「あの〜、個室のトイレを勝手に開けるのは良くないよ〜」
ミイラ少女は、先ほどまでトイレットペーパーが無いことで泣きべそをかいていたのに。顔はキリッとしているつもりなのだろうが、包帯グルグル巻きなので、全く表情がつかめない。
「うん。そうだね。ゴメン」
なんとも言えない場の空気に思わず謝ってしまった。
「ところで、トイレットペーパーを分けて欲しいよ〜。それでトイレを覗いた事は許してあげるよ〜」
強気のミイラは私に手を出す。何だろう、この気持ち。ミイラのくせに、何故か可愛らしい。そして、いじめたくなる。私のSスイッチが目覚めた。
「うん。トイレットペーパーはここにはなさそう。さっき私の方のトイレも切れちゃったみたい」
それを聞いたミイラ少女は固まった。
「私、このまま一生トイレから出られないのか〜。友達少ない私にも、トイレの花子さんは優しくしてくれるかな〜」
ミイラ少女は深く考え込む。ミイラ少女は友達が少ないらしい。なんとも悲しいつぶやき。まあ、ミイラ少女と積極的に友達になりたがる人は少ないだろう。私はどうもか弱そうな子が好きみたいだ。このミイラ少女を無性に抱きしめたくなった。
「やれやれ、仕方ないな。トイレットペーパー探してくるから、そこで待ってなさい」
「ありがと〜。助かるよ〜」
少女の笑みがグルグル巻きの包帯の端から見えたような気がした。
変な子と出会ってしまった。
トイレで出会った少女にトイレットペーパーを渡したあと、何事もなく少女たちの花摘みは終了した。
ミイラ少女は私の部屋とは反対側の棟であった。どうにも心配だったので、ミイラ少女を部屋まで送る事にした。
部屋に入るとそこは伽藍とした何も無い部屋、いやベッドはあるのだが、それ以外のものが何も無い。まるで彼女というハコを閉じ込めるための部屋。そうまるで聖櫃を納める神聖な場所。彼女は文字通り友達がいないのかもしれない。
「なんか寂しい部屋だね。そうだ、今度お花を持ってくるよ。どんな花がいいかな。そうだ、まだ自己紹介してなかったね。私は犬吠埼風、あなたのお名前は?」
「犬吠埼・・・、あなたが犬吠埼夫妻の・・・」
ミイラ少女はブツブツと何かをつぶやく。よく聞き取れなかった。
「・・・私の名前は乃木園子だよ〜」
「乃木?もしかして乃木春信先生の妹さん?」
「春信?ああ、ハルるんのことか」
「何そのあだ名。あいつ、妹にアダ名で呼ばれているの」
「ところで、私ハルるんの妹じゃ無いよ」
「え、どういうこと?」
「確か、ハルるんの旧姓は三好だったはず〜。最近、乃木家の間で誰がトップになるかの言い争いがあってね〜。実質、私がこんな状態だから。大赦という組織を動かすためには、優秀な人材が必要なの〜。だから、優秀な彼を乃木家に迎えたって聞いたよ〜」
「へー、なんか小難しい話ね。まあ、あの人がとってもすごい人だということは分かった。そして、すごく変人よね」
「そうなの〜」
「乃木さんは、知ら無いかもしれ無いけど、あいつはロリコンで変態で真性中二病で。私のことをネタにしていつも笑うのよ。今日だって、幽霊少女の話をしたからこんなことになったのよ」
「私の知ってるハルるんはいつも無表情で、何事もテキパキこなし。誰に対しても端的に物言い。いつも周りには無関心で。でも、いざとなると率先的に動く。ワッシーとミノさんに出会う前の私に似てるかな〜」
「へえー、今の先生と同一人物とは思え無いな。それと、ワッシーさんとミノさんって乃木さんの友達?その名前が出た時、とっても嬉しそうな顔だったよ」
「う、うん・・・。とっても大事な友達」
気のせいか、彼女の顔が少し暗くなる。
「でも、フゥ〜にも友達たくさんいるんじゃない」
突然、乃木さんが私の名前を呼んだ。ちょっとびっくりしたけど、なんか嬉しかった。
「今の私には、友達を作るのは難しいね。妹の世話と変態の世話をしないといけないから」
「変態?ああ、ハルるんのことね」
「そう、だから今はとっても充実している。こんなの・・・」
そう、こんな感情はお母さんとお父さんが生きていた頃以来だ。
今の私は、勇者集めのこと、勇者部のこと、樹のこと、そして数年後のバーテックス戦に、どう対応していくか。それしか考えていない。
「どうかした?」
園子が私の顔を心配そうにのぞく。
「いや、なんでもない。園子も友達少なそうだし、私も友達少ない。なら私たちは似た者同士だね」
私の言葉に、園子は瞬きする。
「似た者同士は惹かれ合う。それが運命。導きなのよ」
私は息を吸う。最近は積極的に友達を作ろうとはしなかった。でも、彼女とは友達になりたくなった。いや、私のソウルメイトとして、彼女に共鳴しているのだ。
「だから、私の友達になってください」
すごく恥ずかしい。友達を作るのってこんなに恥ずかしいものだっけ。なんだかソウルが熱い。
「フゥ〜、それずるいよ」
彼女の瞳から涙が溢れている。私は不覚にもドキドキした。包帯グルグル巻きの彼女が可愛く見えた。
「こちらこそ、私と友達になってください〜」
この夜、ファーストキスのことや幽霊少女のことよりも、大事な思い出が出来た。
私、犬吠埼風と乃木園子は友達になったのだ。