門星荘より愛などを込めて 作:モンスターX
俺は今、山の中にたたずむ洋館の前に立っていた。
その大きさに圧倒されつつも、備え付けられているインターフォンを押す。
「どちら様でしょうか?」
「あ!あの昨日、電話、した松浦、です」
「あーはいはい。お待ちください」
女性の声に、しどろもどろになりながらも答えた俺は、ふーっ吐息を吐いた。
(なんでこんなことに)
いや理由など分かっている。
「やっぱり男児たるもの高校生になったら独り立ちだよなあ」という意味不明な発言と共に春から実家を離れることになった俺は、昨日一日中いい条件の物件を探していた。
しかし、今は三月の後半。学生向けのそんな物件はすでにありとあらゆるものが売約済みだった。
それでも駆けずり回った昨日の帰り道、電柱に適当に張り付けられたそれを発見した。
春から通う学校から、山こそ登らなければいけないが、程よく近く。かつ家賃も安い。設備も書いてある限り申し分ないものだ。
俺は神が与えてくれた奇跡だと思い、すぐに電話して翌日に見学させてもらえるようにした。
しかし、日をまたいで冷静になった俺は頭を抱えた。
マンションというより民宿のような体系を取っている門星荘は、食堂は共有で大浴場とかもある、所謂横のつながりが必要な場所だった。
あまり人付き合いがいいとは言い切れない自分の性質を考えれば考えるほどに、うまくやっていける自信がなくなっていく。
(あんなに安いんだから、まさかいわくつき物件とかじゃないのか…?そうだったらやめよう)
自分の不得手を棚に上げて、入居しない理由を正当化し始めたころに扉が開いた。
色々な言葉が頭の中を駆け巡ったが、とりあえずひとつ。
―――綺麗な人だ。
「お待たせしました。……どうなさいました?」
「は、はひ!なんでもありませんすみません」
「?…まあとりあえず入ってください」
こんな美人と話すことなど、当然のごとくはじめてな俺は緊張でがちがちに(下ネタ的な意味はない)なりながら、言われるがままに洋館に入った。
どうしよう、さっきまでの気持ちが嘘のように、入居したい。ていうか入居する。絶対する。
部屋の一つに案内され、管理人さん(仮)はお茶を持ってくるといって、部屋を出た。
「ふふふ、なんてラッキーなんだ」
口元に気持ちの悪い笑みを浮かべながら、俺はつぶやいた。
この状況、中学の悪友にも見せてやりたいぜ。
先ほどまでの鬱蒼な気持ちなど、すでに彼方に消え。サイコーハッピーな気持ちで管理人さん(仮)を待つ。
その時、唐突にガタッと何かが音を上げた。
「うひゃ!」
俺はみっともなく悲鳴を上げる。しかし、すぐに住人がいるんだから物音ぐらいするさ、と自分を落ち着かせた。
(う、しかし、山の中の洋館ってそれだけでなんかこわいような……)
ふと、窓の外を見ると、高速で何か黒いものが横切って行った。
猫だ。猫だということにしよう。
もはや考えることをやめた俺は、無心で扉が開くのを待った。
満を持して扉が開くと、管理人さん(仮)が入ってきた。が、しかし、後ろからティーカップを持った男も一緒に入ってきた。短髪で高身長。かつ精悍な顔をしたイケメンだった。しかもハーフな何かだろうか金髪碧眼だ。
口の奥ががりっとなった気がした。
「ごめんなさい。ちょっとお茶が見つからなくって」
「いえ全然大丈夫です」
「じゃあ、
「うん。ありがとうね。ラース君」
「いえいえ」
ラースと呼ばれたイケメンはイケメン特有のイケメンスマイルで、去って行った。もしやあのイケメン、ティーカップを運ぶためだけに来たのか?だとしたら行動までイケメンだなんて、なんてイケメンなんだ。イケメンがイケメンなことしてしまったら、イケメンじゃない奴らはどう対抗すればいいんだ。イケメンになるしかないのか?(錯乱)
……やめよう。イケメンっていう言葉がゲシュタルト崩壊してきた。
「じゃあ、改めて。わたしがここの管理人の
「あ、
「えーとじゃあ、松浦さん。ここのことは張り紙で見つけたんですよね?」
「はい。電柱に張ってあったやつを見ました」
「……こんな事ってあるのね」
「え?」
「あ!いやなんでもない。なんでもないのよ!」
清美さんはごまかすようにぶんぶん手を振った。
口調が敬語ではなくなっている。きっとこっちが素なのだろう。かわいい。
あと、手と一緒に揺れる髪と胸が素敵だった。
「と、とりあえずまずは建物を見学しましょう」
「は、はい」
お互いに変に肩に力が入ったまま、立ち上がる。
清美さんがドアノブに手をかけて止まる。
「そうだ。松浦さん……霊感とかあります?」
「ッ!」
ぞくっと背筋が一瞬凍りついた。
日本の幽霊が美人ばかりなのは、美人の方が怖いからと聞いたことがあったが、どうやら本当のようだ。
「す、少しだけですけど」
嘘ではない。
俺は小さい時から所謂見える子だった。別にテレビでやってる退治人とかいうほどではない。ただ何となくちらちら見えたりする程度だ。
だがそれゆえに俺は幽霊とかそういった類のものが苦手だった。
洋館の雰囲気も相まって、俺は恐怖心をあおられるが、清美さんに悟られぬようにふるまう。
「そう。まあ、そんなに心配しないで」
「で、ですよね」
笑いながら清美さんが扉をひらく。
首のないジャージ姿の何かがそこにいた。
(霊感とかのレベルじゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!!)
あまりの衝撃で、半分意識が飛んで入る状態で、首なしジャージを凝視する。
首のあるべきところには何もなく、首元あたりは真っ黒に塗りつぶされているように見えた。
―――絶対偽物じゃねえ。
「なにガンくれとんじゃ、ワレッ!!!」
どうやってしゃべっているのか全く分からない首なしジャージの怒号を子守唄に、俺は意識を完全に手放した。