Fate/Rage   作:土塊

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束の間の夢はすぐ失われる。

楽しめる間に楽しんでおくのが吉だ。


Kleineres Thema ~閑話休題~
Sweet Daughters -1


ーー夢を見ていた。

 

腰くらい高さの女児を男は抱き上げて居る。きゃっきゃと笑う女の子に、スパルタ最強の戦士と謳われた男は静かに破顔した。遠くで角笛がけたたましく鳴り響き、男は少女はを下ろす。途端に泣きながら父を呼ぶ少女に、男は手ずから削った横笛を渡し、くしゃりと少女の頭を撫でた。

 

場面が切り替わり、焼け焦げた戦場に男は居た。周りには幾重にも折り重なった死体が積まれて居た。男の将軍としての顔はどこまでも冷酷な物だった。その戦が壮絶であればあるほど、彼は賞賛と畏怖を集めた。

 

その年は特に戦が多かった。いかに屈強なスパルタ人と言えども、兵は疲弊し、軒並み士気が低かった。だが王は遠征を止めず、男には余計に期待がかけられた。そしてその戦役で人生が狂い始める。

 

再び場面が変わる。一軒の民家の中で、男は呆然と血まみれの両手を眺めて居た。握られた二振りの刀は、男に無類の戦士としての力を与えたが、その代償は大きすぎる物だった。足元には男が愛した妻と娘だった物が転がっていた。

 

家族を手に掛けた彼の皮膚は、死者の灰がまとわり付き、人々は彼を理性の無い獣と唾棄した。拭えぬトラウマを抱えたまま、彼は神々の欲望のままに使役され、そして遂にはその神々に裏切られ、冥府に落とされるのであった。

 

三度視点が移り変わる。今度は楽園のような花園の中だった。暖かな光が降り注ぎ、かつて手にかけた愛娘が足元にしがみつく。目の前の黒い女が何か言う。守るためには、再び獣とならなければならないのか。

 

悲しげにまとわり付く娘を無理やり引きはがし、男は刀を取った。

 

 

 

 

 

はっと目が覚めた。汗で昨日のままの服が背中に張り付いている。今のは、クレイトスの記憶だろうか。ならば、何故男は何度も人の道を捨てなくてはならなかったのか。娘に背を向ける表情(かお)はあんなにも悲しげだったのに。視線を巡らせれば、同じように肩で息をしながら涙をこぼす妹が居た。恐らく同じ光景を見たのだろう。

 

窓の外は仄暗く、未だ太陽が顔を覗かせない。意識を失った二人を抱えて帰ったであろう男の姿はない。代わりにシーツには血が滲んでいた。少し嫌な予感がして、妹の手を引いて血痕を辿る。血の跡は延々と庭まで続き、井戸水で洗い流されていた。ふと上の方を見れば、当の本人は上る太陽を背に、屋根に腰かけて転寝(うたたね)している。

 

絶え間ない戦の中で生きていた彼にとっては、滅多にない光景だった。気づかれないようこっそりと治癒の呪文を唱え、凛は桜とその場を離れた。

 

 

 

 

 

それからはドタバタした日々がしばらく続いた。間桐家の火災は悲惨な事故として人々に囁かれた。当主にして慎二の父であった鶴野(びゃくや)はもとより酒に溺れる生活をしていたため、火元は彼が飲んでいたアルコールと結論付けられた。また、慎二については一人逃げ果せたものの、山道に迷い、野犬に食い殺されたことになっていた。

 

資産家である間桐の家庭環境について暫く様々な憶測が飛んだが、仮にも土地の名士であった臓硯(ぞうけん)縁の旧家の長老たちが出向き、すぐに鎮静化した。世間的にも、養子に出された挙句、第二の家族まで失ってしまった薄幸の少女への同情の声が大きかったためか、できるだけ事を荒立たせず、内輪で収束させたいという桜の願いはすんなりと通った。さる名家の家長を後見人につけ、間桐の資産は桜が継ぎ、晴れて姉である凛と同じ苗字に戻ることができたのだった。

 

葬儀から3日、凛、桜、士郎は穂群原学園の屋上にいた。間藤家の事後処理に追われた2人にとっては久々の登校だったし、バーサーカーと交戦し重傷を負ったセイバーを看護していた士郎にとっても、学園と言う日常は久しいものだった。

 

「この度は、なんと言うか、ご愁傷様」

 

「ありがとうございます、先輩。幸い姉とクレイトスさんが居てくれるので、早い段階で安心して学校に復帰できました。お爺様の知り合いの方々もとても親切にしてくださいましたし」

 

「ちょ、ちょっと待て…何で一般人の桜がクレイトスの事知ってるんだ?」

 

「ああ、確かに貴方には言ってなかったわね。あの晩、間桐邸から桜と私を助けてくれたのが、クレイトスだったのよ。セイバーはどう?」

 

「痛手には変わりないが、最近は結構回復してる。女の子には無茶して欲しく無いんだが、あいつ、すぐ無理するから」

 

「先輩が魔力供給をしっかりすれば、サーヴァントはすぐに回復するのではないですか?」

 

「それが、こいつと来たら、魔術回路すら上手く開けないような、飛んだ半人前なのよ。セイバーを碌にサポート出来ないのも頷けるわ

 

まあ、バーサーカーもランサーもクレイトスに傷を負わされて居るし、ライダーとキャスターが動くならこちらがこうして落ち着くの待ってるわけないから、暫くは大丈夫よ」

 

「それもそうだな。そう言えば、明日セイバーの服を買いに行くんだが、遠坂も来てくれるか?」

 

「なんで私まで…あー、なるほど」

 

「姉さん?」

 

キラリと赤い悪魔の目が光る。久々に見た我が意得たりと言わんばかりの表情に、少年はひどく嫌な予感がした。

 

「流石に貴方じゃセイバーと一緒に下着売り場に行けないもんね〜」

 

「なっ、何だよ遠坂っお、俺はただ女の子同士の方がだな」

 

「それなら、先輩はクレイトスさんの担当をお願いできますか?」

 

「「は?」へ?」

 

奇しくも、少年と少女の声が重なる。いい事を思いついた、と言わんばかりの笑顔を浮かべた桜は、少し尻すぼみになりながらも言葉を続けた。

 

「ほっ、ほら、ちょうど休日ですし、クレイトスさんも、セイバーさんも霊体化出来ないから、現代の服がないと不便でしょう?折角助けて頂いて、その、まだしっかり感謝の気持ちも伝えられて居なくて…」

 

「それもそうだな。協力する」

 

「先輩っ」

 

「しっかたないわね。乗ったわ、その話」

 

「姉さんっ」

 

かくして、三人によるサーヴァントとのデート作戦は、若さと勢いだけで見切り発車したのだった。時を同じくして、二つの邸宅に住まう英雄と英霊が同時に妙な悪寒を感じたのは、また別の話。

 

 

 

 

 

決行当日、遠坂邸はかつてないほどの賑わいに包まれて居た。何か良からぬ事が起きそうだと野生の勘で回避しようと目論んで居た大男は、何時もより3時間以上早起きしてきた姉妹にあっさりと捕獲され、高名な騎士王に至っては日頃からの少年による餌付けが功を奏したのか、あっさりと食事に釣られてきた。

 

「邪魔するぞ」

 

「お邪魔します」

 

二人の来客は実に珍妙だった。赤銅の髪をした少年は到着早々慣れた手付きでエプロンをしてキッチンに向かうし、王である少女は勝手知ったる様子でダイニングテーブルに陣取る。目に涙を溜めながら今日は一緒に食事をしようと請われた男は仕方なしにその向かい側に腰を下ろして居る。

 

「士郎のご飯は美味しいのです。ご馳走と言われては拒めませんでした」

 

自慢にも聞こえる妙な言い訳をし出した金髪の少女に、軽い頭痛を覚えた。今日は武装を排して清楚な白いシャツと紺色のスカートを履いている。そんな姿では流石に毒気が抜かれる。

 

「ご飯ができるまで暇だろうからこれでもやってて、セイバーならルール分かるでしょ?」

 

そんな二人の間にすかさず凛がずずいと白黒の盤差し出した。両名の陣営にそれぞれ王国兵を模した駒が並んでいる。懐かしい心持ちで、ブリテンの少女は顔を綻ばせる。

 

「チェスですか。感謝します、凛」

 

そう言っていそいそとルール説明を始めた彼女に、クレイトスは仕方なく盤に手を伸ばした。

 

「……詰めが甘い」

 

結論から言うと、セイバーの惨敗だった。ルール説明を兼ねた初戦こそは彼女が辛勝したが、そこからは敗戦の連続だった。

 

「どういうことです!なぜこうも貴方の軍勢は強いっ」

 

「視界が狭いぞ竜の子よ。太刀筋が丸見えだ」

 

「…っ」

 

「加えて無駄な動きが多い。女王(しゅりょく)が強くともそれで自軍の退路を塞いでは囲まれて殲滅されるだけだ」

 

よっぽど悔しいのだろう。セイバーは涙を滲ませながら歯噛みした。加えて男の指摘は酷く的確だった。もう一戦と勢い付くセイバーを、料理を運んできた少年がなだめる。

 

「まあまあ。いいじゃないかセイバー、普段俺に勝っているんだし」

 

「いいものですか!たかが盤上の遊びと言えども、チェストとはとどのつまり軍略のぶつかり合いです。私だって一国の主として兵を率いてきた自負があります。それをこうも…」

 

「だから貴様は詰めが甘い。下等兵を取らんと王と近衛兵ばかり前線に出すから、後ろががら空きになる」

 

「くっ、確かに貴方の配置に無駄は無い。しかも雑兵(ポーン)までしっかりと生かされている。名だたる名将と心得た」

 

「貴様の倍は失敗しているだけだ。足元を掬われぬ様視界は広く持て」

 

「はいっそこまで。お昼の時間よ」

 

凛の鶴の一声で、セイバーは大人しく席についた。クレイトスとセイバーを考慮してか、この日は洋食がメインとなった。生存した時代が違うクレイトスに、向かい側のセイバーがしたり顔でナイフとフォークの使い方を説明している。何だかんだ言って、仲が良いらしい。

 

「…なんだ?」

 

「お味はいかがですか?」

 

「どう?美味しい?」

 

ふと両隣から熱い視線を感じて、クレイトスは思わず手を止める。期待の籠った視線でステレオのように問いかけられる声に邪気はない。妙なくすぐったさが胸をすくう。

 

「…うまい」

 

「もちろんです。士郎の料理は美味しいですから」

 

向かい側の騎士王が斜め上の返答をしながら器用に箸でご飯を掻き込んでいる。そういえば、と、桜が質問を投げかける。

 

「故郷ではどのような食事をされていたのですか?」

 

「……………雑でした」

 

一言そう呟いて。苦々しい顔で金髪の少女は食事を再開する。ブリテン料理が如何だったか、その表情が何より物語っていた。一方の戦士は答えない。

 

「クレイトスの方は、どうだったのよ?」

 

「…復讐の旅を始めるまではまともだった」

 

「その後は?」

 

「神に遣わされた先にはそもそも普通の食糧などない。ミノタウロスにありつけた時は寧ろ幸運だった。ヘカトンケイレスで戦った際が最も困窮した時だった。何しろアイガイオーンと虫しかいなかった」

 

想像して、思わず吐き気が込みあがる。同時に、憐みの視線がクレイトスへと注がれる。ブリテンより酷い食糧事情があったとは思わなかった、と後に騎士王は語った。

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