咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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今回のお話はのんびりほんわかが魅力の咲に有るまじき「流血描写」「暴力的な表現」「ギャンブル的な表現」「借金的な表現」で溢れています。
いや、今更かもですけど、ご注意ください。
それと人によっては見たことも聞いたことも無い役が飛び出してくるかもしれません、ご注意ください。



08上埜久その3 迎撃と講座

久は秀介の胸に飛び込み少しだけ泣いた後、「一緒に来て!」と秀介を引っ張って行こうとした。

濡れたままなのはよくないとタオルで頭を拭いてやり、傘を渡して走っていくことにする。

 

「どこに行くんだ?」

 

秀介がそう聞くと久は言い辛そうに、近くの雀荘の名前を上げた。

 

秀介は両親に「問題事かもしれないから頼れる人に連絡しておいて」と告げ、久と共にその雀荘に向かって走った。

 

 

走りながら、久は何度も秀介に言った。

 

「・・・・・・ごめんなさい、シュウ・・・・・・本当は巻き込みたくなかったの・・・・・・でも・・・・・・他に頼れる人がいないの・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

 

秀介はその度に久の頭を撫でてやる。

 

そして道中で、久の話を聞いた。

 

 

 

久の父親は小さな会社を経営しているのだが、最近売上が思わしくなく、再び軌道に乗るまでお金を借りて凌いでいた状態だと言う。

だがそのお金を借りた元が良くなかった。

気づけば説明以上の金利が付けられて借金が膨らみ、おまけに予定よりずっと早い日を期日に指定し、それまでに返せなければ会社を全て乗っ取ると言うのだ。

法的にあり得ないと反論するが、既に身元は割れているし相手は無法者、家や身の回りにどんな危害が及ぶか分からない。

 

そんな中、向こうから出て来た提案が。

 

「・・・・・・麻雀か」

 

秀介は雀荘の前で呟いた。

 

ガチャリ、とドアを開ける。

 

 

 

雀荘真ん中辺り。

いかにもな三人組とそのまた後ろでニヤニヤしている男が一人。

そしてこちらに背を向けている男が一人、彼が久の父親だ。

他に客は誰もいない。

店員らしき姿すら見えない。

完全に彼らのテリトリーというわけか。

 

「・・・・・・急に飛び出したと思ったら、ガキ連れてきてどうしようってんだ」

 

男の一人がそう言う。

秀介はそんな言葉に何の反応も示さず、久の父親の肩を叩いた。

 

「・・・・・・変わりましょう」

 

・・・・・・済まない、と彼は涙を流しながら席を立った。

 

「・・・・・・状況は?」

 

突然の状況に全く動揺を見せない秀介に、男達は笑いながら口を開いた。

 

「今ラストを引いたところだ。

 これからだと・・・・・・5連勝すれば上埜の借金は無かったことになる。

 が、途中一回でも負ければ借金は倍額、上埜の会社も家も、全部俺達のモンになる」

「・・・・・・分かった」

 

秀介は背もたれの無い椅子に座ると、ジャラジャラと自動卓に牌を流し込む。

男達は笑いながらそれを手伝った。

 

「へぇ・・・・・・兄ちゃん、随分落ち着いてるね。

 度胸だけは認めてやるよ」

 

ニヤニヤと笑う男に、秀介は言った。

 

 

「プロが卓について笑うな」

 

 

「・・・・・・てめぇ・・・・・・」

 

男達の表情から笑いが消える。

こんなことを10年以上も続けていた身だ、今更恐怖も何も無い。

それはそうと。

 

「・・・・・・にしても、あれだな」

 

この空気、かつて身を置いていた麻雀勝負(世界)を思い出す。

秀介は点箱から100点棒を取り出し、口に銜えた。

 

「・・・・・・タバコが吸いてぇな」

 

「・・・・・・」

 

親となる男が賽を回した後、懐から煙草を取り出した。

 

「・・・・・・吸うか? 坊主」

 

秀介は首を横に振った。

 

「中学生だからな、成人まで待つよ」

 

 

 

東一局0本場 親・秀介の対面

 

「ポン」

 

カシャッと{白}を晒す秀介。

 

「ノミ手かい? もっと腰をすえて打ちなよ」

 

クックックと笑いながら対面の男が牌を切る。

 

「ポン」

「ん?」

 

続いて晒されたのは{中}。

 

「・・・・・・大三元かい、怖いねぇ」

 

下家の男が牌をツモる。

引いてきたのは{發}だ。

 

「・・・・・・チッ」

 

それを手に抱え、手から{②}を切った。

 

「ロン」

「あ? やっぱり安手かい」

 

やれやれと頭をかきながら秀介の手牌を見る。

 

 

{六六③④發發發} {中横中中白白横白} {(ロン)}

 

 

「大三元だ」

「なっ!?」

 

東一局、あっという間の出来事だった。

 

「32000、トビで終了だな」

 

ジャラッと手を崩す秀介。

 

こ、こいつ・・・・・・。

男達の意識が切り替わった。

自動卓だ、イカサマはあり得ないはず・・・・・・。

 

「・・・・・・おい」

 

男の一人が、後ろで休んでいた男に視線を送る。

そしてその耳元でぼそぼそと何かを囁いた。

 

「分かりやした」

 

男は頷いて秀介の後ろに立つ。

 

「・・・・・・何だ?」

「いきなり役満なんてイカサマの可能性があるからな。

 手を見させてもらうぜ」

 

対面の男はそう言って笑う。

そう言いつつ手の進行を教えてもらうつもりなのだろう。

 

くだらない。

 

「好きにしろ」

 

秀介はあっさりと受け入れた。

 

「だ、ダメよ! こいつらは手を・・・・・・」

 

久が声を上げた瞬間、その近くの台がバチン!と爆ぜた。

男の手には鞭のようなものが握られており、それを振るったらしい。

 

「黙ってな、お嬢ちゃん。

 余計な事言うと次はその肌に叩き込むぜ」

「っ!」

 

とっさに身構えて下がる久。

 

「久、下がってろ。

 だからあんたらも久には手を出すな」

 

秀介はそう言った。

男達はへっへっへと笑う。

 

「ナイト気取りかい、格好いいね兄ちゃん」

 

そしてカラララと賽を回し、新たな親を決めるのだった。

 

 

 

東一局0本場 親・秀介の上家

 

親が決まり、配牌を取っていく一同。

が。

秀介は配牌を受け取るとそれを裏向きのまま揃え、確認することなく伏せたままにしていた。

 

「・・・・・・どういうつもりだい、兄ちゃん」

「これで十分だ」

 

意味の分からない返事に男達は首を傾げたが、まぁいいと手を進めて行く。

そして秀介のツモ番。

引いてきた牌を裏向きのまま手牌に加え、裏向きのままの手牌を一枚抜き出して切るのだった。

 

「てめぇ・・・・・・何やってんだ」

 

男がイラッとした表情でそう言う。

 

「普通に摸打(もうだ)してるだけだが」

「バカ言うな、てめぇ今ツモった牌見て無・・・・・・」

 

そこではっと言葉が止まる。

 

「盲牌か」

 

牌を見ず、指で牌の腹(模様がある方)をなぞるだけでその牌がなんであるかを判別することを盲牌と呼ぶ。

男達の表情が変わる。

今時、しかもこんな中学生が盲牌を身につけているとは。

しかも配牌にまでいつの間に行ったのか。

その驚きは久も同様だ。

今まで秀介が盲牌している所なんか一度も見たことがない。

チッと舌打ちしながら男は牌をツモる。

 

「・・・・・・ま、仮に盲牌失敗してても、上がった時にチョンボになるだけだからいいけどな」

 

タン、と{發}を切る。

 

「ポン」

 

ピクッと男達の身体がわずかに反応する。

表向きにされた牌は間違いなく{發}だ。

 

「ちゃんと盲牌はできているようだな・・・・・・」

「・・・・・・今度は何狙ってんだ、緑一色か?」

 

索子は切れないな、とそれ以降捨て牌から索子が消える。

正確には索子の{23468}、緑一色に必要な牌である。

例え索子でもそれ以外の牌が普通に切られているのは、混一程度なら別に構わないと考えているからだろうか。

本当に緑一色狙いだったのか、秀介はそれ以降手牌を入れ替えることはあるが鳴くことはなかった。

 

「へっ、そんな見え見えの手に振るわけにはいかねぇよ、リーチ!」

 

男が{西}を横向きに捨てる。

 

「・・・・・・カン」

「あ?」

 

秀介はジャラッと手牌の一部を表にする。

{西}が三つ。

 

「嶺上開花は責任払いでいいな?」

「・・・・・・上がれる気でいるのか?」

「・・・・・・いいんだな?」

 

秀介の念押しに男は舌打ちした後に言った。

 

「ダメだ、そんなもん無しだ」

「・・・・・・そうか」

 

秀介は嶺上牌をツモる。

タァンと卓に表向きで晒した。

 

「まぁ、同じこと」

 

 

{東東南南北北北} {西横西西西發横發發} {(ツモ)}

 

 

「ツモ、字一色小四喜、16000・32000」

 

「くっ!」

 

あっという間に二連続勝利だ。

 

男はチッと舌打ちした後、秀介に言った。

 

「・・・・・・そうそう、言い忘れてた。

 この局から追加したルールがあるんだわ」

「・・・・・・何だ」

 

 

途端。

 

 

バチン!と言う音と共に秀介の背中が爆ぜた。

 

「ぐああっ!?」

 

振り向くと男の手には先程の鞭が握られている。

 

「これが新ルールだ」

 

男はニヤッと笑い、告げた。

 

「お前が上がる度に、背中に一発こいつを叩きこむ」

「そ、そんなこと・・・・・・!」

 

久が秀介に駆け寄ろうとするが、鞭を持つ男に止められる。

 

「動くなよ」

 

ヒュルン、と鞭が振るわれる。

痛みは無く、久の頬を撫でるように。

ひっ!と声が漏れる。

 

「おいおい、女は傷つけるんじゃねぇよ」

 

ははは、と男達が笑いながら言う。

 

「・・・・・・久・・・・・・下がってろ・・・・・・」

 

秀介は変わらずそう告げた。

 

「で、でも・・・・・・シュウ・・・・・・!」

「・・・・・・いいよ、どうやらこいつら・・・・・・」

 

ジャラッと山を崩しながら秀介は言った。

 

 

「現存する役満、全部喰らいたいらしいからな」

 

 

「言うじゃねぇか」

 

対面の男はそう言うと、秀介の頭を掴む。

 

「次から、手牌伏せるの禁止だ」

 

ククク、と秀介の口から笑い声が漏れた。

 

「上等だ」

 

 

次の試合、カララララ・・・・・・と賽が振られ、秀介の上家が親となった。

 

 

 

東一局0本場 親・秀介の上家

 

配牌

 

{二三七①③⑦⑧⑧34[5]68} {北}

 

中々悪くない配牌ににやりと笑う。

タンピン手は容易、上手くいけば三色まで伸びる。

特に考えるまでも無い、あっさりと男は{北}を捨てた。

 

ジャラララと手牌が倒れる音がする。

 

「ん? 何だ?」

 

{四二⑥三9三7四北⑥⑥8二}

 

見ると秀介の手牌が晒されていた。

 

「・・・・・・おい、どういうつもりだ?

 チョンボにでもして欲しいのか?」

 

そう言う男達に秀介はフッと笑って見せた。

 

そして理牌をした後に告げる。

 

 

{二二三三四四⑥⑥⑥789北} {(ロン)}

 

 

「ロン。

 人和(レンホー)、役満だ」

 

 

「れ、人和だと!?」

 

鳴きの入らない状態で、子が第一ツモをツモるより先に他家の捨て牌でロン上がりする事を人和(レンホー)と呼ぶ。

地和のロン上がりバージョンだ。

しかしローカル役の一種であり、採用していないところも多い。

仮に採用していても役満ではなく満貫止まりだったりすることもある。

故に。

 

「・・・・・・悪いな、うちじゃ人和は採用してねぇんだ」

「だからそれもただの一盃口だ、よっと」

 

ビュンと鞭が振るわれ、再び秀介の背中を直撃した。

 

「ぎっ!!」

 

秀介の口から声が漏れる。

が、すぐに秀介は不敵に笑った。

 

 

次局、秀介が親となる。

クククと笑った。

 

「・・・・・・オーラスだな」

 

「はぁ? どうした? 怖くて頭フリーズしちまったか?」

 

男は秀介の言葉にニヤッと笑った。

 

 

その言葉の意味を、これから知ることになる。

 

 

 

東二局0本場 親・秀介

 

「ポン」

 

秀介は3巡で{中}を鳴く。

{中}ポン? また大三元か、字一色か。

男達は警戒しつつ手を進める。

が。

 

「・・・・・・ポンだ」

 

続いて{5}を晒す。

{中と5}をポン?

ただの対々か混一か、いずれにしてもこの二牌を使った役満は無いはず。

秀介の後ろの男からのサインも役満ではないと告げている。

 

「どうやら役満は諦めたみてぇだな」

 

男達はもう問題視する必要はなさそうだと手を進めて行く。

が。

秀介がツモってきた牌が手から零れ落ち、コロンと表向きになる。

力が抜けて落としたか、と思いきやそうではない。

 

「・・・・・・ツモ」

 

ジャラッと秀介は手牌を倒す。

 

緑一色は索子の緑のみの牌と{發}を使って構成されている。

条件を満たす牌は{23468發}、6種。

実際作ってみるときれいなものである。

 

それとは逆、赤が混じる{579}と孔雀が描かれている{1}、そして赤色の{中}。

 

6種で構成することができる上に順子を作れる緑一色よりも遥かに難易度が高い、それら5種のみで構成するローカル役満が存在する。

 

 

{1117799} {横555中横中中} {(ツモ)}

 

 

「・・・・・・紅孔雀、役満だ・・・・・・」

 

 

噂に聞いたことがあったのか、男達の動きが止まる。

こんな難易度の高い役を作るとは!

 

しかし、秀介の後ろに立つ男が鞭を振り下ろしながら声を荒げた。

 

「ただの混一対々中で満貫だろうが!!!」

 

バチンッという音と共に血が飛び散る。

 

今度は秀介の口から声は漏れなかった。

 

「連荘・・・・・・とりあえず、一本場だ」

 

 

 

東二局1本場 親・秀介

 

「・・・・・・チー」

 

4巡で{横一二三}と晒す秀介。

そして2巡後。

 

「それもチーだ」

 

{横四五六}と晒す。

 

どう見ても一通狙いだ。

そんな手に振るか、と男達は懸命に手を進めようとするのだが。

 

「ツモ」

 

あっという間に秀介は手牌を倒す。

 

{七八九東東北北} {横一二三横四五六} {(ツモ)}

 

「・・・・・・東北新幹線、役満だ・・・・・・なんてね」

 

ククククと秀介は笑った。

再び鞭が叩きつけられる。

 

「ダブ東混一一通だろうが!!」

 

バチンッ!!

 

ひっ!と久の泣き声が聞こえた気がした。

 

 

 

東二局2本場 親・秀介

 

「・・・・・・ポン」

 

2巡で{八}を鳴く秀介。

しかしそこから時間がかかった10巡目。

 

「・・・・・・カン」

 

{九}を暗槓する。

嶺上牌は手中に収め、別の牌を切る。

聴牌なのかもしれない。

しかし男達もサインで互いの手を通しあって聴牌までこぎ付けた。

 

「兄ちゃん、とうとう上がる気失せたか?」

 

ここで秀介がツモれなければ秀介の下家が対面に差し込んで連荘が終わる。

男たちがニヤニヤ笑いながら秀介を見る。

その顔に、秀介は牌をツモりながら笑いかけてやった。

 

 

「・・・・・・ツモ・・・・・・また役満・・・・・・」

 

 

ジャラララッと手牌が倒される。

 

 

萬子のみで構成され、上がった時の数字の合計が百以上の時のみ成立するローカル役満。

 

 

{四五六六七七七} {九■■九八横八八} {(ツモ)}

 

 

四+五+六+六+七+七+七+八+八+八+八+九+九+九+九=110>100

 

 

「百万石だ」

「た、ただの清一だろうが!!!」

 

ニヤッと笑う秀介の背中に、またしても鞭が振り下ろされる。

 

 

 

東二局3本場 親・秀介

 

「・・・・・・ポン・・・・・・」

 

{發}を鳴く秀介。

さすがに同席する男達も、後ろで鞭を振り下ろす男も、表情が険しくなっている。

 

ここまで上がり続けられていると言うのもあるが、それに加えて背中に鞭を叩きつけられ続けているのだ。

血もだらだらと流れて床を汚し始めたし、痛くないはずが無い、我慢できるはずが無い。

泣きの一つくらい入ってもいいだろうに。

自分達でもそうするかもしれないと言うのに・・・・・・たかが中学生の、目の前の男が・・・・・・!

 

「ポン」

 

今度は{南}だ。

また字一色か、と男達は字牌を抑える。

しかし後ろの男からのサインはそれを否定する。

ならばさっさと上がるに限る、と卓の下でこっそりとすり替えを・・・・・・。

 

「・・・・・・すり替えありのルールなら俺もやるぞ」

「!?」

 

ビクッとする男に笑いかける秀介。

慌てて手を引っ込め、字牌以外を切る。

 

そんな様子を笑って見ながら、秀介は山から一つツモる。

 

直後、それをバシュッと天井向けて投げ上げた。

 

「「「!?」」」

 

一同がそちらに気を向ける中。

 

「・・・・・・ツモ」

 

ジャラララと手牌が倒される。

 

そして最後に、投げ上げられた牌を掴み、卓に叩きつけた。

 

 

筒子の内赤が混じらない青と緑で構成された{②④⑧}と、風牌一種、そして{發}で構成されたローカル役満。

知名度の低さも中々のもの。

 

 

{②②②④④④⑧} {横南南南發發横發} {(ツモ)}

 

 

青ノ洞門(あおのどうもん)・・・・・・役満だ・・・・・・」

 

「は、發混一対々だ!!!」

 

鞭が振り下ろされる。

 

 

その直後、ドサッと何かが秀介の背中にぶつかってきた。

いや、前に回される手の感触から察するに・・・・・・抱きついてきたのか。

そんな事をする心当たりは一人だけ。

 

「・・・・・・久、下がってろって言ったろ」

 

手を伸ばしてポンポンと頭を撫でる。

 

「・・・・・・もう・・・・・・見てられない・・・・・・ごめんなさい・・・・・・巻き込んでごめんなさい・・・・・・」

 

ぐすっと涙を流しながら久は言う。

 

「・・・・・・こ、小娘・・・・・・勝負の途中だぞ! 離れろ!」

「嫌よ!!」

 

鞭を持った男の恫喝を久は正面から跳ね返した。

 

「・・・・・・叩くんなら、このままやりなさいよ・・・・・・!!」

「な、にを・・・・・・!!」

 

ぶるぶると鞭を持つ男の手が震える。

このままじゃ叩きつけられるな、そう思った秀介は。

 

「・・・・・・久・・・・・・」

 

ぐいっと久を引っ張り、そのまま腕に抱えた。

 

「えっ・・・・・・?」

 

突然のお姫様だっこ状態に、驚いて固まる久。

その胸元は秀介の血で染まっている。

まったく涙目で強がって、と秀介は涙をぬぐってやる。

 

「・・・・・・女の子が傷を作っちゃダメだろ・・・・・・貰い手が減るぞ・・・・・・」

 

そう言いながら自動卓の穴に牌を流して行く。

 

「・・・・・・でも・・・・・・シュウが・・・・・・こんな怪我して・・・・・・」

「いいんだ、好きで巻き込まれたんだからな」

 

久に諭すように語りかける秀介。

 

 

「お前が悲しむくらいなら、この程度何でもねぇよ」

 

 

そう言って、賽をカララララと回した。

そして久を起こして立たせる。

 

「・・・・・・久、後ろで見ていてくれ。

 必ず勝つから」

「・・・・・・うん・・・・・・」

 

さて、と久が下がったところで再び笑いかけてやる。

 

「4回役満上がったのに点棒が残ってるとか、しぶといね、皆さん」

 

そして背中に怪我など無いかのように、スムーズに配牌を受け取っていく秀介。

その行為の意味することは一つ。

 

「・・・・・・まだまだ行くぞ、役満講座」

 

 

 

東二局4本場 親・秀介

 

「チー」

 

{横123}と晒す秀介。

 

今度の狙いは何だ? 何を狙ってる?と男達もびくびくしながら手を進めて行く。

こうなると後ろの男の役目も重大だ。

何を狙っているのか瞬時に判断してサインを送らなければならない。

 

しかし知らないローカル役満を並べられては気づかないうちに手を進めさせてしまうかもしれない。

必死に脳味噌をフル回転させて、今の鳴きと手牌から手の進行を読む。

索子の{123}、そこからできるローカル役満は・・・・・・何だ!?

そう考える中、秀介の手の中には索子が集まって行き、そして。

 

「チー」

 

またしても、{横312}と晒した。

{123123}? どんな役満を・・・・・・?

そう思う中、秀介に聴牌が入る。

この形・・・・・・!!

男はとっさにサインを送る。

{⑨}単騎待ち!?

索子{123123と⑨}単騎・・・・・・ただの純チャン!?

そう思いつつ男達は互いにサインを送り、{⑨}のありかを探る。

が、3人揃って手牌に無い、残り3牌は全て山の中だ。

ツモって手を進めて行くがどうしても{⑨}が引けない。

そして。

タァンとツモった牌を裏向きに伏せる秀介。

 

 

「・・・・・・ツモだ・・・・・・」

 

 

パタンと手牌を晒し、最後にツモってきた{⑨}をピンッとひっくり返す。

 

 

{⑨112233} {横312横123} {(ツモ)}

 

 

「・・・・・・一色四順、役満だ・・・・・・」

「た、ただの純チャンだ・・・・・・!」

 

後ろの男はそう声を上げつつも、鞭を振り下ろせずにいた。

 

「さて」

 

ガシャッと手を崩し、秀介は笑いかけた。

 

 

「続けようか」

 

 

 

「・・・・・・止めだ」

 

対面で打っていた男から、そう声が上がった。

 

「・・・・・・止め?」

 

意外そうに言う秀介に、男は席を立ちながら言った。

 

「一色四順、役満で全員トビ。

 そして・・・・・・」

 

男は懐から何かの書類を取り出し、卓上に置く。

 

「次以降の試合も勝てる気がしない。

 下手に熱くなってこっちが金をつぎ込み始める前に手を引かせてもらう」

 

そして「行くぞ」と他の男達に声をかけると、彼は雀荘の入り口に向かい、足を止めた。

 

「・・・・・・誰か来てるな。

 裏から帰ろう」

 

そう行って引き返し、店の奥に消えて行った。

 

 

「・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 

銜えていた100点棒を卓に置き、秀介も席を立った。

 

「ほら、おじさん」

 

秀介は卓の上の書類を久の父親に渡した。

と同時に、久が秀介に抱きついてくる。

 

「シュウ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

 

そして泣きながら。

 

「・・・・・・ありがとう・・・・・・」

 

そう言った。

 

 

ガチャリ、とドアが開く。

 

「・・・・・・やぁ、靖子姉さん」

「・・・・・・無事か、シュウ」

 

険しい表情をしながらも落ち着いた声色の靖子と秀介の両親を始めとし、警察まで来ていた。

まったく、靖子はもうプロなんだから、こう言う事に巻き込まないようにと思っていたのに。

両親が連絡を入れてしまったか、と秀介は苦笑いする。

 

「そ、そうだ、シュウ!

 早く病院に・・・・・・」

 

「・・・・・・そうだな・・・・・・」

 

 

久に手を引かれて歩きだそうとし、ぐらっと身体が揺れる。

 

そして今更ながら思った。

 

あぁ、役満連発はさすがにやりすぎたか、と。

 

 

「・・・・・・ごふっ!」

 

 

秀介の口から大量の血が溢れ出た。

 

 




「プロが卓について笑うな」(キリッ)とか言いつつ本人は笑ってますけど。
まぁ、今プロじゃないしいいんじゃない?(

久の背中にも一発くれてやろうかと思ってました。
それがこのお話の「A story」4話にて、久がお風呂ではなくシャワーで済ませた理由。
そしてアニメの県大会前の合宿で久が他のメンバーと一緒ではなく朝に温泉に入っていた理由、として。
でもさすがに女の子にそれはねぇ。

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