今の通信は本当か』
「はい。また、敵は不可視の何かを使っているようで、肉眼では確認できません」
『分かった。だが、広域攻撃だというが、可能なのか?指示をもらえれば、こちらからでも対応するが』
「すいませんが、これは八つ当たりにも近いので」
『了解した。では、存分にやってくれ』
「了解!」
通信が切れたので、一気に高空域まで飛び上がる。
「エア、チャージは」
《完了しております。また、今まで溜まっていたストックも消費することによって、連発が可能です》
「よし!」
エアからの報告を受け、抜刀の形を取る。既に、敵がどこにいるのかの判断はついている。
「貴様等は、俺の逆鱗に触れた。どうなるかは身をもって知れ!アキシオンブレイカー・アサルト、デッド・エンド・スラッシュ!」
抜刀し刀を振り回すと、世界が銀ではなく、俺の魔力光に照らされたのであった。
「なんなのよ、あいつは!」
紅莉たちがなのはを回収し、撤退したのを見計らったかのようなタイミングで一人の女性が突如現れた。
その瞳には怒りと混乱が織り交ざっている。
「兎に角、ドクターに報告をしなければ。それに、あのちびっ子エースは戦線離脱になるはず」
そういうと、女性はその場から紅莉たちとは違った転移で消えたのであった。
†久遠放送局†
久遠「紅莉が無駄にパワーアップしまくる」
リニス「因みに、性格破綻した神父もどきはマーボーが大好物」
久遠「人が食べられる辛さを超えたあれを美味しそうに食べるようだよ」
リニス「因みに、普通は黒鍵だけど、あれって技術だから応用ができるんじゃないかと思った作者が盛り込んだオリジナルと思ってください」
久遠「では、次回もお楽しみに」