バレンタインデー。正式には、男女の愛を誓い合う日とあるが、ここ近年では、女子から男子にチョコを贈るという風潮になっている。
「ふふふ、これを食べれば紅莉君もイチコロ……」
「あわわわ、これはやばいんじゃないですか、すずかちゃん」
「ファリン?」
「ひゃいっ!」
「いい?紅莉君はね、私の気持ちを知っているのになのはちゃんやフェイトちゃん、はては綺麗な女性に囲まれるような人なんだよ?」
「いや、なのはちゃんとフェイトちゃんはそうだけど、後半部分は……」
すずかの言いがかりにファリンが反論をしようとしたのだが、すずかの厳しい眼光にどんどんと言葉がしぼんでいってしまった。
「そんな紅莉君を振り向かせるためならば、媚薬の一リットルや二リットル!」
「だから、単位が可笑しいんじゃ」
「大丈夫。濃縮してホットチョコレートとして渡すから。これで、私の勝利だ!」
燃える女すずか、その役割ははっきり言ってアリサのものだぞ。
「ふんふんふ~ん♪」
「なのは、随分と機嫌がいいな」
「えへへ~」
何やら隊舎の調理場で料理をしているなのはの姿を見てヴィータが尋ねる。
「ほら、こんどの金曜日って」
「ああ、そういやもうそんな季節か~。あたしも準備しねーと」
「クロード君は大変だね~」
「おめーも人の事は言えねえだろ?」
なのはから今度のイベントのことを言われ、それが何か思いついたヴィータがすっかり忘れていたという顔をしながら今後の予定を立てていたら、他人事のように感想を言うなのはにヴィータが呆れながらツッコミを入れた。
「そう、だね……ふふふ、紅莉君ったらいつもいつもいつもぉぉぉぉっ!」
「やべっ!?」
そして、ヴィータのツッコミを聞いたなのはがダークサイドに落ちてしまい、ヴィータも自分の失言に漸く気づき、後悔する。
「なんだろうなぁ?私がせっかく丹精込めて作って持っていったらフェイトちゃんやすずかちゃん……ううん、知らない女の子からチョコを貰ってデレデレしている紅莉君が思い浮かぶなぁ」
「ひぃっ!?」
目の焦点が合ってないような表情でぐりんとヴィータを見据えるなのはに、ヴィータはつい短い悲鳴を上げてしまう。
「どう思う、ヴィータちゃん?」
「い、いや、紅莉もほらあれで中々気遣いが上手いし!クロードとは大違いだし!」
必死に、フォローを入れるヴィータ。その姿は振るえるウサギである。
「そうなのかなぁ?」
「そうだよ!」
その後、なんとかなのはを宥めたヴィータは隊員から惜しみない賛辞をもらうのだった。
「……まだ、美味しくない」
「いや、十分に美味いってフェイト」
出来上がったかけらを口に含み少し咀嚼したのち、ずーんと暗くなるフェイトに一緒にいるアルフが同じように咀嚼しながら感想を言うのだが、今一通じてない様子である。
「まだだ!まだ、もっと上を目指せる!それに、すずかはノエルさんという完全で瀟洒なメイドがそばにいるんだよ!?なのはだって、実家はお菓子屋さんなんだよ!?私だけ遅れているんだよ!?この程度で満足したら私は勝てない!」
矢継ぎ早に言われドン引きするアルフ。ぶっちゃけ、ここまでフェイトを駆り立てるものが何なのかが今一わからないアルフ。
「よし、第50弾できた!アルフ!」
「うえぇ……」
そして、なによりきついのが、先ほどから思考錯誤を繰り返しながら作られるチョコの味見役である。
いくら食いしん坊の気があるアルフでも流石にこの量は勘弁願いたい。というよりも、さっきから鼻の奥がツンとしているのだ。
「まだ、ダメだ……」
「勘弁してくれよ~。怨むよ、紅莉~」
アルフの悲痛な叫びが響き渡ったのであった。
「そんで、君はなんでここにいるんだ?」
「固いことは言いっこなしだぜ?クロードがいる理由は知らんが」
「いや、俺も年々きつくて……」
バレンタインデーが近づくにあたって、ここ最近、どこもかしこも殺気立ってきている。
さすがに居心地が悪いってのと、なにやらよからぬことが起きそうな気がしたので、久方ぶりに友人に会ってくるという名目で休みをもらい、クロノの家に逃げてきたのだ。
そんで、クロノに匿ってくれお願いしていたら、クロードまでやってきたのだ。
「ほれ、今日ってあの日だろ?」
「……そういえば、そうだったな」
俺がカレンダーを指差すと、クロノも今日が何日かを思いだし、カレンダーを確認するとそこに赤い丸がついていた。
そして、俺が何を言いたいのかも察したのだろう。なにやら、疲れた顔になった。
「君がいつまでも答えをはぐらかせているが悪いんだろう?」
「まぁ、そうなんだけどさぁ。今のぬるま湯のような環境が気持ちよくてなぁ」
「やれやれ、普段のプレイボーイっぷりはどこにいってしまったんだ」
肩を竦め、俺がいれたコーヒーを啜るクロノ。こいつ16ぐらいから突如として身長が伸び出して今や憧れの提督ランキングで上位に君臨するんだよな。
「プレイボーイって、俺は別に遊んでいるという訳ではないんだがなぁ」
「知っているさ。だが、君と面識が少ないものにとってはそれは劇薬だということだ」
「ううむ……」
周りから散々、人を褒めるな、女に近づくなと言われるんだが、俺としては当たり前のことしか言ってないんだが。
「まぁ、君の事情はあまり分からないが、ひとまず置いておこう。次は、クロードだが……君ははやてと付き合っているのだろう?」
そうだ。こいつは、今やはやてと付き合っている。というよりも、中学のころには公認カップルになっていたはずだ。
そう思いながら、クロードをクロノと一緒にみると、なにやらばつが悪いような顔をしながら目をそらしやがった。
「まさかと思うが、お前……八神家全員に手を出しているわけではないよな?」
「なんでそれを!?………あ」
冗談で言ったつもりが、まさか当たるとは……
「てか、お前。リインやヴィータに手を出すとかどうかと思うんだが」
「男ならば、一人の女性を愛せ」
「おうおう、早々に嫁さんに食われた奴は言うことが違うね」
「う、煩いな!それに、なんだ食われたって!」
「え?エイミィが、結婚報告する時に上手くいったよって忍さんにお礼を言っていたから、てっきりそうなのかと」
「そうだったのか……」
俺の発言にがっくりを落とすクロノ。どうやら、本当にそうだったらしい。
「俺だって手を出すつもりはなかったんだよ!なのに、ヴィータがアタシも負けてらんねーとかいって、襲われたんだよ!」
「つか、リインに手を出していたとか……首を差し出せ」
「なんで!?」
「父として、娘に手を出されたらやることなんて一つだろ?」
「父じゃねーだろ!てか、普段は父と呼ぶなとか言っておきながら、なんでこんなときだけ言うんだよ!?」
おもしれーから。
「てか、さすがにリインは手をだしてねーよ。あと、アインスもだけど」
「まぁ、出していたら出していたで、あいつらから報告ありそうだが」
リインに至っては『お父さん!私もついに一人前の女性になりましたです!』とか満面の笑みで。
「そろそろ、話題を戻さないかい?」
「そうだな」
「ああ。そんでな?毎年、毎年、誰のチョコが一番美味いのかって迫られるんだよ」
「皆美味しいじゃだめなのか?」
「通じると思うか?あの不器用なシグナムすら手作りだぞ?」
「まて、シャマルのあれがあるのか?」
「何故か知らないけど、あれだけはまともなんだ」
そうか……美由希よりましだな。あいつ、チョコですらダメだったし。
「まぁ、俺から言うならばリア充が……殺すぞ」
「怖ぇよっ!」
女に囲まれて幸せすぎてつらいとか一人身には堪えるんだぞ?
「それで、紅莉はどうしてそこまで決めることに躊躇しているんだよ」
「さっきも言ったろ?ぬるま湯のような今の環境が心地いいんだよ」
「だが、彼女たちは答えを求めているんだぞ?」
「分かっちゃいるんだけどなぁ」
ただ、なんとなくまだ答えを出すには早いと思っているのも確かなんだ。
「っと、誰か来たようだな」
「そうだな……なのはたちでも、はやてたちでもないな」
「ほっ」
気配的にこれは……
「紅莉ー」
「お、久遠か。どうして、ここが分ったんだ?」
「なんとなく?」
こてっと首をかしげる久遠はそのまま俺の膝の上に座る。
「はい、紅莉」
「これは?」
「チョコだよ!リニスに教わって、久遠が作ったんだ!」
久遠が渡してくれた包みを開くとそこには少々不格好だが手作りのチョコが収まっていた。
「おお、ありがとうな久遠」
「えへへ~」
俺に頭を撫でてあげると嬉しそうに目を細める久遠。
「君は昔から本当に久遠に甘いね」
「甘いというよりも激甘?」
五月蠅い黙れ。
「ん、美味しいよ」
「本当!?」
「ああ。真心がこもっているからね」
「わーい!」
結局、その日はなのは達から隠れおおせたけど、最終的にはつかまり無理やりチョコを口にねじ込まれ、誰が一番か尋ねられた。
波風を立たせないつもりで、今回貰ったチョコで一番おいしいと思ったのは久遠のチョコだと言ったら、何故か全員が泣いてしまった……失敗した。
紅莉に毒などは一切効きません。故に媚薬を盛られてもレジストします。