犬吠埼風は中二である   作:名も無き詩人

5 / 9
第二話 日本酒とファーストキスと幽霊少女 (3/3)

「あの〜、個室のトイレを勝手に開けるのは良くないよ〜」

ミイラ少女は、先ほどまでトイレットペーパーが無いことで泣きべそをかいていたのに。顔はキリッとしているつもりなのだろうが、包帯グルグル巻きなので、全く表情がつかめない。

「うん。そうだね。ゴメン」

なんとも言えない場の空気に思わず謝ってしまった。

「ところで、トイレットペーパーを分けて欲しいよ〜。それでトイレを覗いた事は許してあげるよ〜」

強気のミイラは私に手を出す。何だろう、この気持ち。ミイラのくせに、何故か可愛らしい。そして、いじめたくなる。私のSスイッチが目覚めた。

「うん。トイレットペーパーはここにはなさそう。さっき私の方のトイレも切れちゃったみたい」

それを聞いたミイラ少女は固まった。

「私、このまま一生トイレから出られないのか〜。友達少ない私にも、トイレの花子さんは優しくしてくれるかな〜」

ミイラ少女は深く考え込む。ミイラ少女は友達が少ないらしい。なんとも悲しいつぶやき。まあ、ミイラ少女と積極的に友達になりたがる人は少ないだろう。私はどうもか弱そうな子が好きみたいだ。このミイラ少女を無性に抱きしめたくなった。

「やれやれ、仕方ないな。トイレットペーパー探してくるから、そこで待ってなさい」

「ありがと〜。助かるよ〜」

少女の笑みがグルグル巻きの包帯の端から見えたような気がした。

変な子と出会ってしまった。

 

トイレで出会った少女にトイレットペーパーを渡したあと、何事もなく少女たちの花摘みは終了した。

ミイラ少女は私の部屋とは反対側の棟であった。どうにも心配だったので、ミイラ少女を部屋まで送る事にした。

 

部屋に入るとそこは伽藍とした何も無い部屋、いやベッドはあるのだが、それ以外のものが何も無い。まるで彼女というハコを閉じ込めるための部屋。そうまるで聖櫃を納める神聖な場所。彼女は文字通り友達がいないのかもしれない。

「なんか寂しい部屋だね。そうだ、今度お花を持ってくるよ。どんな花がいいかな。そうだ、まだ自己紹介してなかったね。私は犬吠埼風、あなたのお名前は?」

「犬吠埼・・・、あなたが犬吠埼夫妻の・・・」

ミイラ少女はブツブツと何かをつぶやく。よく聞き取れなかった。

「・・・私の名前は乃木園子だよ〜」

「乃木?もしかして乃木春信先生の妹さん?」

「春信?ああ、ハルるんのことか」

「何そのあだ名。あいつ、妹にアダ名で呼ばれているの」

「ところで、私ハルるんの妹じゃ無いよ」

「え、どういうこと?」

「確か、ハルるんの旧姓は三好だったはず〜。最近、乃木家の間で誰がトップになるかの言い争いがあってね〜。実質、私がこんな状態だから。大赦という組織を動かすためには、優秀な人材が必要なの〜。だから、優秀な彼を乃木家に迎えたって聞いたよ〜」

「へー、なんか小難しい話ね。まあ、あの人がとってもすごい人だということは分かった。そして、すごく変人よね」

「そうなの〜」

「乃木さんは、知ら無いかもしれ無いけど、あいつはロリコンで変態で真性中二病で。私のことをネタにしていつも笑うのよ。今日だって、幽霊少女の話をしたからこんなことになったのよ」

「私の知ってるハルるんはいつも無表情で、何事もテキパキこなし。誰に対しても端的に物言い。いつも周りには無関心で。でも、いざとなると率先的に動く。ワッシーとミノさんに出会う前の私に似てるかな〜」

「へえー、今の先生と同一人物とは思え無いな。それと、ワッシーさんとミノさんって乃木さんの友達?その名前が出た時、とっても嬉しそうな顔だったよ」

「う、うん・・・。とっても大事な友達」

気のせいか、彼女の顔が少し暗くなる。

「でも、フゥ〜にも友達たくさんいるんじゃない」

突然、乃木さんが私の名前を呼んだ。ちょっとびっくりしたけど、なんか嬉しかった。

「今の私には、友達を作るのは難しいね。妹の世話と変態の世話をしないといけないから」

「変態?ああ、ハルるんのことね」

「そう、だから今はとっても充実している。こんなの・・・」

そう、こんな感情はお母さんとお父さんが生きていた頃以来だ。

今の私は、勇者集めのこと、勇者部のこと、樹のこと、そして数年後のバーテックス戦に、どう対応していくか。それしか考えていない。

「どうかした?」

園子が私の顔を心配そうにのぞく。

「いや、なんでもない。園子も友達少なそうだし、私も友達少ない。なら私たちは似た者同士だね」

私の言葉に、園子は瞬きする。

「似た者同士は惹かれ合う。それが運命。導きなのよ」

私は息を吸う。最近は積極的に友達を作ろうとはしなかった。でも、彼女とは友達になりたくなった。いや、私のソウルメイトとして、彼女に共鳴しているのだ。

「だから、私の友達になってください」

すごく恥ずかしい。友達を作るのってこんなに恥ずかしいものだっけ。なんだかソウルが熱い。

「フゥ〜、それずるいよ」

彼女の瞳から涙が溢れている。私は不覚にもドキドキした。包帯グルグル巻きの彼女が可愛く見えた。

「こちらこそ、私と友達になってください〜」

この夜、ファーストキスのことや幽霊少女のことよりも、大事な思い出が出来た。

私、犬吠埼風と乃木園子は友達になったのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。