咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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03天江衣その1 再会と出会い

そして合同合宿当日。

電車やバスを乗り継いで、会場にようやく到着した清澄高校一同であった。

 

 

「・・・・・・で、志野崎先輩も京ちゃんも着いて来たけど、大丈夫なんですか?」

「問題ない。

 清澄高校麻雀部一同なんだし、「女子」の文字なぞどこにも書かなかったと久は言っている」

「それはそうですけど・・・・・・」

 

咲と秀介がそんなことを言い合いながら久の後ろを歩く。

そのさらに後ろをまこと1年生達が着いて来た。

 

「・・・・・・実際俺達その場で追い払われたりしませんよね?」

 

京太郎が不安そうに言うと久が口を開いた。

 

「大丈夫よ、ちゃんと部屋確保してあるから」

「それならよかったです」

 

ほっと一息つく京太郎。

同時に、先に教えておいてくれればよかったのにと小さく呟く。

 

「それに先輩の麻雀力を皆に披露しないのは、それはそれでもったいないじぇ」

 

優希がそう言ってぴょんと跳ねる。

 

「まぁ、そんなことより皆」

 

ふと、秀介が振り向いて言った。

 

「夏の大会で思い残したことがあったんなら、この機会にちゃんと晴らしておきなよ」

「あのノッポ許さんじぇ!!

 今日は全力で倒してやるじぇ!!」

 

ゴオォ!と燃え上がる優希。

タコスを奪われた上に大きく点差を開けられたのは、やはり悔しかったらしい。

 

「それに、あのお姉さんにもいいように使われてしまったじぇ」

「わしもそうじゃね。

 あの時は素人に押されてしもうたけぇ、今度はそうはいかん」

 

まこも苦笑いしながらそう言う。

皆やはり残した思いがあったようだ。

 

「久達は?」

「私は特に」

「私も思い切り打てましたから」

 

秀介の問いに素っ気なく答える久と和。

 

「・・・・・・となると、雪辱を晴らされる側か。

 気ぃ張って行けよ」

「もちろんよ」

 

久の答えに笑顔になる秀介。

 

「宮永さんは?」

「私は・・・・・・」

 

話を振られた咲は黙ってしまう。

が、しばらくすると顔を上げて笑顔になる。

 

「思い切り楽しんで来たいと思います」

「・・・・・・そうか」

 

フッと笑い、秀介は前を向き直る。

 

 

「さてさて」

 

久も笑顔で会場の敷地に踏み込んだ。

 

「笑壺の会になるかしら」

 

 

 

と。

 

「・・・・・・ん?」

「あ」

 

会場敷地に入ったところで、丁度ワゴンから降りて来た5人の女性陣とばったり出会った。

 

「・・・・・・清澄の」

「ああ、鶴賀高校さん」

 

夏の大会決勝で戦った鶴賀高校の5人であった。

 

「あの時はどうも」

 

ぺこりと頭を下げる久、並びに部員一同。

 

「こちらこそ。

 今日はあの時の雪辱を晴らさせて頂く」

 

先頭に立つゆみは頭を下げながらそういう。

クールに見えるがその内は燃えているのかもしれない。

 

「んん? そっちの男二人は?」

 

と蒲原が秀介と京太郎を見ながらそう言う。

秀介は当然だが、京太郎とも初対面だ。

 

「ああ、男子部員の志野崎とマネージャーの須賀くんだ」

「いや俺も部員っスけど!?」

 

秀介の一言にビシッと突っ込みを入れる京太郎。

秀介はそれを見てはっはっはっと笑う。

 

「男子部員・・・・・・。

 そうか、そういえば女子だけという指定はなかったな」

 

ゆみが招待状を見ながらそう言う。

 

「鶴賀は他の部員さんはどれくらい?」

 

久がそういうとゆみは首を振る。

 

「うちは元々この五人だけです」

「だからまぁ、部内で打つのもメンバーが変わらなくてねー。

 今日はいい機会だしいっぱい打たせてもらいますよ」

 

蒲原もそういう。

その口調は深刻そうな感じではないが、おそらく彼女の人柄によるものだろう。

決して楽観視しているわけではないと思われる。

 

「まぁ、今日はよろしくどうぞ」

「あ、ああ、こちらこそ」

 

秀介が手を差し出すとゆみが答えた。

二人は握手を交わす。

 

「じゃあ、行きましょうか、中に」

「そうですね」

 

そして二人並んで校内に入っていった。

 

「ちょーっと待ちなさい。

 シュウ、あんたなんで部長の私を差し置いて握手してんのかしら?」

「おっと、つい美人に目がくらんでしまって」

「なによ白々しい」

 

久が珍しく頬を膨らませて秀介を引っ張る。

そして代わりにゆみの右側に並んだ。

 

「ごめんなさいね、鶴賀の部長さん」

「・・・・・・うちの部長は・・・・・・」

「あたしだけどね」

 

ゆみがスッと手で指し示した先で頭を掻きながら答える蒲原。

 

「・・・・・・こ、これは失礼を」

「部長間違えるとか失礼にも程があんだろ」

「う、うっさいわね!」

 

ぷー、と笑っている秀介を蹴飛ばそうとして避けられる久であった。

 

と。

 

「・・・・・・? モモ」

 

ゆみの左手に絡みつく手。

他の人には見えていないかもしれないが、それはモモこと東横桃子の手だった。

 

「先輩ダメっすよ。

 そうやすやすと男の人と握手なんてしちゃ」

「・・・・・・ただの挨拶だろう。

 嫉妬してるのか?」

「・・・・・・別にそんなんじゃないっす」

 

そんなことを言いつつも頬を膨らませながらしっかりとゆみの手を握るモモであった。

ゆみはそんなモモを見てフッと笑った。

 

 

 

そして到着した会場前。

そこにはやはり五人の女子生徒が待っていた。

 

「・・・・・・風越女子」

「・・・・・・? あら」

 

久と風越女子部長、福路美穂子の目が合う。

 

「どうも、みなさん」

「ああ、こちらこそ」

 

ぺこりと頭を下げられ、慌てて頭を下げる久、そして他のメンバー。

 

「今日はよろしくお願いしますね」

「・・・・・・こちらこそ」

 

美穂子とゆみも改めて挨拶する。

 

「・・・・・・で、そちらはそんなところで何を?」

 

久がそう聞くと美穂子並びに風越のメンバーは揃って苦笑いになる。

 

「ここからどこへ向えばいいのかが分からなくて」

「人も通らないし案内も無いんだよねー」

 

美穂子と池田華菜が苦笑いでそう言い、揃って落ち込む。

 

えっと、と久が苦笑いし、会場の少し奥を指差しながら告げた。

 

 

「一応入口はあっちだけど・・・・・・そこの奥に事務所があるから聞けばすぐ分かったはずよ?」

 

 

その言葉に、美穂子がガターンと跪いた。

 

「あ、あんなのに気づかなかったなんて・・・・・・」

「キャプテン! 落ち込んじゃダメですよ!」

 

ポロポロと泣き出した美穂子を慰める池田、並びに風越のメンバー。

 

「・・・・・・風越女子にはやっぱり男子いないよなぁ、女子高だし」

「ふぇ? メンバー?」

「そう」

 

ふと秀介と優希が口を開く。

 

「・・・・・・やっぱり男子はお呼びではなかったのでは?」

 

京太郎が不安そうに続ける。

が、優希が明るい顔で言った。

 

「大丈夫だじぇ、お前は犬ってことにすれば」

「ああ、なるほど・・・・・・っんなわけあるか!!」

 

わーっと追いかけっこを始める京太郎と優希であった。

 

 

「こら、騒がないの。

 じゃあ行きましょうか」

 

久が皆を連れて行こうとした途端。

 

「ようやく全員揃いましたわね!」

 

大きな声が聞こえてきた。

 

「・・・・・・どこから?」

「上の方?」

 

くいっと首を上に向ける。

 

先に入っていたのだろう、会場の二階、ベランダの手すりからこちらに向って仁王立ちしている女生徒が見えた。

龍門渕透華である。

 

「お待ちしておりましたわ、皆さん。

 30分近くも私達を待たせるとは大した度胸ですこと」

「透華、危ないよ、降りなよ・・・・・・」

 

その横から国広一がくいくいっと引っ張る。

確かに久の主催となっているので早く来る必要はあったかもしれないが、一応指定の時間までまだ大分あり遅刻してはいない。

 

「なんですの、はじめ。

 まったくいいところでしたのに・・・・・・」

 

ブツブツ言いながらも忠告に従う透華。

 

「フフフフ、では皆さん、さっそく中に・・・・・・」

「さぁ、行こうか」

「そうね」

「ちょ、お待ちなさい!」

 

そんな透華の声を無視して入口の方へと向おうとする秀介とそれについていく久を見て、透華が大声で呼び止める。

 

「今行くから待っていなさい!!」

 

きぃー!と叫びながら姿を消した透華とこちらに頭を下げた後にそれを追いかけて行ったらしい一。

 

「・・・・・・まぁ、待ってあげましょうか」

「・・・・・・そだな」

 

久の一言に頷く秀介であった。

 

「・・・・・・あの・・・・・・」

「ん?」

 

そんな秀介に話しかけてきたのは、風越女子のキャプテン美穂子だ。

 

「なんでしょう?」

「・・・・・・気になっていたんですけど、あなたは?」

「ああ、清澄の男子部員、志野崎秀介と申します」

「いえ、それもそうですけど・・・・・・」

 

少し言い淀んだが、やがて美穂子は()()()開いて正面から秀介を見た。

 

 

「・・・・・・あなた、何者です?」

 

 

「へぇ・・・・・・変わった目を持ってるな」

「・・・!」

 

スッと美穂子は右目を閉じた。

 

「何者、と聞かれてもこうこうこういう者ですとあっさり答えられるものでもないでしょう。

 清澄高校3年、志野崎秀介としか答えられませんね」

「・・・・・・・・・」

「お、お待たせしましたわね! 皆さん!」

 

と、そこに息を荒げながら改めて透華が参上した。

 

「さ、さぁ、先に到着していた私達が案内して差し上げましてよ!?」

「待ってよ透華ぁ~・・・・・・」

 

へとへとになっている一を連れて、透華が歩き出す。

一同は苦笑いしながらそれについていくのだった。

 

 

「・・・・・・にしてもあれだな」

「何?」

 

ふと、秀介が久に話しかける。

 

「風越女子もあのお嬢様の学校もレベルが高いな」(女子の可愛さ的な意味で)

「・・・・・・?

 ええ、そうね、確かに強敵だわ」(麻雀の強さ的な意味で)

 

 

 

とりあえずホールになっている部分で挨拶をしようと全員で集まる。

 

そのホールの奥のソファーでお茶を飲んでいる女生徒と、ソファーにごろんと横になって茶菓子を食べている生徒がいた。

 

「ん? ああ、来たのか」

「・・・・・・出迎えましょう」

 

二人はやって来たメンバーを確認すると立ち上る。

そんな二人に駆け寄る透華。

 

「ちょっと! 純!

 他校の皆さんの前で無様な姿を晒さないでくださいまし!」

「いーじゃん別にぃ」

 

ポリポリとクッキーをかじりながら、透華の叱咤を流したのは井上純。

そして優雅にお茶を飲んでいた寡黙な少女が沢村智紀である。

 

「ま、まぁまぁ、透華。

 とりあえず挨拶しようよ」

「・・・・・・それもそうですわね」

 

一に言われて渋々怒りを納め、一同に向き直る透華。

 

「では清澄の部長さん、挨拶をどうぞ」

「はぁ、どうも」

 

そう言われて久はコホンと軽く咳払いをし、声を上げた。

 

 

「この度は合同合宿にご賛同いただき・・・・・・そしてばっちりお集まりいただきまして、まことにありがとうございます!

 移動の疲れもあることと思いますので、今日は自由行動という事で・・・・・・よろしいでしょうか」

 

「「「異議なーし!!」」」

 

パチパチと拍手と共に賛同の声が上がる。

 

 

 

とりあえず部屋に荷物を置こうと、各校別れて部屋に向かう。

清澄高校女子の部屋の隣が男子の部屋だ。

 

「部屋の大きさは同じですかね?」

「多分な。

 二人しかいないから広く使えるぞ」

 

荷物を置き、ふぅと一息つこうとすると不意に人の気配がした。

む?と秀介が振り向くと。

 

「お飲み物をご用意いたしました」

「おや、すみません」

 

ふとスーツ姿の男がお茶を入れていた。

 

「いや何で普通に受け入れてるんですか先輩!?

 あんた誰っ!?

 ・・・・・・ってあれ?」

 

驚いた京太郎だったが顔を合わせてそれが見知った人物であると思い至る。

 

「あなたとは何度かお会いしましたね。

 そちらの方とは初めまして。

 私、龍門渕透華様にお仕えしております、萩原と申します」

「そうでしたか、清澄高校3年志野崎秀介と申します。

 よろしくお願いします」

 

執事ハギヨシの挨拶に、秀介も向き直って頭を下げる。

 

「執事、ってやつですか。

 初めて見ました」

「それはどうも」

「もしやあなたもこの部屋?」

「いえ、私はちゃんと別に部屋がございます。

 しかし数少ない男同士、挨拶をしておこうと思いまして」

「それはそれは、ご丁寧に」

 

一頻り挨拶を交わすとハギヨシは「それでは、私はそろそろ透華お嬢様の元へ戻ります」と部屋を去って行った。

 

 

ハギヨシが入れてくれたとても美味しいお茶を飲み終えると、秀介は不意に伸びをして立ち上がった。

そして近くの扉を開けると中にある物に目を止める。

 

「ところで須賀君、今何時だい?」

 

唐突な質問に何事?と思いながらも京太郎は携帯で時間を確認する。

 

「3時過ぎってところですね」

「そうか・・・・・・時に須賀君、風呂に入って浴衣に着替えるのは夕食の前派かね? 後派かね?」

「なんですかその派閥・・・・・・」

 

そんな質問に顔をしかめながらも返事をする京太郎。

 

「ん~・・・・・・風呂自体は後ですかね」

「そうか、残念、俺は前派だ。

 というわけで・・・・・・」

 

そういうと秀介はその扉の中から浴衣セットを一式取り出した。

 

「俺は行ってくるよ」

「あ、そうっすか・・・・・・。

 でも別に浴衣に着替えるだけなら俺も・・・・・・」

 

そう言うと、途端に秀介の表情が暗くなった。

 

「・・・・・・な、何すか?」

「・・・・・・君は風呂に入っていない(けが)れた身体で浴衣を着て、浴衣を(けが)し、風呂に入って綺麗になった後で(けが)れた浴衣を着るというのか・・・・・・」

「えぇ~・・・・・・そんな言い方しなくても・・・・・・」

「外道め、風呂から上がった俺に近寄らないでくれよ。

 もう君はこの線から向こうに引きこもっていてくれたまえ」

 

秀介はそう言って指でピーっと線を引く。

 

「ちょ! それって先輩が部屋の八割使うってことっすか!?」

「二割すら温情だ。

 (けが)れた浴衣の人間と触れあったりしたら、浴衣を変えて再び風呂に入らなきゃならん」

「いや、そんな大げさな・・・・・・」

「君のその薄汚れた所業を宮永さんや原村さんやタコスちゃんに言いふらしてやろう」

「分かりましたよ! 俺も一緒に行けばいいんでしょ!?」

 

なんだかんだと言い合った後、二人は並んで大浴場に向かう事になった。

別に一人で風呂に入ってもよかったと思うのだが。

 

 

 

大浴場に向かって部屋から出発した秀介と京太郎の二人は。

 

「むぅ、大浴場の場所が分からん」

「・・・・・・広いっすからね、ここ・・・・・・」

 

迷っていた。

隣の部屋のメンバーに聞いてから出てくればよかったのに。

 

「む」

 

秀介が不意に足を止めた。

 

「何すか?」

 

京太郎がその前を見るとそこには龍門渕の井上純がいた。

 

「丁度いい、聞こう」

 

「失礼」と声をかけると純も「あぁ、さっきの」と挨拶をしてくれた。

 

「大浴場はどこだか分りますか?」

「ん、ちょっと待ってくれ」

 

秀介の言葉に、純は近くの扉を開けると中に声をかけた。

 

「透華ぁー、呼んでるぞ」

「あら」

 

純は透華を呼ぶと秀介の前にグイッと立たせる。

 

「先程の殿方ではありませんか。

 何か御用かしら?」

「大浴場探してるんだって、案内してやってくれ」

「ちょ! 何故私が!? あなたが行けばよろしいではありませんか!」

 

透華が声を荒げる。

すると純は「はぁ・・・」とため息をついた。

 

「なんだぁ、こういう場合粗相が無いように下々のオレらなんかじゃなく、お嬢様自らご案内に行くべきだろう?

 それともうちのお嬢様は他校の生徒のご案内なんて重要なことを自ら出来ないような横着者かよ」

 

へっ、と笑うとわなわなと震える透華が目に入った。

 

「分かりましたわよ! 案内すればよろしいのでしょう!

 こちらですわ! おいでなさい!」

「お? お、おぅ・・・」

 

がー!と怒鳴るような声に思わず怯む秀介。

純はそんな様子を見ながら笑っていた。

 

「扱いやすい奴」

 

秀介もそんなやり取りで二人の間柄を判断したのか、一緒に笑っていた。

 

「ほら! こちらですわよ!」

「ああ、どうも」

 

秀介と京太郎は透華に続いて歩き出した。

 

それを見送った純の元に一がやってくる。

 

「純くん、透華どうかしたの?」

「いや、案内がめんどくさかったんでまかせた」

 

サクサクとクッキーをかじりながら答える純。

一はあきれた表情でそれを見ていた。

 

 

 

「・・・・・・まったく、何で私が・・・・・・ブツブツブツ・・・・・・」

 

文句を言いながらも大人しく秀介達の案内をする透華。

二人は苦笑いしながら透華についていく。

と、通路の角から少女が歩いてくるのが見えた。

 

「トーカ」

「衣」

 

少女と透華が顔を合わせて名前を呼び合う。

 

「どこ行ってましたの?

 もう他校の方々と揃って挨拶までしてしまいましたのに」

「ちょっとお昼寝してた」

「もうお昼はとっくに過ぎてるでしょう」

 

まったく、と頭を抱える透華。

 

「ん? 誰かいるのか?」

 

ひょこっと透華の影の秀介達を覗き込む衣。

 

「ああ、ちょっと大浴場の案内を・・・」

 

透華が説明しようとした刹那。

 

 

 

えもいえぬ圧迫感が襲った。

 

 

 

「!?」

 

この感じは衣が敵を威嚇する時のもの!?

バッと飛びのくと衣と秀介が目を合わせているのが見えた。

 

「??」

 

その様子を京太郎は首を傾げて見ていた。

どうやらその圧迫感に気付いていない模様。

 

 

 

「・・・・・・なんだ、お前・・・・・・」

 

 

口を開いたのは秀介だった。

 

 

「・・・・・・神様でも飲み込んだのか?」

 

 

衣も秀介を威圧しつつ、不思議そうに首を傾げた。

 

 

「・・・・・・そう言うお前こそ、何か憑いているな?」

 

 

「・・・・・・!?」

 

二人の言葉の意味が分からない透華。

だが口を挟むに挟めない。

 

 

「お前も打つのか?」

「ああ、そのつもりだ」

 

衣の言葉に答える秀介。

衣は満足そうに笑った。

 

「衣が直に相手をしてもよいぞ」

 

そう言ってすれ違い、衣は龍門渕の部屋へと向かって行った。

秀介はそれを無言で見送る。

 

 

 

(・・・・・・・・・な・・・・・・なんですの? 今の・・・・・・?)

 

透華は混乱していた。

今の二人は一体・・・・・・。

 

人間なのかさえ疑わしく思えた。

 

いや、衣に関しては元々そう感じざるを得ない雰囲気があった。

 

だがこの男は・・・・・・?

 

あの圧迫感の中、衣と正面から向き合った者は初めて見た。

 

一体この男は・・・・・・?

 

 

クルッと振り向いた秀介はもう笑顔だった。

 

「で、大浴場、案内してもらえますか?」

「・・・・・・え、ええ・・・・・・」

 

透華は未だ動揺が収まらない心臓を押さえつつ歩き出した。

 

 


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