第76話
「おっす、デコボココンビ」
屋上の扉をあけると、先客がいたが、見知った顔なので片手を上げながら横に着く。
「緋凰か。いいのか、高町と一緒にいなくて」
「これといって、やることはないからな」
デコボココンビの片割れであるシグナムが訪ねてくるが、どうせ今日はガジェットの相手をさせる程度であるから俺の出番はないし。
「つか、誰がちっちゃいだ!」
先ほどの言葉にいまさらながらにツッコンデくるヴィータが脛を蹴ってくるが、人の身体的特徴をバカにしたし、ここは素直に甘んじて受けようと、避けなかったのだが、蹴った当人はつま先を抱えながらピョンピョンと跳ねまわっている。
「いってーっ!?」
「すまん、とっさにガードしてしまった」
自己防衛本能が働いたのか、甘んじて受け入れようとしたのだが、それが出来なかった……半分くらいはわざとだけど。
「まるで鉄を蹴ったみたいな感じだったんだけど」
「ああ、中国拳法で金剛体法というのがあってな、それをとっさに使っちまった」
体を金剛石と同様にするとか云々かんぬんだ。前に、兄さんと一緒に行った任務で使ってきた奴がいたからなぁ。そのあとに、レンちゃんに聞いたら、なんと使えるとのことで教えてもらった。
「頭が痛くなる話だ。貴様は、いつから人外から化け物になった」
「聞き捨てならんな。誰が人外だ、化け物だ。俺はただの人間だよ」
「ただの人間なわけねーよ!」
そもそもが、お前らが武術を理解しないだけだろうが。人間は得てして、理解できないものを異端と決めつける傾向が強いからなぁ。
地球じゃあ、空飛ぶなんて化け物もいいところだけどな。ただまぁ、現在の地球じゃあ人間は図太くたくましいから、実験動物になるのが目に見えているけど。
「それで緋凰、フォワード陣はお前の目にどう映る?」
その後、これといって話が膨らまなかったためにやることなしに、フォワード陣の訓練風景を眺めていたら、シグナムが尋ねてきた。
「どうねぇ……一応は、4人とも知っているし、何度か手ほどきをしてはいるが」
「そういや、はやてからそんなことを聞いたな」
「スバルちゃんはあの突撃思考を直さんと今後、痛い目にあうだろうし、ティアナ嬢は少ない魔力はカートリッジで補えるとしても、想定外に陥った時に思考が鈍る弱点があるし、エリキャロは実戦不足が顕著だな」
まぁ、スバティアに関しては新型のデバイスを作るだろうから、細かいサポートに関してはデバイスがやってはくれるだろう。
エリキャロにしても、素質は十分にあるのだから、今後のなのは次第になるのかねぇ。
「なるほどな。所で緋凰は、この後時間はあるのか?」
「ん?基本的に出動がかからない限りは俺は暇だぞ」
「デスクワークはどうしたんだよ」
「んなもん、エアが纏めてやってくれるから問題はない」
呆れ顔でため息をつくが、俺がやってもエアがやっても変わらないんだから別にいいだろうが。エアも本当に嫌ならやらんし。
「ならば、久々に一戦してもらおうか」
「かまわんよ。どうせ、クロード呼んでやるつもりだったんだ。一人増えようが変わらんよ」
「ちょっと待て、それは二人同時に相手をするということか?」
「なぁ、ヴィータ。俺は何か変なことを言ったか?」
「言ってねーんじゃね、お前の中じゃ。この人外が!」
何故かヴィータに罵倒された……解せぬ。
『紅莉君ちょっといい?』
「どうした?」
ヴィータの罵倒にちょっとキュンとしていたら、なのはから通信が入る。
『うん。新人たちがちょっと苦戦しているからお手本をと思ってね』
「俺のじゃお手本にならねぇだろ。お前がやれよ」
『ほら、私だと、私だからで終わっちゃうし。紅莉君の異質の戦闘もまた参考になるかなーって』
なるほどねぇ。なのはの言い分も理解できる。確かに、なのはの場合だと有名であり、魔導師の中でも憧れがある分、変なフィルターが張られることもあるからなぁ。
『それに、紅莉君のカッコイイ姿を見たいなーって』
「おし、任せろ……はっ!?」
「相変わらずだな」
「こういう所がはやてと気が合うんだろうなー」
やっちまった。なんで俺はこうも調子がいいのかね。
「まぁ、呼ばれたから行ってくる。どうせ、すぐ終わるし、訓練場は空くまで使えないんだろうしな」
「了解した」
「ついでにヴィータも来るか?」
「あたしはそこまで暇じゃねー」
ヴィータに確認を取ったのだが、大きくばってんして拒否される。まぁ、ヴィータは八神家の中じゃ常識人だからな。
「んじゃ、行ってくる」
シグナム達に別れを告げて、屋上から一気になのは達がいる訓練場まで跳んでいった。
「何をそんなに呆けているんだ?」
「急に空から降ってきたら驚くんじゃないかなぁ?」
「紅ちゃんは相変わらず派手だね」
いい感じに着地も決まったのに、俺が現れたことにポカンとして表情をするフォワード陣に呆れていたら、なのはとアリシアに呆れられた。
「まぁ、いいか。お前らー見ているのも勉強だからいい加減に起きろよー」
俺の呼び声に返ってきたメンツに苦笑いしながら中へと入っていくと、先ほどの廃墟が再び浮かび上がってくる。
『紅莉君だし、普通でいいよね?』
「ああ」
『むしろ、魔改造したやついっとく?私とリニスの自信作だけど』
「新人共がトラウマになりかねんから却下で」
前にリニスとアリシアが作った試験機の相手をさせられたのだが、この俺を持ってしてもきつかった。
なのは、フェイト、はやてに至っては倒すのに苦労し、最終的にはトリプルブレイカーを叩きこんだほどだったし。
クロードも3本の解放を余儀なくされていたしなぁ。
それが、改良を重ねた奴だろ?楽しそうではあるが、流石に今の場面でやるようなことでもない。
『それとも、ムーちゃん出す?』
「あくまで新人共の参考だろうが」
そうでした、テヘと笑うアリシア。姉妹でもこうも性格がかわるか。フェイトもここまでとは言わんが、もう少し自分を出していいと思うけどなぁ。まぁ、反面教師という言葉もあるし、構わないのかな。あいつのあれはあれで、可愛げがあるしな。
『そんじゃいくよー』
「あいよー」
お互いに気合の入っていない言葉のやりとりだが、すぐさまにガジェットが現れ、わらわらと散っていく。
とりあえず、近場の奴へと向かうとこちらに気が付き目ん玉みたいな場所からレーザーを放ってくるのを紙一重で避け、
「おらっ」
勢いを殺さずに回し蹴りで壁までふっ飛ばしそのまま破壊に成功する。
「ほらよっと」
ついでに、もう一体もかかと落としの要領で確実に潰し、すぐさま場所を移動する。
「ほいっとな」
ビルの上からこちらを攻撃してきた奴に対しては、瓦礫を拾ってから投擲することで破壊に成功。
「お前ら、AMFは確かに厄介だが抜け道なんて五万とあると覚えとけ」
特に俺なんて、影響が全く現れんしな。
その後、5分後には現れた20機は全て鉄くずへと変貌を遂げたのだった。
「ふぃ、疲れた」
「全く疲れてないくせにー」
「お疲れ様、紅莉君」
戻ってきた俺に声をかけてくる二人と、それを唖然とした表情で見てくる新人共。
「どうした、アホ面かまして」
「誰がアホですか!スバルと一緒にしないでください!」
「ティアナさんっ!?」
ガビーンという感じでショックを受けているスバルちゃんを放置してこちらに詰め寄ってくるティアナ嬢。
「なんで、ああも都合よく、紅莉さんの前に敵機が現れるんですか!」
「そうなるように誘導したからな。ティアナ嬢も執務官目指すならできるようになっておいたほうが便利だぞ」
まぁ、まだまだ経験不足なこいつらでは俺の戦闘方法はできないだろうけど。
「ほら、今回の戦闘によるレポートを作ってとっととなのはに提出してこい」
そういって、適当にあしらい、俺は再び訓練場の中に入って通信を開く。
「とっとと来い」
『まだ、仕事中なんですがっ!?』
「知らん、とっとと終わらせろ、ノロマが」
『なんで、いつもいつも罵倒するかなっ!?』
なんでってそりゃ、お前、お前のリアクションが面白いからに決まっているだろうが。
「そんじゃ、アリシアもなのはもきーつけて帰れよ」
「すぐそこなんだけど!?」
「私たちは子供じゃありませんよーだ!」
なんだよ、人がせっかく気を使ってやったのに、もう言ってやらんぞ。
「シグナムはもうちっと、体に気を使った戦い方をしろよ。それじゃ、自爆だろうに」
こちらからの攻撃が近接しかないためか、回避動作するようなそぶりも見せずにただひたすらに突っ込んでくるシグナムに注意する。
防御も硬いには硬いが、それでも体の負担を無視するのはいただけない。
「お前には言われたくない!」
「これでも俺は気を使っているがな」
「貴様や恭也殿見たく、人間の限界を超えたようなことをした覚えはない!」
「兄さんのあれは特殊な例だ。俺は、限界なんて越えてねー」
まぁ、神速を使えるようになってからは、割と重宝しているのも事実だけど。
「「嘘だ!」」
「二人そろって酷いな、おい」
背後から仕掛けてくるクロードを、シグナムと体を入れ替えることによってガードし、そのまま腹を蹴って距離を取る。
「腹を蹴るとは何事だ!クロードの子が孕めなくなったらどうする!」
「シグナムさん!?」
『クロード、ちょお、後で話があるんやけど』
「はやて!?いやいやいや、違うから!てか、会議は!?」
『なんやしらんけど、クロードが浮気している感じがしたからなぁ。あ、フェイトちゃん今行くわー』
ぶつりと通信が切れると、何やらクロードの顔がこの世の終わり見たく彩られていた。
とりあえず、面白いからエアに写真を取らせていると、復活したシグナムが再び斬りかかってきた。
それを幻武を用いて回避し無防備な胴へと刃を滑らせるが、シールドで防がれる。
「相変わらず硬いなぁ」
「魔法も使ってない状態で言えることか!」
恐らくは、避けられるのを前提に最初からそこに張っていたな。そうすることで、次へのアクションは早くなるし、密接に近い状態だと上段からは斬りかかりにくいしな。
「はぁっ!」
クロードが2本目の剣を解放し二刀流となって俺に襲いかかってくる。
昔はちぐはぐ過ぎて逆に弱かったが、長年の研鑽のおかげか使えるようになったので、かなりの脅威だ。
しかし、最強の二刀使いを知っているこの身にとって、早々に遅れを取るわけにはいかない。
近くにいたシグナムの胸部に手を添えて、発剄で吹き飛ばし迎撃態勢を取る。
「セクハラだな。訴えるぞ」
「色々とひでぇっ」
さっきは腹を蹴って文句を言われたから、今度は違う場所を攻撃したら、また文句を言われた。どうしろというんだ。まさか、何もせずに斬られろとな?美由希でもここまで理不尽ではなかったぞ。てか、自動的に迎撃しちまうからしかたねぇだろうが。
「はぁ!」
「ぬおっ」
ギリギリでクロードの一撃を避けて、斬りかかるがその瞬間に嫌な予感がし、慌てて神速の世界に入る。
世界から色が消え、何もかもがスローモーションなこの世界で見たのは、シグナムがいつの間にか、レヴァ剣を蛇腹剣としてこちらに攻撃していたものだった。
クロードを斬る時間もないので、仕方なしにその場を後にし、神速の世界から元の世界へと戻る。
「言葉で惑わせるとか、騎士の誇りはないのかー」
「棒読みで言われても、かけらも痛くはないわ!ひとまずは、貴様に土をつけてから考えるとしよう!」
「ダメだこの騎士、早くなんとかしないと」
呆れていると、クロードから炎弾が放たれこちらに襲いかかってくるのを、刀を振って切り捨てる。
「相変わらず、隙がねぇ」
「これが実戦だったら、とっくに終わっているな」
「当然だ」
今はあまりまじめにやってないから、シグナムの急襲に気がつかなかった部分もあるが、実戦ならあり得ない。
訓練でまじめになれないのに、実戦でまじめにやれるかというツッコミもあるにはあるが、俺の場合、マジになるとやりすぎる場合があるため、そこは諦めてもらうしかない。
まあ、そこら辺はクロード達も分かっていることだからいまさらかね。
「そういや、クロード、あの事件は片付いたか?」
「いや、まだ調査中だ」
「そうか」
色々とキナ臭くなってきているなぁ。はやてのこの六課も何やら訳がありそうだし、管理局内部もここ最近は色々と黒いうわさが絶えないからなぁ。
おっさんも何やら追いつめられている感が半端ないし、オーリスはオーリスで何やら泣きそうだったな。
「隙あり!」
「せめて黙って攻撃してこい」
考え込んでいる俺に声を出して攻撃してくるクロードの攻撃を避けて、無防備な体に攻撃を叩きこむと、そのまま壁を破壊しながら吹っ飛んでいく。
「クロード!?おのれぇ」
「あれぇ?鍛錬なのに、なんで親の仇のように睨まれるんだろ」
「親ではない!恋人だ!」
なんというか、八神家は本当にクロード中心で回っているなぁ。実権自体ははやてなんだろうけど。
「さて、時間も時間だし……ちと、マジでいくから怪我するなよ」
「ちょっ、まっ」
「ま、待て!」
二人の抑止の声を聞かずに俺は一気に肉薄し、二人を叩き潰したのであった。
「おや、紅莉」
「ん?リニスか」
六課に配属されて数日経過し、今日も今日とて訓練をしようとしたら、廊下の前から我が使い魔が声をかけてくる。
「お前も来たのか」
「ええ、あちらのほうも引き継ぎは終了しましたので」
「なるほどな」
俺と違い、リニスは本部のほうで何かをしていたらしく、遅れての合流となった。
「紅莉ー」
「久遠も来たのか」
「うん」
まあ、俺は当分の間は帰れないし、リニスもこっちに来るとなれば当たり前ではあるな。というよりも、本当は毎日帰る予定だったが、却下されてしまった。
「技術室はどこですか?」
「知らん。アリシアあたりに聞けばわかるだろ」
「そうですね。ああ、後エアを貸して下さい」
「あいよ」
首から下げているエアをリニスに渡すと何やら騒ぎだした。
《マスター!私を預けて訓練はどうするんですか!捨てないでください!》
「白凰があるからな、問題はない。てか、捨てんよ流石に」
お前がいなきゃ俺は魔法を使えないし、非殺傷なんてもってのほかだ。まぁ、普段の訓練に魔法なんて絡んでこないが。
「久遠はどうする?」
「紅莉といくー」
「了解」
狐モードになった久遠を頭に載せて、リニスに別れを告げて訓練へと向かっていった。
「紅莉さん」
訓練に向かう途中でヴァイスに話しかけれる。
「どうした?」
「いえ、リニスさんから届けられたものがあるんすけど、どこに置けばいいのかなって」
「届けられたもの?」
「コンテナの中に入っていて中は確認してないんすけど」
ヴァイスにちょっと待てと告げてからリニスに通信をつなげる。
『あぁ、忘れてました。あれを運んできたので、後でクロードと一緒に確認しておいてください』
一方的に告げてから通信を切られた。恐らくは何かしらの開発かなんかのせいだろうけど、主の通信を勝手に切るとかどういう使い魔だ。
「まぁ、開けてみれば分かるか」
「そうっすね」
クロードと一緒に確認ということだが、一体……
開けたコンテナから出てきたのは一台の巨大なバイクだった。
「ぬおっ、めっちゃごついっすね!」
中から出てきたバイクにヴァイスが目を輝かせる。そういや、こいつもバイクに乗ったんだったっけ?
「なるほどな、だからクロードも呼んだのか」
「そういや、なんでこんな大げさにしてもってきたんすかね?バイクなら乗ってくるなりすればいいものを」
「見た目はバイク……性能もバイクなんだが、ちょっと特殊でなぁ。こいつは、書類上じゃデバイスの扱いだ」
「はぁっ!?」
驚くヴァイスだが、それも仕方ないだろう。
「まぁ、細かいことは抜きとして、俺もクロードも必要な時しか乗らんし、使う機会も多くはないだろうがな」
「はぁ……そういや、デバイスと言っていましたが、そうしたら、名前はあるんですか?」
「ああ。こいつの名は……フェンリルだ」
色々と、リニスとアリシアが自重を捨てて作った廃スペックモンスターマシーンだけどな。
†久遠放送局†
久遠「なんか、始まったのはいいけど地味だね」
リニス「始まりなんてこんなものでしょう。まぁ、ところどころで笑いが漏れてくれたらいいなですよ」
久遠「そうだね。そうそう、感想にて質問があったんだけど、ネタばれに触れない程度なら答えるから、質問があったらしてね」
リニス「今回は見送りますが、次回からはこのコーナーで応えるのもありですね。話す内容も少ないですし」
久遠「だね!では、次回もお楽しみに」