魔法少女リリカルなのは~刃の行き着く先~   作:レティウス

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第61話

 病院のとある一角にて俺は待合所にて座っていた。

 

「紅莉!」

 

 廊下の奥から大きな声で俺の名前を呼ばれ、俯いていた顔を上げ、そちらを見ると、かなり息を乱したフェイトが走ってやってきた。

 

「なのはは!?」

 

「今は手術中だ」

 

 俺が手術室のほうを見ると、フェイトも同じように視線を追う。

 

「一体、何が」

 

「突如現れた、何かがなのはを襲ったとしか分からなかった」

 

 普段の俺であるならば、鹵獲しようと考えたんだろうけど、あの時の俺は頭に血が上っていたのもあり、全て吹き飛ばしてしまった。

 

「だ、大丈夫だよね」

 

「大丈夫だって、あんくらいで死ぬような奴じゃない。高町の血筋は伊達じゃないんだよ」

 

 健康体である母さんに、半分は御神の血が流れているなのは。運動音痴だが、その体に流れている血がきっとなんとかしてくれるだろう。

 

 未だに不安がっている、フェイトを座らせ、飲み物を買い、飲ませ落ち着かせてやる。

 

 手術が始まって、結構経っているが未だに終わらない。フェイトも仕事後ということでかなり疲れが溜まっているのか、うとうとしだしている。

 

 その内、我慢できなかったのか俺に寄りかかってきて寝息を上げだしている。

 

 フェイトをそのままにして、待っていると、連絡を受けたほかのやつ等もやってきた。

 

 ヴィータも隊の報告やらを全て片付けたようであわただしくやってきていた。

 

 そして、まつこと数時間。手術中というランプが消えて、中からシャマルが出てきた。

 

「安心して、なのはちゃんは無事よ」

 

「よ、よかった……」

 

 シャマルの報告にフェイトが泣き出すと、ヴィータも同じように泣き出した。

 

「紅莉君の適切な処置とコートのおかげで大事にはならなかったわ」

 

「紅莉のコート?」

 

「ええ。紅莉君、あれって防刃加工してあったでしょ?」

 

「あっ!そういや、そうだった」

 

 普段用と剣士用でコートを使い分けるのがめんどくさかったから全部そっちに変えたんだった。

 

「やけに重いと思ったけど、それは暖かくするためと思ったら、そんな理由だったのか!?」

 

「いや、実際に暖かいぞ?ただ、普通のコートより重いが」

 

 ヴィータが驚いて叫ぶように尋ねてくるのできちんと理由を教えてやる。まぁ、普段用も中にはあるのだが、ここ最近、地球じゃ鍛錬しているだけだから普段用を必要としないせいで、剣士用に変えていたのを忘れていた。

 

「兎も角として、それでなのはちゃんが救われたことには間違いないわ。完全にささり斬らなかったのと、紅莉君が直前で気づいて、声をかけたことによって、ぎりぎりだけど致命傷になる部分を咄嗟に回避できたことが大きいわ」

 

 シャマルの説明に皆が安堵の息を吐く。

 

「それに、紅莉君が針を打ってくれたことによる止血効果や、レイジングハートに指示したなのはちゃんを寝かせるなってのも大きく貢献していたわ。後は、ヴィータちゃんに傷口を押さえさせていたのもね」

 

「あんとき、紅莉がああいってくれなければ、アタシ一人じゃパニックになってどうしようも無かったな……ありがとよ、紅莉」

 

「礼なんていわないでくれ」

 

 ヴィータの礼が心に刺さる。

 

「緋凰」

 

「どうした?」

 

 今まで黙って聞いてたシグナムに話しかけられ、シグナムに向き直る。

 

「確か、貴様は気配を読むことに長けていたな?」

 

「ああ」

 

「では何故、直前まで気づかなかったんだ?」

 

『!?』

 

 シグナムの一言で、周りの皆も俺がやらかした失敗に気づいたようだ。

 

「それに関しては、とーさん達が来たときにまとめて説明するわ」

 

 流石に親とはいえ、管理外世界からこっちにくるのは色々と手続きが必要なために、連絡して直ぐにこちらに来れるわけでない、とーさん達は今はリンディさんが色々とやってくれているので遠からずやってくるはずだ。

 

「さて、皆……」

 

「紅莉!」

 

 ここにいても、何もならないと言おうとしたのだが、その言葉は桃かーさんの声で潰されてしまった。

 

「なのはは無事なの!?」

 

「はい。手術も成功して、傷跡も残らないです」

 

「よかったぁ……」

 

「桃かーさん!」

 

 へなへなと崩れ落ちる桃かーさんを慌てて抱きとめる。体格差があるだけにきついと思ったが、ふと重みを感じなく見てみると、とーさんが桃かーさんを抱き上げていた。

 

「随分と早かったね」

 

「リンディさんが色々と頑張ってくれてな」

 

 横から聞こえる兄さんの声。それに、その隣には美由希もいた。

 

「まだ、面会は出来ないんですが、外から覗くなら……」

 

 そういって、シャマルが案内してくれた病室の前のガラス越しからなのはの姿が確認できた。

 

 体には痛々しいほどに包帯が巻かれ、口には呼吸器、腕には点滴と重症具合が窺える。

 

 それを見た、桃かーさんが再び倒れそうになったり、同じようにフェイトも泣きそうになったりと、皆なのはのことを心配してくれていた。

 

 その後、先ほどのシグナムの質問に答えるべく、病院内にある会議室を一室借りきり、とーさん達を連れ立ってやって来た。

 

「さて、俺がやらかした失敗……いや、失態というべきか。それを、話そうか」

 

「どういうことだ?」

 

 状況が分からない、兄さんが尋ねてくる。

 

「なのはが襲われる直前まで、俺が何故気づかなかったということを聞かれてね」

 

「なるほど」

 

 理由を伝えると、兄さんは一言だけ発し、腕を組んで目を瞑ってしまった。恐らくだが、俺の失態の理由を察したのだろう。

 

「さて、今回だが俺が何故、気づかなかったかといえば、簡単だ。ただの置物に気配など無いからな」

 

「何?」

 

「人間ならば、心音や呼吸、その場に佇むだけでも何かしらのアクションがあるんだが、機械には無い。特に未稼働状態ならね。

 俺がやらかしたのは、なのはの進行ルートに未稼働状態の機械兵器がいたということだ。

 あの時はなのはが遺跡の柱の傍にいたってのと多少だが吹雪いていたために、風の流れが不自然とも思わなかったし」

 

「それじゃ、どうやって気づいたっていうんだ?」

 

「そりゃ、未稼働から稼動に移行するにあたって、多少は動いたりするからな。あの時は、嫌な予感も働いたし」

 

 本来なら、スリーマンセルで近くでやればよかったのだが、担当した範囲がことのほか広かったってのもあった。恐らくだが、俺等の実力を知っての区分だろう。

 

「それは、本当に紅莉の失態なの?」

 

 今まで黙って聞いていたフェイトがおずおずと手を上げて尋ねてくる。

 

「失態だよ。たらればを言い出したらきりが無いが、あの時、もっと違う方法で対処できたと思うと、な」

 

 例えば、針を投げるのではなく、アキシオンを放っていれば、例えば、レヴを開放していれば、など、俺ができたはずということは多いはずだ。

 

「お前のせいじゃねえよ!アタシなんて全く分からなかったんだぞ!それを、お前が咄嗟の判断で気づいたじゃねえか!」

 

「結果はなのはが重症を負った。それが全てだよ」

 

 話すことはもうないので、席を立ち会議室を出て行った。

 

 

 

 

 

「なんで、なんで、紅莉は自分のせいにしたがるの?」

 

 紅莉が出て行った後、フェイトは紅莉の様子に疑問しか浮かばず、口について出してしまう。

 

「う~ん……フェイトちゃんはさ、もし家族の誰かが怪我するのを目の前で見たらどう思う?」

 

「それは……」

 

「今回の紅莉はね、まさにそれなんだよ」

 

 やさしく肩に手を置きながら、美由希がフェイトに説明する。

 

「でも、紅莉の場合、責任を感じすぎているような気がするんです」

 

「あはは……」

 

 フェイトの指摘に美由希は開いたもう片方の手で頬をかきながら明後日の方向を見ながら苦笑いを洩らす。

 

(その理由は、教えられないかな流石に。それに、それはなのはだけじゃないし)

 

 そっと、美由希は再びフェイトに視線を移す。

 

 今回のことで紅莉が感じている責任はとてつもなく重いことを美由希は悟っている。また、なぜそこまで感じるのかも知っていた。

 

 紅莉はああ見えて、中々に贔屓する人間である。当然、好き嫌いなどの好みもあるのだが、紅莉は基本的にそれはない。あるのは、大切かそうじゃないか程度である。

 

 そのために、身内だと接する態度は変わらないのである。ただし、その中でも特に気を使っているのが数人存在する。

 

 それを知っているのは、恐らくは士郎・恭也・美由希程度である。

 

(まっ、あっちは恭ちゃんが行ってくれたしなんとかなるよね)

 

 今、ここにいない兄に弟を頼み、ここにいるフェイトのフォローに回る美由希であった。

 

 

 

 

 

「くっそ……!」

 

 病院の裏手の森林部に足を運んだ俺はそのまま、感情のままに生えている木に拳を叩きつける。

 

 叩き付けた拳に痛みが走るがそんなのはなのはが受けた傷に比べれば蚊に指された程度だ。

 

「守ると誓った!救われたからこそ救うと誓った!なのに、俺は!」

 

 再び拳を打ちつけようとしたが、それが阻まれてしまい、誰がと思い振り返ると、そこには兄さんが俺の腕を掴んでいた。

 

「そこまでだ。それ以上は自然破壊になる」

 

 言われて周りを見れば、既に数本の木が倒れていた。

 

「くっ」

 

 掴まれている腕を強引に振り払う。

 

「笑ってくれよ。兄さんみたいに守るべきものを守るために磨いていた力なのに、肝心なときに役に立たないなんて」

 

 自分自身で呆れ帰ってしまう。何が、人の行く道を切り開くだ。何が、守るための剣だ。何一つ出来ていやしないじゃないか。

 

「紅莉」

 

「なんだ、にいさ……がっ」

 

 俯いていた俺に再び話しかけてきた兄さんに顔を向けようとした瞬間、頬に強烈な痛みを感じ、吹き飛ばされた。それが、殴られたと察するに数瞬の時間を要してしまった。

 

 殴られた、頬を押さえながら兄さんを見上げると、珍しく怒気を孕んだ顔になっていた。

 

「自惚れるな。万事すべてが完璧に出来る人間なんて誰もいない」

 

「だけど!」

 

「もし、それが己の未熟だと思うのなら強くなれ。己を更に磨き、二度とこんな悲劇を繰り返させるな。誓いという言葉を使うのなら、ぶれるな」

 

 鋭い眼光から発せられる兄さんの言葉が俺の心に深く刺さっていく。

 

「俺がお前の立場なら恐らく同じ行動を取り、お前に殴られていただろう。だからこそ、言おう。この程度で揺らぐな。俺達は最後の剣だ。襲い来る全てを倒し、守る。それが、俺とお前で見つけた形だろう」

 

 そうだ。忘れていた。俺と兄さん、男二人で誓ったあの言葉。

 

「緋凰だけじゃなく」

 

「御神だけでもない」

 

 そうだ、なんで忘れていたんだろう。俺も兄さんも流派が違い、その思想もまた違った。だけど、お互いの思想にどうしても引かれたんだ。

 

「「俺達は、戦えば勝つ。だけど、それは敵だけじゃなく自分に、そして守るべきものの笑顔のために」」

 

「ありがとう兄さん」

 

「気にするな。先ほども言ったが、逆の立場ならば同じだったからな」

 

 兄さんの手を取り立ち上がる。

 

「つっ、思いっきりやってくれて」

 

「それでなければ、意味はないだろう」

 

 文句を言うが、暖簾に腕押しといった感じで、簡単に流されてしまう。自業自得だし、別に殴られたことに対してはうらみつらみも実際はないけどね。

 

 

 

 

 

 数日後、なのはの意識は無事に戻った。さらに、その数日後には会話が可能なまでなのはは回復した。

 

「ごめんね、皆。心配かけちゃって」

 

「ううん、そんなこと無いよ!」

 

 泣きながら笑うという器用な真似をするフェイト。

 

「心配かけやがって」

 

 泣き顔を見せたくないのか、そっけない態度とそっけない言葉でそっぽを向くヴィータ。

 

「紅莉君、ごめんね、せっかく教えてくれたのに……」

 

「なのは、焦るな」

 

「何を言ってるの?」

 

 本来なら、喜ぶところなのだが、あえてここは突っつかせてもらう。そうじゃなければ、俺もなのはも進めないから。

 

「なのは、何で謝る?」

 

「だって、皆に心配かけたから」

 

「それは、家族が、仲間が、友人が怪我をすれば心配するのは当たり前だろ?」

 

「でも」

 

「なぁ、なのは」

 

「なに?」

 

「シャマルから俺に伝えられている情報が一つだけあるんだ」

 

「っ!」

 

 シャマルからの情報という言葉になのはの顔がこわばる。

 

「お前は、今考えているのはとっとと回復してまた以前の様に仕事をしようとしているんだろ?」

 

「だって、それは」

 

「ああ、当たり前のことだよな」

 

「そうだよ」

 

「でも、今度は体を壊して戦線離脱か?」

 

「そんなことないよ!」

 

「じゃあ、お前に溜まっているその疲労はなんだ?」

 

「それは……」

 

「どういうこと?」

 

 フェイトが尋ねてくるが、今は話に割り込んで欲しくない。フェイトのほうを向いて言おうとしたが、俺の目を見て何かを察したのか頷くだけだった。

 

「そんなに、必要とされたいか?」

 

「何を言っているか、わからないよ紅莉君」

 

「昔と違って、今は何にだって必要とされているもんな。これが、なくなるのはやっぱり怖いか?」

 

 俺の言葉になのはの顔がどんどんと青くなる。ただ、青くなるのと同時に怒りを込めた目で俺を睨む。

 

「人事や総務に確認を取ったが、ここ数ヶ月にわたってお前、休みを取ってないな?周りの人間が働きすぎだといっても聞かなかったそうだな」

 

「私、まだまだ若いし、疲れてなかったもん」

 

「だが、実際は疲労は溜まっており、その疲労が原因で、お前は反応に遅れ、落ちた」

 

 なのはの瞳には色々な感情が見て取れる。元々、感情を隠すのが得意なやつが、その感情を隠そうともしない。まぁ、その原因は幼少期にあったのだが。

 

「また、昔みたいにいい子ちゃんを演じて、誰にも心配されないようにするしか方法は思いつかなかったか?」

 

「うるさい」

 

「疲れていても、それを見せなくして、必要とされることに喜びを感じていたんだろ?」

 

「うるさいうるさい」

 

「そうだよな。初めて、周りから必要とされているんだもんな。そりゃ、手放すことはできないよな」

 

「うるさいうるさいうるさい!いつも必要とされている紅莉君に、私の何が分かるっていうの!?」

 

「だから、俺を頼れといっている。泣きそうになれば、胸を貸すし、疲れているのならば、針だってなんだって打ってやる。一人で抱え込むな。お前の周りには沢山の友人もいるだろ」

 

「え?」

 

 俺の言葉に固まるなのは。

 

「今のお前は昔みたいに一人ぼっちじゃないんだ。泣きそうなことになれば、泣き言を言っていいんだ。我慢なんてするな、ばかばかしい。俺がいなくて寂しいなら、最初からそう言え。予定なんて、空けるのなんて簡単だ」

 

「そんな、紅莉君の邪魔なんて……」

 

「誰が邪魔なんていった?無理ならば無理と俺はハッキリというぞ。だからな、あまり抱え込むな。そりゃ、お前だけの問題もあるから言えないかもしれないけど、だけど、それでも誰かがいつも近くにいるんだから、な?」

 

「私……」

 

 俺の言葉に泣き出してしまったなのは。宣言どおりに胸を貸してやれば、服を掴んでワンワン泣きじゃくる。

 

 たまたま、やってきた桃かーさんなんてなのはが泣いているのを見てすっげぇ驚いていたし。

 

「フェイトも、何かあれば、好きなだけ頼れよ?」

 

「う、うん」

 

「だが、ヴィータ含むヴォルケンズ、てめぇらはダメだ」

 

「な、なんでだよ!?」

 

「クロードがいるだろうが。爆発しやがれ」

 

 なんで、他人の女まで面倒みなきゃいけねぇんだ。

 

「ずず」

 

「おまっ、服に鼻水こすりつけんな!」

 

「胸かしてくれるんでしょ?」

 

「貸すが、ちり紙がわりじゃねえよ!」

 

 その後、何とか泣き止んだなのはをフェイトに任せて桃かーさんと廊下に出た。

 

「何をやったの?」

 

「トラウマをつっついた」

 

 なのはが泣くなんて滅多なことじゃ起きないことに疑問に思った桃かーさんが聞いてきたので簡潔に答えると、それを察した桃かーさんが、あーと呟く。

 

「ある意味で、感情の制御が苦手だからなぁなのはは」

 

「すべての原因は私達なんだけどね。紅莉には迷惑をかけるわぁ」

 

「気にしないでくれ。迷惑なんて思ってないし」

 

 その後、落ち着きを取り戻したなのはの顔は自然な笑顔になっていた。




†久遠放送局†

久遠「皆さん、こんばんわ。寒い日が続いてコタツが欲しいと思う久遠です」

リニス「同じく、コタツの中で寝たいリニスです」

久遠「今回は、なのはのトラウマをつっつく回でした」

リニス「紅莉がいて、融和されたとは言っても、やはり幼少ということでもってしまったトラウマですね」

久遠「これから、なのはがどうなるかは、ぶっちゃけ作者も決めてないようです」

リニス「むしろ作者は『やっべ、シリアス疲れる。ギャグとかのほほんな話書きたい』とか言っている始末ですからね」

久遠「残念ながら当分シリアス続きになるけどね」

リニス「では、次回もお楽しみに」
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