咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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09上埜久その4 死神とヘタレ

「やっふーい、よく来るね、君も。

 死ぬには早いよー」

「死なずに来たこともあったと思うんだが」

 

確か一番最初に会った時、と秀介は返事をする。

 

真っ暗な空間、死神は相変わらず逆様で浮いていた。

 

 

 

「女の子の為に能力を酷使して死ぬ。

 ストーリー的には感動できて、しかし悲しい結末だねぇ」

 

うんうんと一人頷く死神。

 

「・・・・・・で、今度も俺は死んだのか?

 それともまだ一歩手前くらい?」

「・・・・・・うーん、あの時代で少し順応しすぎたのかな、もう少し危機感持ってほしいんだけど」

 

死神は残念そうに秀介を眺める。

 

「そうは言われても何度も来てるとなぁ」

 

秀介も残念そうに死神を眺めてみる。

 

「まぁ・・・・・・残念だけどいいか。

 結論を言うとあんたはまだ生きてるよ。

 今病院のベッドの上だね」

 

怪我に加えて原因不明の吐血だもんね、と付け加える。

それには秀介も納得だ。

 

「今運び込まれて丸三日ってところかな」

「・・・・・・そんなに経ってるのか」

 

能力を貰った時は5分も経っていなさそうだったのに、と秀介はあの時の事を思い返す。

 

「時間の流れは違うからね。

 あの時は緊急だったし、今は少しくらい時間かけても平気そうだし」

 

死神はそう言ってにへらと笑う。

平気そうだし、と言われても丸三日意識を取り戻さないというのは結構危険だと思うのだが。

 

「あぁ、でも・・・・・・」

 

その可能性に思い至ったのか、死神はうーんと考え込む。

と思いきや、別に秀介が危険とか言う可能性を心配したわけではないらしい。

 

「・・・・・・あの子の様子を見てると、さっさと返してあげた方がいいかな?」

「あの子?」

 

誰だ?と考え、やっぱり久しかいないかと思い至る。

 

「あの子、あれから学校にもいかずに付きっ切りだからね」

「付きっ切りって・・・・・・三日後なら個人戦があるだろうに」

 

秀介の言葉に死神はキョトンとする。

そして。

 

「・・・・・・バカダネー」

 

くるっと着地しながらそう言った。

 

「・・・・・・何だその言い方は」

「いやぁ、思わず」

 

そう言った後、ふむと死神は考えながら言葉を続ける。

 

「・・・・・・そう言えば新木桂だった時は女っ気なかったもんね。

 それにしても少し鈍感過ぎない?

 それとも気づかないふりをしているの?」

 

何が?とここでとぼけても、後々この死神からの扱いが酷くなりそうな気がする。

 

「・・・・・・中身はもう60近いんだぞ」

「向こうはそんなの知らないし、もしかしたら普段からそういう空気感じ取った上で慕ってるのかもよ?」

 

慕っている、と言う言葉に秀介は少し戸惑う。

慕っているとはなかなかストレートな表現であり、しかしまだ受け取り方に猶予を残している言葉でもある。

 

もっとストレートに言ってしまえば、好きと言うことだ。

 

「背中にでっかい傷つくって、血を吐くまで戦って、それこそ身を削って助けてくれたわけじゃない。

 助けを求めた相手にそこまでされたら、女として惚れて当然よ。

 むしろ惚れて然るべき。

 これで惚れずにどうするかっ!」

 

一人で盛り上がっていく死神を放置し、改めて考え直す。

 

 

今現在に至るまでの久の反応。

やたらにおせっかいだったり、実力を認めてくれていたり、泣きながら頼ってきたり、自分にも鞭が振り下ろされるかもしれないのに背中を守ったり。

なるほど、確かに慕われている。

 

それから確かに血まみれになりながら借金から解放した。

それに喜び抱きついてくる久。

そして大会そっちのけ、倒れた秀介に付きっ切りで病室にいる。

 

なるほど、第三者視点から見ても「こいつ惚れてるな」と思える行動だ。

これで何も無かったら世界中の男子諸君が涙する事になるだろう。

ここまでしてくれた女が、「やだわー、本当に好きな男相手だったら逆にあんなこと出来ないって」とかケラケラ笑いながら知らない男と腕を組んだりするというのか。

皆のトラウマになることは避けられない。

 

こうしてまとめてみれば間違いなさそうだ、久は秀介に惚れている事だろう。

 

 

しかしその事実を突きつけられても、秀介はどこか納得がいかずにいた。

自分の胸の内の、久への感情がどのようなものか、まだ明確に形になっていないのだ。

 

何せ中身は50オーバー、むしろ60近い。

生まれ変わるまでの年数を加えれば70以上だ。

方や現役女子中学生。

親子どころか孫でも通じる年齢差。

常識的に考えれば犯罪臭がとてつもないことになる。

 

もっとも死んでから生まれ変わるまでの年数を正確に過ごしてきたわけではないし、志野崎秀介になってから大分長い時間を過ごしているし、もはや完全に中学生となじんで生活しているだろう。

いや、多少大人びたところはあると思われているかもしれないが。

それでも普通に友人はいるし、やはり中学生として問題は無かろう。

 

しかし散々裏の世界を知った自分が、今更中学生と恋愛・・・・・・?

 

しばし考えてみる。

 

 

「・・・・・・死神」

 

どれだけ時間をかけたのか、覚悟を決めた秀介は死神に向き直った。

 

 

 

「・・・・・・んでんで、やっぱりそのたくましい腕で抱き寄せられて、ぎゅっと少し苦しいくらいに抱きしめて!

 野性味あふれる男の匂いを胸一杯に吸わされながらくいっと顔を上げられて。

 そしていつになく真剣な表情でクールに言うのよ!

 

 「お前、俺の女になれよ」

 

 そんな事言われたらもうたまんない! ぎゅんぎゅん来ちゃう!

 もうどうにでもして!って叫んでこっちからもぎゅっと抱きしめてやるんだから!」

 

 

 

何だこいつ、と秀介は思わず視線をそらしてしまう。

さっきまで「惚れて然るべき! これで惚れずにどうするかっ!」とか抜かしていたけど、もしやその続きをずっとやっていたのか?

 

一人で?

 

ちらっともう一度振り返ってみる。

死神は自分の鎌にすりすりと身体を寄せながら何やら一人で身悶えていた。

 

・・・・・・こいつ、やっぱりここでずっと一人だったんじゃ?と秀介は頭を抱える。

今みたいに一人妄想に励んで時間を潰していたんじゃあるまいか?

 

ともかくこいつが元に戻ってくれないとどうやって戻ればいいのか分からない。

適当な呪文を唱えたり、帰れー!と念じてみようかと彼はあれこれ試してみた。

 

どれくらい時間が経ったのか、彼はようやく諦めて死神が正気に戻るまで一人ジャンケンに勤しむのであった。

 

 

 

「・・・・・・あれ? まだいたの?」

 

そんな声が聞こえたのは、その前に甲高い声が聞こえた気がしてから5分ほど経っての事だった。

妙に顔がつやつやしていて呼吸が乱れている気がするがそんなことは別にどうでもいいやと、秀介は意識から除外する。

 

「どうやって帰ればいいのか知らん。

 それよりもういいか?

 とっとと戻してほしいんだけど」

 

冷静にそう言うと死神はふーむと少し考えて口を開いた。

 

「・・・・・・ってことは、自分で結論出したのね」

「ああ、出した」

「ならいいわ」

 

あっさりと死神はヒュンと鎌を振るう。

以前のようにドアが現れた。

 

「ここを通れば元に戻れるわ」

「ああ、ありがとう」

 

とドアノブに手をかけようとして、ふと思い出したことがあった。

 

「そういえば・・・・・・志野崎秀介になって間もない頃、確か久をトップにさせる為に画策してた時だ」

「ん? 何いきなり」

 

キョトンとする死神に構わず、秀介は言葉を続ける。

 

「別に能力を酷使していたわけじゃないはずなんだが、確か血を吐いたことがあった。

 あれはどういうことなんだ?」

 

むむむ?と死神は考える。

 

「いつの事? ちょっと探ってみる」

 

ヒュヒュッと鎌を振るうと何やらいくつかの画面が空中に浮かんでいる。

何才の時の出来事だったかと記憶を辿りながら説明をすると、死神もその場面を見つけたのかポンと手を叩いた。

 

「そっか、説明してなかったか」

 

死神はそう言って何でもないような表情で説明を始める。

 

「子供の頃で身体が慣れてないって言うのもあったんだろうけど。

 あんたこの時割と能力酷使してるよ」

 

そうだったのか、と納得しかけたが死神はすぐに言葉を続けた。

 

「それでも本来は精々頭痛が痛くなる程度なんだけど。

 あんた・・・・・・この時「トップじゃなかったから」だよ」

 

頭痛が痛いとか頭の悪い事を言うのはやめて欲しい。

と意識が逸れたが、今何と言ったか。

 

「トップじゃなかったから・・・・・・?」

「そう」

 

ヒュルンと鎌を振るい、見ていた画面を全て消し去る死神。

 

「だって「死神の力」だもん、神のご加護とか便利な物じゃないんだよ。

 使うからには必ず勝つ、それが「死神の力」。

 それを誰か別の人をトップにさせる為に使うとか、余計な代償があって当然だよ」

 

その言葉に少しばかり絶句する秀介。

確かにこいつは天使でもないし神様でもない、死神だ。

もっとも死神は神の一種かもしれないが。

死神と言えば死の象徴、少しばかり便利に使い過ぎたかと考え、別の考えにふと思い至る。

 

「・・・・・・いや、でも普段から割と能力使っておいてトップ譲ってるけど、具合悪くなったりしてないぞ」

 

靖子と勝負する時にも能力を使いつつトップを譲る様な事をしてきたはずだ、たまに。

 

「あんたが完全に勝つ気無かったからでしょ。

 子供の時は加減が効かずに、あんたの意思に関係なく勝つつもりで能力を使ってしまっていた。

 でも結果あの子に勝利を譲った。

 だから、あんたは血を吐いたの」

 

む? 最後だけ飛躍している気がする、と秀介はしばし頭の中を整理する。

 

「・・・・・・つまり、勝つつもりで能力を使って勝てなかった時、俺は血を吐いて倒れるのか?」

「そのとーり」

「それは途中で能力の使用を止めても無意味?」

「そのとーり」

「長時間能力を使って勝ち続けた時も、やっぱり血を吐いて倒れるのか」

「そのとーり、今回もそうだったね」

 

むぅ、と押し黙る秀介。

これは予想外だ。

そんな秀介の様子を見て死神は言葉を続ける。

 

「ああ、あとそれから「死神の力」で一度連荘を始めたら、今回みたいにきっちりその場で終わらせなさいよ?

 途中で誰かに上がられたりしたらそれも余計なダメージになるからね」

「・・・・・・ってことは城ヶ崎以上の、「死神の力」でもどうしようもない奴とか現れたら?」

「んー・・・・・・その時は「死神の力」の使用をそもそも止めなさい。

 勝っても負けても代償が酷そうだし」

 

はぁ、とため息が漏れる。

 

自動卓という環境を得て、能力が強く便利になったのはありがたい。

が、その分死の危険性が高まったというわけか。

子供の頃に散々苦労して学んだ事を改めて認識し直した秀介だった。

 

「・・・・・・勝つ気が無くて使ってる分には平気か?」

「平気は平気。

 だけどあんまりオススメしないね。

 自分でも気付かないうちに熱くなってたりしたらピンチになるかもしれないし」

 

それは避けたい。

仕方ないな、自分で自分に制限でもかけてほどほどに使って行くか、と秀介は自分に言い聞かせた。

 

「・・・・・・そういえばその城ヶ崎だが、あいつも「死神の力」みたいなものを持っていたのか?」

 

不意に思いついた事を聞いてみる。

もっとも城ヶ崎の場合は牌を入れ替えているのではなく、そう言う操作が必要無いほどにそもそもとんでもない強運なようだったが。

 

「あれはあれでどこかの神様の加護を受けてるみたいだったね、詳しくは知らないけど。

 あんたみたいに牌が透けて見えるわけでも牌が操作できるわけでもないけど、ただひたすらに牌に愛された「ただの強運」の持ち主よ。

 あれから生涯満貫より低い点数では上がらなかったし。

 ピークには常時跳満から倍満手で上がるようになってたし、ホント怖いわー」

 

それを「ただの強運」で済ませるのか。

死神の基準というのはいまいちよく分からない。

以前偉い人がいるような話もしていたし、社会構成もよく分からない。

何を食べているのかとかも全くもって分からない。

死神に関しては分からない事だらけだ。

秀介が不満そうにしているのを知ってか知らずか、死神は「まぁ、それはともかくとして」と話を戻す。

 

「能力使うのはいいけど、加減を間違えるとあっさり死んじゃったり、死ななくても今回みたいに私の所に来たりするから、気をつけなさい」

「ああ、分かった、気を付ける」

 

ならよし、と死神はあっさりと頷く。

 

さて、そろそろ戻らなければ。

そう思い、秀介は最後に死神に問いかける。

 

「最後に一つだけ聞きたい。

 城ヶ崎、今どうしてる?」

「何? 最後に戦ったライバル的な相手の事は気になる?」

 

ライバル、という関係だろうか?

良く分からないが最後のあの戦いは新木桂の生涯を締めるのにふさわしい戦いだったと思っている。

そうだな、確かにライバルと言ってもいいかもしれない。

軽く頷き、しかし少し残念そうに秀介は言葉を続けた。

 

「「生涯満貫より低い点数では上がらなかった」って言ってたことから予想つくが・・・・・・」

「ん、そうだね、思わず言っちゃってたわ」

 

死神はその部分だけ反省しつつ、しかし変わらぬ調子で告げた。

 

「彼はもう死んでるよ。

 年代にするとあんたが生まれてから何年かしてから。

 志野崎秀介としてあんたが自分の生を実感していた時にはもう死んだ後」

「・・・・・・そうか」

 

あれほどの大物でも死ぬか、当然のことだが。

正確な年齢は知らないが、おそらく自分と同年代か年下だったであろう城ヶ崎。

新木桂として数えると、現在まで生きてきた彼の年は70才以上。

城ヶ崎はそれと同じくらいか、60後半辺りといったところか。

その10年以上前に死んだとなると、若ければ享年50半ば。

新木桂が死んだのが40過ぎだったからそれより長生きとはいえ、それでもまだまだ長生きしてもおかしくなかった年頃だろう。

もし墓が残っているのなら一度行ってもいいかもしれない。

 

「ん? 何かしんみりしちゃった?」

「・・・・・・そりゃまぁな」

 

顔を合わせたのは一度だけ、だが新木桂の人生であれほど記憶に残っている人物などあと何人いるだろうか。

それだけの人物の死を報告されれば落ち込むのも仕方がない。

死神は秀介の様子を「ふーん」と興味あり気に見ていたが、やがてにこっと笑った。

 

「人はいつか死ぬよ。

 確かに城ヶ崎が死んで、それを悲しむ気持ちも分かるけどね」

 

死神はその名の通り死が身近なのだろうか?

確かにその言い分は分かるが、今しがた聞かされたばかりで落ち込むなというのも無茶な注文だ。

しばらくは一人で城ヶ崎の死を偲ぶ事にしよう。

 

しかしながらあれほどの人物ともう二度と戦えないというのは残念な話だ。

いっそのこと自分みたいに転生していれば・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・あいつも生まれ変わっていたりしていないか?」

「え? いや、それはないよ」

 

あっさりと否定された。

だが死神はくすっと笑いながら言葉を続ける。

 

 

「まぁまぁ、残念がる気持ちは分かるけどさ。

 何ならその子孫と戦えばいいじゃない」

 

 

「・・・・・・今何才だ? 名前は? 性別は? どこにいる?」

 

それを聞いた瞬間に秀介は喰いついた、今までに無いほど。

城ヶ崎の子孫だと?

孫でもいたら年代的に秀介と同世代だったり、何才か上下しているだけの可能性がある。

もし秀介が全国大会にでも出ていたらあっさり対戦していたという可能性もあるではないか。

あの男の孫だ、あれに似た打ち方を身につけていてもおかしくは無い。

 

あんな実力者と、再び戦える可能性があるだと!?

 

そんな風に盛り上がる秀介を制しつつ死神は答えた。

 

「個人情報保護により、それらはお教えできません」

 

死神が個人情報?

破ったらどこかから怒られたりするのか?

以前言っていた偉い人?

っていうか情報が漏れて何か不利益な事が?

 

「でもあんたの事だから、仮に打つ機会があったらすぐに分かるんじゃない?」

 

その言葉に、つっこみをし続けていた秀介の思考が暫し止まる。

そしてすぐに頷いた。

確かにそうだ。

あれほどの強力な打ち手、一度打てばすぐに察する事だろう。

 

・・・・・・そうか、あの打ち手ともう一度戦えるかもしれないのか。

 

一つ、楽しみが増えたな。

秀介はフッと笑った。

 

「質問はもう無い?

 じゃ、さっさと戻りなさい。

 あの子心配してるから」

「ああ、そうだな」

 

言われるまでも無い、と秀介は改めてドアに向き直りそれを開けた。

 

 

「ついでに久ちゃんとの事、見守っててあげるから」

 

 

大きなお世話だ、と秀介はその言葉を無視した。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん・・・・・・」

 

寝ちゃってたか、と身体を起こす久。

時間は・・・・・・もうじき面会時間終わり。

 

秀介が意識を失って既に丸三日、団体戦二日目も個人戦も不参加だ。

 

私が巻き込んだこいつも・・・・・・と視線を向け、

 

ばったりと鉢合わせた。

 

「起きたか、久」

 

 

思考が止まる。

 

 

「・・・・・・俺も寝過ぎたかな・・・・・・今何時だ?」

 

 

起き上がるとする秀介に、久は覆いかぶさり、

 

 

声をあげて泣いた。

 

 

ナースコールで医者を呼び、これから改めて検査となるだろう。

久ももう帰る時間だ。

だから、秀介は用件を済ませる。

 

「ずっとついててくれたのか・・・・・・久、ありがとうな」

 

身体を起こした状態で、秀介はそう言う。

 

「い、いいの、気にしないで。

 そ、それより・・・・・・こっちこそありがとう。

 それから・・・・・・シュウに謝らないと・・・・・・」

 

久はそう言って秀介の手を握り、ベッドの上に乗るほど身を乗り出し、顔を近づけながら言った。

 

「ごめんなさい、シュウ。

 

 こんなに怪我して・・・・・・倒れるまで戦ってくれて・・・・・・。

 

 私・・・・・・シュウの為なら・・・・・・な、何でもする・・・・・・から・・・・・・」

 

「久、そういうこと、男の前で言うもんじゃないぞ」

 

フッと笑いながら秀介は言う。

 

が、久は顔を赤らめながら、なおも言葉を続けた。

 

 

「・・・・・・誰にでも言ってるわけじゃないもん、シュウだから・・・・・・」

 

 

そのままスッと顔を近づける。

瞳はわずかに潤み。

 

 

「わ、私・・・・・・シュウの事・・・・・・!」

 

 

「久」

 

トンと久の肩を抑え、秀介は苦笑いをしながら言った。

 

 

「悪い」

 

 

何が・・・・・・?という表情の久に、秀介は言葉を続ける。

 

 

「俺は・・・・・・お前が好きかどうか分からないんだ」

 

 

その言葉に、久の思考が再び止まる。

 

 

「お前とは仲良くやってきた、付き合いも長い、気軽に話せる。

 家族とも思えるくらいに親しい。

 それに、家族を含めても今まで出会った女の中じゃ、一番好きだ。

 

 

 それでも、この気持ちがお前の思う好きと同じかどうか自信が持てない。

 

 

 都合がいいと思う。

 お前に恥をかかせていると思う。

 

 でも、中途半端な気持ちで答えを出すのも失礼だと思う」

 

済まない、と秀介は笑いかける。

 

 

「今はまだ・・・・・・仲のいい幼馴染でいてくれ・・・・・・」

 

 

ポロッと久の目から涙がこぼれた。

 

 

「・・・・・・ごめんな、こんな野郎で・・・・・・」

 

「ううん・・・・・・」

 

 

ポスッと久の額が秀介の胸に当たる。

 

 

「・・・・・・待ってるから・・・・・・」

 

「・・・・・・ごめんな・・・・・・」

 

 

秀介は久の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

何処か遠くから「ヘタレ」と聞こえた気がするが無視しておく。

 

 

 




あ、甲高い声は聞こえた気がしただけだから全然セーフ。

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