咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
ところで「ばいにんっ!」を読んだ後にこれ書いてると、京太郎ってこんな性格でいいんだっけ?と不安になるんですが(
「お疲れだ、いい試合だったな」
ぐったりと疲れた感じのまこを靖子がねぎらう。
「あ、ありがとございますー、藤田プロ」
まこは差し出された麦茶を受け取り喉を潤す。
そこに秀介と久もやってきた。
「お疲れ、いい勝負だったな、まこ」
「ええ、いい勝負だったわ、まこ」
「何を言うか、揃ってそっちのコマいのの試合見とったくせに」
満面のいい笑顔でやってきた先輩達を冷たくあしらうまこ。
その様子に先輩達はやれやれと小さく首を振った。
「何を言うか、ちゃんと見ていたぞ、お前の活躍」
「ほんならどこがよかったか言うてみぃ」
まこの突っ込みにも動じることなく、秀介はいい笑顔で親指を立てながら告げた。
「最後の{[⑤]}切りは見事な決断だった!」
「やっぱり見とらんじゃろがー!」
そんなまこを宥めるように久がメモしていた牌譜を差し出す。
「ごめんなさいね、マホちゃんの牌譜取ってたから」
「おー、同時に試合になったからのぉ。
ありがとうな、後で頭に入れとくわ。
そして志野崎先輩は謝らんかったらこの辺の自動販売機のリンゴジュースを買い占めるけぇの」
まこはそれを受け取りながら、秀介にそう言う。
それは困った、と秀介は頭を下げた。
「酷いな、俺の命にかかわるぞ。
それはともかくスマン、まこ。
次の試合はちゃんと応援するよ」
「ん、それなら許す」
リンゴジュースがそんなに大事か。
ともかくあっさりと許したまこは、マホ本人の方に視線を向けた。
「お疲れ様だじぇ、マホ!」
麻雀卓の椅子からソファーに移り、しょんぼりとしているマホに優希が声をかける。
「64200持って2位なら十分だって」
ムロも同様に励まそうとするが落ち込んでいるマホは落ち込んだままだ。
お茶は受け取って飲んでいるが。
「あ、あのあの・・・・・・」
そして控え目に和に声をかける。
「・・・・・・和先輩はどう思いましたか? 私の対局・・・・・・」
どうやら憧れの和からの評価を気にしているようだ。
優希が「のどちゃん空気呼んで」と言いたげに見ている中、和は答えた。
「・・・・・・そうですね、正直去年のMVPの衣さんと同卓で原点より+で終わるとは思っていませんでした」
その言葉に落ち込んでいたマホに笑顔が戻った。
が。
「しかしあの少牌が無ければもっと稼げていたのも事実」
「あうぅ・・・・・・」
再び落ち込むマホ。
だが和はそんなマホの頭に手を乗せて言葉を続ける。
「・・・・・・チョンボをしたにもかかわらず2位と言う成績を考えれば素晴らしいことですよ。
3万点以上持っていかれた人もいましたし」
その台詞に遠目に控えていた京太郎がグサッと心にダメージを受けてダウンしていたが、そんなことは気にせず和はマホに笑顔を向ける。
「その成績を見ればこの4ヶ月であなたがどれだけ成長したかが分かります。
頑張りましたね」
「あ、ありがとうございます!」
マホはがばっと頭を下げると涙をぬぐい、笑顔で和と向き合った。
その光景を優希とムロが微笑ましげに見守っていた。
その様子を見ていたまこは休憩がてらとマホの牌譜に目を通し始める。
「次からは生で見れるといいんじゃけど」
「そうね」
久はまこの言葉にクスッと笑いながら、視線を外す。
その視線の先には、一人落ち込んでいるような咲。
(全国の前に気を引き締めておいてほしかったんだけど、シュウにあそこまでやられても落ち込む気配も無く、むしろワクワクしていた風な咲・・・・・・。
・・・・・・っていうか最近なんかちょっとシュウに懐いてるみたいだし)
と、その愚痴は置いておいて。
(多分どんな強敵が現れても同じでしょう。
でも自分と同じ嶺上開花で上がる相手が現れたら?
自分の領域を脅かすものには流石に恐怖を感じるはず。
マホちゃんの模倣も少しは効いたみたいね)
マホを呼んだ甲斐があった、と久は一人笑った。
そして、和の言葉でダメージを受けていた京太郎の元には秀介が向かった。
ポンポンと肩を叩きながら声をかける。
「あの天江衣相手にちゃんと点棒残して来たな、上出来だ」
「・・・・・・でも先輩、俺・・・・・・結局ノー和了でしたし・・・・・・」
やはり落ち込んでいるようだ。
これはマホよりもダメージが大きそうな。
しかし秀介は笑顔で告げる。
「振り込んだのは一回だけだっただろう。
それにな、あの天江衣、南場の親番で君をトバそうと企んでたみたいだぞ」
「マジですか?」
京太郎の言葉に「マジでだ」と返す秀介。
「にもかかわらず君はちゃんと点棒を残して帰って来た。
あの天江衣の企みを阻止したんだよ」
そして改めて京太郎の肩をポンと叩く。
「恰好悪くたっていい、生きて帰って来たんだ。
誰が何と言うと、俺は君を評価する」
「せ、先輩!」
秀介の言葉に涙を流し、その胸に飛び込む京太郎。
秀介はそんな京太郎をガシッと抱きかかえてやった。
「先輩! 俺・・・・・・俺! 頑張りますから!」
「そうだ! 頑張れ! 須賀京太郎!」
男同士の熱い感動がそこにはあった。
もっとも女性陣にそのノリが伝わるわけも無く、暑苦しい男同士の抱擁を遠目に見守っているだけだったが。
そんな京太郎をトバすことができずにいた衣は、純の膝の上で不機嫌そうにしていた。
「おい衣、そんなに落ち込むなって」
「落ち込んでなどいない!」
衣はそう言いながら、純の手からクッキーをサクサクと食べている。
その仕草と言い口調と言いどう見ても不機嫌だ。
透華もやれやれと呆れつつ、なんとか宥めようとしている。
「衣、今回は仕方ありませんわ。
まさか衣の海底を真似する相手がいるなんて思いもしませんでしたもの」
その言葉に純も頷く。
「そうだぜ、あんまり悔しがるなよ」
「く、悔しがってなどいないのだ!
大体あんな場面で少牌をやらかすような相手に負けたりなんかしないのだ!」
「そーだな、ちゃんと勝って帰って来たもんなー」
えらいえらいと頭を撫でまわす純。
「ふゆぅ~~~・・・・・・」
途端に脱力する衣。
同時に不機嫌そうにしていた態度もどこへやら。
「次の試合でがっつり稼げばいいよ」
敵打ちの為に、と意気込む元となった一にまでそう言われてはもう不機嫌でなどいられない。
衣はもう落ち着いていた。
そしていつもの笑顔で言った。
「ありがとう、皆。
次はもっと稼ぐのだ!」
「お疲れ様、深堀さん、吉留さん」
「お疲れ様です」
美穂子と文堂が二人を迎える。
深堀は相変わらずの様子で、そして未春は少しばかり落ち込んだ表情で戻ってきた。
「・・・・・・ごめんなさい、最後にまくられまして・・・・・・」
「1、2フィニッシュが理想だったんですが・・・・・・清澄にやられました」
二人の言葉に美穂子は首を横に振る。
「あれはあちらの読みがこちらを勝っていたというだけの事。
どちらも責任を感じることはありませんよ」
美穂子は笑顔でそう言う。
それに対して1位だった深堀はまだしも4位だった未春はやはり落ち込んだ様子。
勝者もいれば敗者もいる。
それは勝負事では当たり前の事だが、だからと言って割り切れるものではない。
「でも、加治木さんにも染谷さんにも何だかいいように使われてしまって・・・・・・。
もう少しうまく打てたかも、なんて思いが・・・・・・」
そう言う未春を美穂子は優しく抱きしめる。
「あ、キャプテン・・・・・・」
「大丈夫よ、吉留さん。
もしそう思うのなら、まだ試合はあるんだしそこで晴らしましょう?
それがきっと次回以降経験として生きるから」
「・・・・・・はい・・・・・・」
返事をした未春は、目元にわずかに涙は浮かべているもののもう笑顔だった。
風越でまだ試合をしていないのはキャプテンの美穂子と文堂。
二人が「私達も頑張りましょう」と気合いを入れると、風越に再び和気藹々とした雰囲気が戻った。
そこへ、ひょっこりと一人の少女がやってきた。
否、戻ってきた。
「いやー、あっちの試合凄かったですよー! もう大波乱って言うか!
あ、みはるんも試合終わったんだ。
どうだった?」
「華菜ちゃん見てくれてなかったのー!?」
未春の笑顔は一瞬で泣き顔に崩れ去った。
試合を終えたゆみは津山を連れてメンバーの元へ向かっていた。
「失点は1万以内に収まったのか。
天江衣相手によくやったな」
「いえ、あの中学生の女の子がやたらと頑張ってくれたおかげです」
「その隙をついただけだとしても、自分の実力だと誇っていいぞ」
「・・・・・・はい・・・・・・!」
そんな話をしているとメンバーの方から迎えに来てくれた。
「お疲れ様っす、先輩、津山さん」
「ゆみちんもむっきーもお疲れー」
「お、お疲れ様です!お二人とも!」
「ただいま、何とか負けなかった程度で戻って来たぞ」
「う、うむ、ただ今戻りました」
そんな二人に蒲原はワハハと笑いかける。
「何言ってるんだい、どっちも善戦してたじゃないかー」
「そうっすよ! 先輩なんか毎回相手の危険牌抑え込んで上がってたじゃないっすか!
むしろどうやって相手の手を読んでたのか教えて欲しいくらいっす!」
モモもひたすらにゆみを褒め称える。
いや、あれは相手の癖を読んだだけで、と言いかけてゆみは口をつぐんだ。
(そういう観察眼を鍛えるのも先輩の役目か)
フッと笑ってゆみは「注意深く観察していれば癖や打ち筋は見えるもの」と簡単に言って誤魔化した。
ゆみ自身、まだ点棒はたったの+800。
役満を上がった妹尾はまだしも、衣が76900稼いでいることを考えればまだまだ稼ぎ足りない。
次の試合もきつそうだな、と一人呟いた。
「さてさて」
パンパンと手をはたいて蒲原が腰に手を当てる。
「最後はあたしの番だねー」
「頑張って来い、蒲原」
「そりゃもちろん。
みんな頑張ってるし、あたしも頑張らないと。
まだ対戦相手分かんないけど」
ゆみの言葉に笑顔を返す。
彼女も三年生、気を抜いたりしたらどうなるか良く分かっている事だろう。
わざわざアドバイスなどするまでも無いが、それでも応援したいというのは当然の事。
蒲原もそれを分かっているのか。
「真打ち登場!ってくらいの活躍してくるよ」
ビシッと指差して言った。
「・・・・・・真打ち?」
「真打ち・・・・・・」
「真打ちっすか?」
「え、真打ち・・・・・・?」
「わははー、何だその反応は、泣くぞー」
そんな彼らの交流を見つつ、特に知り合いのいない二人組。
「どうだった? 彼らの試合は」
「はい、どちらの試合も勉強になりました、お爺様」
南浦プロとその孫、数絵である。
「うむ、学べることは多いだろう。
そしてそれがお前の将来に繋がるはずだ」
「はい、勉強させて頂きます」
うむ、と頷くと南浦プロはスッと周りのメンバーに手を向ける。
「折角の機会だ、麻雀以外でも交流を持つといい」
そう言われ、戸惑った表情の数絵。
「少し苦手ですけど・・・・・・いってきます」
不安そうながらも笑顔で数絵は南浦プロのそばから離れた。
「さてさて」
「靖子姉さん、ちょっと」
そろそろ次の試合の組み合わせを発表しようか、という靖子に声をかける者がいる。
靖子を姉さんなどと呼ぶのは彼くらいなもの。
「どうした、シュウ。
そろそろ久から私に乗り変えようという気にでもなったのか?」
そんな冗談を言うと秀介はニッと笑った。
「靖子姉さん、あんまりそう言う事言ってるとこのメンツの前で「いつものアレ」やるよ?」
途端に靖子はビクッと飛び跳ねる。
「もしも万が一、天文学的確率で・・・・・・」
「ま、待て! 悪かった!」
慌てて前言を撤回する靖子。
トラウマ同然の嫌な思い出でもあるらしい。
「・・・・・・ったく、冗談の通じない奴め。
そんなに姉の事が嫌いか?」
「靖子姉さんの事は好きだよ。
俺のもただの冗談だし」
そう言って笑いかけると靖子はがっくりと脱力する。
「タチの悪い冗談は好かん」
「奇遇だね、俺もさ」
ああ言えばこう言う。
どうやらこの二人では秀介の方が力関係が上のようだ。
ぐぬぬと睨みながらも一息つき、「で?」と話を続ける。
「何の用だ? シュウ」
「あ、そうそう」
忘れていたとでも言いたげにわざとらしく話を再開する。
「公にしたくない事だったら言わなくてもいいけど。
今回の企画、主催は久じゃなくて靖子姉さん?」
「・・・・・・バレていたか」
誤魔化す気も無いのか、あっさりと白状する靖子。
事情を話していたのは久だけだったが、秀介なら知られてもいいと判断しての事だろうか。
それはそうと、事情を知ってどんな反応を?と秀介の反応を見る靖子。
だが秀介は「ああ、やっぱり」と頷くのみだった。
「それを確認したかっただけなんだ。
一応他の人には言わない方がいいでしょう?」
「・・・・・・まぁ、そうだけど。
私が直々に主催しなかった理由とか聞かないのか?」
理解があるのは嬉しいが構って欲しいとでも言いたげに話題を振ってみる靖子。
が、理解力のある秀介は首を横に振った。
「
「・・・・・・理解があって嬉しいが、私にも説明する楽しさというものがな」
「そう? 別に盛り上がりそうな説明をしてくれてもいいよ。
必死に説明した事を「ああ、そうだと思った」って返してもいいんなら」
「それはやだ」
そう言って苦笑いを浮かべる靖子。
しばらく会っていなかったようだし、こういうやりとりでも楽しいのだろう。
一頻りそんな感じで会話を交わした後、秀介はくるっと背を向ける。
「じゃあ、この辺で。
そろそろ次の組み合わせの発表するでしょ?」
「ああ、そうだな」
もう少し話していたかったが、といいつつ靖子も秀介を見送る。
「ああ、その前に一つ。
なんで私が主催だと思った?」
呼び止めてそう聞くが、秀介は「あれー?」という表情を浮かべて返事をした。
「わざわざ別のプロまで呼んでおいて気づかないと思ってるのはどうかと。
久主催の合宿に押し掛けておいてさらに別のプロまで呼ぶほど図太い性格だとは思ってないよ。
他にもひょっこりやってきておいて試合仕切ったり、参加者の名前全員知ってたり」
「・・・・・・ああ、そう」
おっしゃる通り。
ということは、他にも何人かにバレている可能性もあるという事か。
まぁ、麻雀連盟の方の耳に入らない限りは大丈夫だろうと前向きに考えることにする。
「そうだ、シュウ。
次の試合が終わったら昼食にしようと思っているんだが、一緒にどうだ?」
不意に思いついた提案をしてみる。
姉さんと慕う女性からのお誘い。
だが、秀介は小さく笑った。
「他にお誘いがなければ、是非とも」
そう言って去っていった。
あっそー、昔から可愛がってやってたというのに、いつの間にやら優先順位が低くなってしまったようだ。
いや、それとも昔から変わってないのかな。
「・・・・・・ま、いいや」
それより早く次の組み合わせを発表してしまおう、と靖子は用紙を手に声を上げる。
「では、また次の試合を発表するぞ。
第五試合、清澄-宮永咲、同じく清澄-原村和、風越女子-文堂星夏、平滝-南浦数絵。
第六試合、龍門渕-沢村智紀、鶴賀-蒲原智美、風越女子-福路美穂子、清澄-片岡優希。
以上のメンバーは試合の準備をしてくれ」
今回呼ばれたメンバーは、今までの試合で呼ばれなかったメンバー。
なので試合の準備はできている。
後は誰と戦うかというだけ。
「じゃ、行ってくるぞー、真打ちとして」
蒲原はそう言ってソファーから立ち上がる。
「ああ、行って来い真打ち」
「行ってらっしゃい、真打ち」
「頑張ってくださいっす、真打ち」
「えっと、が、頑張ってね、真打ち・・・?」
仲間達に見送られいつものようにワハハーと笑いながら、しかし心では泣きつつ蒲原は卓に向かう。
「・・・・・・では、行ってまいります。
どこまで稼げるか分かりませんが」
カタカタと打っていたノートパソコンを閉じると立ち上がる智紀。
「行ってらっしゃい、ともきー」
「頑張ってくるのだ智紀!」
「応援してるぞー」
仲間達も快く見送る。
が。
「ともき」
透華がそれを止めた。
「大会の時には・・・・・・」
「はい、大会の時には活躍できませんでしたけど、今回は頑張ってきます」
控え目にぐっと拳を作りながらそう返事をする智紀。
それを見て、少しばかり表情が険しかった透華も笑顔になる。
「応援してますわよ、あなたもやればできる子なんですから。
行ってらっしゃいまし」
こくこくと頷き、智紀は卓に向っていった。
「行きましょう、文堂さん」
「は、はい、キャプテン」
美穂子に連れられて立ち上がる文堂。
だがその表情は浮かばない。
何せ対戦相手は天江衣を倒した清澄の大将咲、
不安にもなろうというもの。
不意に顔を上げると美穂子と目が合った。
「文堂さん」
「は、はい」
「あのメンバーを相手にするのは大変でしょうけど、全く戦えないということは無いはずだわ。
お互い頑張りましょうね」
美穂子は小さく拳を作ってそう言う。
文堂も小さく拳を作って答えた。
「はい、頑張りましょう、キャプテン」
お互いに笑い合い、別れた。
清澄陣営で立ち上がるのは一年トリオ。
咲が二人に手を差し出す。
「行こ、優希ちゃん、原村さん」
「おう! 頑張るじぇ!
のどちゃんは咲ちゃんと一緒に戦えて嬉しそうだじぇ!」
「う、嬉しいなんて・・・・・・そんな・・・・・・」
不意の指摘にビクッと跳ねる和。
そう、別に嬉しいなんてほんのちょっぴりしか思っていない。
「ま、三人共楽しんで来んしゃい」
「はい!」
「もちろんです」
「行ってくるじぇ!」
まこの言葉に三人がそれぞれ返事をする。
「じゃあ、私達も応援に行きましょう」
久の言葉に残りのメンバーも立ち上がる。
と、久が不意に秀介に声をかける。
「で、シュウはどっちの卓に行くの?」
「風越のキャプテンが気になるところ。
さっきの試合の時、俺の手を見ていたようだったし」
こちらも少しでも情報が欲しいと思っての事か。
だが久は何やら不機嫌そうだった。
「ふーん、そう・・・・・・」
昨日内緒で打ったというのを聞いていたせいだろうか。
その様子を見ていた秀介は、ふむと考えると久に向き直る。
「試合の代わりに久を見続けるって言うのはありか?」
「なっ!? なっ!!」
途端に赤い顔で飛び退く久。
その反応に満足したのか秀介は笑いながら卓に向かう。
「冗談だ。
でもそんなに嫌なら宮永さんの応援にでも行くよ」
「・・・・・・宮永さんの応援・・・・・・」
それはそれでまた不機嫌そうな久。
しかしなんだかんだ秀介についていくのであった。
「ではいってきます、お爺様」
南浦プロの元に戻ってきた数絵はそう言って小さく頭を下げる。
「うむ。
まぁ、あまり気負わずに打ってきなさい」
せっかくの合宿なのだし、と南浦プロは言う。
数絵はその言葉に笑って返した。
「「いつだって不安が半分は占める。
残り半分で色々考えて麻雀やるもんだ」。
私はお爺様の言葉、忘れていませんよ」
そう言って卓に向った。
一人残った南浦プロは数絵が残した言葉を噛み締めているようだった。
「・・・・・・いつの間にか私自身の口癖になってしまったようですよ」
誰かに告げるようにそう呟くと、南浦プロは孫娘の活躍を見に卓へと向かうのだった。