咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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18原村和その2 否定と昼食

「わっはっはー、戻って来たぞー」

 

いつもの調子で笑いながら戻ってきた蒲原を、鶴賀のメンバーは心優しくねぎらった。

 

「お、お疲れ様です」

「お疲れ様でしたっす・・・・・・」

「お、お疲れ様・・・・・・?」

 

何やらおどおどしたような不思議な迎え方。

視線も微妙にずらされている。

どうしたー?と蒲原が首を傾げていると、ゆみの口から真相が飛んできた。

 

「お疲れ、3位の真打ち」

「わははー、ゆみちんはおかしなことを言うな。

 この辺に何かぐさっと刺さったぞー」

 

少しだけ眉をひそめながら蒲原は頭を指差した。

 

「東場の清澄の子といい風越のキャプテンさんといい強すぎるんだよ」

「それでもやりようはあっただろう。

 風越のキャプテンが強いのは私も認める。

 だがもう一つ順位を上げるくらいはできたと思うぞ」

 

そう言ってゆみはメモを取っていたらしい牌譜を取り出す。

 

「例えばこの東四局の5巡目。

 チャンタ狙いなのは分かるが本来なら受け入れの広さを考えてカンチャン整理を・・・・・・」

「今しがた戦ってきた部長に対して少し言い方がきついぞー、ゆみちん。

 もう少しこう・・・・・・「最善を尽くしたが惜しかったな」とか労ってほしいなー」

 

わははーと笑いながら文句を返す蒲原。

ゆみはフッと笑って返した。

 

「愛の鞭と呼んでくれ。

 それとこの打ち方で最善と言うのは納得しかねる」

「愛が重いなー」

 

逃げようとしたががしっと捕まえられて座らされる。

そのままゆみの麻雀講座が広げられようとしていた。

 

普段の二人の光景だな、と思いながら津山はフッと笑う。

隣で同じように二人を見ているモモの視線が羨ましそうに見えたのは気のせいだろうと自分に言い聞かせながら。

 

 

 

「とーもーきー!」

「・・・・・・ごめんなさい」

 

龍門渕陣営ではプンスコ怒る透華と頭を下げる智紀。

県大会でも見た光景だ。

 

「最下位とか! 最下位とか!!」

「まぁまぁ、落ち着くのだ透華」

「一応安目で上がらせたり、風越さんを下ろしたり、いいところはあったんだけどねぇ」

「振り込みは全然しなかったけど、東場ではタコスに、南場では風越キャプテンに高いのをツモられまくったからな。

 跳満一回くらいじゃ追いつけないのも無理は無い」

 

衣、一、純がそうフォローするが透華の怒りは収まらない様子。

 

「そうならないように立ち回ってこそ、名門龍門渕のレギュラーではありませんか!」

 

ジタバタと暴れる透華をまぁまぁと落ち着かせる一。

と、そんな透華に不意にティーカップが差し出された。

 

「透華お嬢様」

 

いつの間にやら現れたハギヨシが差し出していた物だった。

 

「これでも飲んで落ち着いてください」

「・・・・・・フンッ!」

 

お皿ごと受け取ると一気に飲み干す透華。

 

普段から好んでいる紅茶の香りが広がる。

感じる甘みは砂糖ではなくハチミツ。

それに反するわずかな酸味はレモン。

そして少量だけ添えられたハーブがアクセント。

おまけに湯気が立ち上る温かさでありながら、怒れる透華が一気飲みできる程度に冷ますという心遣い。

 

総合するとこの一杯の紅茶、超一級品!

 

「・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 

先程までの怒りもどこへやら、飲み干した透華から幸せそうなため息が漏れる。

 

「・・・・・・ありがとうございますわ、ハギヨシ。

 おかげで落ち着きましたわ」

「お褒めに預かり光栄です、透華お嬢様。

 それでは」

 

スッと頭を下げた直後に姿を消すハギヨシ。

 

「・・・・・・相変わらず消えたようにしか見えねぇな」

「ハギヨシですから」

 

何を今更?と首を傾げる透華を、純は納得いかなそうに睨んでいた。

 

「まぁ、ともき。

 先程は少し言い過ぎましたわ。

 しかし名門龍門渕のレギュラーたる者、そう酷い成績ばかりなのは許しませんわよ?」

 

透華は口調を少し優しめにそう告げる。

と。

 

「・・・・・・ごめんなさい、透華さん・・・・・・見捨てないで・・・・・・」

 

ポロポロと涙を流す智紀の姿がそこにあった。

 

「と、ともき!?」

「あ、泣ーかせたー」

 

純が追い打ちをかけると途端におろおろし始める透華。

やがて宥めるようにその肩を抱く。

 

「と、ともき、言い過ぎましたわ、私の方こそごめんなさい。

 つ、次こそ! 次こそ頑張りますわよね!?」

「・・・・・・はい、次こそは・・・・・・」

 

珍しくすんすんと涙を流す智紀とそれを宥める透華。

残った龍門渕メンバーはため息をつきながらその様子を見守っていた。

 

何故なら透華以外のメンバーは、智紀の手に握られた目薬をしっかりと目撃していたからだ。

 

 

 

「2位だったのはよかったけど・・・・・・」

 

落ち込んだ様子で優希がとぼとぼと歩いてくる。

 

「・・・・・・またお姉さんにしてやられたじぇ!」

「・・・・・・お疲れ様、優希」

「お疲れ、優希ちゃん」

 

悔しそうにじたばたする優希を慰めつつ、清澄のメンバーの元に戻ってくる一年生トリオであった。

そこでも「お疲れー」と3人を労う声が飛んでくる。

 

「和が1位で、宮永さんと優希が2位ね。

 幸先いいじゃない、落ち込むこと無いわよ」

 

久がそう言いながら優希の肩をポンと叩く。

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

元気なく返事をする優希。

また県大会の時のように落ち込んでいるのだろうか、と思いきや。

 

「ぐや゙じい゙~~~!!!」

 

むきー!と声を上げた。

驚く一同を尻目に、ふぅとため息をつくと。

 

「・・・・・・まぁ、-2100なら全然マイナスとは言わないじぇ。

 次の試合で一気に巻き返すじぇ!」

 

先程までの落ち込みもどこへやら、元気な口調でそう言った。

成長したのか、それとも思っていたよりもずっと強い子だったのか。

 

「ふふっ、その調子よ」

 

久は頼もしそうにその様子を見守っていた。

 

 

「お疲れ、見事な逆転劇だったね、良く頑張った」

 

パチパチと拍手をしながら和を労うのは秀介だった。

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

しかし和は喜ぶ気配を見せず、むしろどこか気に入らなそうに返事をした。

 

(・・・・・・原村さん、機嫌悪そう?)

 

理由は分からないが、それを察した咲は先程のオーラスに話題を切り替える。

 

「でもびっくりしたよ原村さん、まさか点パネでギリギリ逆転なんて」

「いえ・・・・・・捨て牌選択の自由が無くなるリーチを避ける為に、何とか役を増やしたかったのですが。

 暗槓でドラは乗らずに失敗、挙句に二軒リーチ。

 あのリーチがし辛い状況で逆転するにはあれくらいしか手は無かったのです。

 上手く決まったのは偶然ですし、高めを引ければ逆転できる手が入ったのも偶然ですが」

「でも逆転できたのはきっと諦めなかったからだよ。

 やっぱり原村さんは凄いよ」

「・・・・・・あ、ありがとうございます」

 

照れたようで赤くなりながら俯く和を、咲は笑顔で褒め称えた。

秀介もそんな二人を見守りながらも、少しからかうように口を開いた。

 

「おやおや、「諦めなかったから逆転なんて、そんなオカルトありえません」とか言わないのかい?」

「言いません」

 

和はきっぱりと秀介の言葉を否定した。

 

「何度も言うようにあれは偶然です。

 でも・・・・・・例え偶然でも勝った事を誇らなければ、対戦相手に失礼です」

「それに宮永さんに褒められたのは嬉しいですし、かい?」

「そ! そんな事言っていません!

 い、行きましょう、宮永さん」

「あ、う、うん」

 

秀介の言葉にかーっと赤くなりつつ、和はそそくさと久達の方へ立ち去ろうとする。

と、不意に立ち止まり、秀介に振り返った。

 

「それと志野崎先輩、私はあなたがデジタルだなんて認めませんから」

 

それだけ言って、また立ち去って行った。

さり気なく誘われた咲もどうしようと思いつつそれについていく。

そして秀介はそんな二人をやれやれと見送るのだった。

 

「何じゃ? また後輩からかって怒らせたんかいな?」

「いや、怒ってないと思うけど」

 

ひょっこりやってきたまこに驚く様子も見せず、秀介は平然とそう返した。

まこも和の様子を苦笑いで見送りながら言葉を続ける。

 

「確かに志野崎先輩がデジタルなんてのは、実際にパソコンで打っとるのを見てその後の解説まで聞かんと納得できんがなぁ。

 和にもさっきの解説とか聞かせてやれば納得するんじゃないんか?」

 

そう言われて秀介は首を横に振る。

 

「確かに納得はさせられるだろうネタはあるが、あの状況ではただ喧嘩を売っただけになりうる」

「む? どんなネタじゃ?」

 

興味あり気に聞くと秀介は苦笑いしつつ答えてくれた。

 

 

「オーラス、原村さんのあの手はペンチャンツモでようやく逆転。

 だがあの時風越の文堂さんが{三}を対子にしていた。

 原村さんがそれを感じ取っていたかは知らないが、あの{三}はラス牌だ。

 それをツモらなきゃ逆転できないってことは、基本あの手は逆転を狙う手じゃないってことだ。

 

 オーラス、原村さんの上がり系は

 

 {一二三四五[⑤]⑥⑦中中} {⑧■■⑧} {(ツモ)}

 

 仮に安目ツモだと2翻40符の1300オール、その場合1位逆転は無理でもギリギリ2位は狙える。

 

 そしてさらにあの手、途中で中を鳴けば

 

 {一二三四五[⑤]⑥⑦} {中横中中⑧■■⑧}

 

 この形。

 ここから{一か五}を捨ててノベ単とするのが基本だ。

 この場合三元牌対子2符が無くなる代わりに単騎待ち2符と中明刻4符が加わり、

 

 副底20+{⑧}暗槓16+自摸2+単騎2+{中}明刻4=44

 

 44符は繰り上げで50符、中赤1の2翻と合わせて1600オールで確実に逆転できる。

 

 で、だ。

 

 仮にその形でロン上がりの場合、ツモ符の2が消えるが、42符繰り上げは変わらずに2翻50符となり4800。

 4800の直撃ならリー棒無しと考えても宮永さん、南浦さんどちらから上がっても2位、となる」

 

そんな長々とした説明にまこは思わず首を傾げる。

 

「・・・・・・結局のところそれがどうして喧嘩を売ることになるんじゃ?」

「・・・・・・まぁ、俺の性根が悪いだけだと思ってくれて構わないがね」

 

そう一言挟みつつ、秀介は答えた。

 

「原村さんは2位を狙っていたってことさ、1位逆転じゃなくてな。

 もちろん{中}が鳴ければツモで確実に逆転はできるが、{中}が鳴けない状況での{三}のペンチャンツモ、本人が言っていたように偶然だ。

 

 大体デジタル打ちの人間が聴牌していない状況から暗槓で新ドラ増やそうとか苦しい言い訳にも程がある。

 大方宮永さんの援護でもしようとしたんだろうが、リーチが入ったのは他の二人から。

 どうしようかと思っていたところに自分も丁度良く聴牌、そして都合よく逆転できる高めのツモ、やっぱり偶然だ。

 

 運が良かっただけ。

 

 デジタルってのはそう言うの受け入れ辛いんだ。

 全部計算づくで狙い通りに勝つのが大好きで、偶然の一位よりも計算通りの二位の方が好きな人種だからな。

 かと言って気に入らないからと受け入れずに上がり放棄なんてしたら、原村さんが以前言っていた「手加減する人なんて嫌い」に自分が当てはまってしまう。

 表には出さないだろうが、今頃原村さんは心の内で少しばかりイライラしていることだろうよ。

 でもトップはトップだし、仲のいい宮永さんに褒められたし、まぁ良しとしようと思っているんじゃないか?

 

 

 っていうのをさっきの場面で指摘したら、どうよ?」

 

ビシッと指差しつつまこにそう言う秀介。

まこはぱちくりと瞬きしつつ頷いた。

 

「・・・・・・「1位おめでとう!」と褒めとる咲の前で「和は実は2位を狙っていたのさ」って指摘するってことか。

 そりゃ間違いなく喧嘩売っとる」

「だろう?

 それに比べたら俺がデジタルだと受け入れられない事くらいどうってことないさ」

 

そう言うと喋り疲れたのか、喉を潤すべくリンゴジュースに口を付ける秀介であった。

その様子に感心した様子を見せつつ、しかしまこは小さくため息をついた。

 

「・・・・・・志野崎先輩」

「何だ?」

「・・・・・・以前のわしにもそれくらいの優しさを見せて欲しかったわ」

「後輩思いの先輩に向かって失礼な奴だな」

「どの口でいいおるか」

 

どうやら何か嫌な思い出でもあるらしい。

 

 

 

「「「「お疲れ様です! キャプテン!」」」」

 

一足先に対局を終えた文堂を含めた四人でキャプテン美穂子を迎える風越メンバー。

 

「ありがとう、皆。

 文堂さんもお疲れ様」

「は、はい、ありがとうございます」

 

おしぼりを受け取りながら返事をする美穂子と、挨拶を返す文堂。

そのまま済まなそうな顔で言葉を続ける。

 

「・・・・・・済みません、4位になってしまいました」

「得点は?」

「36200です・・・・・・」

 

文堂の言葉に、美穂子はその頭をポンポンと撫でる。

 

「あの面子相手にそれだけのマイナスで済んだのなら十分よ。

 良く頑張りました、文堂さん」

「あ、ありがとうございます。

 次は必ず勝ちます!」

「その意気よ」

 

文堂の前向きな言葉に美穂子も嬉しそうに笑った。

 

そして、「さて」と振り向いたのは未春の方。

 

「私は総合3位かしら?」

「は、はい」

 

美穂子の言葉に未春は手に持っていた紙を差し出す。

そこには全員の得点と、それを元にした総合順位が書かれていた。

 

「上から順に鶴賀の妹尾さんが82900、龍門渕の天江衣が76900、同じく龍門渕の井上さんが64900。

 なので75700稼いだキャプテンは3位です」

 

その言葉にクスッと笑う美穂子。

 

「良かったわ、キャプテンとしての面目を保てて」

 

それに対し風越メンバーは「何をそんな」「さすがはキャプテンです!」などと褒め称えた。

 

そんなやり取りをしながらも、美穂子はちらっと視線をある人物の得点に向ける。

昨日から気にしている人物、志野崎秀介だ。

 

(彼を相手に2万点のビハインド、とりあえず優位ではあるわね)

 

現在11位の秀介。

ここから上位に入るには次の試合辺りから本気を出していかなければならない。

2回戦か3回戦の試合で戦うことになるのか、それとも決勝で顔を合わせることになるのか。

どちらにしても1回戦のような他人に役満を上がらせるような余裕は無く、全力で取り組んでくれる事だろう。

 

(まぁ、もし彼と決勝で戦う事態になったら、その時にはこの点差はもっと縮まっているのでしょうけどね)

 

いつ戦ってもいいように、自分は自分で空き時間にでも調整をしておくだけだ。

 

(もちろん天江衣や・・・・・・上埜さんにも備えておかなければならないんだけど)

 

 

 

「さて諸君」

 

試合が終わって一息ついたところで靖子が声をかける。

告げるのは各々の麻雀を褒めたり叱ったりすることではない。

 

「昼食の時間だ。

 2時間ほど休憩をとるから、好きにするといい。

 近くで食べてきてもいいし、材料を揃えて作ってもいいし、各自でお金を出すのなら出前を取ってもいいぞ」

 

それじゃ解散、という言葉を合図に一同の思考は麻雀から昼食へと移行した。

 

 

「それじゃ、私はご飯を炊いておにぎりでも作るわ」

 

さっそく美穂子が腕まくりをしながらそう言う。

 

「・・・・・・では私はそれに合わせてお味噌汁でも作りましょう」

「あら、いいわね」

 

深堀の言葉に嬉しそうな美穂子。

そして他のメンバーにも視線を向ける。

 

「皆も手伝ってくれる?」

「もちろんだし!」

「私も何か作ります」

「お手伝いします!」

 

風越メンバーはあっさりと自炊に決まったようだ。

 

 

続いて顔を見合わせているのは清澄メンバー。

 

「そう言えば優希、お前あのタコスはどこで買ってきたんだよ」

 

不意に京太郎がそう聞く。

優希の手にはまだ食べ終わったタコスの袋が握られていた。

それは昨日の夕飯で作った「タコスのようなもの」ではなく、買ってきたもののようだ。

 

「表に偶然にもタコスの屋台を引いた親父がいたのさ!」

「タコスの屋台なんかあるのかよ・・・・・・」

「まだいるかもしれないじぇ!

 たくさん食べて次こそ大量に点を稼ぐじょ!」

 

そう言って優希は京太郎の襟首を掴む。

 

「さぁ! 共に行くぞ京太郎!

 タコス好きの呪われた血族として!」

「だからメキシコに謝れ・・・・・・って引っ張るな!」

 

引っ張られてバランスを崩しながらも仕方なく優希についていく京太郎。

咲と和も顔を見合わせた挙句、それについていくことに決めた。

 

「部長、私達も外に行ってきます」

「タコスが無くても何かしら食べてきますので」

「分かったわ、いってらっしゃい」

 

手を振って久は4人を見送る。

残ったのは久とまこと秀介の3人。

 

「さて、私達はどうする?」

「俺は出前をお願いしようかと思うが」

 

不意に秀介がそう告げた。

 

「出前・・・・・・何を頼むの?」

 

久の言葉に秀介はフッと笑って答える。

 

「麻雀の合間の食事と言ったら寿司だろう」

「どこの代打ちの話じゃ」

 

ビシッとまこが突っ込みを入れた。

 

「お寿司なんて高いじゃない、そんなお金あるの?」

 

久もあきれ顔で聞く。

すると秀介はスッととある人物に視線を向ける。

 

「保護者がいるからお願いしてみようかと」

 

そこには電話で出前をしているらしい靖子がいた。

おそらく・・・・・・いや、間違いなく注文の品はかつ丼だろう。

 

「そう言うわけだ久、行ってくるといい」

「ご自分でどうぞ」

 

秀介の言葉にやれやれと久が返事をする。

だが秀介も引き下がらない。

 

「まぁまぁ、3人でお願いに行けばOKの可能性が上がるかもしれないだろう?」

 

やれやれと2人は秀介に連れられて靖子の元へ向かってみるのだった。

 

 

「ハギヨシ、準備はできていますわね?」

「はい、透華お嬢様」

 

透華の言葉に、近くの部屋のドアを指し示したハギヨシ。

中にはコース料理を思わせるような皿が並んだ豪華昼食が用意されていた。

 

「さぁ、龍門渕一同はこれを食べて精を付け、午後からの試合に全力で挑みますわよ!!」

 

ビシィッと振り返りつつ透華は一同に声をかけた。

 

「咲、ノノカ、一緒にご飯を食べないか?」

「うん、いいよ」

「私達は外にタコスを食べに行くんです。

 一緒に行きますか?」

「もちろん行くのだー!」

 

衣の昼食はタコスのようだ。

 

「タコスかぁ・・・・・・。

 そういやあの時食ったタコスは今までにないほど美味かったなぁ・・・・・・」

 

その様子を見ながら純が呟く。

思い出しているのは県大会の決勝戦で食べた優希のタコスだろう。

あの優希も食べに行こうというくらいだ、今回のタコスも不味いわけがなかろう。

 

「・・・・・・あー、俺もちょっと外で食べてくるわ」

 

ひらひらと手を振って純も去っていった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

「あー、透華? ボク達は一緒に食べるよ?

 ね? ともきー?」

 

立ち尽くしている透華に声をかける一と、その言葉に頷く智紀。

 

「・・・・・・3人とは少し寂しい食事ですわね」

「おー、なんか美味しそうな匂いがするぞー?」

 

そこにひょっこりと現れたメンバー、それは鶴賀一同であった。

 

「フフン、当然ですわ。

 何せうちのハギヨシが丹精込めて作り上げた昼食ですもの」

 

自慢げに話す、と言うか実際に自慢している透華。

 

「美味しそうだなー、私達にも食べさせてくれないか?」

「こら蒲原、それはさすがに図々しいぞ」

 

身を乗り出す蒲原の襟首を掴んで引き戻すのはゆみ。

透華も「何を図々しい」といいたそうな顔だったが、一、智紀と顔を合わせる。

 

「ボクは別にいいよ。

 皆で食べる方が楽しいし」

「・・・・・・私もそう思います」

 

二人は特に反対ではないようだ。

透華も小さくため息をついて鶴賀に向き直る。

 

「いいでしょう。

 龍門渕家の執事ハギヨシお手製の昼食、存分にお召し上がりなさいませ!」

 

ビシッと格好つけた立ち振舞いに、鶴賀のメンバーから「おー」と拍手が沸き起こる。

 

「・・・・・・しかし見たところ5人分しかなさそうですが?」

「ご心配なく」

 

ゆみの言葉にハギヨシがテーブルクロスを振るうと、そこに人数分の食事が並んだ。

 

「こんなこともあろうかとご用意をしておりました。

 お代わりも十分にございます」

「さすがハギヨシですわ!」

 

おーっほっほっと笑う透華を尻目に鶴賀一同は部屋に入ってきた。

 

「・・・・・・そういうわけですので、こっそりつまみ食いをする必要はありませんよ、お嬢さん」

 

その小さな言葉にビクッと反応したのは、いつの間に部屋に入っていたのか、鶴賀所属の黒髪の少女。

 

「・・・・・・わ、私が見えるっすか?」

「ええ、はっきりと」

 

フッと笑うハギヨシと対称的に汗だくになるモモ。

まさか気配を消した自分の行動がバレていっとは!

まだ手を付けていなかったのだけが幸いか。

どうする?逃げる?とパニックになるが、いつの間にか隣にやってきたゆみに声を掛けられる。

 

「ん? モモはそこにするのか? 隣に座ってもいいか?」

「え? あ、う・・・・・・も、もちろんっす」

 

ゆみに促されて二人で席に座り、一息つくモモ。

ハギヨシはそんな様子を見ながらやはり笑った。

 

「どうぞごゆるりとお楽しみくださいませ」

 




「藤田プロ、お寿司おごってくれんか?」
「嫌に決まってるだろう」

「ヤスコ、お寿司おごってよ」
「お前ら、私を財布だとでも思ってるのか?」

「靖子姉さん、しゃぶしゃぶおごってよ」
「何でお前だけ出前でも無理そうな物を頼むんだ!?」
「じゃあ寿司でいいよ」
「まぁそれなr・・・・・・いやダメだろ!」

ちなみに彼らはこの後風越を手伝ってご飯を分けて貰いましたとさ。

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