桜舞い散る中、俺達は遂に中学部の卒業を迎えた。
これからは、この地を離れ管理局の仕事を中心に動いていくこととなる。
俺としては、こんな頃からでなくせめて高校までは青春を謳歌してくれると嬉しいのだが、はやてをはじめ、全員があっちで働くことになってしまったので、俺も行かざる得なくなった。
とーさんや桃かーさんなんかはとても心配そうな顔をしていたしなにより寂しそうだった、兄さんも鍛錬の時には反対だと零していたなぁ。
「こんなところで、何をボーっとしているのよ?」
「アリサか」
後ろから話しかけられ振り返れば、何やら呆れたような顔をしたアリサがやってきており、隣にならんだ。
「私が来ちゃ悪い?」
「うんにゃ。しかし、アリサとも当分会えなくなるなぁ」
「何?もしかして、寂しいの?」
「ああ」
「ちょっ、やめてよ!」
このセリフで顔を赤くするなら分かるのだが、なんで青くなるかなぁ。
「あんたがそう言っていたって、あの子たちにばれたら私はどうなるってのよ」
「あぁ……」
アリサのセリフに思わず納得してしまう。なんで、ああなったんだろ。
「そりゃ、答えをはぐらかし続けるあんたが悪いと思うわよ?」
「まだまだガキの俺らには早すぎるとまではいかんが、早い話だろうに」
「はやて」
「あいつらと一緒にしたらいかん」
年中桃色空気を纏わせるのは流石に勘弁願いたい。
「それともあれ?剣士の道に女は~って奴?」
「全く関係ないなぁ」
たまに、余計な物を背負っているから弱いだとか、成長が遅いとか言う奴がいるが、俺から言わせてもらえば、それがあって何ぼだろう。
「んで、どうしたのよ」
「そうさねぇ、ちょっとした覚悟を決めていたってところかな?」
「誰かに告白とか?」
「いやちげぇ。だから、お前らもいい加減出てこい」
死角というか、建物の隅に隠れている三人に声をかけると恐る恐ると言った感じで出てくるなのふぇいすず。
「こ、紅莉君こんなところにいたんだー」
「さ、探したんだよ?」
「い、いい天気だねー」
「ダメだこいつら」
「流石にねぇ」
アリサと揃ってため息を漏らす。俺から隠れられる訳がないのなんて重々承知しているはずなのに、さも今来ましたって感じを装っていても、セリフが棒読み過ぎならば意味はない。
「んじゃ、俺は行くわ」
「ちょっと、これから皆でパーティーでしょうが」
「17時からだろ?それまでには戻るさ。だから、お前らもついてくるなよー」
手をひらひらと振った後、目的の場所を目指して歩いていく。
「さて、まずは……病院にでも行くかな」
目的の場所はいくつかあるのだが、この後のことを考え、病院へと足を向けた。
「緋凰紅莉さーん」
「はーい」
名前が呼ばれ、診察室に入ると、今では俺の主治医としてやってくれているフィリス先生が椅子に座っていた。
「今日は、どうしたの?卒業式だったって聞いているけど」
「ええ、先ほど終えてきましたよ」
柔らかい笑みを浮かべるフィリス先生に鞄からはみ出ている卒業証書が入っている筒を見せる。
「卒業おめでとう。そっかー、紅莉君ももうそんな年なんだねー。私も歳をとるはずだよ」
「いやいや、全く変わっていませんからね?」
いや、本当に変わらんねこの人。あった時と全く変わっていない……つまりは、上にも横にも伸びていないってことだけど。
「紅莉君?余計なことを考えていませんか?」
「何も考えていませんよ?」
貴女は、そのままの姿がいいんです。
「それで、今日の用件はいつも通りですね?」
「お願いします」
「完治して半年ですけど、無理は……してないようですね」
「あぐっ、無理をするほどのことがありませんでしたから、ぬがっ」
あ、相変わらず激痛が伴うマッサージだ。その分、効果はいいんだが。
「そういえば、今日は珍しく恭也さんもいらしていたんですよ?」
「のほっ、マジですか」
「ええ、何やら今日は大事な用があるとおっしゃっていましたが……この後、パーティーですよね?」
「ええ、ぬあっ。フィリス先生も来ますか?お世話になってますし、あうっ」
「今日は遅番でこのまま夜勤なんですよ」
「残念です。ぎゃっ」
そのあと、入念にマッサージをされ、心身共にすっきりはしたが、やはり進んで受けたいとは思わなかった。
「ごめん母さん、これからはあまり頻繁に来れなくなっちまう」
墓石を清掃し、線香を立て手を合わせしばらくした後、母さんに報告する。基本的にこの近くの丘で鍛錬しているからちょくちょくやってきては清掃しているから汚れているってわけじゃないし、桃かーさんも俺が来れない時なんかは割と来てくれているらしいから汚れる心配はないかな。
「守りたい奴らが、揃いもそろってあっちに行くって言うからな、俺も行かなきゃならない……すずかのこともあるから、年に数回は帰ってくると思うけど」
さすがに一般人……一般人?……ともかく、すずかをあっちには連れていけないから、帰ってくるつもりではいるが、さすがに管理外世界のためもあってちょくちょく行ったり来たりが出来なくなる。
「母さんが見たという景色は未だに見えないけれど、それでも必ずたどり着きたいと思う。母さんはそこにいて疲れたと言ったけれど、その時はその時でなった時に考えるよ」
子供のころからずっと胸にある思い。それを必ず成し遂げると告げた後、立ち上がる。
「んじゃ、また来るよ」
背を向けて歩き出すと、風が背後から吹いた。まるで、母さんが後押ししてくれたように感じ、何やら笑みが出てしまった。
「これはまた、凄いなぁ」
「みなさん、大張りきりでしたよ?かく言う私も張り切りました」
パーティーの時間となり、翠屋へと向かってみると、そこには多種多様の料理やらお菓子やらが所せましにとならんでいた。
この日のためにわざわざ水樹さんやはては美沙斗さんですら休みを取り駆けつけたというのだから頭が下がる思いだ。
「卒業、おめでとー!」
時間となり、クラッカーが鳴り響いたあと、それぞれが料理や菓子を取り楽しく談笑しだす。
ある程度時間が経った後、俺は兄さんに近づいていく。
「どうした?」
忍さんと結婚し、子供も産まれ順風満帆に人生を歩くリア充の極みの兄さん。一時、それで実力が落ちるかなぁと心配していたのだが、それはなかった。
そんなリア充な兄さんに懐から一通の封筒を差し出し、何も言わずになのは達の元へと向かった。
「よし、行くか」
パーティーも終わり、各々が帰宅した後、家に帰り少し休憩した後、俺は戦闘装束に着替え家を出て、いつも鍛錬している丘へとやってきた。
「来た」
目を閉じ、時間が過ぎていくのを感じならが待ち人がくるのを待っていると、待ち人は指定した時間通りにやってきた。
「めでたい日に呼び出しとは一体どうしたんだ?」
俺と同じように戦闘装束に身を包んだ兄さんが呆れ顔とともにやってきていの一番に言ってきた。
「分かっているんだろう?」
「やることはな。しかし、理由が今一つだ」
これから俺達が何を行うか、俺が何をしたいかを理解したからこそ兄さんはやってきてくれた。
「理由か……俺は、この春から向こう側に根を張ることになる」
「ああ、理由は察している」
「けど、それを行うに当たり、一つだけ心残りがあるんだ」
目を閉じ思い返す。俺が高町家に貰われ、育ち、常に見てきた光景。
「俺が知る中でも最高の剣士である兄さん……不破恭也と全身全霊をかけ戦ってみたいってね」
目を開き、兄さんをしっかりと見据えて俺の思いを言葉にする。
「そうか……」
俺の言葉を聞き、今度は兄さんが目を閉じた。
「いいだろう。月村恭也でもなく、高町恭也でもなく、不破恭也として相手をしよう」
兄さんの言葉を聞いた瞬間、体の奥から何かが噴き出しそうになったので、それを我慢したりせずに完全に開放する。今日、目が覚めた時からずっと溢れそうになるのを押さえていた反動かどんどんと奥から噴き出してくる。
「正直にいえば、俺もお前とやってみたいと思っていた」
「そうか」
嬉しいことを言ってくれる。
「リニス!」
「はっ!」
俺の呼びかけに応じたリニスがすぐさま反応し結界を構築していく。先ほどまで真っ暗だった草原が、別の場所へと変化した。
「魔法とは凄いな」
「ここなら、俺も兄さんも戦いやすいだろう?」
「ぬかせ。俺らに戦場の良しあしなどない」
俺のセリフに兄さんが挑戦的な笑みを浮かべる。
「越えさせてもらうぞ、不破恭也!」
「それはこちらの台詞だ、緋凰紅莉!」
次の瞬間、俺は地を思いっきり蹴った。
恭也が紅莉の元へとたどり着いたころ、それより後方の場所に別の人たちも訪れていた。
「やっぱりなぁ」
「兄さんは気づいていたのか?」
「そりゃ、朝からなにやら紅莉が考え事をしている感じだったし」
「なるほどね~」
やってきたのは、士郎、美由希、美沙斗、水樹たち剣士組と
「お兄ちゃん、紅莉君」
「大丈夫だよ、きっと」
なのは達をはじめとした、魔導師組がやってきたのであった。
紅莉自体は隠せていると思っていたが、その実、隠し通せていなかったのである。
普段は、己の内面なんて相手に見せる隙を与えない紅莉だったが、今日、この時を待ち望んでいたのか、そういった部分が緩んでいたのであった。
何が始まるかなんて分からなかったが、心配になって見に来てみれば、なんと兄である恭也との全力戦闘であったのだ。
「皆様、マスターである紅莉からの伝言です。もし、この勝負を邪魔するようならば、容赦はしないと」
「分かっているさ。なのは達もいいね?絶対に魔法を使って茶々を入れちゃだめだよ?」
結界を張ったリニスが、なのは達の元へとやってくる。紅莉は念のために、リニスに指示を出していたのが功をなしたのだ。
「なんで、お父さんがそれを言うの!?」
心配でたまらないなのはが士郎の言葉にくってかかる。
「なんでってなぁ、分かるからかなぁ?」
なのはに食ってかかられ、ばつが悪い顔をしながらも理由にならない理由を答える士郎。
「恭也も紅莉もお互いが越えるべき相手だと見ていたからな、遅かれ早かれこうなることは確信していたんだよ」
「そう、だね。恭ちゃんも紅莉もライバル……じゃないな、なんだろう?」
「目標でもないね」
「う~ん、士郎さんと姉さんの関係と同じなんだけど、なんて表現したらいいんだろうね」
剣士組一同が揃いもそろって頭を悩ませる。ライバルというのは違う。たがいに競い合う部分はあるが、それはあくまで全てを含めた一部でしかない。
そのために、どう表現したらいいのかわからないのである。
「とにかくだ、さすがに決闘に水を差す真似だけはやめてあげてくれ。これは、父からじゃなくて、剣士としてのお願いだ」
「わからないよ……」
悲しい顔をしながら、なのはたちは紅莉のほうへと視線をもどしたのであった。
高い金属音が鳴り響く。一度、二度、三度、その数は次第に増えていき、ついには数え切れないほどである。
恭也と紅莉が戦闘を開始して既に十分の時が流れすぎた。
たがいに傷はない。全ての攻撃をいなしているか、躱しているからである。
今までの中で一層強い金属音が鳴り響いたと思うと、二人はたがいに距離をおいた。
「準備運動は」
「これぐらいでいいだろう」
サーチャーで映像と音声を拾っていたなのは達は驚愕の表情を浮かべる。
今までの攻防でもありえないとしか評せないものだったのが、それが準備運動だとのたまう二人に絶句するかしかなかった。
「ふっ!」
しかけたのは恭也からであった。
なのは達は理解していないが、剣士組にとっては当たり前に映る。
そもそもが、御神と緋凰は戦闘スタイルが大きく違う。
御神は圧倒的な速度と多種多様な手数を持って相手を打倒する流派である。
一方緋凰はと言えば、こちらは逆に悠々と歩きながら眼前の敵を一刀のもと切り捨てる、一撃必殺の流派である。
すなわち、御神と緋凰が戦えば、御神がいかにして緋凰の防御を抜けて斬り伏せるかが勝負となる。逆を言えば、緋凰はいかにして御神を捕え、斬り伏せるかにかかる。
「と、普通ならそうなるはずなんだけどなぁ」
「あの二人だと、それが当てはまらないね」
なのは達に軽く説明しながら映し出される映像に嘆息する士郎と水樹。
「そうなの?」
「美由希はあの二人と一緒にやり続けたから違和感がないんだろうね」
美沙斗が娘の疑問に苦笑い気味に応える。
「恐らくだけど、あの二人はたがいのいい部分は素直に吸収しているんだろうね」
「だろうなぁ。じゃなきゃ、あんなに足を開いてあいての攻撃に対応するなんて御神じゃ考えんだろうし」
「緋凰だってそうだよ。あんなに高速で動きまわっちゃ、幻武が上手く使えないよ。……ふつうは」
今も恭也が紅莉の開いた胴に斬撃を見舞わしたのだが、紅莉の体は傷はおろか、衣服にも何も問題はなかった。
威烈を極める攻防の中、遂に奥義まで飛び交い始めた。
恭也が虎切を放てば、紅莉が体勢を立て直し葬刃を放ち、花菱を使えば乱舞にて相対する。
両者一歩も引かずに互いを斬り倒さんと力を込める。
「ふっ」
そんな中、紅莉が斬りあげてくる攻撃を恭也は右手の小太刀で逸らし、残った小太刀で迎撃しようと一瞬で取り決め、実行しようとしたが、小太刀が紅莉の太刀に触れるその瞬間、猛烈に嫌な予感がよぎり、急きょ取りやめる。
しかし、既に体はそのための行動に移り始めていたのだから、下手にやめれば返しの一太刀でやられてしまうのは明白であった。
ゆえに恭也は更なる札を切ることにした。
一瞬の意識の切り替えの後、恭也の見える世界がモノクロの世界へと変わる。
それだけでなく、目に見える全ての動作がゆったりとするものとなる。
御神の奥義の歩法【神速】であった。
神速の世界の中でさえ、紅莉の一撃は鋭さを保ち、速さも凄いものである。
恭也はそんなことを思いながらも足に力を込め、その場を全力で飛び去った。
「ちっ」
あからさまな舌打ちをし、恭也が飛び去ったほうへと視線を向ける紅莉。
そこには、表情を変えず構えている恭也がいるだけである。ただし、仕掛けてくる気配はなかった。
「いつの間に……いや、それが出来たのか?」
恭也が何を差しているかなんて分かっているのか紅莉はいつものようにゆったりとした構えを取りつつ口を開く。
「6年くらい前にね、夢で見た光景に母さんが使っていたんだよ。その時点で、魔法の力を使えば出来なくはなかったんだけど、素の状態で使えるようになったのはここ一年くらいかね」
紅莉が行ったのは、緋凰の奥義【断空】である。
ただし、恭也の今までの認識は、断空は縦の振りおろしでしか使えないという奥義であった。
しかし、今紅莉が行ったのは縦の振り上げであったのだ。
「厄介な」
「雷徹と変わらんよ」
「馬鹿を言うな!」
声を発した次の瞬間には紅莉に近づき右の小太刀で薙ぎ払いに行く恭也。しかし、それはただの薙ぎ払いではなく、奥義の【雷徹】であった。
それを迎撃に行く紅莉の斬撃が通常ならば、刀をへし折るか、はたまた、弾き飛ばせるはずだったが、結果は互いの太刀を弾くだけで終わる。
再び距離を取り恭也は確信した。
(縦横無尽に振るえる、か)
今の一撃は確認に近かった。振りおろしと振りあげだけならばまだ対応の仕方があったが、横も問題ないのであれば話は別である。
一撃一撃の中で、緋凰のそれは相当なものである。また、断空は緋凰の中で一番の破壊力を有するものである。
判断を間違えれば、待っているのは自分の太刀ごと切断されるという結末だ。
(だが)
恭也はだが、だからこそ倒しがいがあると思う。
(思えば、こいつの夢にいつの間にか俺も乗せられていた、ということになるな)
小さいころから、剣士として頂きに上ると言い続けてきた紅莉。
剣士ならば誰しもが思い、願い、そして夢破れてきた。
だが、紅莉はそんな夢物語を現実に変えようと常に歩みを止めずにやってきていた。
いつしか恭也もまた、同じ願いを持つようになっていたのだ。
一度は自分でやらかした無茶な鍛錬により、膝を壊し、剣士として大成しないと諦めていたのだが、フィリスと出会い、紅莉の針治療によって完治した膝はそんな夢を再び見れるところまでやってきたのである。
(やれやれ、すぐに対応とかないわー)
一方で紅莉は紅莉で、恭也に対してかなり呆れていた。
断空を自在に操れるというのは今まで仲間内でもエアくらいしか知らないものであったのだ。
使う必要もなければ、教える必要もないので黙っていたが、この日のためと考えればよかったのかもと思っていた。
しかし、いざ使ってみれば、致命傷とまで言わずとも、多少の傷をつけられると思っていたそれが、回避されあまつさえ対応されてしまった。
そんな紅莉の心情など知らずに再び恭也が攻め立てる。
幻武を纏い、相手に自分を捕えさせずに迎撃しようとするが、こちらのほうは長年使い続けているために、恭也は既に対応をしているのだ。
ゆえに決めてに欠けていた。
それは、恭也も同じである。幻武の対応は同じ歩法でしか対応が出来ないために、三段階目まで発動させられると、こちらも神速で対応を取らねばならない。
しかし、神速は使えば使うほど体にダメージが出てくるものだ。
特に酷いのが極限の集中力を必要とすることによる脳への負担。
そのために、紅莉相手に神速を多用するとなると確実性がない限りは中々、使いどころがないのである。
そんなことがありながらも二人の攻防は終わることなく続いていく。
徐々に二人の剣閃は鋭くなり、今まで全て捌けていた攻撃がかするようになり、薄皮を徐々に切り裂き、血が流れ始めた。
しかし、二人にとってそんなものかすり傷であり手を緩める必要などなかった。
集中力も今までにないほどまで極限に達したころ、二人に変化が訪れた。
「「!?」」
紅莉に訪れた変化は、突如世界から色が失い、動きが止まったかのような感覚になるものであった。
自分の体も動かしづらいのだが、それでも目の前にいる恭也よりも動きは早いと感じる。
しかし、そんな恭也が突如目の前から消え失せたのである。
神速による移動でもない、気配がそこらかしこから感じるものであった。
恭也が感じたものはそれは、自分が世界に溶け込む感覚であった。
感覚が溶け込み、相手の気配、目線、考えなどが全てが自分に入ってくるような感覚である。
そして、目の前にいる紅莉が何をしようとしていたのかを即座に理解することもできた。
しかし、突如として紅莉が信じられないような速度で移動するのを感じる。
分かっているのに目に追えない、そんな感じであった。
二人は弾かれるように距離を取り、今の感覚を思い返す。
(もしかして……)
(もしかすると……)
二人の思考は答えを導き出す。
紅莉が至ったのは神速の世界。御神が意図的にたどり着いた究極の歩法である。
恭也が至ったのは幻武の世界。緋凰が意図的にたどり着いた究極の歩法である。
互いが互いのいいところを取り入れ、鍛錬してきた結果、今身を結んだのであった。
(くわっ、きっつー)
(なんだ、これは)
二人は相手には分からない程度に顔を顰める。
神速にたどり着いたのはいいが、その反動で脳が酷く痛む感覚を覚えた紅莉。
幻武を発動できたのはいいが、その反動であらゆる情報が頭に入ってきて脳がかき乱された感覚を覚えた恭也。
(兄さんはいつもこんなのを平然と使っていたのか)
(紅莉はいつもこんなのを使っていたというのか)
互いの奥義の歩法にありえないといった感想を抱く二人だが、周りから見ればどっちもどっちである。
しかし、と二人は思う。今はまだ副作用が強いが、使いこなせればそれはそれで使えるものだと頭を切り替える。
しかし、現時点では使い続けるのは憚るために、頭から追い出し、目の前の相手に集中する。
「ぐぅっ!」
「がぁっ!」
再び剣劇が始まる中、遂に恭也の小太刀が紅莉の左手を捕えた。
しかし、その返しに紅莉の右手の鞘が恭也のアバラを捕えた。
見た目的な度合いならば、紅莉のほうが怪我が大きいと思われるが、恭也の肋骨も砕けたために互いの怪我の度合いは五分と五分である。
それでも攻撃の手は緩めない。緩めるのは相手が倒れた後で十分だ。
そんな気持ちを持って、二人の攻防は威烈を極めた。
紅莉は左手を斬られたことにより、太刀を右に持ち直し、恭也は撃たれたアバラからの影響か左からの攻撃を控え右の攻撃に集中する。
始めてから幾許の時間が流れただろうか。二人は未だに休まることなく攻防を繰り広げていた。
「なんだ、あれは……あんなのが可能なのか?」
今まで絶句していたクロードが漸く口を開いたかと思えば、それは疑問であり、理解不能な二人の行動であった。
それは、あれだけの怪我を負いながら、またかなりの時間を戦い続けているはずの二人が最初と全く変わらない動きで動き続けていることであった。
「あー、クロード君やなのは達もなんだけどさ、戦場で一番まずいのが何かって分かる?」
クロードの言葉を聞いて、その感想に妙に納得した美由希が改めて尋ねる。
「えっと、隙を見せることですか?」
「紅莉君が常々言ってるもんね、戦場で隙を見せるなって」
美由希の問いに、フェイトとなのはが答える。それにうんうんと頷く美由希に、答えがあっていたことによりほっとする面々。口には出してないが、同じことをおもっていたらしい。
「それじゃ、戦場で一番小さな隙って何か分かる?」
「一番小さな……」
今度の美由希の問いに、今度は誰も答えられなくなる魔導師組。ちなみに、剣士組は全員答えを分かっているためか、成り行きを見守っている。
「わからないかぁ~。答えは簡単だよ?」
魔導師組の反応を見た美由希が苦笑いしながらいうが、結局答えは出てこなかった。
「それで、何なのお姉ちゃん?」
「それはね、息切れだよ」
美由希の答えを聞いて、今一つピンとこないのか、呆けた顔をする魔導師組。
「息切れをすれば、呼吸が相手にばれるからね、息が吐き出される瞬間とか、吸う瞬間を狙われると対応が遅れるし、色々と危ないんだよ」
そう言って、再び二人の様子を見れば、全く息を乱さずに戦い続けている姿であった。
「恭ちゃんは確か……12時間くらいまでなら、問題なく戦い続けられるって言っていたかな?
紅莉はというと……10時間くらいだったかな?そこはまだ勝てないとか言っていたし」
さらりと告げられる言葉に絶句する一同。そして、それを理解した後、全員が剣士組へと視線を移す。
それに気がついた剣士組が全員苦笑いを漏らしながらも口を開いた。
「私は5時間が限界だって。流石にあの二人にはついていけないよ」
と、美由希が口を開けば、
「私も歳だからね、6時間ぐらいだね」
と、美沙斗が続き、
「私は9時間までいけるよ~」
と、水樹が口を開き、最後に、
「俺は今の状態だと5分が限界だ。けど、現役時代はそれと同じくらいだったかな?」
と、士郎が閉めた。
しかし、聞かされたほうはというと、何この人外?という疑問しか生まれなかった。
「士郎さん、嘘はいけないよ」
「なにがだよ」
「だって、昔姉さんと一日中やりあっていたじゃん」
「ありゃ、途中で休み休みだよ。最長は10時間ぐらいだって」
水樹からのツッコミにこれといって感情を含めずに返す士郎だが、休み休みだろうと一日中やりあい続ける人間が存在しているほうが可笑しいのである。
というよりも、そんな人の血が流れていたんだ~と何故かなのはが遠い目をして、他のメンツはというと、なのはもこうなるかもと恐怖を覚えたとかなんとか。
「というよりも、皆さんより長い間戦い続けられるんですか、あの二人は?」
ふるふると指を出して尋ねるクロードに美由希が苦笑いしながら頷き、他の面々も苦笑いしているだけだった。
「恭也は自分に才能がないから、剣以外の部分では負けないと思っているんだろうなぁ」
「才能が、ない?」
士郎が思わずといった台詞が気になったのか再びクロードが尋ねる。あれが、才能のないものが振るえる剣とは到底思えないのだ。
「いや、才能はあるぞ?ただ、あいつが知りうる環境の中で、一番才能がないと思ったんだろう」
「恭也はそんなことを考えていたのか」
「ああ。あいつは、ある意味で御神の歴史を知る最後の剣士だからなぁ」
「静馬さんや一臣を見ていたから余計に、か」
「そういうこった。後は、美由希も見ていたからじゃないか?」
「私!?」
突如話が振られ、思わず声を上げる美由希。
「前にあいつが漏らしていたんだが、さすがは両宗家の娘だとかなんとか」
美由希は厳密には恭也とは従妹である。不破宗家の娘である美沙斗が御神宗家当主である静馬に嫁入りし、その間の子である。
対して、恭也は士郎が不破で迎えた嫁との子であり、嫁は恭也を残し蒸発したような人物だ。
そういった部分で見ても、恭也には才能という部分では美由希に劣ると言っても間違いではない。
そして、義弟である紅莉は緋凰の血筋ではないが、わずかこの歳にして既に恭也に迫る実力を有するほどの存在だ。
三人の中で一番、才能がないのは誰かと言えば、恭也と答えるしかないかもしれない。
「けどなぁ、あいつは一番御神、不破に必要なものを持っている」
「ああ。だからこそ、私は恭也に負けたんだし、奥義の極にたどり着けたんだろうね」
「おいまて」
「どうしたんだ、兄さん?」
「今、なんて言った?」
「恭也に負けたってことか?それなら、知っているだろ」
「いや、ちげぇ、そのあとだ、そのあと」
「奥義の極にたどり着いたと言ったんだが……知らなかったのか?」
「今、初めて知ったわ!」
美沙斗から告げられた衝撃の事実に士郎は思わず大声を出してしまう。
「ここ近年、誰もがたどり着けなかったという奥義の極をまさか、恭也がたどり着くとはなぁ」
「ずいぶんと悔しそうだね、士郎さん」
「まぁなぁ、俺だってたどり着けなかったんだぞ。あの静馬にさえ」
「よくいうよ、静馬さんをさんざんっぱら叩きのめした人の台詞か」
「文句は橙璃に言ってくれ、あいつがいなきゃ俺はあそこまでにはならんかったはずだ」
「姉さんのせいにするなー!」
和気あいあいと語られるのだが、語っている内容が内容だけに誰もが笑えなかった。
場面は再び紅莉達に戻る。
二人の体は軋みを上げ、悲鳴を上げ始めているが、それを意思の力でねじ伏せ、ただただ、眼前の敵を打ち倒そうと動き続ける。
そして、再び幾許かの時を凌ぎあった後、二人は唐突に距離を取る。
二人とも、これ以上やっては泥沼だと感じたのだろう、次の一撃で全てを終わらせる。
その意思を全て太刀に乗せるとともに刃を納める。
きしくも、二人は抜刀術を得意とする剣士であった。故に決着をつけるのはそれ以外にありえなかったのである。
互いに支え続けてきた力を出し切らんと、今二人は動き出した。
恭也が放つは奥義の極【閃】。
対して、紅莉が放つは、今はまだ名もなきそれ。
そして、まさに今刃が抜き放たれようとしたその時、二人は垣間見た。
紅莉はかつて、闇の書事件の折に生み出されたディスナガンとの戦いで。
恭也はかつて、美沙斗ととの戦いで。
何故か本能が告げる、そこに刃を通せばいい。それが最上の選択であると。
ゆえに二人は迷わずに眼前に現れた軌跡に己の刃を通したのであった。
当たりが静寂に包まれる中、ドシャリと何かが崩れ落ちるような音がその場に鳴り響いた。
最初はだれもが反応できずただ唖然としていたが、それを破ったのは機械的な声であった。
《リニス!早く、マスターと恭也殿の治療を!シャマルもいるなら、ついでにやってください!》
それは、エアからの声であった。この戦いではただのアクセサリーと化していたエアだったが、戦いも終われば話は変わる。
しかし、エアから呼びかけられても誰も反応が出来ずにいた。
《早くしなさい!二人を死なせたいのですか!》
どこか悲痛な叫びに漸く我に返ったリニスとシャマルが慌てて二人の治療へと向かったのを見て、他の面々も後を追うように向かった。
「こ、これは!」
「酷い!」
治療にやってきた、リニスとシャマルが二人の怪我の度合いを見て、顔を青くする。
互いに胸元がバッサリと斬られていたのである。
二人は慌てて、治癒の魔法をかけ、さらにバイキンが入らないように清潔に保つように二人を結界で包む。
そして、漸く追いついたなのは達であったが、二人の症状を見て、なのふぇいは気絶し、はやても気絶こそ免れたが、ふらふらと力なく倒れてしまった。
剣士組も慌てて止血を手伝うなど、この後のことでひと悶着あろうことなど気にせずに対処したのであった。
「ぐぁっ!?」
いつの間にか寝ており、起きたので体を起こそうとしたのだが、体に激痛が走り、思わず声を上げてしまう。
「てか、ここは……俺の部屋か」
《お目覚めしましたか、マスター》
ベッドの横から声が聞こえてきたので首だけそちらを向かせてみると、エアがいつもの場所に安置されていた。その声には多分に呆れが混じっているが。
「俺は、兄さんと戦って……それで?」
兄さんと最後の決着と意気込んで刃を振るったところまでは覚えているが、そこから先が思い浮かばん。
《お二人とも、最後の技を放った後そのまま硬直し、しばらくしたら倒れました》
まるでアニメや漫画のような光景だな。
《その後、倒れられたお二人を急ぎ応急処置を済ませ、こちらに運び本格的な治療を開始したという感じですね》
さすがに病院に運びいれるわけにはいかないだろうからなぁ。
「どうなったんだ?」
《お二人とも胸部に大けがを負っていました。奇跡的に臓器には触れてなかったですが、それでもあと数ミリでも違えば肺や心臓なんかを切り裂いていた可能性があります》
うわお。よく無事だったな、俺と兄さん。本能で止めたのかな?
「まぁ、無事でよかった」
《何を言っているんですか。お二人とも中々目が覚めずに皆さん、心配していたんですよ?》
「なぬ?」
《今日で丁度一週間でしょうか?なのは嬢やフェイト嬢など、怪我されたマスターをみて倒れましたよ》
「なん…だと…」
一週間も眠りっぱなしだったと?
《フィリス女医や他の関係者の方に見てもらい、一命は取り留めましたが、お二人とも中々起きずに皆さん、大変に心配されていました。かくいう私もですが》
「あーすまん」
《まぁ、マスターがやることに異を唱えることはしませんが、心臓に悪いのでやめてください》
お前に心臓はないだろうが……レヴがあるのか。
変なところでツッコミを考えていると扉が開く音が聞こえたので、そちらを振り向いてみると、なのはとフェイト、すずかが揃って入ってきていた。
「よっ」
手を軽く上げ、挨拶したのだが無視された。あれか?無茶したばつかなにかか?
「こ、紅莉君」
「目が覚めたの」
「よ、よかったぁ」
「ちょっ、お前らどうした!?」
突如泣き出した三人に痛む体を無視して駆け寄ると、三人がしがみついてきた。
あのぉ、とりあえず罵詈雑言はこの際、謹んで受けるので胸を叩くのやめてくれませんかねぇ?男の子の意地で叫ばないだけで物凄く痛いんですが。
そんなことを我慢していると、下からも似たような気配を感じてきたので、恐らく兄さんも起きたんだろう。
その後、痛む体を惜しむことなく一階に行くと、そこでよろよろと珍しく弱っている兄さんと顔を合わせる。
「引き分けだったね」
「ああ」
俺の言葉に頷く兄さん。その兄さんに、不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「次は勝つ」
「ほざけ、お前には負けてやれん」
互いに笑みを漏らしていたのだが、突如背後から物凄いオーラが……
「二人とも、また皆に心配をかけたいのかしら?」
目を真っ赤にはらした桃かーさんが恐ろしい笑みを浮かべていた。
あぁ、なんだ……なのはのあの凄みがある笑みというのは桃かーさんからの遺伝だったのかぁとどこか俺は場違いなことを思っていた。
†久遠放送局†
久遠「さて、紅莉と恭也がガチ対決を行ったよ?自重しようよあの二人」
リニス「作者がずっと書きたかった話で、空白期にこれをやろうと決めていたはずなのに、その間の話がありすぎて漸くといった感じですね」
久遠「だねぇ、ここまで何話かかったんだという感じ」
リニス「まだStsにいけませんしねぇ」
久遠「それはいいけど、あの二人の強さが分らない」
リニス「大丈夫、作者もわかっていませんから」
久遠「それは、大丈夫と言っていいのかなぁ?」
リニス「もともと主人公最強のタグがあるんですし、問題ありません。恭也さんはしりません」
久遠「ちなみにあの二人はそのあと3日で完治したらしいよ」
リニス「そっちのほうが化け物っぽいですね」
久遠「では、次回もお楽しみに」