所変わって冬木ショッピングモール。
「気のせいか、妙にみられている気がします。この格好、やはり変でしょうか」
「い、いえ。とても似合っていますよ、きっとセイバーさんが美人だから、皆さん見惚れているんですよ」
「周りに気を取られてないでさっさと行くわよ。あと何軒か回らなきゃいけないんだからね」
周囲から絶え間なく注がれる視線に、セイバーは生真面目に自分の姿を点検する。朝のシャツ姿から着替え、今は凛と桜に選んでもらった水色のワンピースに身を包んでいる。ふんわりとした生地のそれは、凛としたセイバーの瞳の色に近く、輝く金髪といいコントラストを描いている。女性らしい服をあまり気慣れていない本人は、先ほどから思ったより短いスカート丈を気にしているが。
同性からみても可愛らしい彼女の姿に、傍らの桜は思わず頬を染める。そんな彼女は、ふんわりとした桜色のハイウェストスカートに、レースをふんだんに使った白いブラウスを合わせている。可憐で守ってあげたくなる彼女の容姿にぴったりの服装であった。
一人マイペースに先を行く凛は、赤いセーターと黒のショートパンツに、黒のニーはいブーツを合わせている。少しだけふくらみのある丈の短いキュロットと、ブーツが余計に彼女のプロポーションを強調していた。
とどのつまり、三人とも抜群に人目を引いていた。
一方で、男性組二人も相当に注目を浴びていた。
まともな服を選んで、ついでに冬木市を案内してきなさいと言われ、士郎は一先ず父の知人から借りた大きいサイズのシャツとスラッグスをクレイトスに着せ、桜の指定した紳士服屋さんに来ていた。肌の色と刺青は、凛の魔術でどうにか隠せたが、あまりにもよすぎる体格と、只者ではない雰囲気は隠せなかった。何度も職質に合いそうになりながら、士郎は尋常じゃない緊張に包まれていた。
「これとか、どうですか?」
「…ああ」
一事が万事、こんな調子である。歴戦の戦士は余計なことを口にしない。しかも常に無表情で眉間にしわを寄せていて、表情が読めない。厄介な事を引き受けてしまったと、少年は後悔を胸に、クレイトスの服選びに付き合ったのだった。
一通りコートや手袋など、冬服をそろえた少女たちは、小腹を満たそうとショッピングモールで有名な喫茶店に立ち寄っていた。大量のスイーツを注文しては平らげる王に苦笑しながら、同年代の少女たちは、他愛のない話に花を咲かせる。
「それで、セイバーは好きな人とかいないの?」
「好きな殿方ですか?特に意識したことはありません。お互い、騎士としての付き合いでしたから」
「ええ~もっとこう…なんか、あるでしょう?」
「先輩なんて、どうですか?」
「士郎、ですか?それは…」
途端、初心な少女の頬がぽっと赤く染まる。ごまかすように咳払いしてから、セイバーはもごもごと答えた。
「し、士郎はいい、マスターです」
「えーそれだけ?」
「そ、それだけって…凛、貴女は一体何を期待して居るのですか!」
残念そうに問う凛に、セイバーが慌てる。そして桜は困ったように2人を宥めている。
「そう言う貴女達はどうなんですか?」
「私…ですか。やっぱり、クレイトスさんみたいに強い方が良いですね」
躊躇わず言い切った桜に場の空気はピシリと固まる。救出された晩以来、クレイトスはずっと桜にとっての命の恩人であり、
「桜、貴女嫁ぎ先を見つけるの大変そうね?」
「へ?」
一通り甘いものを平らげた一同は、待ち合わせ場所の広場に向かって居た。先に少年がこちらに気づき、手を振って居る。だが視界はすぐに別なものに塞がれた。
「お姉さん達可愛いね〜今から暇?ちょっと一緒にお酒でも飲もうよ」
げらげらと野卑な笑いを浮かべた若者達が道を塞ぐ。所謂ナンパと言うものだ。不安げな桜を後ろにかばうセイバーに対し、凛は挑発するように前に出る。
「お生憎様。私たち急いで居るの」
どいたどいたと言わんばかりの凛に、男の一人が苛立ったようにその手首を掴む。
「ちょっと〜冷たいねー、いーじゃん?時間あるんでしょ?」
軽薄な笑みを浮かべる男は知らない。後ろから迫る大きな影に。
「ウガッ」
「娘に用があると聞いたが?」
そう言って、後ろから凛を捉える手を無理やり引き剥がしたのは、2メートルをも越す長身の男だった。ノータイで着ているシャツが僅かに筋肉を浮き彫りにするほど、屈強な体をして居る。加えてその眼光は、鷹のように鋭い。雰囲気だけなら、さながらスティーブン・セガールだった。エキゾチックな風貌の強面な男に、青年たちは謝りながら一目散に走り去った。
「クレイトスさんっ!」
よっぽど怖かったのか、桜が涙を溜めながらクレイトスに抱きついた。照れ屋の彼女にとっては中々見られない行動だった。躊躇いながらも、ぽんぽんと頭を撫でる姿に、先ほどの険はない。
「貴方、今さりげなくあの人の手首を折ろうとしたでしょう」
「関節を外したまでだ。兵であれば肋骨の何本かは折っている」
うわぁ、と小さく呟いて、赤い少女は思わず同情した。きっとこの人の部下達は苦労したんだろう。
「まあとにかく、あんたはセイバーと楽しいんでらっしゃいな」
「いっいや、俺は…っ」
先ほどからセイバーのワンピース姿に見惚れていた少年の背中を押し、凛はクレイトスと桜を連れて帰路に立った。夕日の中、娘二人に左右を固められた無敗の英雄は、束の間の安息を楽しんだ。
「ところで桜、貴女よくあんな高そうな紳士服店知ってたわね」
「お爺様と懇意にしていた方でしたから。事前に電話を差し上げたら、今回特別にただでご用意くださるとのことでした」
「凄いわね、間桐って…」
「私の知って居る限りでも、新都とこちらに30以上の土地を持ってますから。そう言えば、そろそろ深山の開発の件で進めませんと…」
「ちょっと待って。なんで桜がそんなに詳しいのよ?」
「義父さんと義兄さんがああだったから、お爺様が資産管理の話をする相手が居なくて私にいつもぼやいていたんです。いつか役に立つと思って聞いてましたが、本当にそうなるとは思いませんでした」
「だから貴女やたらと毎朝の株式欄とか気にしてたのね」
「相続した資産の20%は後見人の叔父様の名義ですが、折角だからやって見なさいと私が自由に動かせますから。そろそろ手放したい株もありましたし、ちょうどよかったです」
「はぁ…寧ろ遠坂の資産を貴女に任せたい」