チー済まの主人公、一条要の息子の一条光君が登場。
暇だ。フェイトは子供を連れて別の世界へと教育に行ってしまったし、リニスはなにやら研究がどうとかで、忙しく、ここ一か月ほどラボから出てこない。久遠は久遠で、なにやら玉ちゃんと藍ちゃんに会いに行くとか言って、世界の壁を越えて行ってしまった。
こんなことなら、フェイトについていけばよかった。
さてと、どうしたものか。とりあえず、腹が減ったから飯を食いたいのだが、一人で食事というのも味気ない。
「ここにいないなら、連れてくればいいじゃないか」
そうだ。なんで、忘れていたんだろう。そうと決まれば、早速やるか。
腰に差してある刀を抜いて、対象の世界を感じ取る。俺は、フェイトなどと違って不器用だから、相手の気配をきちんと感じ取らないでやると、知らない世界に行っちまうんだよな。
「みっけ」
流石に、違う世界。世界の壁を越えての察知は難しいんだが、そこはあれだ。化け物として定評のあるあいつだからこそ、簡単に見つかった。
「よっと」
対象さえ見つかれば、次元の壁を斬ることなんてたやすいな。たまに、世界が脆いと感じるが。
今日は珍しく、脳筋父上との飯だ。母上がどっかに研究のために出かけたらしく、暇で一人で食うのが嫌だったから誘ってきたらしい。ド腐れ姉上やすみれも誘ったらしいが、用事でこれなかったそうだ。
「男二人ってのも、味気ねぇけど、まぁ、一人で食うよりかはましだろ」
脳筋父上はそういって、飯に手を付けずに酒を飲み始める。飯に誘っていながら、自分は飲む専門か。相変わらずのウワバミだな。
そんな、脳筋父上を見つつ、飯に手を伸ばそうとしたら、突如なにか巨大な力を感じた。
「ぐわっ!」
脳筋父上が斬られた。いったい何が?心配してないのは、脳筋父上だから。これだけで説明がつくのが楽で仕方ない。
「おーい要。嫁さんがいなくて暇だし、飯食いに行こうぜ。昔、お前んとこに食材が美味い場所があったべ」
脳筋父上の真後ろから、次元の狭間から人が世界を越えてやってきた。その手には刀が握られている。こいつが、犯人か。
「おろ?お休み中か。すまん、邪魔したな」
「待てよ」
脳筋父上が倒れているのを寝ていると勘違いして帰ろうとした、犯人を止める。まぁ、脳筋父上が意地でも離さなかった杯を見れば、そうとるのもおかしくない。
「いけね、人がいたのか……って、要の血縁者か」
どうやら、本当に並行世界から来たようで、存在の秘匿の重要性を知っているらしいが、脳筋父上の血縁者と瞬時に見抜いたからか、どこかほっとしている。
「いきなりやってきて、人の親を斬っておいて随分と勝手だな」
「すまんすまん。でも、要だから問題ねぇだろ?」
「まぁな」
いけね。、何かを言ってやろうと思ったが、反論が思いつかず、結局同意しちまった。
「まぁなんだ、お互い様だが、要とは昔からいろいろとやられやり返している間柄でな、こいつも気にしないだろうさ」
昔から。そのフレーズを聞いて思い出した。そういや、昔に脳筋父上が、並行世界の奴といろいろと戦ったことがあるとか。
その中で、剣バカがいたとかいないとかも言っていたな。
「それはわかった。けど、親子の団欒を壊したんだ。それ相応のものが必要だとおもわねぇか?」
「んー。まぁ、そうだな。俺もやられたらキレるかもしれんし」
言質を取った。これで奴も逃げられねぇ。
「んで、何を要求するんだい?」
「バトルだ」
「おk」
俺の殺気を受けてなお、平然と同意してきた。
いや、俺の殺気を受けてなお、相手は殺気を出していない。上等だ、こんな奴なら、俺が十分に力を振っても壊れねぇだろ。
「そんじゃ、場所を移動すっか。ついておいで」
奴が再び次元の裂け目に入っていったので、黙って後に続くと、そこは何やら不思議な場所だった。
「ここは?」
「ここは、世界と世界の狭間にある場所だよ。元の世界じゃ俺は人間じゃなくなってね、人がいる場所に長く住むことができなくなってしまったからね」
人間じゃない、か。感じる気配は人間に限りなく近いが、確かに普通ではない。だが、脳筋父上や俺ほどかと言われれば、違うと言い切れる。
「さてと、戦うのはいいけど、殺し合いじゃないんだ、自己紹介でもしようか。俺は緋凰紅莉。見ての通り、しがない剣士だよ」
「一条光だ」
「あぁっ!君が光君か」
「知っているのか?」
「君がまだおしめのころにね。要が結婚したからと聞いて祝いに行ったら、結婚どころか、娘や息子がいると言った時はビックリしたよ」
「チッ」
流石にそんな子供のころの話をされるとは思わずに思わず舌打ちが出てしまった。
「まぁ、君の恥ずかしい話はそのうち結婚するときにでも、要がスピーチするだろうから、今は目的を果たそうか」
んなのいらねぇ。けど、あいつ……緋凰紅莉が言うように、今は戦いのことだけを考えようか。
脳筋父上と戦えるような奴だ。下手な手加減はいらねぇ。最初から全力でぶっ潰す。
奴が、腕を下して、刀に手をかけようとした時には俺は奴の目の前にいた。おせぇ、これで脳筋父上と戦ったっていうのかよ。期待外れだ。武装拳を使うまでもねぇ、これで終わりだ。
「は?」
「ふっ」
まるで霧でも殴ったような感覚。それが何かと理解するより先に悪寒が走り、反射で横へと飛び退くが、遅かったようだ。首を斬られた。
斬られた場所から血は流れるが、こんなもんほっとけばすぐに治る。
それよりもだ、何をやられた?俺の攻撃を避けたとか、防いだとかじゃねぇ、俺がまるで外したような感じだ。
「やれやれ、相変わらずの回復力だな。まぁ、だからこそ、お前ら相手は手加減を考えなく思う存分やれるんだけどね」
緋凰紅莉が俺の首が治ったことに呆れつつ喜んでいる。戦闘狂?いや、そんな感じはしねぇ。しねぇが、なめてかかるとやべぇな。
「武装・ORT」
両手・両足をORTの甲殻で包むと同時に緋凰紅莉に突っ込む。まずは、さっきの攻撃を外れた理由を知るとする。
何十発も殴っても効果がなく、遠距離の魔法にしてもその攻撃が一切当たらねぇ。当たらねぇが、奴の力は分かった。
「距離感がずれてりゃ、そりゃ当たらねぇな」
「へぇ。何かを探っていると思ったけど、まさかたった数秒で幻武を見破ったのは、光君が初めてだよ。要とは大違いだ」
「へっ、比べている間にてめぇが落ちろ!」
奴の幻武とやらの原理は分かった。それはすでに、俺ですら可能だ……ただ、一切のチート能力を使わずに、技術だけでやってやがるのは素直にすげぇ。
今度こそ奴に攻撃を食らわせられると確信をもって近づいていく。
「刃帝の刃、ここに示さん。散れ、【葬刃】」
緋凰紅莉の存在感が跳ね上がったと思ったと同時に奴が抜刀術を繰り出してきた。
だが、俺が分かったのはここまでだ。気が付いたら、俺の右腕が宙に舞っていた。
「かってぇ。刃帝でもダメか」
「はっ、腕を斬った程度で安心してんじゃねぇよ!」
すぐに右腕を復元して空中にあった、右腕を掴む。しかも、この右腕は未だにORTを纏っている。つまり、凶器としては最強だ。
「おらぁっ!」
「ぐっ」
振り下ろした右腕に虚を突かれたのか、まともに入った。何十発ももらって、返しの一発にしては、つりあわねぇが、ここからが始まりだ。
右腕がボロボロになることなんてねぇから、遠慮なく振り回す。
「調子に乗るな小僧。【双天飯綱】」
「!
緋凰紅莉が突如反撃に応じたと思ったら、九つの刺突が同時に俺に襲い掛かり、吹き飛ばされた。とっさに、ミコトの能力で作った楯で防いだつもりだったが、楯ごと貫かれた。
「おまけだ【断空】……っ!?」
「はっ!」
追撃で放ってきた技だが、それは俺が使った幻武で奴には当たらなかった。大層驚いたようで、顔に出てやがる。
「
「ぬお?」
俺と奴との空間を破壊し、間合いを無理やり詰める。これまで詰めたら俺に攻撃はおろか、回避もできねぇ。
「こうだったよな、【双天飯綱】……は?」
刀じゃねぇが、拳でさっきの仕返しをしてやろうと思ったが、気が付いたら奴が消えていた。
「【閃刃】……さっきから、驚きっぱなしだよ」
「ぐわぁっ」
気が付いたら斬られていた!?これは……過程を省略しやがったな!?俺のセンサーにも何も引っかからなかった!
「さっきの、腕の攻撃だってそうだ。親子そろって乱暴だな。それに、俺の技を即時に使ってくるしさぁ。しかも、それが物真似レベルの話じゃないってのが、泣ける。俺の長年かけて培ってきた技術が無に帰った気分だよ」
再び呆れ顔の緋凰紅莉。即座に回復して立つと、呆れ顔は変わってねぇ。
「まぁ、いいことを教えてあげよう。
んなのこと、言われなくても分かっている。現に脳筋父上がそうだ。下手な小細工なんざ、真正面からぶち破って、敵を潰しやがる。俺だって、基本はそうだ。
「だが、
奴の言葉が癪に障った。つまり、俺は小細工するしかねぇ、雑魚ってことか?
「なめんな!上等だ!
俺が作ったのは、小細工が一切発動しねぇ世界。奴の幻武とやらもこれで封じる。俺も似たようなもんだが、一つだけ発動が可能なものがある。
「完全武装・ORT!」
これを小細工なんていわせねぇ。あらゆる力の代名詞の力を見せてやる!
「いいだろう。頂の答え、ここに示さん。テトラクテュステトラ・グラマトン!」
もう、バトルだとかなんだとか、関係ねぇ。こいつは潰す!
光の全身がORTの甲殻に包まれていくのに対して、紅莉の体から魔力以外の何かが噴き出し始める。
噴き出した力は周囲のものを切り刻んでいく。剣気それが物理的な力を持ったものである。それと魔力が混じりあっていく。【魔剣気】それが紅莉が手に入れた力だった。
「留まれ」
紅莉から溢れ出していた魔剣気がぴたりと収まる。一切の力を無駄にせずに自身の体に収めたのである。
「くたばれ!」
「はぁっ!」
光の拳と紅莉の刃が交わる。お互いの力は拮抗し、相手を屠ろうと拳を刃を相手に撃ちこむ。
互いに一秒に満たない時間で何十もの攻撃を放つが、決定打には至らない。
だが、ここで光の力であるORTの特性が走る。
小細工がない世界といえど、ORTを縛り付けるのは不可能。
ゆえに、異常な回復力はなくならないのである。
紅莉の攻撃を防ぎも迎撃するもなく、その身に受け瞬時に回復した光は漸くできた紅莉の隙に拳を叩き込んだ。
「ごふっ」
紅莉の口から血が漏れる。だが、吹き飛ぶもなくその場で踏ん張った紅莉。
逆に言えば、完全な一撃が決まったと思ってしまった、心に一瞬の隙を作ってしまった光へと反撃に移れたのである。
「終わりだ。【瞬華終刀】」
紅莉が振るった刃は、一撃で光を何百と斬り裂いたのであった。
「うっ……」
「お、起きたか」
体中が痛ぇ。痛いなんて感覚なんていつぶりだ?それに、俺が寝ているのは、ソファーか?
「はっ!?勝負は!?」
「最終的に起きていたから俺の勝ちかね」
緋凰紅莉の勝ち。つまり、俺は負けたのか。最後の瞬間、俺はどうなったんだ?奴に拳を撃ちこんだまでは覚えているんだが。
「最後にやった捨て身の攻撃は見事なもんだったよ。まぁ、それをするって直前に分かったから、攻撃の力を抜いて、防御に備えたんだよ。んで、返しの一撃で、光君は気絶したってわけ」
なるほどな。つまり、俺は奴に誘導されたってわけか。
「見切り。簡単に使われる言葉だけど、極めればここまで至るのさ。ちなみに、最後に作った世界だけど、俺には効かないよ」
「は?」
「緋凰を捕えるものなし。緋凰を阻むものなしってね。俺の使っている流派の掲げている言葉でね、俺の生き様になったようで、俺に干渉するような力は素通りしちまうんだ」
つまり俺がやったことは無駄だったと?
「まぁ、君が正面対決を望んでいたようだし、俺も依存はなかったからね。無駄ではなかったけど、意味もなかったってことかな」
チッ、やりづれぇな、こいつ。
「はっはっは。要の強さは物理的に強いが、それ以外にも経験で大きく勝るからね。ステータスだけが強さじゃないさ。君には、ちょっと早かったかな?」
「うるせぇよ」
いつまでも寝ているなんてみっともねぇ。体ももう以上はねえんだ。寝ている理由はねえ。
「さてと、バトルも終わったし、帰るかい?」
「ああ」
「いつでも来ればいいさ。今日はたまたま一人しかいないけど、普段は嫁も子供もいるからね。いざとなれば、またバトルに来ればいいさ。息子たちに本当の天才と戦わせるのも面白いからな」
「はん。ガキを殺しても知らねぇからな」
「まぁ、君に対抗できるのは……一人か?それでも、対抗できるだけで勝てないか。やれやれ、要もすごい息子がいたものだ」
ふるふると首を振る緋凰紅莉。
「それじゃ、帰りの道を作ろうか。よっと」
『ぐわっ』
緋凰紅莉が次元に壁を斬り裂くと、壁の向こうから脳筋父上の叫び声が聞こえた。脳筋父上、今日は厄日だな。
紅莉は光君に年上としての貫録を見せようと、がんばってこんな口調になっていました。要が相手だったら、普段通りの言葉だったでしょう。
ちなみに、かなり無理をしていますが、最後の一撃は相当に聞いています。年上として、意地でも顔に見せませんでした。