咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
あんまり多様できませんけど。
01志野崎秀介その5 出会いと再会
「ふんふんふーん♪」
咲はご機嫌で部室へと向かっていた。
いつもより少し早めに授業が切り上げになったことに加えて、京太郎が用事で少し遅れるとのことなので一人先に部室に着くのだ。
(読みかけの本があったんだよね。
今のうちに読んじゃおう)
そう思い、はやる気持ちで部室のドアを開けた。
「・・・・・・あれ?」
入って真っ先に目に入ったのは麻雀卓。
それは大したことではないのだが山が積まれている。
いつもは牌を片付けてから部室を離れているはずなのだが、誰か来ていたのだろうか?
そしてさらにおかしいのは、山の一部がめくられていることだ。
しかもめくられているのは{東}ばかり。
下山をひっくり返している場所まである。
わざわざ{東}の場所だけひっくり返すとは何事であろうか。
その上山は乱れていない。
ということは・・・・・・。
「・・・・・・見ないで{東}だけ開けた・・・・・・?
まさか・・・・・・」
自分も麻雀の最中に山や嶺上牌を見ることはできる。
しかし勝負前の何でもない時に、しかも山の全てを見通すなんて・・・・・・。
「・・・・・・ん?」
ふと見るとベッドで誰かが横になっている。
男の制服。
だが麻雀部の男子は京太郎だけのはずじゃ・・・・・・。
「あの・・・・・・誰ですか?」
そっと覗くと確かに男子生徒が横になっていた。
声を掛けられて目が覚めたのか、彼はゆっくりと起き上がった。
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
寝起きが悪いのだろうか、彼はぼーっとしながら周囲を見渡す。
「・・・・・・あぁ、そうか、寝てたのか。
いかんな、早急に帰るつもりだったのに」
そう呟き、やがて彼と咲は目が合う。
「やぁ、お客さんかな?」
「え、えっと・・・・・・麻雀部の者ですけど・・・・・・」
「ん? 部員? 君いたっけ? もしや1年生?」
「そうですけど・・・・・・」
「そうか、じゃあ初めましてだ」
彼はそう言ってベッドから降りると咲と向かい合う。
「初めまして、3年の
よろしく」
「さ、3年生ですか。
私は1年の宮永咲です。
よ、よろしくお願いします」
二人は握手を交わした。
「あの・・・・・・あなたも麻雀部ですか?」
「そうだよ」
咲の質問に頷く秀介と名乗った男。
「でも・・・・・・今までどうされてたんですか?」
「ちょっと学校休んでてね」
「はぁ・・・・・・」
病気か何かだろうか、
と、がちゃりとドアが開いて、誰かがやってくる。
「悪い咲、遅れた」
「どうも、宮永さん」
京太郎と和だった。
「あ、二人とも」
「・・・・・・その方は?」
和が見慣れないその男に視線を向けると、秀介は頭を軽く下げる。
「3年の志野崎秀介だ。
しばらく来てなかったが麻雀部に所属している」
「そうでしたか。
1年の原村和と申します、よろしくお願いします先輩」
和も頭を下げる。
「あ、えと、1年の須賀京太郎です。
よろしくお願いします」
京太郎も慌てて頭を下げた。
「皆1年生かい、ずいぶん入ってくれたんだねぇ」
秀介は嬉しそうに笑った。
そして思い出したように卓の椅子を引く。
「せっかく四人揃ったんだ。
打たないか?」
「あ、そうですね」
咲が賛成して席に着く。
和と京太郎も顔を見合わせて席に座った。
「・・・・・・?」
と、和が一部だけ返された山を見て首をかしげる。
「ああ、気にしないでくれ」
秀介はそう言って卓のスイッチを入れると山を崩して穴に流し込んだ。
それを見て咲も目の前の山を崩す。
しばらく卓の起動音がしてやがてセットされた山が現れる。
「あ、えっと親は・・・・・・?」
「ん、じゃあ二度振りで決めようか」
咲の言葉に秀介が賽を転がす。
出た目は5。
続いてもう一度、出た目は8。
「おし、君が親だね。
宮永さんって言ったっけ?」
「あ、はい。
ではよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
親順
咲→秀介→和→京太郎
咲がスイッチを押し、賽がカラララララと回る。
東一局0本場 親・咲 ドラ{三}
8巡目。
咲手牌
{二
「リーチです」
咲の先制リーチが入る。
高めの{6}が出れば跳満確定だ。
秀介も和もあっさりと安牌を切る。
そして京太郎。
{
「おっしゃ、行くぜ! 追っかけリーチ!」
カシィンと{6}を切る京太郎。
当然のように牌を倒す咲。
「一発」
「げげっ!?」
「タンピン三色ドラ1。
裏は・・・・・・無し、18000だよ」
「く・・・くそぉ・・・・・・」
しぶしぶと点棒を差し出す京太郎。
秀介はそれを見て苦笑いしていた。
東二局1本場 親・咲 ドラ{6}
(流れに乗れるといいなぁ・・・)
咲はそんなことを考えながら{北}を切る。
その対面に位置する和。
(調子が良さそうですね、宮永さん。
それに対して須賀さんは・・・・・・)
まぁ、それほど強いわけではないので仕方ないかもしれないが。
(親の宮永さんがリード・・・・・・ここで上がって点数を削っておきたいところですね)
4巡目。
順調に手が進む、そう和が思ったのもつかの間。
「ツモ」
「・・・え?」
パタン、と手牌を倒したのは秀介だった。
まだ5巡目である。
{二二二六八③③⑧⑧⑧345} {
「タンヅモ、
「は、早っ!」
京太郎が思わず声を上げる。
「
あんまり
秀介は笑いながら点棒を受け取る。
(・・・・・・流れに乗れるかと思ったのに)
咲は残念そうに手配を伏せる。
東二局0本場 親・秀介 ドラ{四}
7巡目。
和が捨て牌を横に倒す。
「リーチです」
そして3巡後。
{二三
「ツモです、リーピンツモドラ1赤1、2000・4000ですね」
東三局0本場 親・和 ドラ{5}
5巡目。
(・・・ここは勢いに乗りたいところです)
連荘して巻き返しを計りたい和。
(・・・・・・ふむ)
そんな和の様子を見ながら、秀介は対面の京太郎を見る。
{發}を鳴いて役を確保、ここからは鳴きまくって上がりに持っていくというところだろうか。
秀介はトンッと{⑧}を捨てる。
「ポンッ」
「!」
京太郎は{⑧}を2つさらし、手牌から{⑨}を捨てる。
ツモろうとしていた和は慌てて手を下げた。
これで京太郎は聴牌だろうか?
和の手が進まぬまま3巡後。
「ツモ!」
京太郎が手牌を倒す。
{四五
「發ドラ1、500・1000」
こうして場はあっという間に流れていく。
東四局0本場 親・京太郎 ドラ{①}
「チー」
咲が{横七五六}に続いて{横②
(・・・・・・? 何を狙っているのでしょう?)
和は咲の狙いが分からない。
そんな中、咲は新たに手牌を晒す。
「カン!」
{中}の暗カンだ。
そして嶺上牌に手を伸ばし、それを表向きに卓に置く。
「ツモ」
{白發發發} {中■■中横②
「嶺上開花小三元ドラ1、3000・6000」
咲が嶺上を絡めた手で一気にリードを取った。
しかし。
「ロンだ」
「う・・・・・・」
「ロンです」
「うぐっ・・・・・・原村さんまで・・・・・・」
秀介と和によって点棒を削られてしまった。
さらにいい手を張っても。
(よし、今度こそこの混一色で・・・・・・)
「ロン! リーチ發ドラ1!
裏ドラは・・・・・・無いか」
秀介が京太郎に差し込み、潰されてしまう。
そして迎えたオーラス。
咲 21600
秀介 31300
和 40600
京太郎 6500
南四局0本場 親・京太郎 ドラ{四}
6巡目。
「カン」
秀介から{②}の暗カンが入る。
新ドラは{南}、嶺上牌はツモ切り。
そして次巡。
「リーチ」
{西南中①2⑦} {
リーチが宣言される。
和との点差9300は満貫ツモでひっくり返るのでおそらくそれを狙っているのだろう。
一方の和も既に平和を聴牌していた。
そしてツモってきたのは・・・・・・。
{一二三[五]六七
({一}-{四}-{七}は志野崎先輩には通っていない・・・・・・でも{2}なら通る。
こちらの方が私の待ちも広がるし・・・・・・)
考えるまでも無い、と和は{2}を切った。
「ロン!」
「・・・・・・え?」
パタッと牌を倒したのは京太郎だった。
まさか・・・・・・ラス目の京太郎が?
しかしそこそこの手を上がったところで追いつかれるはずが・・・・・・。
{
「南三暗刻ドラ6! 倍満! 24000だ!」
「なっ、倍満!?」
思わず声を上げる。
和 40600→16600
京太郎 6500→30500
「逆転2位!?」
「いや」
咲の言葉に、秀介が場の千点棒を拾い、京太郎に渡す。
「俺のリー棒が入るからトップだ」
「や、やった!!」
咲 21600
秀介 30300
和 16600
京太郎 31500
「やった! トップだぜ! 咲と和相手にトップだ!」
「ふぇ~~・・・・・・」
「・・・・・・お疲れ様でした」
「ふぅ・・・・・・久々にしては上出来だったか」
パタンと手牌を伏せる秀介。
その様子を和と咲が見ていた。
(・・・・・・今回はたまたま須賀さんにやられましたが・・・・・・。
志野崎先輩はときどきやけに早い手が入りますがそれ以外は大したことなさそうですね。
あ、そういえば差し込みも的確だった気が・・・・・・)
和は秀介の打ち方を振り返ってそう分析する。
が、咲はまったく別のことを考えていた。
「あの・・・・・・志野崎先輩」
「ん? 何?」
「・・・・・・手牌、見せてもらってもいいですか?」
(手牌?)
「そうだ、先輩どんな手だったんスか?」
咲の言葉に食いつく和と京太郎。
が。
「ダメ」
「え~~!」
秀介の言葉にがっかりする。
「・・・・・・といいたいところだけど。
他の人に黙ってるんなら宮永さんには見せてあげよう」
「・・・・・・ずるいですね」
続いて出た言葉にボソッと文句を言う和。
咲は苦笑いしながらその手牌を見た。
「・・・・・・やっぱり先輩・・・・・・」
とその時、ガチャリと部室のドアが開いた。
「遅くなったじぇ」
「皆揃っとるな~」
「ごめんなさい、生徒会で遅くなって・・・・・・」
優希、まこ、久だった。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様っス」
「お疲れ様です」
咲、京太郎、和が後から来た3人を迎える。
「あれ? お客さんだじぇ」
と優希が秀介を見て首をかしげる。
「ああ、この人は・・・・・・」
と、和が説明をしようとして止まる。
それは残りの二人の反応が優希と違ったからだ。
「し、志野崎先輩!?」
まこが口を開く。
どうやら知っているようだ。
そして久も。
「・・・・・・シュウ?」
「おう、久しぶりだ」
秀介は席から立ち上がり、正面から向き合う。
と、久はタタッと駆け寄り、秀介の胸に飛び込んだ。
「え?」
「わっ」
周囲が驚いた反応をする。
部長がこんな乙女チックな反応をするところを初めて見たからだ。
「シュウ・・・・・・もう身体は大丈夫なの?」
「ああ、おかげさまでな」
「そう・・・・・・よかった」
「ちょ、ちょちょ!」
ふと割り込んでくる無粋な京太郎。
「お、お二人のご関係は?」
「あ、ごめんなさい・・・・・・」
パッと離れる久。
自分がやってたことが恥ずかしくなったのだろうか。
「っていうかこの人誰だじぇ?」
優希がそういい、久もコホンと咳払いして話を続けた。
「紹介するわ。
私の幼馴染で一応この麻雀部所属の志野崎秀介よ」
「幼馴染でしたか」
はぁ、と相槌を打つ咲。
「今までどうされてたんですか?」
「それは・・・・・・」
和の質問に久の表情が暗くなる。
が、当の秀介は平然と答えた。
「まぁ、ちょっと体調崩しててね」
「長期の体調不良ですか・・・・・・」
「ま、まぁ、そこにはあまり触れない方向で・・・・・・」
まこもなにやらその話題には触れたくなさそうに割って入る。
何かあったのだろうかと首をかしげる1年生諸君。
秀介はそんな一同の様子を笑いながら言う。
「大丈夫だって、まこ。
もう回復したぞ。
なんなら久を抱き上げて見せようか」
「・・・・・・それは何かしら。
私は体調万全じゃないと抱き上げられないくらい重いとでもいいたいのかしら」
「おっと」
「「おっと」じゃないわよ! 失礼ね!」
振り下ろされる久の拳を掌で受け止める秀介。
それで一気に場の空気が明るくなった。
(ヘンな人だなぁ、志野崎先輩って)
咲も笑いながら秀介の様子を見る。
秀介も久もまこももう笑顔だ。
(・・・・・・でも・・・・・・)
ふと、咲は先ほど見た秀介の手牌を思い出す。
{三
(・・・・・・ノーテンリーチ・・・・・・公式なら即チョンボなのに・・・・・・。
一体なんでそんなことを・・・・・・)
と考えてふと思い至った。
「俺のリー棒が入るからトップだ」
(それじゃまさか・・・・・・京ちゃんをトップにする為に・・・・・・!?
そういえばその結果志野崎先輩の点数は30300・・・・・・±0・・・・・・)
まさか・・・・・・以前の私と同じく狙って・・・・・・!?
しかも実力の勝る私と原村さんを落として、わざわざ京ちゃんをトップに!?
「・・・・・・そんなこと狙ってするなんて・・・・・・」
「・・・・・・? どうかしました? 宮永さん」
「あ、ううん、なんでもないよ」
和に聞かれたがそれを答えるわけにはいかない。
確信はないし、何より以前自分がやったときに和を泣かせてしまったから。
・・・・・・この人もしかして、只者じゃないんじゃ・・・・・・?
2012/9/13追記:点数申告だけだったところに手役表示させました。
これで点数間違ったらただのアホですねー(
2014/10/18:点数間違ってました(
ドラ変更で乗り切り。