目の前には3台の白い携帯端末がある。勇者になるべきものが持つと、世界の敵であるバーテックスと戦う力をえる。そう、世界を守る勇者が誕生するのだ。この場にない端末で、1台は三好夏凜に渡されている。元は三ノ輪銀が使用していた端末を元に強化された端末だ。武器の仕様は2振りの刀。赤をイメージした作り。三好夏凜にあった色だろう。もう1台はすでに犬吠埼風に渡されている。端末の調整は彼が直接行うという。まったく、彼は犬吠埼姉妹には甘いのだ。私情挟むと足元もすくわれるとはいったものだが、彼に限ってはそんなことはないだろう。それほど、彼は完璧なのだ。完璧な人間をヒトは勇者と呼ぶだろうか。いや、彼は勇者と呼ばれるのにはあまりにも完璧すぎる。そうだ、魔王と呼ばれるのにふさわしいかもしれない。魔王のように完璧で、しかし滑稽なキャラ。彼が考えていることは私にはよくわからない。何故、今更彼女たちに関わろうとするのかも理解できない。だが、理解できないからこそ、彼は勇者ではなく、魔王であることの代償なのだろう。3台の端末ももうじ彼女たちの手に渡る。そして、彼の筋書き通りに物語は進むのだろう。完璧なストーリー展開、勇者が魔王をうつのは、物語として至極当然の展開なのである。
私は傍観者の一人として、彼の。いや、勇者を夢見て、勇者になれなかった者たちの物語を綴るだけである。
はじめまして。私はセンセイと呼ばれるモノ。この世界について研究し、世界の理を探求する者。
私は彼に『私たちは共犯者だよ』と言っていたことを思い出す。物騒な物言いだが、その言葉が私と彼の関係であることは間違いないのだ。魔王の隣には優秀な側近がいるのはお約束であるように、一緒に悪いことをするのは、利害関係が一致した共犯者だけなのである。
いくら彼が完璧人間であっても、運や天というのがあって、必ずうまくいかないことや予期せぬ出来事というのが発生する。そんなときどうするのかと彼に聞いたことがある。彼の答えはこうだ。『運や天というのは物事に勝てない者の言い訳。例えどんなに希望がなくても、限りなく0に近くても、それでも僕はこの賭けに勝つ。僕は完璧な人間だからね』あそこまで、きっぱりと自分は完璧な人間であるという人を私は知らない。だから私はこう返した。『あなたって本当にバカよね』私の呆れに彼は大真面目に言った。『ああ、最高だ。最高の褒め言葉だね。惚れちゃいそうだ』彼は益々バカな物言いで、1人うんうんと頷いている。バカと天才は紙一重というが、彼は天才でもありバカでもあるのだ。
今回の勇者システムにはもう一つ別のシステムが組み込まれている。それがせいれいシステムだ。三ノ輪銀の壮絶な犠牲によって生まれたシステム。いや、彼に言わせれば三ノ輪銀は、犠牲ではなく、未来への礎となったという。私もそう思う。三ノ輪銀は確かにせいれいシステムの一部として取り込まれたのである。せいれいシステムの礎と言ってもいい。あの大橋での戦いで、何故三ノ輪銀は1人で3体のバーテックスを撃退できたのか。これが、ゲームや漫画の世界だと奇跡や己の限界を超えた力で撃退したという、どうにも釈然としない理由かもしれない。だが、私は、いや彼も同じ考えだろうが、三ノ輪銀は満開し散華したと考えれば、文字通り絶対的な力で撃退できただろう。ただし、供物が己の命という一つしかないものを差し出してしまったのだ。でなければ、三ノ輪銀はここで死ぬはずがない。乃木園子が勇者システムにより、満開と散華を繰り返すことで、身体の一部を供物として戦ったように、三ノ輪銀は一つしかない命を供物にして、世界を救ったのだ。まるで、過去の勇者たちのように。
せいれいシステムはスタンドアローンで動いており、勇者システムとは直接連動はしていない。せいれいは独自に判断し、勇者たちの助けとなるように行動する。また、ほとんどのものはしゃべることができないが、意思をもっている。その行動原理は勇者を絶対に死なせないこと。過激な戦いになるであろうバーテックス戦に、勇者になれなかったものたちによる、未来の勇者たちが三ノ輪銀のようなことにならないように作成したシステムである。この想いが果たして未来の勇者たちに届くのか、それは分からない。もしかしたら、その想いは別の解釈をされるかもしれない。だが、私はそれでもいいと思う。未来は勇者たちの手にかかっているのだから。私たちのような勇者になれなかった者たちはただ見守るだけでいい。それが傍観者に与えられた責務なのだ。