私は目をさますと辺りを見回した。いつもとは違う景色。私の部屋では無い。白い壁に白いベッド。外を見ると夕暮れすぎなのか、海の向こうがうっすらと紅い。私は夕飯の買い物を思い出し、立ち上がろうとすると、足に激痛が走った。私は前のめりに倒れ込もうとした瞬間、どこか優しくて柔らかい床が、私を受け止めてくれた。
「間一髪セーフだな」
私を抱きしめた、その男は、私の頭に手を乗せる。
「なんであなたがこんなところにいるの。と言うか私はどうしてこんなところにいるの」
「覚えていないのか。昨日の夜のことを。あんなに激しかったのに」
「全然覚えていないわ」
「風ちゃんはアレだね。飲むと記憶を失くすタイプだね」
「飲むと?」
私は昨日のことをよく思い出した。そう言えば、昨日は家で鍋焼きパーティーをしたのだった。私と樹、それに乃木春信先生の3人でだ。
熱々の鍋焼きを囲って食べたところまでは覚えている。
「確か昨日は鍋焼き囲って、勇者部結成に向けて、あれその後のことが思い出せない」
「やれやれ、風ちゃんは僕のお酒を水と間違えて飲んじゃったんだよ。あれには焦ったね」
「・・・」
「ほんの一口だったけど、顔真っ赤にさせて。ほとんど何言っているのか。分からないよ状態で。服を脱ぎ出そうとした時には、樹ちゃんに止めてもらったよ。でも風ちゃんは言うこと聞かずに、『私は勇者だー』って言っていきなり家を飛び出して、僕も樹ちゃんもビックリ」
いつの間にか彼の後ろに樹が立ってる。
「お姉ちゃん、大変だったんだよ。乃木先生が見つけなかったら、もっと大変なことになっていたよ」
「私、何しちゃったわけ」
「うん、橋の上から川に向かってダイブした」
「嘘、え、そんなことしたの私」
「いつもキリッとしたお姉ちゃんが駄々こねて、乃木先生もたじたじだったよ。でも、川に飛び込んだ、お姉ちゃんを乃木先生が助けてくれたから。それに乃木先生が適切な処置をしてくれなかったら、お姉ちゃんどうなってたか」
樹の目から涙がポロポロと溢れる。どうやら、樹にすごく心配をかけてしまったようだ。
「まったく、可愛い樹ちゃんを泣かせて、悪いお姉ちゃんだね、キミは」
「何、私を悪者扱いしているのよ。元の原因はあなたがお酒を持ち込んだからでしょ」
「いや、うどんには日本酒でしょ。琴平町に住んでる友人からもらった日本酒を。まさか、風ちゃんが飲むとは思わなかったよ」
「まあ、いいわ。樹に心配かけちゃったし、どうやらあなたにも助けられたようだしね。今回は見逃してあげる」
「それは、良かったよ」
彼が安堵する。それを見て樹が話す。
「でも、お姉ちゃん、あんまり気にしないでね。アレはノーカンだと思うよ」
顔を赤くして樹が言う。
「樹、何言ってるの?」
「私、人工呼吸見るの初めてだったから」
「誰と誰が人工呼吸をしたの」
「・・・」
「待って、頭が混乱してきた。私は橋からダイブした、そこを助けたのが乃木先生。ということは、えー!!」
私は混乱した。そんなわけない。私のファーストキスがこんなことで奪われるはずがない。私は恐る恐る彼の顔を見た。
「いや、あれは人命救助だよ。チューじゃないさ」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
私の声にならない声が病室に響き渡る。私のファーストキスは、お酒を飲んで酔っ払い、橋からダイブして、彼が溺れた私を助け、彼の人工呼吸によって散ったのだった。