犬吠埼風は中二である   作:名も無き詩人

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第一話 女子力覚醒と勇者部の始まり(7月13日完)

1

わたくしこと、犬吠埼風は今年で中学二年になる。中学時代の三分の一を消費し、青い春という一度しか来ない風を待ち、一人日々女子力を磨いていた。

大赦から命を受けているある役目を果たすため、私は彼女達の元に向かっていた。

さて、すんなりと彼女達が我が部へ入部してくれるか。ワクワクドキドキものである。

彼女達の姿が見えてきた。一人は車椅子を押している子。スポーツ少女と言ってもいいくらい、元気な笑顔で車椅子の女の子に話しかけている。車椅子の子はその話に相づちをうっている。

車椅子の子は黒髪で大和撫子と言ってもいいかもしれない顔立ち。どこか儚げで、でもはっきりとした強さが感じられる。その証拠に彼女は足が不自由なのにそんなことを思わせない雰囲気だ。

彼女達の仲の良さが見て取れる。

「東郷さんは、部活何にするか決めた?」

「まだ、決めてないよ。友奈ちゃんは決めたの?」

「迷ってるよ。うどん部、お菓子作り部、ファーストフード研究部なんてのも捨てがたいよね。」

「友奈ちゃん、全部食べ物に関係した部活だよ。それに口の端からヨダレが垂れてるよ」

黒髪の少女が笑っている。

そう言えば、こんな会話を前にしたことがあった。

あれは、私が中二に上がる少し前だった。そもそも、結城友奈と東郷美森を勇者部という部活に入れさせようと、奇天烈な案を出したのもあの人だった。

 

2

大赦からの命令で、今年入学する結城友奈と東郷美森に接触せよというメールが来ていた。

どのようにして、二人と接触するか。学年が違うため、友達になる機会も少ない。同学年なら、警戒心も少なかっただろう。だが、二人にとっては私は学年が一つ上の先輩になる。

私は考え事をしながら屋上の階段を上がる。神樹様の社が立ててある屋上は、滅多に人が来ることがなく、考え事をする上では一番の場所である。

屋上の扉を開けると、澄んだ空気が流れ込んでくる。この街を一望できる学校の屋上は、私のお気に入りの場所であった。景色の向こうには海が見えて、その先には神樹様が作った壁が見える。四国はこの壁に囲まれている。神樹様があたし達を守るための壁だと習った。

私は風に吹かれながら、長い髪を抑える。さて、どうやってあの二人と接触するか。やっぱり、手っ取り早いのは何かの部活に勧誘することよね。では、何の部活に誘うかだ。

一番はうどん部ね。だけど、それは私が一年のときにすでにあった。できれば、一般の人との接触がない部、メンバーは私と結城友奈と東郷美森の3人だけがいい。

少人数でもできる部活。何があるだろうか。

「全然思いつかない、私の女子力を持ってしても、彼女達を向い入れる部が思いつかない」

『ふむ、なるほど女子力二万四千のきみでは、太刀打ちできないというのか。それじゃー、フリー◯ーにも勝てないな』

「そうそう、一回死ぬ寸前まで痛めつけてもらって、そこから回復しないと・・・って、あなた誰よ」

いつの間にか屋上に、眼鏡をかけた男性が立っていた。学校内では見かけない。それに、格好が制服ではないし、年は私よりずっと上のように見える。

『ふむ、レディーを警戒させてしまったか。これは失敗したな。では、今日はこの辺で退散しよう』

私が何かを聞く前に彼は屋上を出て行った。いったいなんなのだ。

「私の女子力はナメック星編のベジー◯並みか」

私の心のツッコミが言葉に出ていた。

この後、彼とは思いがけない場所で再会する。そして、私の女子力が二百万まで跳ね上がる出来事が、起こるのだった。

 

3

朝礼で私は予期せぬ予感があった。それは転校生がやってくるドキドキやわくわくではなく、どちらかというと仲違いした友達と突然道端で出会って、目を合わせてしまったような。何を言っていいのか、第一声の言葉を探す気分。

そんな、私の気持ちは知ってか。彼はにっこりと笑い、自己紹介を始めた。その笑い方が、無性に腹がたった。私はその後のことはよく覚えていない。あの屋上で会った彼は私のクラスの教育実習生として、今私の目の前に現れたのだ。これは何かの陰謀なのだろうか。その日の授業は私の耳には全く入ってこなかった。

 

放課後になり、私はどのようにして、結城友奈と東郷三森を引き入れるかを考えるため、一人屋上で空を見上げていた。

そこへ聞きなれない声がした。

「犬吠埼さん」

そう私を呼ぶ。ニコニコ顏の教育実習生がやってきた。

私は少し怒り気味で返事をした。

「なんでしょうか」

「なんか。声が怖いよ。風ちゃん」

突然、名前のちゃん付け呼ばれた。

私は胡散臭い人を見る目で彼を睨んだ。まったくもって、この人はどういう訳で、私に近づいたのだろうか。

「警戒心が強いと、モテないよ。もっと心をオープンにしなよ。そうじゃないと二年生に上がったとき、大変だよ」

「ちょっと、それってどういう意味よ」

「結城友奈と東郷三森と仲良くなるためには、もう少しオープンにならないとだめだよ、って意味だけど」

彼は隠すことなく、あっけらかと言う。

何がなんだかよくわらない。来年、讃州中学に二人が入学することは、大赦から命令された私しか知らないことだからだ。

「君は感もあんまり鋭くないようだね。僕は君と同じく大赦から派遣されてきた人間だよ」

困惑している私を見て、さらに話を続ける。

「大赦は君だけでは、今後の対応に向いていないということで、僕に君のサポートを命じられたんだ。まあ、僕みたいな完璧超人が加われば、問題ないだろう。特に東郷三森に関しては、中学生の君では難しい問題もあるしね」

「もう分かった。あなたが大赦の人間で、嫌な奴で、中学生に馴れ馴れしくちゃん付けをする変態で、自称完璧超人の教育実習生ということがね」

「それは、酷い言われようだね」

「すべて、当てはまっているでしょう。どこに反論の余地があるのよ」

「手厳しな。妹が言いそうだ」

「へえー、あなたにも妹がいるのね。性格悪い兄がいる妹さんもさぞかし大変よね」

「まあ、あんまり妹とは話さないからな。風ちゃんの妹のように物静かでもないし、僕みたいに世渡りが上手ではないしね。不器用な妹なんだよ。まあ、あいつについては、今はいいさ」

「ずいぶん、冷たいお兄さんね。あなたの妹さんには同情するわ」

「厳しいね。さて、数ヶ月の間だけど、よろしく」

満面な笑みで彼は手を出す。どうも、握手を求められているようだ。

「何、その手は?」

「握手だよ。努力・友情・勝利。昨日の敵は今日の友。最後は握手して、笑い合おう。わはっはー」

彼は漫画で出てくるセリフと漫画にも出てこない悪趣味な笑い声を出す。

仕方なく私は握手をする。私の握手に満足したのか。彼はこう言った。

「では、早速問題点を洗い出そう。その前に秘密の会話をするためには、何が必要かな。そこの犬吠埼さん」

「はい、人が少なく決まった場所で会話ができる場所、できれば座れて、ある程度スペースがあるところがいいです」

「いい答えだ。ならば、ちょうど良い場所がある。今は使われていない。家庭科準備室があるよ」

そう言うと彼は悪戯っ子の笑みで校舎奥へと歩き始めた。

 

家庭科準備室は、私たちの教室とは別の棟にあり、家庭科の実習授業でもない限りは、あまり訪れることがない。この棟は他に音楽室やパソコン室などがあり、屋上には神樹様を奉った社があった。

「なんで、あなたが準備室の鍵を持ってるの」

素朴な疑問が口に出ていた。

「ふむ、なんでだろうね。校長先生のあれな現場を見てしまってね。口止め料ってヤツさ。うししししー」

「呆れた人ね。人の弱味を握るなんて」

「まあ、そういうな。こうして秘密基地も手に入れたことだし、放課後ゆっくり今後の対策もとれるだろ」

その後、彼と今後の対策を考えていたが、ふと時計を見るとそろそろ妹の樹を迎えに行く時間だった。

「私、そろそろ妹を迎えにいかないと」

「あれ、もうそんな時間か。夜になるのも早いし今日はここまでだね。妹って、あれだね。ちんまくてクリクリした子で、風ちゃんのあとをちょこちょこついていく感じの子だよね」

「あなたは、なんでそんなに私の妹のことに詳しいのよ。まるで、私たちのこと何でも知ってるみたい」

「何でもは知らないよ。知ってることだけ。風ちゃんがうどん好きでわんこうどん大会に出ようか迷っているのも、僕は知っているよ」

私は、携帯端末を取り出し、迷わず一一〇にかける。

「あ、警察ですか。今、私の隣に変質者がいるのですが。え、場所ですか、」

「はい、ストーップ」

私の端末を取り上げる彼の顔はすごく面白い顔になっていた。

「その顔頂きです」

私の心のアルバムに一枚の写真が飾られた瞬間だった。

 

4

樹の小学校は、讃州中学の直ぐ近くにある。歩いて10分ぐらいのところだ。父も母も亡くなって私たち姉妹だけで生きていくには、私がしっかりしなくてはいけない。さいわい、大赦からの援助でお金には困っていない。ただ、樹には支が必要である。私がお母さんにならないといけないのだ。今日は鍋焼きうどんにしよう。樹を迎えにいって、スーパーで買い物しなくては、タイムセール間に合うかな。

「それにしても、何であなたまで付いてきているの」

私の後ろをニコニコしながら付いてくる影が一つ。

「いや、風ちゃんの妹を拝みたくてね。ダメかな」

「ダメに決まってるでしょ」

「えー、ここまで付いてきたのにそれはないよ」

「そんな顔しても、結局付いてくるんでしょう。くれぐれも妹にはちょっかいかけないでよね」

「りょーかい。自称紳士の名において、約束する」

「返事だけはいいわよね」

小学校の校門が見えてきた。向こうから樹が手を振ってくる。いつ見てもラブリーな妹だ。

「おねーちゃん」

樹が私に気づいたのか近づいてくる。

そして、私の顔を見て、隣の人物に視点を合わせ、一人柏手をうつ。何を思ったのか妹はこういった。

「不束な姉ですが、どうかよろしくお願いします」

「ちょっと、樹。何かを勘違いしてない」

「え、お姉ちゃんの彼氏さんじゃないんですか」

「違う違う、この人はうちの学校の教育実習性。えっと名前は・・・、あれなんだっけ?」

「風ちゃん、それはひどいな。いくら僕でもそれは傷つくよ」

「いや、機巧は絶対傷つかないでしょ」

「さて、いあやー。風ちゃんの妹さんは可愛いね」

「あんた、傷ついたっての嘘でしょう」

彼は悪びれもなく話し始める。

「はいはい、では自己紹介をしようか」

「勝手に自己紹介をしないでよ」

「風ちゃん、ちょっとうるさいよ。妹さんにきちっとご挨拶をしないと、こういうのは形式が大事なんだよ」

「あー。私、頭が痛くなってきた」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

心配そうに私を見上げる樹に安堵を浮かべつつも、これ以上樹に心配させるのもなんなので彼を止めるのは諦めた。

「風ちゃんも諦めた事だし。改めて自己紹介するね。僕は、讃州中学の教育実習生で、風ちゃんの部活の顧問を担当する乃木春信」

「え、いつあんたが顧問になったのよ」

「いや、こないだ教頭先生のあれな現場を見つけてね」

「それ、部室を手に入れる時にも言ってたわよ」

「まあ、そんなことはどうでもいいか。こほん、樹ちゃんも我が部に入らないか」

「何言ってるの、樹はまだ小学生よ。それに樹には・・・」

私は言葉を飲み込んだ。樹に関係ない訳ではない。あと1年後には嫌でも、関わらなければいけない。それが少し早まるだけ。

「風ちゃん、難しく考える必要はないさ。視点は複数あった方がいいんだよ。妹と一緒に部活をするのも悪くないよ。まあ、僕と二人の部活も、それはそれで悪くないけどね」

「いや、それは却下で。樹、悪いんだけど。部活作りに協力して、お姉ちゃんの一生のお願い。じゃないと、私の貞操が危ない」

「なんだか。よく分からないけど。分かったよ。お姉ちゃん。ところで、部活ってどんな部活なの?」

「名前は、まだない」

「いや、決めたぞ」

いつ部活の名前が決まったのだろうか。また、この人の突拍子もない言葉が飛び出るのだろうか。ちょっとワクワクしている私がいる。

「勇ましい姿の姉、それに寄り添う健気な妹だ。あれだね、こりゃー。勇ましい者。勇者部っでどうだろうか」

私は目を丸くした。

「勇者部か、それいいかもしれない。でも、何をする部活なの」

「そりゃ、勇者といえばクエストをこなす者さ。みんなの困っていることを助ける。まあ、ボランティアみたいなことかな」

彼は拳を高らかに空に宣言する。まるで、仲間が集まり、これから冒険が始まることへの勇者の咆哮みたいに。

「お姉ちゃん、乃木さんって面白い人だね」

「本当だよ。勇者部誕生の前祝いだ。今日は鍋焼きパーティをするわよ。乃木先生も参加しますよね」

「鍋焼きかな。いいね。もちろん参加するよう」

彼は二つ返事で頷く。

「そうと決まったら、スーパー行くよ。特売という戦場が私たちを待っているわ」

このあと、特売コーナーに勝鬨が上がるのだが、それはまた別の話。

 

家への帰り道、樹が私に耳打ちする。

「お姉ちゃん。私、乃木って名前に心当たりがあるんだけど、何かひっかからない」

「覚えがないわね〜。樹の考えすぎじゃない。まあ、珍しい苗字ではあるわね」

「そうかな。小学校の授業で聞いた気がする。でも、そのうち思い出すよね」

「そうそう、今は鍋焼きパーティだよ」

この時、もう少し注意深く樹の言葉の意味を理解していれば。彼が何者で、乃木という苗字の者がなぜ、私達に接触してきたのか。それを知るのはもう少しあとのことになる。この時の私は、新しい部活のことで頭がいっぱいで、これから起こることを全く予想せず、ただただこれから始まる冒険の世界に夢を見ていた。

『第一話 完』

 

次回予告

勇者システムとは別のシステムせいれいとは何か

 

「私たちは共犯者だよ」

 

「それでも僕はこの賭けに勝つ」

 

「あなたって本当バカよね」

 

「ああ、最高だ」

 

次回『間幕1 せいれい』

 

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