咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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26福路美穂子その8 癖と本気

東四局0本場 親・透華 ドラ{⑧}

 

この局開始と同時に、美穂子は小さく息を吸うと

 

その右目を開いた。

 

(・・・・・・志野崎秀介さん、あなたには一つ癖がある)

 

昨日池田、未春と共に打った時に見つけたという秀介の癖。

美穂子は今朝のフリー打ちの時、一回戦の試合の時、そしてこの二回戦の試合においてもその癖を確認していた。

 

(中々珍しい癖です。

 あのような癖を持つのは・・・・・・几帳面なところがある人、そしてパズルなどが好きな理系の人。

 それに加えて高い麻雀力。

 おそらくそこから生まれる・・・・・・本人も意識しないような傲慢さ。

 そのわずかな傲慢さがあなたの癖を生み出したものと思われます)

 

そこまで察する秀介の癖。

それは配牌を受け取った時に現れる。

今のように。

 

(志野崎さんは配牌を受け取った時、その全てが揃うまで手元で伏せたまま理牌をしません。

 そして・・・・・・)

 

配牌を受け取り終え、秀介は手牌を起こす。

そしてその直後、美穂子が見抜いた癖が現れた。

 

 

(あなたは受け取った配牌を少し前に出し、そして・・・・・・

 

 

 萬子だけを抜き出して先に整理する。

 

 

 その後残った手牌の筒子、索子、字牌を整理しながら萬子に加える。

 それゆえ、あなたの手牌の萬子が周りには丸わかりになります。

 また萬子が少ない時には萬子を抜き出して整理した後、筒子でも同様の癖を行う。

 

 しかし配牌を受け取った直後というのは通常自分の手牌に意識が向くもの。

 その上手牌整理は手慣れていて速い。

 今までその癖を誰にも指摘されなかったからこそここまで残っているのでしょう)

 

整理を終えた秀介の手牌を見て、美穂子はクスッと笑う。

 

(こちらから見て右端5牌が萬子・・・・・・。

 それだけ分かれば私には十分なアドバンテージになります)

 

後はその癖を利用して、狙い撃ちするだけ。

 

こうした癖が分かるというのは非常に便利なものだ。

 

「リーチですわ!」

 

例えば今透華からリーチが入った。

他のメンバーがリーチをかけて来た時同様、透華の捨て牌、切り出し方、手牌整理の癖からその手をおおよそ見切ることが可能だ。

同じく秀介の索子と字牌の切り出し方から、その手の中に字牌の対子があるのが分かる。

全員の捨て牌から見て秀介の手牌にあるのは{西か發}。

北家の秀介が欲しいのは{發}だろう、と美穂子は今しがた引いてきたそれを捨てる。

 

「ポン」

 

読み通り、秀介から声が上がる。

これで一発が消える。

更に次巡。

 

「チー」

 

津山の捨てた{三を含め、横三四五}と晒す秀介。

手牌にある萬子は{九}が捨てられて残り2牌。

残っているのは晒された{四五より左寄りなので五六か六七}の形だろう。

一方の透華は捨て牌から三色手と推測できる。

更に手牌整理の癖から萬子と索子の面子は完成していて筒子待ちと思われる。

平和、タンヤオ、裏ドラ、赤ドラなどが絡めば跳満まで見えそうだ。

ここで親の透華に跳満をツモられるよりはマシだろうと、美穂子はあっさりと手を崩して{五}を捨てる。

 

「ロン」

 

{六七⑥⑦(ドラ)66} {横三四五發横發發} {(ロン)}

 

「發ドラ1、2000」

「はい」

 

秀介に差し込んで透華の手をあっさりと潰す。

秀介との点差はこの振り込みがあってもまだ3万点近くある。

余り連続で上がられるとまずいが、跳満、倍満手に振り込みでもしなければ危険域には入らない。

そしてそんな手が入れば美穂子はいち早く察知できる。

やはり初っ端の親から満貫を上がれたのは大きかったようだ。

チラッと秀介に視線を送って笑いかけてみる。

秀介も今の上がりは美穂子の意図するところだと察しているようで、ついっと眉を吊上げたのみ。

すぐに視線を外すと手牌を崩して卓に流し込んで行く。

どことなく不機嫌そうに見える。

ならそれはそれで美穂子にとってプラスになることだ。

この流れのまま、一方的に押し切らせてもらおうと美穂子は嬉しそうに笑った。

 

 

 

南一局0本場 親・美穂子 ドラ{⑦}

 

美穂子 76300

 

{七③[⑤]⑧⑨1234899北} {發}

 

索子を伸ばして一通、そこまで行かなくても平和手に伸ばしていきたい。

{北}を切り捨てる。

 

津山 43000

 

{五五九⑧23567(横6)8南中中}

 

こちらも索子に寄せて行こうと{九}を捨てる。

 

秀介 47500

 

{一一二五九③④④26(横9)南西發}

 

不要牌、そのまま捨てる。

 

透華 60200

 

{一七①④⑤⑥⑧2(横⑨)469南南}

 

有効牌と言えるかどうか微妙。

ペンチャンができたし少し遠いが一通の目もあると{一}に手をかけて捨てた。

 

「ポン」

 

同時に秀介から声が上がる。

{一を持って来て西}が捨てられた。

え?と誰もが視線を向ける。

第一打の{一}をポン? チャンタか混一狙い?

同卓の美穂子、透華ですらそう思うのだが、後ろから見ているメンバーには余計に意味不明。

なんせ彼の手はこの形。

 

{二五九③④④26南發} {一一横一}

 

「・・・・・・な、何狙いかな?」

「知らん」

「・・・・・・あんな打ち方あり得ません」

 

咲、まこ、和が首を傾げる。

付き合いが長い久ですら狙いが全く分からない。

まぁ、いつものことだが。

 

そして直後の透華。

 

{七①④(横八)⑤⑥⑧⑨2469南南}

 

少し考えて{9}を捨てる。

更に次巡。

 

{七八①④⑤⑥⑧⑨246(横5)南南}

 

配牌と第一ツモの印象とは違い、手が伸びそうな気配を感じる。

平和手に伸ばしてみようかと透華は{①}を捨てた。

次巡{白}を無駄ヅモしたが、更に次巡。

 

{七八④⑤⑥⑧⑨24(横3)56南南}

 

{⑧⑨}のペンチャンを崩して5巡目。

 

{七八④⑤⑥⑧2345(横4)6南南}

 

あっという間に聴牌。

だが透華はここではまだリーチをかけない。

{南}が場風なので平和がつかないこの手、リーチをかけても精々リーチツモ裏ドラ期待止まり。

せめて平和はつけたい。

それに。

 

(・・・・・・この手、まだ途中ですわ)

 

伸びる気配が感じられる。

それはデジタル思考ではなくそれ以外の第六感のようなもの。

龍門渕透華を龍門渕透華たらしめているのはデジタル思考だけではないのだ。

 

次巡こそ無駄ヅモだったが6巡目。

 

{七八④⑤(横④)⑥234456南南}

 

{④が頭となり、(ドラ)}を手に絡められるようになった。

{南}を捨てる。

そして更に次巡、透華の口元に笑みが浮かぶ。

 

(ようこそ、いらっしゃいまし!)

 

{七八④(横六)④⑤⑥234456南}

 

平和とタンヤオが確定。

リーチツモと裏ドラ次第では跳満まで見える手だ。

遠慮なく千点棒を取り出す。

 

「リーチですわ!」

 

美穂子との点差は16100。

ここで跳満をツモれれば一気に逆転圏内に捕えることができる。

覚悟はよろしくて?と美穂子に視線を送る。

が、美穂子は美穂子で透華の手をおおよそ見抜いている。

先手を取られた以上さっさと手仕舞いをして安牌切りに切り替えた。

そんな中苦労していた津山がようやく一向聴までこぎつける。

 

{五五[五]235(横3)6678白中中}

 

透華に先手リーチをかけられた以上手仕舞いでもいいのだが、{白}は安牌だし危険牌をツモるまでは手を進めて行く。

直後、秀介が{中}をツモ切りした。

 

「ポン」

 

{五五[五]23356678} {中中横中}

 

一発阻止も兼ねて鳴きを入れ、{2を捨てれば4-7}待ちの聴牌だ。

津山は現在43000。

決して少なくは無いがこの面子の中では最下位。

上がれる時に上がるに越したことは無い。

よし、さぁ上がり牌来い!と気を入れる。

 

が。

 

「ツモですわ!」

 

あっさりと透華がツモった。

 

{六七八④④⑤⑥234456} {(ドラツモ)}

 

高めのドラツモだ。

鳴きが入って一発は消えたが文句は無い。

 

「リーヅモタンピンドラ1」

 

裏ドラが一つでも乗れば跳満だ。

さぁ、いらっしゃいまし!と裏ドラを返す。

しかし現れたのは{東}、残念。

 

「・・・・・・裏のらず、2000・4000ですわ」

 

ともかくこの上がりで美穂子72300、透華68200と一気に詰まった。

逆転まで秒読みだ。

 

そんな逆転間近な状況でありながら、美穂子の視線は相変わらず秀介に向いていた。

 

(こっちを向きなさいな!)

 

むきー!と怒る透華。

だがすぐに同様に秀介に視線を向ける。

 

(・・・・・・さっきの親番こそ風越キャプテンに一撃与えられそうでしたが、どうにも全体的に静かすぎる・・・・・・)

 

何か狙っているのか、そもそも勝つ気はあるのか。

未だ沈黙する秀介からは何も感じ取れない。

 

 

 

南二局0本場 親・津山 ドラ{2}

 

配牌を受け取った美穂子はちらっと秀介の手元に目を向ける。

秀介の癖、配牌の並べ方。

そこからおおよその手の形を見切る。

 

秀介のツモ番。

ツモった牌を手牌に収め、切り出したのは{9}。

取り出した位置は端から二番目。

おそらくその外側の一牌は字牌。

 

反対側の端から8牌が萬子なのは確定。

それ以外の牌がどうなっているかは今のところ判断ができない。

 

これだけでも大きなアドバンテージなのは、この試合に限らず今までの美穂子の麻雀人生で十分に分かっている。

あとはそれをどう生かすか。

 

美穂子手牌

 

{一六六(横五)七①[⑤]⑥⑧⑨(ドラ)5東} {中}

 

一先ず{①}を切り出す。

次巡ツモってきた{9}はツモ切り。

さらに次巡。

 

{一五六六七[⑤]⑥⑧(横⑦)(ドラ)5東中}

 

筒子が横に繋がった。

この手、字牌を重ねずに平和手にしていった方がよさそうだ。

字牌整理へと移る。

 

そうして自分の手を進めながらも、秀介の手を観察するのを忘れない。

もちろん他の面子も同様に注意が必要だが、できればこの局辺りでしっかり秀介を狙い打っておきたい。

 

 

福路美穂子は宮永咲や天江衣のような、いわゆる魔物だとか怪物だとか言われるような強さは持っていない。

それでも彼女が風越女子でキャプテンを務められたのは、敵の手の進行を見切るこの「目」で不要牌を狙い打つことができてきたからに他ならない。

 

全国クラスの実力者を何人も見て来た身としては、自分が最強になれるとは思っていない。

 

それでも最強に憧れなかったわけではない。

 

風越のキャプテンとして・・・・・・そして何より福路美穂子個人として。

 

(志野崎秀介さん、あなたを倒させてもらいます)

 

この男はまだ実力を出し切っていないようだが、その内に秘めた力は天江衣にも匹敵する可能性がある。

 

そんな男を倒す。

 

それがこの場にいる風越のメンバーの士気上昇に繋がり、また自分自身の成長にもきっと繋がる。

 

高校での麻雀はもう間もなく終わる。

 

だが麻雀人生はその後もずっと続けて行くつもりだ。

 

その為にこの一戦は、

 

この志野崎秀介という男との一戦はきっと大きな財産になる。

 

そう予感していた。

 

 

そして、8巡目。

 

「リーチ」

 

チャリンと千点棒を出し、秀介がリーチを宣言する。

それと同巡。

 

{五六六七七八[⑤]⑥⑦⑧(横5)(ドラ)5}

 

美穂子にも聴牌が入った。

ちらっと秀介に目を向ける。

 

秀介捨て牌

 

{9發1④[⑤]5⑧} {横四(リーチ)}

 

この捨て牌、そして観察し続けた手の進行から察するにその手は間違いなく萬子の清一色。

さっきの親番同様美穂子を狙ったリーチかと思ったが、今回は切り出し方に不自然なところも無く素直に読んでいいだろう。

ツモ狙いでリーチと裏ドラ合わせて一気に点を稼ぐつもりなのかもしれない。

後ろの面子が顔をしかめているのは待ちが見難い多面張の証拠か。

 

一方こちらはただの平和赤1。

だが下家の津山の手の進行を察するに、おそらく有効牌が入ればすぐにでも自分の待ち{④-⑦}のいずれかが出てくると思われる。

さらに津山、透華の手には秀介同様萬子が多い。

ならば秀介に上がられる可能性も通常より低くなる。

それに加えてあの捨て牌ならわざわざ萬子を切るメンバーでもないだろう。

 

相手の待ちを抑え、自分が上がり続けてリードを広げる。

 

この南二局、そして三局、四局と同様に繰り返せば、さすがの秀介といえどもどうしようもあるまい。

 

このまま逆転されること無くリードを広げ続けて勝利を収めれば、それは勝ちを宣言してもよいのではなかろうか。

 

 

勝たせてもらいますよ、志野崎さん。

 

 

秀介のリーチに対しドラの{2}切り。

誰がどう見ても勝負しているのは明らかだ。

ダマよりも上がった時の点が高くなるリーチを選択する。

 

もし一発で志野崎さんから出たらニッコリと笑いかけてやろう。

 

そんな事を思いながら、美穂子は{2}を捨て牌に横向きに置いた。

 

「リーチです」

 

美穂子はリーチを宣言し、秀介と目を合わせる。

 

(追っかけリーチ、どうしますか?

 と言っても、リーチしている以上どうにもできませんけどね)

 

秀介にはもはやこのまま無抵抗に不要牌を切り続けることしかできまい。

そう考えながら、美穂子は秀介に笑いかけた。

 

それを見て、秀介もフッと笑った。

 

 

 

パタン、と秀介の手牌の端が倒される。

 

 

 

「ロン、だ」

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

萬子の清一じゃない!?

 

ジャラララと秀介の手牌が晒された。

 

 

{五九66四四五②七②七九(ドラ)}

 

 

「・・・・・・?」

 

手牌整理がされていないせいか、津山が一瞬首を傾げる。

それに合わせて秀介もカチャカチャと手牌を並べ直した。

 

 

{四四五五七七九九②②(ドラ)66} {(ドラロン)}

 

 

萬子が多いのは間違いないけれども染まっていない!

{2の単騎はまだしも②と6}の対子もあったなんて!

 

だが、どうして!?

美穂子は必死に思考を回転させる。

 

自分から見て秀介の切り出し方に全く不自然な点は無かった。

その上で萬子の清一と読んで、だからこそ安牌と判断した{(ドラ)}を手放したのだ。

 

にもかかわらず晒された手牌は染まっておらず、しかも並び順がバラバラ。

見れば上下すら整っていない。

先程の局までは手牌を上下綺麗に整えて、さらに手牌は左から数字順に萬筒索(マンピンソー)と並んでいたのに。

何故この局に限ってそれらが全てバラバラなのか。

 

 

つーっと汗が流れた。

 

 

(・・・・・・わ、私を・・・・・・狙い打つ為?)

 

 

その為に昨日の夜打った時も、今日の朝から打った時も、全てわざわざその癖を続けていたというのか?

 

ここで自分相手にその手を晒したということは・・・・・・自分一人を罠にハメる為に?

 

 

そんな事・・・・・・あり得ない、信じられない!

 

 

「リーチ一発七対子ドラドラ」

 

呆然とする美穂子に秀介は手役を告げる。

そして津山に告げた。

 

「裏ドラめくってくれるかい?」

「は、はい・・・・・・」

 

秀介に言われてカチャッと裏ドラを表にする。

 

現れたのは{5}。

 

つまり秀介のこの手。

 

 

「裏裏、16000」

 

 

倍満直撃である。

 

 

がっくりと項垂れる美穂子だけでなく、風越のメンバーは揃って驚愕の表情を浮かべていた。

過去、キャプテンが人に振り込んだことなどあっただろうかと思いを巡らせている。

確かに何度かあっただろう。

だが倍満なんて高い手に振り込んだところなど見たことがない。

振り込まず、自分は手を高めて上がっていく。

その安定した強さが美穂子の強みだったのだから。

 

そのキャプテンが振り込んだ。

相手はキャプテンが警戒していた清澄の男子、志野崎秀介。

 

昨日の夜一度打っただけの池田も未春も、その時には感じられなかった脅威をその身に感じていた。

 

 

 

南三局0本場 親・秀介 ドラ{八}

 

この局、美穂子は秀介の理牌を見てやはり自分がハメられたという事を思い知らされた。

チャチャッとものの数秒で終わる秀介の理牌。

先程までの萬子から順に整理していく癖は見る影もない。

おまけに先程とは立場が逆転、あちらがフッと笑いかけてくる。

きゅっと唇を噛みしめながら自身の理牌を続ける。

 

倍満を振った直後のこの局、美穂子としては悪い空気を断ち切るために安手でも上がっておきたい。

手牌を整理して不要牌を切り出していく。

 

「チー」

 

3巡目、早くも秀介から声が上がる。

津山の{6}をチー。

手が早いのか?

上がっておきたいと思った直後にこの展開、何とか打開したい。

 

しかし次巡、どうにもできない間に秀介はパタッと手を倒した。

 

{三四五六七(ドラ)2444} {横867} {(ツモ)}

 

「ツモ、タンヤオドラ1、1000オール」

 

安い手、だがこの早い巡目での上がり。

間違いなく流れは掴まれている。

 

 

「・・・・・・福路さんって言ったっけ?」

 

点棒を受け取った直後、秀介が声をかけてくる。

 

「・・・・・・はい、そうですけど・・・・・・?」

 

何を言うつもり?と美穂子は秀介と目を合わせる。

 

「過去に誰かにトバされた経験は?」

「・・・・・・ここ3年ほどはありません」

「そうかい」

 

それがどうしたの?と思っていると、秀介は100点棒を2本取り出しチャリッと右端に1本積む。

 

残る一本はピンッと跳ね上げて人差し指と中指で挟んで持ち直す。

 

そしてそれを自分の口元に近づけた。

 

 

「・・・・・・ちょっとトバしてもいいかい?」

 

 

そう言って、100点棒を口に銜える。

 

 

途端。

 

 

「っ!?」

 

ガタッと透華が席から立ち上がる。

 

美穂子も背中にゾッとするものを感じた。

が、息も忘れたかのように秀介と目を合わせたまま動かない。

 

完全に秀介に飲まれたのか。

 

 

と。

 

「ちょっとシュウ!?」

 

見学していた久がその肩を掴んだ。

その表情はいつになく険しい。

だが秀介は、む?と100点棒を銜えたまま振り向き。

 

「どした?」

 

と軽く返事をした。

 

「どうしたじゃないわよ!

 あんたまさかこんな場で・・・・・・!!」

 

こんな場で、とそこで久の言葉は止まってしまった。

何かを口にするのを躊躇うように。

そしてその何かを察したのか、まこが久に近寄っていく。

 

「落ち着きや、部長。

 志野崎先輩もさすがにこんな場で無茶したりはせんじゃろ」

 

のう?とまこが視線を向けると、秀介も久が言い淀んだ何かを察したのか、笑いかけた。

 

「大丈夫だ、久。

 今は楽しく過ごして交流を深める合宿の最中だぞ」

 

そう告げると久はむっと表情を変える。

そこに先程までの険しさは無く、まるでからかわれたのがちょっぴり気に入らなかったりした時のような表情。

 

「・・・・・・ホントにホントでしょうね?」

 

秀介の一言で納得してしまったのか、久はそう言って念押しするだけだ。

久の言葉に秀介は笑いながら返事をする。

 

「ホントにホントだ。

 俺が嘘をついたことがあるか?」

「心当たりしかないわ」

「マジでか、そんな酷い言われ方されるとは中々ショックだ。

 ちょっと気分転換に・・・・・・」

 

そう言って秀介は100点棒をタバコに見立てて、ぷぅと小さく息を吐いた。

 

 

「・・・・・・タバコが吸いてぇな」

 

「高校生でしょ、成人まで待ちなさい」

 

 




キャプテンが手牌読みの達人と聞いて、こう言ういじめ方をしたいと思ったのは俺だけではないはず。
え?それとも俺だけ・・・・・・?

待っていてくれた方々もいらしたようでありがたい。
無双、始まります。

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