「それは、どういうことだ!」
ホテルのとある一室、そこで恭也たちの昔からの付き合いのあるエリス・マクガーレンが声を荒げて恭也に詰め寄っていた。
「言ったまでだよ、エリス。俺達の末の弟を援軍として呼んだんだ」
詰め寄られている側である恭也だが、エリスの怒気を受けてもなんのその、いつものような風貌でいなしながら、エリスを窘めていた。
「お前に弟がいたのは驚きだが、それ以上にその弟を危険にさらすなんて何を考えているんだ!」
絶対的に手が足りていないというわけではないのだが、それでも手は多いほうがいいと思った恭也はエリスに相談することなく、勝手に決めて、勝手に呼びつけたのである。
未だに紅莉は到着していないのだが、それも目と鼻の先まで黙っていた辺り、いい根性をしている。
「何をと言われてもな……あいつのことだから嬉々として自ら飛び込むと思うが」
「あー、うん。そうだねー」
エリスの言葉に恭也のあまりにあまりなセリフが飛び出し、エリスの顔が赤くそまるのだが、近くにいた美由希まで同意しているのを見て多少は冷静になったようである。
「紅莉は相変わらずなの?」
「相変わらずというか、前より酷い?」
ここ数年の弟の行動を思い出しながら、美由希が同じく部屋にいるフィアッセに伝える。
魔導師として活動しているのだが、ここ数年の紅莉の話を聞くに、魔法の補助など使わずに生身で解決しているらしいので、危険に飛び込む度合いで言えば恭也以上と言わざる得ないのである。
とはいっても、魔法などないこの世界でエリスにそんなことを言えるはずもないために、主語を抜いたり、あいまいに言うしか方法はないのだが。
「とにかく、入り口のスタッフに連絡して通さないようにしなくては……」
かなり冷静さを取り戻したエリスは、紅莉を中にいれないようにしようと早速入り口のスタッフに連絡を入れる。
「恭也、君の弟の特徴はどういった感じなんだ?」
「そんな感じだ」
「なに?」
紅莉の特徴を訪ねたエリスに恭也は指を差してエリスの視線を誘導する。
エリスも恭也の指の先を追うと、そこにはソファーにゆったりと座りながら優雅にカップをもつ一人の少年がいたのであった。
「紅莉!」
「フィアッセさん!お久しぶりです」
いの一番に反応したのはフィアッセであった。紅莉も悪戯のために黙っていただけであって、ばれれば普通の態度となる。
声をかけられたフィアッセのほうへと笑顔を向けると、フィアッセも笑顔で紅莉に近づいて抱きつく。
そんなフィアッセに嬉しそうにされたままの紅莉を見て、普段弄られてばかりの美由希に悪戯心が働く。
「おやまぁ、嬉しそうにして。なのはやフェイトちゃん、すずかちゃんに言いつけちゃおうかなぁ」
「ババくさいぞ」
「ぐはっ」
しかし、返しの一言にばっさりと切られて崩れ落ちるしかなかった。普段から弄る側でないものがやろうとしても手痛い仕返しを喰らうだけであった。
「少し見ない間に大きくなったね」
「成長期ですから」
紅莉の抱き心地を確かめながら感じたことを告げると、胸を張りながら応える紅莉。
「漸く体ができてきたのか、美由希との勝率もぐんぐん上がってますからねー」
「うわぁ、すごいすごい」
よしよしと頭を撫でるフィアッセにそれを嬉しそうに受ける紅莉。その一方で、美由希はなにやら落ち込んでいる。
「うぅ、本当にヤバイ。母さんにも相談したけど、どうしたら……」
「覚悟が足りん」
「恭ちゃんや紅莉みたいな人外じゃないの私は!常識が一緒にいるのを嫌がるような二人と一緒にしない……ぎゃんっ」
言い終える前に、前と後ろからの衝撃であえなく地に沈む美由希。前は恭也から、後ろは紅莉がそれぞれ徹を使ったデコピンを敢行したのであった。そのため、前後からの衝撃がそのまま抜けるのではなく、中心で爆発したために気絶という悲惨な事態に見舞われたのであった。
「ほれ」
「うっ」
気つけとばかりに紅莉が蹴飛ばすと、それで起きる美由希。
「ダメだよ、女の子を足蹴にしちゃ」
「やるのは美由希だけだから問題ないですよ?俺は、女性には優しいと自負しておりますから」
「鬼か!?」
美由希からのツッコミなぞどこ吹く風なのか、知らんと言わんばかりにスルーする紅莉。ぶっちゃけ、周りから見れば軽く引く内容なのだが、フィアッセにとって、高町家から出て行く前までの日常だったために、特にツッコミを入れるようなことでもなかった。
「はっ!?」
そして、今の今まで、空気になっていたエリスは何をしていたかというと、あまりな展開についていけずに放心していたのであった。
「何処から入ってきた!?」
「どこからって正面玄関からですけど?」
「ガードのものがいたんだぞ!?」
「ああ、事情を説明しても入れそうにないなぁって思ったからちょっと裏技をつかってそのまま……ついでに言えば、貴女が兄さんとやりあっている間についたのですけど、忙しそうだったんで空気に徹していました……さらにさらに、兄さんは俺が入ってきたときには気づいていましたよ?美由希もだけど」
「なんだと!?」
紅莉の説明にギロリという擬音がつきそうな感じで恭也を睨みつけるエリス。
「いや、説明しようとしたんだがな。というよりも、予定よりも早かったな?」
「美緒さんにあってさぁ、何処に行くって尋ねられて教えたら乗せてくれたんだよね」
陣内美緒、陣内啓吾という警防隊の小隊長を務めた人物の娘であり、ちょっと変わった人物であるのだが、中々に愉快な性格のためわりと紅莉とは話があったりする。
その美緒はバイクを所持しており、初めてバイクを買ったあとなんぞ、色々とテンションが暴走したりしたのだが、現在では割と落ち着いているらしい。
「なるほどな」
「そうそう、母さんからケーキとシュークリームを預かってきたよ。そこのテーブルに置いてある。」
紅莉が指差す先には確かに四角い箱が置かれていた。
「はぁ、来てしまったものは仕方ない。だが!子供を危険にさらすことはできない!」
ため息をついて、紅莉が来たことに対しては認めたエリスだが、仕事を共にすることは認められないと声を大にして宣言する。
それに対し、紅莉はきょとんとした顔になり、美由希とフィアッセは仕方ないなぁみたいな感じでエリスに同情的な視線を送っている。
「兄さん、とりあえず……誰?」
「指を差してやるな。エリスと言ってな、俺達の幼馴染だな」
「初めて聞いたんだけど。フィアッセさんと一緒にいるしイギリスの人だよね?」
「ああ。とはいっても、俺も十年以上ぶりにあったからな。父さんが世界のあちこちを駆け回っているときに出会ったから、紅莉が知らんのも無理はないな」
「なるほど」
恭也の説明に納得する紅莉。士郎があちこち回っていたというのは知っているし、聞いてもいる。また、落ち着こうとしたのも桃子と結婚してからというものである。
つまりはなのはや紅莉が生まれる前ということである。そんなに前ならば紅莉が知らないのも無理はない。また、恭也がそういうことを伝えるということもないため、今の今まで知らなかったのである。
「えーっと、とりあえず初めまして。緋凰紅莉です」
「緋凰?高町ではないのか?」
「貰われっ子なので」
「すまない」
ファミリーネームが違うことに疑問を持ったエリスが尋ねると何ともない感じでさらっと告げる紅莉に、悲痛な面持ちでわびるエリス。
「いえいえ。兄さんがどういう説明したかは知りませんが、端的にしか告げなかったでしょうから仕方のないものかと」
「悪かったな、説明不足で」
恭也の性格を熟知している紅莉にぶすっとした態度でわびる恭也。
「さてと」
そういうと、紅莉は背中に手を入れ出すと、その手には一本の刀が握られていた。
ちなみに、これはエアから取り出したのではなく元から入っていたものだ。どこをどういう風に入れればそうなるかは不明だが、やろうと思えばカニだって鍋だって取り出せる。
刀を手に持ち、改めてフィアッセに向き直る紅莉。それに最初に反応したのはやはり目の前にいたフィアッセである。
フィアッセは知っている。かつて、同じようなことを紅莉がしたことを。
「俺の名とこの刃に誓います。貴女に降り注ぐあらゆる災厄は俺が全て断ち切ります。
緋凰の名のもとに、われらは先人の先の道を切り開くもの。
だから、安心してください」
揺るぎない意思を持ち、フィアッセに宣言する紅莉。
対面に立つフィアッセも紅莉の覚悟を知っている。かつて、自分と母の最期のコンサート、それを守ったのは他でもないここにいる恭也と美由希、そして紅莉である。
そのあとにちょっとした事実の発覚はあったものの、あれから数年が経ち、紅莉も立派に成長した。そして、その紅莉が今度は母から自分へと向かって言ってくれる。
家族としては、とても心配なことだ。だけど、この剣士はそれを言ったところで引かないだろう。ならば、自分のすべきことは決まっている。
「よろしくね、剣士さん」
「はい」
力強く頷く紅莉にフィアッセはほほ笑む。恭也や美由希、エリス、そして紅莉が自分を守ってくれるのだ。ならば、何も心配することはない。
「くっ、勝手に話が進んでいる。フィアッセまでもが認めて、私が反対していたら私が悪者ではないか」
今のやりとりを見ていたエリスが憤慨する。ぶっちゃけ、クライアントがエリスではなくフィアッセのために、エリスが何を言ったところでどうにもできないのである。そのことは、恭也とのやりとりで経験済みだ。
「それを狙いましたからね」
「確信犯だったのか!?」
「紅莉って割とこういう狡賢い手をよく思いつくんだよねー」
「腹黒さには定評があるな」
「事実をそのまま伝えちゃかわいそうだよ」
「フィアッセさんまで……」
驚愕するエリスをよそに、恭也と美由希がここぞとばかりに紅莉を口撃する。唯一の良心のはずのフィアッセまで敵にまわりがっくりと項垂れるしかなくなる紅莉に笑いが漏れる。
「まぁ、こんなガキが護衛だなんだと不安でしょうから軽く実力を見せましょうか。兄さんか美由希のどっちかでもいいけど飛針なげてー」
「ああ」
「はーい」
紅莉に言われ、淀みない動作で飛針を取り出す恭也と美由希はそのまま紅莉に向かって投げつけた。それを見たエリスは思わず待てと言いたかったのだが、恭也と美由希はその言葉をかけるよりも早く動いたのだった。
しかし、投げつけられた飛針はそのまま紅莉を素通りし後ろの壁へと突き刺さっただけであった。
「どっちかといったのに」
「どうせ避けると思ったのでな」
「同じく」
紅莉の文句に悪びれる様子もない恭也と美由希。その二人に苦笑いしつつ、エリスに向き直る。
「どうです?とりあえず、銃弾程度なら当たることはありませんが?」
「一体何が……」
「まぁ、俺が使っている武術の一部ですよ。緋凰を捕えるものはなしってね」
「エリス忘れちゃった?昔、橙璃が来た時にエリスもいたと思うけど?」
「橙璃……ミス橙璃のことか?」
「うん。その子供が紅莉だよ」
「ああ、そういや昔に母さんが護衛してましたっけ?」
フィアッセのセリフに紅莉があぁといった表情を浮かべれば、エリスもまた昔を思い出したのかハッとした表情になっていた。
「なるほど……まだ、納得はできないが、しかし彼女の子供というならば」
「う~む、母さんは何をやらかしたんだ?」
「私たちもあまり付き合いが長いってわけじゃないし、こっちにいるときぐらいにしか会ってなかったからなぁ」
「だが、今にして思えば隙はなかった気がするな」
などなど、橙璃の話で盛り上がり始めたのであった。
「そうそう、兄さん」
「なんだ?」
「父さんが任せたって」
「……分かった」
紅莉が持ってきた菓子を食べつつ、和んでいると紅莉が思い出したように恭也に告げる。告げられた恭也も主語は抜けているが、何に対してなのか十分に分かっていたのかしっかりと頷いたのであった。
「士郎、か……」
「大丈夫。士郎は怒ってないよ」
士郎の名前が出たことにより、エリスが暗い顔をするが、隣にいたフィアッセが優しく頭を撫でながらフォローを入れる。
「なんだったら、コンサートが終わったら、士郎に会おう。きっと、会えば士郎は笑ってくれるから、ね?」
「ああ」
フィアッセの言葉に真剣な顔をして頷くエリス。蚊帳の外にいる紅莉だったが、何をさしているのかは分からないが、聞くのは野暮だと十分に理解していたために空気に徹していた。
「さてと、担当場所だけど」
「紅莉、お前はこちらを頼む。美由希はフィアッセについていてくれ」
お茶も終わり、それぞれの役割の確認に移った。
「まて、なぜ紅莉をここまで広い場所に」
そして、割り振りに際して恭也が示した地図の部分はかなりのスペースがあるところであり、一人で担当するのも、子供に担当させるにも広すぎる場所であった。
「理由は二つ。一つはいくらエリスの会社も入っているからと言ってこの場所に相当員配置すると他がおろそかになってしまうということ。
もう一つは、紅莉の索敵と戦闘スタイルから考えると狭い場所よりも広い場所のほうが適しているということだ」
「狭い場所なら狭い場所でやりようはあるけどね。駐車場は兄さんが担当するんだろ?」
「ああ」
「なら、確かに俺はこっちだね」
「好きにしてくれ……」
エリスの話を聞かずにどんどんと話を進める紅莉と恭也に遂にエリスも折れ、何も言わなくなってしまった。そんなエリスにそっと肩に手を添える美由希にありがたいやら、それならこっちをなんとかしてくれと言いたいやら複雑な胸中になるエリスであった。
《マスター》
「あん?仕事中は話しかけんなっつってんだろ?」
コンサート当日、自分が担当する場所に配置している紅莉だったのだが、突如エアから話しかけられ、やや乱暴な口調で応える。
《すいません。ですが、なのは嬢たちから通信がはいっていますが》
「あいつらは……」
額に手を添えてため息をつく紅莉。ぶっちゃけ、内容が予想できるだけに性質が悪かった。
『紅莉君!』
「手助けはいらん。お前たちは純粋に楽しんでくれ。ことが早く終われば俺もいけるからな」
『ちょっ、まっ』
通信をつなげた後、なのは達が何かを言う前に言うことだけ言うとすぐに通信を切ってしまった。
「さぁてと、開演間際。一番警戒しているときだが、じつはそこが一番警備がゆるくなるときでもある」
会場にやってきた客がぞくぞくと会場へと入っていく中、その中で怪しい奴を見つけ、捕えるというのは実は難しい。
何万人もの来場客数に対して、入り口は数か所。しかも、それを担当する人員も各入口に対して数人しかいないのだ。それで、どうにかするというのは無理である。
「おーおー、団体さんがご到着ってか?」
その場でたたずむ紅莉だったが、複数ある通用口から人の気配を感じ、軽い口調で言う。
「雰囲気的には中国系か。こりゃ、龍とかも絡んでいるのかねぇ?」
いまだ独り言のように呟く紅莉に、入ってきたもの達は警戒を怠らなかった。胸や腰にしまっている拳銃をいつでも取り出せるように忍ばせ、柱の陰に隠れている。
「さてと」
そういって、紅莉は一旦言葉を区切る。
「足元に線は見えるかな?そこを越えれば、君たちは悉くが彼岸へと向かうだろう。その覚悟があるものだけは踏み越えるがいい」
相手にも通じるだろう言語で挑発を行う。効果は覿面であり、紅莉の言葉が終わらぬうちに数人が紅莉の元へと詰め寄っていた。
それを見た紅莉はコートの袖に手を突っ込み、袖から出すと指の間には針が左右でそれぞれ三本挟まっていた。
「ふっ」
近づいてきた三人のうち二人に対して針を飛ばす。
「うっ」
「なっ」
針が刺さった二人は突如体が動かなくなったことに驚きの声を上げ、残りの一人も仲間が二人動かなくなったに驚くが、相手はたかが子供一人と思い再び近づいて手に持つ獲物を振るおうとしたが。
「あっ」
そんな隙だらけの状態など、それは倒してくださいと言っているようなものだと言わんばかりに、紅莉の攻撃が終わっていた。
「「があっ」」
更に地を蹴り、固まっている男二人も高速で刀を振るって倒しきる。わずか一瞬の攻防で紅莉は三人の男たちを斬り伏せた。
「緋凰の前に立った不幸を呪え」
刃を煌めかせ声高らかに言い放った紅莉は一気に地を蹴った。
銃声が鳴り響く広い一角、そこでは惨劇が繰り広げられていた。
「がぁっ」
また一人の男が崩れ落ちる。先ほど、瞬く間に三人を切った時代遅れの子供がまた一人、また一人と次々と斬り倒していく。
「ふっ!」
刀を持ってない手を見えていない位置に向かって振るうと、死角から攻撃しようとした男に針が刺さる。針が刺さった男は何が起こったのか理解できず、しかしそれでもなお引き金を引こうとしたが、体が全く動かなかった。
紅莉は目の前の一人を斬り伏せると、バックステップを踏むように飛び跳ねると、先ほど針が刺さった一人と並び立ちそのまま刃を振るう。
「この野郎!」
攻撃後のわずかな硬直を狙って引き金を引いた一人だったが、その銃弾は仲間に当たっただけで、紅莉にはかすり傷一つ負わせなかった。
「ば、馬鹿なっ!?」
「奴はゴーストだとでもいうのか!?」
先ほどから銃弾は通り過ぎ、一方的に蹂躙されていることにより、ついにテロリストたちの間に動揺が走りだす。
「ゴーストだと!?だったら、俺達がやられている理由があるか!」
そういって、今までの拳銃ではなくマシンガンを持った一人が紅莉に向かって撃とうとしたのだが……
「き、消えた!?」
「こっちだ」
声が聞こえてきたほうへと向けば、そこには刀を振り上げている紅莉が既にいたのだった。
「ぎゃぁっ!」
また一人斬り伏せた紅莉は残りの人間も逃さないとばかりに戦場を縦横無尽で駆け回る。
テロリストたちの不運は、この広いようで狭い空間に訪れたことだということだろう。
紅莉にとって、気配察知は十八番であり、自身の戦闘スタイルにおいて必須科目である。
そして、なによりもこの程度の空間ならばたとえ視覚があろうがなかろうが全く関係なく、どこで何が起ころうとも把握できるのであった。
現状において、恭也に勝っている点でもあるわけだ。
「終わったか」
立ち止り鞘に刀を納め呟く。あたりを見回せば銃痕やテロリストたちの血、そしてそのテロリストたちが倒れていた。
「さて、兄さんたちは……おっと」
恭也たちはどうかなと言おうとしたが、突如自身に何かが飛んできたことを察知した紅莉はその場をすぐさま飛び去ると、先ほどまで立っていた位置が軽い爆発を起こした。
「だらしねぇ野郎どもだ」
先ほどの者たちとは似ても似つかない、野蛮な男が銃槍とでも言うべきものを担ぎながら入ってきた。
「やれやれ、千客万来だね」
紅莉は肩を竦めながら、刀に手をかける。
「はっ、ガキが息づくんじゃねえよ!」
銃槍の先端を紅莉に向けると、そこから淡い光の弾丸が紅莉に向かって走った。
「おいおいおい。なんで、魔導師がこの世界にいるんだよ。しかも、テロリストで」
迫りくる弾丸を避けたあと、うんざりとした表情でごちる紅莉。その紅莉のセリフに眉を上げ反応するテロリスト。
「あん?魔導師を知っているだと?」
「ったく、今日は仕事はこれだけと思ったんだがなぁ」
テロリストの言葉を無視してさらにごちる紅莉。
「てめぇっ!」
「叫ぶなよ」
「ぬおっ!?」
紅莉が無視したことに腹を立てたのか叫びつっこもうとしたら、既に近くに紅莉がおり、刃を振るおうとしたのを察知して慌ててシールドを展開して難を逃れる。
「俺としちゃ全く、まーーーったく、興味がない肩書だけど、教えといてやる。
時空管理局、地上部隊機動特務隊員緋凰紅莉二等陸尉だ。覚える必要はないよ」
「管理局だと!?」
「いったろ、覚えとく必要はないって」
管理局という言葉に過剰に反応した男だったが、紅莉は意に介さず再び近づいて刃を振るった。
「ここにいるのは、一人の女性が成すべきことを成したいと願い、それを叶えたいと思った一介の剣士だけだ」
「ぐおっ、この、調子に乗るな!」
シールドに阻まれようが関係なく刃を振り続ける紅莉にイラついた男が乱暴に銃槍を振るうがそれは紅莉を素通りする。
「がぁっ」
自身の攻撃が効果を成さなかったのに驚き固まる中、紅莉は関係なしに攻撃を繰り出す。隙だらけの体に一撃をあてるが、バリアジャケットに阻まれ致命傷にはならなかった。ただし、攻撃には徹を込めていたために衝撃は内部まで突き抜けていた。
「丁度いい。こんな獲物を兄さんにやるわけにはいかない」
攻撃があまり通ってないのにも関わらず、紅莉の口元は三日月のような笑みを浮かべていた。
「剣士が魔導師に通用するかどうか、改めて試させて貰う!」
「ざけんじゃねぇっ!」
銃槍の先端から太い砲撃が放たれるが…
「んなもん、なのはのバスターに比べれば屁みたいなもんだ」
比べるのもおこがましいほどの差を見て、ついつい比較にだしてしまう紅莉。
男はと言うと、既に目の前の紅莉に飲まれつつあった。
「はあっ!」
「なぁっ!?」
気合一閃、紅莉が刃を唐竹に振るうと展開していたシールドを見事に斬り裂いた。
緋凰流の奥義【断空】。緋凰が持つ奥義の中でも最上級の威力を持つ奥義によって、シールドは紙のごとく簡単に斬り裂かれてしまい、驚きの声を出すしかなかった。
「この野郎!」
「おせぇっ!」
やられるままではいけないと、なんとか攻撃を繰り出すが今度は間合いの外にいたはずの紅莉がまっすぐ突っ込んできており、そのまま肩を貫いた。
「ぎゃぁっ!肩が、肩がぁっ!?」
紅莉が繰り出したのは緋凰流奥義【咬牙】であり、緋凰流の中でも一番の貫通力と射程を持つ奥義であった。
「くそっ!くそっ!あっちで、やられてこっちまでやられてたまるか!」
片方の腕をだらんとたらしながら、銃槍を杖に立っていたが、銃槍の柄の部分が浮いたかと思うとまた元に戻る。
「カートリッジシステムか」
「ちっ、知ってやがったか」
「ふぅ……」
紅莉の言葉に苦虫を噛み潰したような顔で舌うちをした男など放っておいて、紅莉は一度ゆっくりと息を吐いた後、刀を納めた。
「ようやく、観念したな!だが、もうてめえは許さねえ!これで、死にやがれ!」
槍の先端に夥しい魔力が集まり、紅莉に向かって構えられる。
「お前が終われ」
先端から放たれた強力な砲撃を斜めに飛んで回避した紅莉は再び斜めに飛び男の懐に入ったと同時に一気に抜刀した。
「な、なんで……」
「言ったろう?なのはと比べるのもおこがましいと」
放ったのは緋凰流奥義【葬刃】。紅莉が、小さいころから常にあり続け、紅莉がもっとも多用してきたもっとも信頼する奥義である。
「流石にこれを見つけられるわけにはいかないな」
倒れている傭兵崩れの男の手に握られているデバイスを破壊する。その後、エリスの仲間に連絡を入れ、後処理を頼むと別の場所へと向かっていった。
「任せるのはとーさんであって、俺ではないからね」
「こいつの威力は、君がよく知っているだろう?」
駐車場から地上へと抜ける場所で、恭也とエリス、そして今回のテロ行為の実行犯の親玉であるファンが睨みあっていた。
ファンの腕には気絶したフィアッセが抱えられており、恭也たちは動くに動けない現状であった。
また、ファンの手の中には爆弾の発信機が握られており、余計なことができない現状であった。
恭也からすれば、発信機を押される前になんとかする手はあった。しかし、現状では手が出しづらい状況であったのだ。
「やれやれ」
恭也たちの背後から声が聞こえてきた。思わず二人……否、ファンを含めた三人が声の主へと視線を追ってしまった。
「父さん!?」
「士郎!」
「貴様は!?」
そこにいたのは、士郎であった。その風貌は普段の喫茶店のマスターでも、恭也たちの親の顔のどれでもなかった。
「本当は出張る気はなかったんだがな」
コツコツと士郎は恭也たちと並ぶような位置まで歩いてくる。
「けどまぁ、ケジメをつけるって意味ではよかったのかもな」
独り言にしては大きく、まるで誰かに聞かせるような音量で喋る士郎に誰も何も反応出来なかった。
「よぉ、ファンだったか?十年以上前のプレゼントは最高だったぜ」
「貴様、貴様は、シロウ・フワ!」
「今は、高町士郎だ。お前のおかげで息子は怪我をしてなお俺との約束を。末の娘はいらんトラウマを。嫁にさんざんっぱら泣かせちまった……
それになぁ、ここにいるエリスやフィアッセにまで心の傷を与えちまった。お前はどこまで俺達をかき乱せば気が済むんだ?」
朗々と喋る士郎に恭也やエリスの目が見開かれる。
「これで最後だ。これで、本当の最後だ。不破士郎として、御神の剣士として、俺が斬るのは終わりだ」
「ふ、ふはははっ!君には、これが何か分からないようだね!」
士郎の言葉に高笑いしながら腕を掲げるファン。しかし、ファンの高笑いも長くは続かなかった。
「爆弾の起爆スイッチだろ?けど、残念。爆弾は全て取り除かせて貰ったよ」
「なにっ!?」
後ろから聞こえてきた声に振りかえると、炎の中から白いコートを羽織った少年が現れる。
「紅莉!」
「くぅん♪」
恭也が叫ぶとなぜか紅莉ではなく、紅莉の頭に乗っている久遠が機嫌よく応える。
「久遠がやってきて不穏な気配がするって言ってね、調べてみたら爆弾があったんだ。そんで、手分けして全て壊させて貰ったよ」
粛々と告げる紅莉なのだが、頭に久遠を乗せているせいでシリアスがぶち壊しである。
「だ、だが!まだ、私には人質が!」
「それを許す御神だと思ったのか?」
フィアッセを見せて何とかしようと考えていたファンだがそこに一陣の風が吹き抜ける。
「がぎゃぁっ!?」
そこには、刀を抜いた士郎が立っていた。崩れ落ちたファンに目もくれず、落ちそうになるフィアッセを優しく受け止めていた。
「お疲れさん」
「おう」
士郎に近づいてねぎらいの言葉をかける紅莉に短く応える士郎。
「父さん!」
「すまなかったな、任せたと言っておきながら手柄を取っちまって」
「士郎!」
「久々だなエリス。つもる話は後にしようか。フィアッセを頼むよ」
近づいてきた二人にフィアッセを預けると頭を掻きながら元来た道を戻っていく。
「あーあ、桃子になんて言い訳すっかなぁ」
そんなつぶやきを残しながら消えていったのだった。
「ぷっ」
士郎のぼやきに最初に反応したのは紅莉だった。思わず噴き出してしまったのだ。それにつられ、恭也もエリスも笑いだした。
「さっ、フィアッセさんを連れていかないと、時間ないよ?」
「そうだったな……紅莉」
「分かっているよ」
「おい、恭也!紅莉を残して何を!」
「大丈夫ですって、ここで協力者と待ち合わせているだけなんでー」
そういって、恭也とエリスを笑顔で送り出した紅莉は、ファンの近くまで近づいていく。
士郎は倒しこそしたが、最後までやっていなかった。そのため、そのあと気がついたファンは這いつくばりながら移動していた。
「やぁ」
「くっ」
「あんたに聞きたいんだが、緋凰橙璃って知っているかい?」
「しらな……っ!」
知らないと言い切りそうになったが、ふとファンの頭の中に一人の人物が思い起こされた。
士郎同様、かつて自身の技を持って葬った一人の女性を。
「知っているようでなにより、これで覚えがないとか言われた時にはどうしようか悩んだよ」
「そ、それが何だというんだ!」
「その息子がケジメを取りにきたのさ」
子供、そう紅莉が告げるとファンは今の現状を察し顔を青くした。
「復讐なんか何も生まないとか言うだろうけどね、それでもやっぱケジメはとらんといかんわけよ」
あくまで緩く話す紅莉だが、その目は相手を凍てつかせるには十分の迫力はあった。
「がぁっ!」
相手の顎を蹴りあげるとファンの体が面白いように浮き上がる。上に上がりまた下がっていく中、紅莉と目があった。そこにはなんの感情もなかった。
「あばよ」
チンと鯉口が切れた音が鳴り響いたのであった。
「紅莉君!」
「なんだよ」
「一緒に聞こうって言ったよね!」
「仕事が早く終わったらって言ったろうに」
仕事が終わり、さすがに観客席で聞くまでの時間はとれなかったので仕方なしに舞台袖で聞いた後、フィアッセさんの楽屋でくつろいでいたら、やってきた高町家がフィアッセさんと話している間になのはが詰め寄ってきた。
「てか、フェイトもすずかもそうだが、まずはフィアッセさんに挨拶してこいよ」
「「「うっ」」」
俺の一言に三人ともばつの悪そうな顔になる。自覚したのか、とぼとぼとフィアッセさんのところに向かったけど、フィアッセさんと喋りだして笑顔になったからよしとしよう。
「結局どうしたんだ?」
「殺気を込めて、斬ったと思わせただけだよ。そのあとどうなったかは知らんが、生きていても二度と裏にはいけないだろうね」
そんな三人を見て綻んでいると、兄さんがやってきて訪ねてきたので事実を伝える。あの時、あいつと対峙したけど既に斬る価値すらなかったから斬らなかった。
「そうか」
「甘いと思う?」
「いや、それでいい」
そっか、兄さんにも同意が貰えたしそれでいっか。
その後、フィアッセさんは兄さんたちを伴って無事に帰って行った。
後日、兄さんがイギリスから帰ってきた後にティオレさんの遺産について教えてもらえたが、その遺産ではファンは完全に意味がないものであった。
†久遠放送局†
久遠「みなさん、あけましておめでとう!」
リニス「おめでとう、ございます」
久遠「さて、OVA版の内容も終わったね」
リニス「出てきた魔導師は逮捕されて終わりですね。今後関わりません」
久遠「てか、紅莉の刀を出すところのネタ分かるひといるかな?」
リニス「作者的には知っている人がいたら嬉しいなぁ程度だそうですけど」
久遠「では、今年も宜しくお願いします!」