咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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評価、アクセス、感想が増える度にいずれこの話を載せなければならないというプレッシャーをズッシリと感じていたものです。
シナリオ考えてるの俺自身なんですけど(
途中から捻りたくなったけど今更どうしようもって段階だったし。
とうとう原作の時間軸に繋がり・・・・・・あ、まだちょっと微妙か。



05志野崎秀介その1 転生と家族

新木が気がついた時、そこはまた真っ暗な空間だった。

 

 

「やっほー、おひさ」

 

 

現れた死神も相変わらず逆様だった。

 

 

「まいったねー、最後に天和上がって死ぬとか歴史に名が残るよ。

 ずいぶん目立つ事やってくれたじゃない」

「・・・・・・ってことは、あれはお前がやったわけじゃないのか」

 

ケラケラと笑う死神は新木の言葉に頷く。

 

「あれはあんたが「死神の力」を使ってやったことさ、意識してなかったみたいだけど」

「・・・・・・そうなのか」

 

いっそ奇跡とか言ってくれたらもっと感動したんだがな、と新木は苦笑いを浮かべる。

 

「で・・・・・・やっぱり俺は死んだのか」

「うん、死んだ。

 今度は間違いなくね」

 

くるっと着地する死神。

というか逆様で登場する意味はあるのか。

 

「しかし色々やらかしたねー。

 元々不敗だったけど、「死神の力」を使って尚更無敵。

 大金ゲットしてニートまっしぐら。

 後輩の面倒見はいいし先輩の呼び出しには応じるし。

 麻雀で無敗ってところ以外は自重してるし。

 っていうか遊びで打った時くらい手を抜いてあげなよ」

「断る。

 無敗は無敗でプライドを持っていたからな」

「あー、そうですか」

 

はいはい、と新木の言葉をあっさりと流す死神。

 

「・・・・・・で、最後に接戦した後、天和上がって遺書を舎弟に渡して血を吐いて死ぬ、っと。

 しかもその最後の試合が唯一牌譜を取った試合。

 あー、こりゃ高値がつくね、牌譜」

「・・・・・・参考になる様な打ち方ができた気がしないんだが」

 

新木がそう言うと死神はやれやれと頭をかく。

 

「別に参考にするだけが牌譜じゃないでしょ。

 それに色々屁理屈こねてても、本当に山を見通せるあんたの打ち方なんて参考になるわけないじゃない」

 

やっぱり、と新木もため息をつく。

 

「おまけにあんた、「それ」だけじゃないし。

 あんな能力まで手に入れるなんて予想外にも程があるよ。

 っていうかそもそも、「あんな能力」が存在を許されているなんてびっくりしたよ」

 

そんな死神の言葉に、今度は新木は首を傾げた。

 

「何を言っているんだ?

 死神の力(あれ)はお前がくれたものだろう?」

「「死神の力」ってのは受け取った人間によって変わるのさ。

 あんたよっぽど変な星の元に生まれてるか、神様とか魔王様とかに愛されてるんじゃないの?

 ま、ホントにそんなのに愛されてたら、あたしなんかが介入する隙間は無かったでしょうけど」

「・・・・・・いや、ホントに何言ってるんだ? お前」

「分かんない?

 まぁ、分かんなきゃ分かんないでいいさ。

 あんたは「当たり」を引いた、くらいの気持ちでいればいいよ」

 

それだけ言って死神は話を元に戻す。

 

「しかしまぁ、それはそれとして。

 10年以上無敗だった男の牌譜だよ?

 例えコピーでも・・・・・・まぁ、ボチボチするでしょう」

「いくらだよ」

「予想付かないもん」

 

お互いにそう言い合ってやれやれと首をすくめる。

 

「っていうかさ、今更だけど別に死ぬ必要は無かったんじゃない?

 無敗じゃなくなるかもだけどさ」

「む・・・・・・」

 

死神にそう言われて、本当に今更ながら新木は考え込む。

だがすぐに結論を出した。

 

「・・・・・・いや、なんて言うかな。

 正直少し疲れていたんだと思う。

 麻雀で喰っていく人生に。

 多少旅行を楽しんだりしてリフレッシュはしてたが。

 

 強い相手と戦うのは楽しい。

 だけど・・・・・・この力を手に入れてから、なんだか燃えなくなった。

 だから逆に、あの城ヶ崎と戦った時は本当に楽しかった。

 あのまま死んでもいいと思ったんだ。

 

 臭い言い方だが、死に場所を探していたってやつかな」

 

「ホントに臭いね。

 それで、心残りは無く死ねたのかしら?」

 

死神のそんな言葉に、新木は記憶を辿る。

というか、そんな間もなくすぐに思い至った。

 

 

『私と麻雀しましょう?』

 

 

「・・・・・・あるな」

「バカじゃないの?」

 

ほっとけ、と新木は笑いながらそっぽを向いた。

 

 

 

さて、そろそろ本題に入ろうか。

 

「それで、この後俺はお前に魂を取られるんだろうが。

 取られたらその後どうなるんだ?」

「ん? ああ。

 取ったら別の所に押し込むよ?」

 

何だそれ・・・・・・と新木が怪しげなものを見る目で死神を見る。

実際怪しいし。

 

「まぁ、本当はね? あたしの栄養にしたりとか、魂取って来れなかった成績の悪い死神に売り渡したりしてもいいんだけど」

 

売り渡すって、金になるのか?

 

「でも色々考えた挙句、そして偉い人と相談した挙句」

 

偉い人って誰だ。

大王とかいるのか?

そんな突っ込みを入れる間もなく、死神は「パンパカパーン」と口でファンファーレを奏でた。

 

「おめでとーございまーす!

 あなたは新たな人生を歩めます!

 つまり、転生できると言うわけです!」

 

パチパチパチと死神は自分で拍手をした。

 

 

新木はそんな死神を無視して一人ジャンケンに勤しんでいた。

 

「・・・・・・・・・・・・はは、楽しいなこれ」

「嘘っ!? そんなのが楽しいの!?

 そして私の話はそんなのよりつまらないの!?

 バカー!!」

 

ブン!と振った大鎌が新木の胴体を直撃した。

 

 

 

「・・・・・・で、転生ってのはなんだ?

 結局俺はこれからどうなるんだ?」

 

新木は死神の鎌の刃に刺さったままぶらーんとしていた。

 

「・・・・・・あんたその状態で苦しくないの?」

「別に、死んでるんだし。

 それより転生について教えてくれ。

 初めての事だから何も分からん」

 

新木の言葉に死神は鎌から新木の胴体を外して床に落とすと、ふーむと考え込む。

 

「転生物の話ならいくらでも読ませて・・・・・・いや、パソコンも携帯も知らないこいつにその概念を教えるところから始めなきゃならなそうだし、それはめんどくさいし・・・・・・」

 

ぶつぶつと考え込んでいる間に新木は起き上がる。

胴体に穴は開いたままだが血は出ないし痛くも無い。

不思議な感覚だ。

やがて死神は新木をビシッと指さし、説明を始めた。

 

「ようするに、あんたは今までの記憶を持ったまま新しく生まれ変わるの」

「一言で済むじゃないか」

 

どんだけ悩んでたんだよ、と言いたげにジト目を向ける新木。

それに対し死神は「文句ある?」と鎌をギラつかせて黙らせる。

黙らされたついでに新木は少し考えてみた。

 

「・・・・・・生まれ変わると言うと・・・・・・またあの麻雀世界を生き抜く人生を送るわけか?」

 

思いついた質問をぶつけてみる。

だが死神はノンノンと指を左右に振った。

 

「あんたが生まれるのは、あんたが育っていた世界よりも未来よ」

「未来?」

「そう、その未来では麻雀人口が増えて、それはもう一般人にも麻雀の大会が中継されるくらいの流行っぷりなのよ!」

 

死神の言葉に、新木はほぅと声を上げる。

 

「何? 嬉しい?」

「ああ、まぁな。

 人生の大部分を捧げた麻雀がそれだけ一般的になってくれれば嬉しいさ」

 

新木は笑顔でそう言う。

その笑顔に今度は死神は「へー」と声を上げた。

 

「あんた、そんな風に笑えるんだね」

「・・・・・・周りに人が集まってくるようになってから大分笑ってたと思うが」

「それとは違う笑いだったよ」

 

そうかね、よく分からんと新木は首を傾げる。

 

「まぁ、いいや。

 じゃあ転生したらまた麻雀人生送りなよ。

 身の回りとか、学校とかにも麻雀できるところあったりするからさ」

「じゃあ子供の頃から麻雀漬けか?」

「そういう人生を送りたきゃね、できるよ」

 

もちろん学業に影響が出ちゃダメだけどね、と死神は笑う。

 

 

「じゃあ、そろそろ行きなさい」

 

ヒュルンと死神が鎌を振ると、真っ黒な空間にドアが現れた。

 

「そのドアを開けると新たな人生の始まりよ」

「・・・・・・分かった」

 

新木はさっさとそのドアに手をかける。

 

「ちょ、本当に行くの? ちょっとはあたしとの別れを惜しんでもいいのよ?」

 

フフンと死神が笑う。

新木はためらわずにドアノブをガチャッと回した。

 

「・・・・・・」

 

いくらか寂しそうな顔をした死神の顔が目に入る。

新木はドアノブを回したまま、しかしドアを開けずに聞いた。

 

「なぁ、俺がいなくなったら、もしかしてお前一人ぼっちなのか?」

 

む、と新木の言葉を意外そうに受け止める死神。

だがあっさりと返事をした。

 

「んにゃ、友達とかいるし。

 さっきも魂を売り渡したりとか言ってたじゃん。

 ちゃんと交流あるよ」

「あっそ、心配して損した」

 

ガチャッとドアを開けた。

 

途端に身体が引き寄せられる。

 

「あは、心配してくれたんだ、ありがとう。

 じゃあ、最後に忠告を一つ」

 

ドアノブを掴む手が滑り、新木はあっという間にドアの向こうに吸いこまれた。

そんな新木に死神は最後の言葉を贈る。

 

 

 

「「死神の力」、使い過ぎるとまた死んじゃうからね。

 注意しなさいよ。

 あ、リンゴジュース飲めば多少軽減されるけど」

 

 

 

ああ、どうやらあれはまだ消えないらしい。

 

そして何故リンゴジュースなんだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

目を覚ましたのは布団の中、起き上がって周囲を探る。

眠っている若い夫婦が左右にいた。

おそらく今の自分の両親。

 

布団から出て部屋を少し探ってみる。

鏡を見つけたので覗き込んでみる。

まぁ、覗き込む前から動きまわる身体の感覚で何となく分かっていたが。

 

身体が縮んでいる。

子供になっちまってるな、と新木は苦笑いする。

 

いや、もう新木ではない。

既に頭の中に新しい人生の知識が流れ込んできている。

そう、自分はもう新木桂ではない。

 

 

俺の名前は。

 

「志野崎・・・・・秀介だ」

 

 

 

それから幼稚園に通い、小学校に通い、ごく普通の人生を進んで行った。

そんな中、あの死神が言っていた事を思い出す。

 

「身の回りとか、学校とかにも麻雀できるところあったりするからさ」

 

それ自体は嬉しいことだと思っていた。

だが、少し度が過ぎているようだ。

 

 

両親が大の麻雀好き。

好き過ぎて小学生の自分に一から麻雀を教えようとしてくる。

知っている事を一から教えられることの何と苦痛な事か。

おまけにこの両親、ただ好きなだけだ。

確率とか牌効率とか、自分の方がよっぽどできる。

かと言ってこんな子供がそれを前面に押し出すわけにもいかない。

下手くそな演技とかただのストレスでしかない。

 

どうしたもんかねぇ、と秀介は頭を抱える毎日を送っている。

 

 

家族は両親と秀介の三人暮らし。

だが、ほとんど家族と言えるほど仲のいいメンバーが他にもいる。

 

一人は隣の家の女の子、いわゆる幼馴染だ。

 

「おはよう、シュウくん」

 

満面の笑みで挨拶してくる隣の家の少女、上埜久。

表向き同い年とはいえ、中身と比較すれば娘か下手したら孫とすら呼べるほど年下の少女だ。

そんな少女にシュウくんと呼ばれることの何と気恥ずかしい事か。

 

まぁ、慕ってくれているのは悪い気はしないし、下手にやめろと言って泣かせるのも気分が悪い。

年齢を重ねれば少女も恥ずかしがって呼び方を変えてくれるだろうと、秀介は気長に待つことにしている。

 

それからもう一人。

よく家に遊びに来る親戚。

 

「よぉ、シュウ、遊びに来たよー」

 

藤田靖子。

麻雀が大好きな高校生のお姉さんである。

 

「シュウ、麻雀を教えてあげよう」

 

靖子姉さんはそう言うなり秀介を抱えて麻雀卓に着き、秀介の両親と共に麻雀を教えようとする。

両親に比べればマシだが、まだまだ実践の振るいをかけ足りない理論。

秀介にとって決して為になる話では無い。

まぁ、自分が今の靖子くらいの年頃に同じような理論が自力で作られていたかと思うとそれは少し考えるところではあるが。

 

口には出さないがそんな風に秀介から辛口評価を受けている靖子だが、彼女は「麻雀のプロを目指す!」と意気込んでいる。

その夢は応援してやりたいが、実際麻雀を生業として来た秀介にしてみてもあれはかなりきつかったものだ。

公式のプロである以上直接大金のやり取りをしたり、血生臭いことは関わりない仕事だが、現代となれば他にも選択肢はたくさんあるだろう。

「麻雀でお金稼いで食っていこうなんて、昭和40年くらいの人間の考えですね、おんぷ」と言ってしまったけど許してやって欲しい。

靖子も秀介の頭を抱えてぐりぐりしただけで許してくれたようだし。

 

 

そんな靖子に秀介が感謝していることが一つある。

「ついでに宿題をする」と持ってきた数学の教科書だ。

元々デジタル打ちで確率計算もやっていた秀介、教科書に乗っている数式を見て驚いたものだ。

 

今の時代にはこんな数式があるのか。

自力で計算していた確率もこれに当てはめればあっという間に出るとは。

未来の教育は素晴らしいな、と。

 

いや、元々麻雀と出会ってから勉学とは離れた生活を送っていただけの身。

前世でもやろうと思えばいくらでも勉強のしようはあっただろうが気が乗らずに避けていたのだ。

それを少しばかり後悔した一瞬だった。

 

 

「シュウ! 麻雀を教えて・・・・・・む?」

 

靖子が秀介を呼びにやってくると、秀介は部屋でひたすらにペンを動かしていた。

 

「何してんの?」

 

どうせ落書きでもしてるのだろうな、と思いつつひょっこり覗いてみる。

 

 

ズラーっと書かれた数式が目に入った。

 

 

「・・・・・・シュウ、これ何?」

 

三向聴から有効牌を引く確率、と言いかけて止まる。

そんな計算を小学生がしていたら大騒ぎだ。

 

「アカデミー主演物理化学賞目指すの」

 

と、自分でもわけのわからない事を言って誤魔化す秀介。

その一言で「なんだ、適当か」と靖子は興味を失ってくれたらしい、ファインプレーである。

 

その後すぐに秀介は靖子に抱きかかえられて麻雀卓に連れて行かれるのだが。

 

 

とにかく適当でいいから打とう!と靖子も両親も自動卓を起動させる。

 

それを見た瞬間の秀介の反応を想像してほしい。

 

 

麻雀で10年以上無敗の男。

彼がいた時代には自動卓なんてものは無かった。

いや、あったにはあったのだがまだまだ普及していなかった頃である。

 

あれだけ長い時間を麻雀に費やしてきた男が自動で山が積まれる麻雀卓を見たのである。

 

思わず牌をどかして卓の蓋を開け、中身を分解しようとしたのも仕方ないことであると思って頂きたい。

 

 

半ば無理やりだが、その自動卓で初めて麻雀を打った秀介。

その時抱いた感想は二つである。

 

一つは洗牌(シーパイ)する手間がかからなくていいなと言う事。

多少の偏りはあるもののしっかりと牌を混ぜてくれるし、山も積んでくれるし、実に便利なものである、という感想。

 

 

そしてもう一つ。

 

(なんだかなぁ・・・・・・)

 

そんな事を考えながら秀介は告げる。

 

「・・・・・・ツモ」

 

ジャラッと手牌を倒すのはまだ6巡目。

 

{(ドラ)四五③④⑤33445西西} {(ツモ)}

 

「いくら?」

 

あっさり点数計算ができるのもよく無かろうと靖子に点数計算を任せる。

 

「平和ツモ三色一盃口ドラ1・・・・・・え、えーと、ははは・・・・・・に、2000点かなー?」

 

ひくついた笑いを浮かべる靖子に、秀介は笑顔で告げた。

 

3000(さん)6000(ろく)、下さいな」

「ぐふっ!!」

 

がくっとうなだれる靖子、そして両親。

 

 

 

(・・・・・・手が出せなかった領域が無くなったなぁ)

 

 

どうやら、自分の能力は以前より強くなっているらしい。

 

 

 




アカデミー主演物理化学賞のイメージ画像お待ちしております(

どこかの誰かが咲の時代は2050年だとかって計算出してたのを見て「ゲェーッ!」と思いました。
30年前だろうが40年前だろうが絶対自動卓普及してるじゃん・・・・・・手積みェ・・・・・・。
パラレルワールドという便利な言葉を武器にして突っ走ります。

それはともかく(既に完全に予想されていた)、神様ではないが「転生」。
この要素が大嫌いだとかアレルギーだとか吐き気を催す邪悪だとか言う方は、ここで引き取るのも自由です。
ただそれでもなお続きが気になるという気持ちがあるのならば、また次話にてお待ちしております。

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