咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
時間が・・・・・・ぐぬぬ。
2回戦
東一局0本場 親・城ヶ崎
今回の城ヶ崎も配牌、ツモが噛み合い、手が高くなっていく。
{二二五八②⑧125西白白中}
こんな感じの配牌でも城ヶ崎の手にかかればあっという間。
{二二二⑦⑧12
実にたったの6巡である。
三暗刻白ツモで満貫聴牌。
「リーチ」
リーチと裏ドラが乗れば跳満、倍満まである手である。
「チー」
当然喰い流す新木。
だが、再び城ヶ崎のツモに上がり牌が。
「ポン」
喰い流す。
それでもまた、上がり牌。
「ポン」
喰い流す。
そしてようやく。
{七七56} {八横八八44横4横④⑤⑥} {
「ツモ、タンヤオのみ
この半荘は同じような展開だった。
城ヶ崎が高い手を張り、新木がそれを苦労して流す。
延々と、延々と繰り返す。
そして
一方新木は局を進める為に多少他人に上がらせてはいるものの、ほとんどの局で上がっている。
新木 34300
城ヶ崎 20800
点差は開いている。
だが、ここまで城ヶ崎は全ての局で聴牌している。
只事ではない。
南場に流れが良くなる南浦なんてまだ可愛いものである。
調子が上がってきている、と言うやつか。
新木が苦笑いを浮かべる中、城ヶ崎が牌を横に倒す。
「リーチ」
{六七八⑤⑥⑧⑧334455}
手を見る、裏ドラを見る。
リーチタンピン一盃口裏1はツモれば跳満、ロンならば満貫である。
13500点差は跳満ツモでひっくり返る。
逆にロン上がりなら自分が振らない限り逆転しない。
ならば、と喰いずらして城ヶ崎の上がりを阻止しつつ左右の二人に手を入れ、上がり牌を吐き出させる。
ロンすればその場で逆転不能、敗北決定、それゆえに城ヶ崎も牌を倒さない。
これでフリテンである。
あとはツモられないようにするだけ。
喰いずらし、また時に立会人に牌を喰わせて上がり牌が城ヶ崎に行かないようにする。
だがそれでも、どれほど喰いずらしても、上がり牌は城ヶ崎の元に向かう。
まいったな、と新木はこぼす。
こんなこと初めてだ。
ジャラッと手牌を倒したのは城ヶ崎。
{六七八⑤⑥⑧⑧334455} {
「リーヅモタンピン一盃口、裏1で跳満。
逆転ですね」
1勝1敗で3回戦突入となった。
「・・・・・・珍しいな、新木さんが逆転されるなんて」
ざわざわと後ろから声が聞こえる。
ククッと笑ってしまう。
アホか、珍しいって。
この能力を手に入れる前から・・・・・・麻雀人生で初めての経験だよ。
新木は煙草を取り出して銜えた。
気合い入れないと負けちまう。
3回戦
それでも、気合いを入れたところで大きくは変わらない。
城ヶ崎は相変わらず何度もリーチを入れるし、新木は凌ぐだけで精いっぱい。
そしてこの3回戦、喰いずらしても上がり牌が寄っていき、回避しきれない中で、大物手が入ってしまう。
「ツモ」
ジャラッと手牌を倒しつつ、城ヶ崎は笑った。
「これ上がって逆転されたら、ギブアップしますよ」
{二二二九九九①①①③③南南} {
「四暗刻、役満です」
結局この局追い上げるも逆転には至らず、城ヶ崎の勝利となる。
これは・・・・・・やるしかないか・・・・・・。
新木は汗をぬぐうついでに髪をかきあげ、新しい煙草を銜えて火をつけながら覚悟を決めた。
億蔵老人との対戦以来使ってこなかった、「死神の力」の全開能力である。
4回戦
東一局0本場 親・新木の上家
「リーチ」
{七八九⑦⑧⑨789東東中中}
相変わらず城ヶ崎に手が入る。
「チー」
相変わらず新木は喰い流す。
が、今回はそれだけではない。
ぐるっと山を見渡せば、彼の上がり牌はまだ山にいくつも残っている。
そして「死神の力」を使うのに何の問題も無い事が確認できたから、次巡新木はパタンと手牌を倒すことができる。
{六七八④④④3456} {横三四五} {
「ツモ、タンヤオドラ1、
あっさりと上がる。
散々上がり牌を流しきれずに上がられておきながら、今回急にこの早上がり。
(山や手牌を見通すだけではない・・・・・・。
俺の必要な牌が、そこにいてくれる)
これが、本来の「死神の力」!
新木がこの力を明確に理解したのはいつだったか。
思い返せばあの億蔵老人を倒して大金を得て、色々なところを時間つぶしに旅していた時だったか。
{七八345白白} {横②③④中横中中} {
「ツモ。
中のみ、500オールの1本付け」
『ねぇ、お兄さん』
ああ、今でも思い出すあの人物。
『私と麻雀しましょう?』
{七八九②③④⑥⑦⑧34南南} {
「ツモ。
平和、700オールの2本付け」
年の割に妙に子供っぽくて人懐っこかった人物。
名前は何と言ったかな。
確か出会ったのは、雪が降り積もっていたあの地だ。
機会があったらまた探しに行こう。
{四六88} {横二三
「ツモ。
タンヤオドラ1、1000オールの3本付け」
機会が訪れれば、だが。
その時にはそうだな・・・・・・。
また麻雀を打とうかな。
{①②③7999} {横西西西發發横發} {
「ツモ。
發チャンタ、1300オールの4本付け」
そして、東三局新木の親で勝負を終わらせるべく、上がり続ける。
{⑧⑧⑧666東} {北北北①①①} {
「ツモ、対々。
八連荘はありですか?」
立会人に確認すると、はっとした表情で頷いた。
「み、認めています」
「そう、それはよかった。
なら八連荘、16000オール」
チャリッと点棒を差し出しながら、城ヶ崎は苦笑いをする。
その額には汗が浮かんでいるのが見えた。
「流れを掴んだかと思ったのですが・・・・・・」
「そう簡単に負けられない立場なもので」
笑って返してやる。
あちらの陣営からも、「城ヶ崎さんがあの流れで連荘されるなんて初めて見た・・・・・・」などと声が聞こえる。
そうかい、と新木はやはり笑う。
こっちがこれだけ追い詰められたのも初めてだよ。
そして、4回戦の勝負はあっさりと終わった。
{一一二二④④4477南白白} {
「ツモ、七対子。
九連荘は16000オール」
「トビです」
「お、同じく・・・・・・」
「私もです・・・・・・」
ジャラッと山を崩す。
「5回戦突入ですね」
新木はフッと笑ってやった。
城ヶ崎はきつそうな表情をしながらも、やはり笑った。
と。
「・・・・・・失礼、ちょっとトイレに」
「あ、はい、休憩中ですのでどうぞ」
新木はスッと席を立つ。
なんだ、この胸の感じ・・・・・・何かがこみ上げてくる・・・・・・。
いや、何か・・・・・・熱い・・・・・・熱い!?
ぐっ! うぐっ!!?
「がはぁっ!?」
洗面所で一人だったのが幸いした。
誰にも見られていない。
その口から血が溢れ出たのを。
「な、に・・・・・・!?」
意識が止まりかける。
だがそんなのは許されない。
とっさに水で洗い流し、口も手もゆすぐ。
だが何故? 何故突然吐血?
体調が悪かったわけでもないし、病気と診断された覚えも無い。
ではなぜ・・・・・・?
「血を吐いて死ぬから」
そう言った女の声が甦る。
確かあれは・・・・・・この力をくれた死神の女。
「は、はは・・・・・・マジ、だったか・・・・・・」
半分夢か何かだったのでは?と思うような出来事だった。
だがこの能力は間違いなくあの時に手に入れたものだ。
そしてこの吐血。
どうやら本当だったようだ、と今更ながら実感する。
まぁ、いいさ。
丁度引退を考えていた頃だ。
こんな能力を持ちながら麻雀を引退とは贅沢かもしれないが、ともかく麻雀から離れてゆっくり休もうと思っていたのだ。
その為に色々と話を付けているところもあるし。
そうだな。
「死ぬにはちょうどいいか・・・・・・ククク・・・・・・」
その前に、今日ここにきている世話になった連中や世話をしている奴らに一言残しておいてやってもいいかもしれない。
新木は部屋に戻ると立会人に告げる。
「すまない、紙とペンを貰えるかな?」
「紙とペン? 構いませんが何故?」
「なぁに」
それを受け取りながら新木は笑った。
「遺書を書く」
ざわっと周囲が騒然とする。
が、すぐに川北が笑う。
「ははははは、新木さん縁起でもねぇっすよ」
「ん、そうだったか」
新木は一緒になって笑いながらさらさらと文章を書いていく。
「なに、もし負けたら顔向けできないからな。
今のうちに何か一言残しておこうと」
「いやいやいや」
「もしもってことがあるからな」
「いやいやいや」
川北は取り合わない。
それに合わせて周囲も「なんだ、タチの悪い冗談か」という空気になっている。
まぁ、それもいいか。
家族を作ったわけでもないし、金は有り余っている。
何か有効活用してもらえるよう信頼できる人間に頼むのもいいだろう。
あ、それから南浦も、プロになるのに資金が必要だったらやってもいい。
あっという間に書き終える。
新木はそれを胸ポケットに仕舞い、ペンを返した。
「すまんな、時間を取らせてしまった」
「いえ、お構いなく。
こちらも気分を入れ替えられましたから」
新木の言葉に城ヶ崎が笑って返す。
先程までのきつそうな表情は無い。
良い勝負になりそうだ。
「では最終戦、5回戦を始めます」
5回戦
親は新木の下家の立会人。
つまりオーラス南四局は新木の親となる。
多少のリードは許す。
だが最後に必ず逆転させてもらうぞ。
新木はフッと笑う。
その笑みの意味を理解しているのか、城ヶ崎はクッと苦笑いを浮かべる。
さぁ、最後の麻雀だ。
東一局0本場 親・新木の下家 ドラ{③}
「リーチ」
城ヶ崎手牌
{
捨牌
{南發1一} {
城ヶ崎のリーチが入る。
相変わらず早い、そして手が高い。
「チー」
対して新木は上家から{横九七八}と鳴いて喰いずらす。
そして2巡後。
「ツモ」
ジャラッと手牌を倒すのは新木。
{⑦⑧⑨99南南中中中} {横九七八} {
「中チャンタ、
まずは先制。
互いに顔を合わせて笑い合う。
東二局0本場 親・城ヶ崎 ドラ{4}
「リーチ」
城ヶ崎 23500
{一二三九九①②③⑦⑧⑨13}
またしても先制は城ヶ崎。
だが決して上がらせない。
「ポン」
リーチ宣言牌の{8}を鳴いて喰いずらし、城ヶ崎のツモを奪い取る。
必要牌をかき集めて、城ヶ崎の上がり牌を散らして、数巡後にはタァンと牌を卓に叩き付けた。
「・・・・・・ツモ」
手牌が晒される。
{四四22266} {横②②②8横88} {
「タンヤオトイトイ、
新木、二局目も制す。
その命をかけて。
新木の下家 22700
城ヶ崎 19900
新木の上家 23200
新木 34200
東三局0本場 親・新木の上家 ドラ{二}
「リーチ」
{
手が衰えることを知らないのか、相変わらず城ヶ崎の先制リーチが入る。
手はやはりドラが絡んで跳満確定。
恐ろしいね、と新木はチーで喰いずらす。
{二三⑤⑥⑦北北白白白} {横八六七} {
「ツモ、白のみ、
東四局0本場 親・新木 {四}
そしていよいよ、巨大な流れが押し寄せる。
「リーチ」
城ヶ崎 18600
{二二二三
城ヶ崎のリーチが入る。
一発ツモに寝ているのは上がり牌の{4}。
裏ドラ表示牌は{一}なので裏3が確定。
今まで同様に喰いずらそうとして新木の手が止まった。
喰いずらした後の城ヶ崎のツモは、手で暗刻になっている{南}。
左右二人の手牌を見るが喰いずらせるのはそれだけ、追加で二人に鳴かせることはできない。
そして嶺上牌にも上がり牌{7}。
更に槓ドラ表示牌が{東}、槓裏{表示牌が一}。
つまり喰いずらしたら城ヶ崎の手はリーヅモ嶺上開花ドラ5裏6という数え役満。
そして今回に限って。
(・・・・・・ああ、運が悪い・・・・・・)
新木には何も出来なかった。
喰いずらせない・・・・・・上がり牌を散らせない・・・・・・。
一発ツモが一番安いとは・・・・・・。
新木は何もせずそのまま安牌を切るしかできない。
「一発ツモ」
当然のように城ヶ崎が手牌を倒す。
「ドラ1、裏・・・・・・3。
跳満です」
城ヶ崎に点棒を渡した瞬間、また胸の奥からこみ上げてくるものがある。
あぁ・・・・・・終わりが近いな。
新木は一人笑った。
新木の下家 19400
城ヶ崎 30600
新木の上家 19700
新木 30300
南一局0本場 親・新木の下家 ドラ{二}
「リーチ」
またしても城ヶ崎のリーチ。
今度はどうあがいても喰いずらせない。
そして誰かに鳴かせることもできない。
またしても何も出来ない。
これが完成した流れと言うものか。
{六七八④④④⑤⑥⑦⑧678} {
「一発ツモ、タンピン三色、跳満」
新木の下家 13400
城ヶ崎 42600
新木の上家 16700
新木 27300
南二局0本場 親・城ヶ崎
ここまで流れの良い城ヶ崎が迎えた親。
しかも点差は15300点。
ここはツモ上がりでもして大きく点数を削らなければならない場面。
だが、ここで新木の下家の残り点数が13400、下手に点数を削ると何かのミスで彼が城ヶ崎に振り込んだらトビで終了してしまう。
無理をしてでもロン上がりを狙っていくしか。
ここで、城ヶ崎からロン上がりできる手が入るかどうか。
「リーチ」
{七八九九九111南南南北北}
城ヶ崎はやはり先制リーチ。
しかし、先程までとは違う。
安いが注文通りの手牌だ。
「ポン」
喰いずらしによる一発阻止。
そして今度はこっちの番。
「ロン」
城ヶ崎の捨てた牌で上がり。
{3334567發發發} {2横22} {
「發混一、
肝心要、城ヶ崎の親を流せた。
新木の下家 13400
城ヶ崎 37700
新木の上家 16700
新木 32200
だが、ここで終わらないのが今の城ヶ崎。
南三局0本場 親・新木の上家
「リーチ」
城ヶ崎、もはや何度目か不明の跳満リーチ、一発かツモで倍満だ。
そして、ここで一大事である。
(下家の手牌・・・・・・次巡に城ヶ崎の上がり牌が溢れる!)
残り点数13400の下家が一発で城ヶ崎に振りこんだらその瞬間終わりである。
彼にその上がり牌を抱え込ませるような有効牌をツモらせる事も出来ない。
(他に、手は無いのか・・・・・・)
「・・・・・・チー」
新木は上家の牌を鳴き、一発を阻止。
そして、自ら上がり牌を切った。
「ロン」
当然容赦なく城ヶ崎は手牌を倒す。
{②②②③④④④⑤⑤⑥⑦⑧⑨} {
「一発もドラも無いですが・・・・・・リーチ清一、跳満」
対戦相手への直撃。
しかも跳満。
あまりにも痛すぎる。
南四局0本場 親・新木
ここで新木のラス親。
ここで先程のように連荘すれば逆転もある。
だが、対戦相手の城ヶ崎は49700。
自分は20200。
そして左右の二人はそれぞれ16700と13400。
城ヶ崎との点差は29500だ。
ツモだけを続けてこの点差を逆転するには、その前に左右の二人、特に下家がトビで終わる可能性が高い。
どうすればいい・・・・・・どうしようもないのか・・・・・・。
山を積み、チャラっと賽を振ったところで、「あっ」と気がつく。
「・・・・・・ははっ・・・・・・」
思わず笑ってしまった。
周囲からも不審な目で見られる。
いかんいかん。
だがしかし、最後の最後に
神様か死神か知らんが、
いかした真似をしてくれるじゃないか。
まぁ、王道と言うか、ありがちと言うか、
しかし実際体験するとこんな気分になるとはね。
新木はツモってきた配牌を伏せたまま並べる。
そして最後にツモってきた牌をその横に伏せたまま置く。
「・・・・・・? どうされましたか?」
城ヶ崎が不審に眺める中、新木は大きく深呼吸をした後に手牌を起こし。
「・・・・・・ツモ・・・・・・」
そのまま倒した。
そして最後に伏せておいた牌をピンッとひっくり返す。
{⑦西西8⑤⑥⑦7⑦④二一6} {三}
「天和だ」
歓声が上がった。
新木 68200
城ヶ崎 33700
上家 700
下家 -2600
「・・・・・・参りました、最後の最後にあなたに運があったとは・・・・・・」
城ヶ崎は悔しそうにそう告げ、手を差し出してくる。
新木はそれに応じて握手をする。
本当に最後の最後だよ。
フッと笑ってやった。
そして、胸元から先程書いた手紙を取り出す。
それを川北の前に差し出した。
「これ、頼む」
「? さっき書いたやつですか?
何書いたんです?」
川北は不審そうに見ながらもそれを受け取った。
そして手紙を受け取ったのを確認すると、新木はフッと笑い、そして。
「がふっ!」
血を吐いて倒れた。
上がらずともどんどん調子が上がり常時満貫手、後半には常時跳満手。
喰いずらしても上がる、しかもその後ずっと継続。
てるてるなんて可愛いものだよ、実際可愛いし。
追記:「彼女」関係の描写ちょっと変更。