咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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まこのナンバリングも途中からでした。
「夢乃マホその1」「夢乃マホその2」と来て「染谷まこその3」だったので分かり辛かったかも
ですけど(偶然だぞ

雀牌を広げる時間が・・・・・・余裕ができたら文章だけのところに手牌とか差し込みたいです。



11染谷まこその1 いじめとデジタル

時は巡り巡り、早くも一年後である。

 

彼女は初めてその部屋を訪れていた。

 

とはいえそこにいるメンバーは既に知った顔。

それでもしっかり挨拶する所は礼儀正しいと言えるだろう。

 

「1年、染谷まこです!

 よろしくお願いします!」

 

新人の入部である。

 

「よろしく、まこ」

「改めてよろしくな、まこ」

 

久と秀介も揃ってそれを歓迎した。

 

 

「ここが部室・・・・・・」

 

まこが物珍しそうに部室のあちこちを見て回る。

 

「麻雀卓は当然として、パソコン、ティーセット、本棚・・・・・・。

 色々あるなぁ、二人しかおらんかったのに」

「悪かったわね」

 

人数が集められなかった事を非難しているわけではないだろうが、からかい気味のまこに久が不機嫌そうに返す。

まぁまぁと秀介がお茶を3人分淹れて卓の脇のテーブルに置いた。

 

「む、なんでベッドまであるんじゃ?」

 

不意に目に入ったのだろう、指差しながらまこが聞く。

 

「たまに寝る」

「いつ寝るんじゃ・・・・・・」

 

秀介の言葉に突っ込むまこ。

 

「二人しかおらんかったら、一人寝たらもう一人が寂しいじゃろ」

「一人しかいない時とかな」

 

人望と成績の良さから、久は生徒会に関わっている。

その為、頻繁にではないが呼ばれることがあるのだ。

そうなると秀介は一人きり。

帰ってもいいし一人でまこの喫茶店と言うのも手ではあるが、ほとんどはここで久が戻ってくるのを待っている。

となるとやはり暇。

二人でも暇だと感じるのに一人なら余計にそう感じるだろう。

そんな時、秀介はここで寝ているのだ。

 

「フフフフ、そんな事言って」

 

秀介のそんな説明をどう歪曲して受け取ったのか、まこはにやにやと笑う。

 

「男と女が一人ずつ、一つの部屋でベッドがある。

 そうなればやることは・・・・・・」

「なっ・・・なっ、なぁっ!」

 

クックックと声を上げて笑うまこの言葉に、久の顔が真っ赤になる。

 

「な、ななな、何を言ってるのよあんたは!!」

「はーてねぇ? 何をあせっとるのかいな? 竹井先輩は?」

 

今更他人行儀に苗字に先輩付けとは。

からかわれてることが分かっていても、久は頬を膨らませて赤い顔のままだ。

助けてやろうか、と秀介が口を開く。

 

「何を言ってるんだ、まこ」

「そうよ! 何を・・・・・・!」

 

秀介と共に声を荒げようとする久を制し、秀介は続きを口にする。

 

 

「今日からお前も混ざるんだぞ」

 

 

「ふぇ?」

 

何に?と首を傾げるまこに、秀介はくっくっくと笑う。

 

「今まで二人だったからなぁ・・・・・・三人になるとまた違った楽しみが・・・・・・」

「え、ちょ・・・・・・な、何が?」

 

不安げになるまこ。

人をからかうからだ。

スッとまこに近寄る。

それに合わせて一歩下がるまこ。

手を伸ばし、また一歩進む秀介。

 

「ちょ、ま、マジで? あ、あかんて! そんなん!」

 

ダダダッと下がるまこ。

だが秀介は構わずに手を振り下ろした。

 

 

カシャカシャンと音が鳴り、麻雀卓から牌が現れる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・三人で打つか」

 

ふーやれやれと秀介は何でも無いように席に座った。

ポカーンとするまこ。

 

「どうした? 三人麻雀(サンマ)はそんなにあかんのか? ん?」

 

フッと笑ってやると、まこはかーっと赤くなりながらも戻ってきて席に着いた。

 

「・・・・・・人が悪いわぁ、志野崎先輩」

「お前が言うか」

 

再び笑ってやる。

と、まだ座らない久に視線を向ける。

 

「どした? 座らないのか? 久」

 

久は何やら不満気に頬を膨らませていた。

 

「・・・・・・やるわよ」

 

どさっと席に座ると、やはり不満げなまま賽をカララララと回した。

どうしたことだろう?とまこの方を見てみると、まこはふむふむと一人頷いていた。

そして秀介に言う。

 

「志野崎先輩、久は志野崎先輩が自分以外の女の子をからかっとるのを見たくないようじゃ」

「な、何がよ?」

 

まこの言葉にびくっと身体が跳ねる久。

ふむ、と秀介も頷く。

 

「からかわれるのは私だけの特権!と言いたいのか」

「なっ! べ、別にそんなんじゃ・・・・・・!

 ほ、ほら! 親は私でいいわよね!? 早く配牌取りなさいよ!」

 

あせあせと山を区切って牌を取っていく久。

その様子に秀介もまこも笑いながら配牌を取っていった。

 

「それはそうとまこ」

「ん?」

 

秀介の言葉にまこが、なんぞ?と振り向く。

 

「お前、久のことずっと呼び捨てなのな。

 「先輩」とか呼んでやる気ないのか?

 今更っていうんなら別にいいけど」

 

その言葉に、むぅと考えるまこ。

やがて。

 

「そうじゃね、他に部員が入ったら考えるわ」

 

そう返した。

そしてそれを聞いて久が不機嫌そうになったのを見て、秀介は呟く。

 

「その内、久が「私に負けたら先輩って呼ぶように」って勝負を仕掛けるとみた」

「・・・・・・別にそこまで気にしてないわよ」

 

つーんと久は摸打を続ける。

秀介はその様子を見て「どうだか」と笑った。

 

 

 

「そういえば」

 

三麻を打ち始めてしばらくして、まこが口を開いた。

 

「どっちが部長なんじゃ?」

「私」

「久」

 

その質問にあっさりと二人の意見が一致する。

 

「シュウは部長ってガラじゃないしね」

「久はしっかり者だからな」

 

そう言って二人で笑い合う。

まこはふーんとその様子を見ていた。

 

「わしの店でも思ってたけど、ホント仲いいんじゃな」

 

その言葉にまぁねと久が笑う。

 

「幼馴染だし、付き合い長いし」

 

そして少しため息をついて、言葉を続ける。

 

 

「色々あったしね・・・・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

その言葉に何か思うところがあったのか、不意にまこが真剣な表情で聞いてくる。

 

「なぁ、お二人は付き合おうとか思った事ないんか?」

「・・・・・・っ」

 

その言葉に、久の顔が赤くなる。

そしてその反応を見てまこはまた何やら考え込む。

 

「志野崎先輩は久の事どう思っとるん?」

「まこ」

 

またおせっかい焼きが余計な事を、と秀介は100点棒を取り出す。

 

 

「いつぞやの靖子姉さんを忘れたかな?」

 

 

その言葉にひくっとまこの顔が歪んだ。

この一年、靖子に限らず色んな人がトバされるのを見て、その100点棒が意味することを理解しているようだ。

その際「天文学的確率で・・・・・・」の後ろの台詞が状況やその人に合わせて色々変わっている。

今回はどうなるのか。

 

「もしも万が一、天文学的確率で・・・・・・」

「ちょちょちょ! ま、待った!」

 

慌てるまこに秀介は笑いかけてやる。

 

「遠慮することは無いぞ?」

「遠慮しますから!」

「うちの両親もこの洗礼は受けてるからな。

 あ、久にはやったことなかったな」

 

そういえば、と秀介は久に向き直る。

久も、んーと少し考えて頷く。

 

「・・・・・・そうね、確かに私シュウにトバされたことなかったわ」

 

秀介はふむと頷き、改めて久に聞いた。

 

「ちなみに聞くが久、俺にトバされたいとかいう願望あるか?」

「無いわよ、そんなの」

 

あっさりと答える久。

あったらあったで困るが。

 

「そうか、なら今日は「まこいじめ」と行くか」

 

パクッと100点棒を銜えた。

 

「ちょ! なんじゃそれ!?」

「説明が聞きたいのか? よろしい。

 説明しよう! 「まこいじめ」とは!」

「いらんわ! そんな説明!」

 

声を上げるまこに対し、秀介はジャラララと自分の手牌を晒した。

一部を除いて。

 

{■■⑤⑥⑦⑨2377白白白}

 

「? シュウ、何するの?」

 

首を傾げる久に秀介は笑顔で答えた。

 

「説明しよう、「まこいじめ」とはこのように一部を除き手牌を晒しているにもかかわらず、不思議とまこが俺に振りこんでしまう手品のような現象の事だ」

「説明いらんてゆうたのに!」

 

うぐぐぐ、とまこは呻き声を上げる。

そんなまこを笑いながら、秀介はトントンと自分の手牌を叩く。

 

「安心しろ、まだ聴牌してないから」

「・・・・・・確かに」

 

晒された手牌を見るからに確かにまだ一向聴と言ったところだ。

{1か4をツモ、⑨}を切り出して隠れている所の両面待ちにするつもりか。

 

「ほんならまぁ、聴牌される前にとっとと上がらせてもらうわ」

 

一足先に聴牌したのか、まこはそう言って{⑦}を切り出す。

ほほうと秀介は笑った。

 

「こう言う時は素直なのな、お前」

「ん? 何がじゃ?」

「いやなに」

 

秀介はそう言って隠れていた手牌をパタパタと晒した。

 

「こういうことさ」

 

現れたのは{⑧と1}だ。

 

{⑤⑥⑦⑧⑨12377白白白} {(ロン)}

 

「ロン。

 よかったな、リーチかけてないから裏ドラの心配も無くただの白のみだ」

「ちょ! 聴牌してないってゆうたじゃろ!? 嘘ついたんか!?」

「「まこいじめ」だからな」

「いやぁー! いつも藤田プロ狙いじゃから笑えたけど、敵に回すとこんなにも怖いん!?」

 

ギャー!とまこは頭を抱えてしまった。

やれやれと秀介は笑う。

 

「まだまだ、こんなもんじゃないぞ」

 

例えば・・・・・・と言いかけて止まった。

 

例えばで出てくるのはあの時の事。

 

 

久を助ける為に無法者3人と打ったあの時。

 

 

まだ痕は残っているが痛みはもう無いはずの背中の傷と、その後の吐血がフラッシュバックする。

 

 

いかんな、嫌な事を思い出したと秀介は首を振る。

 

「ま、いい、続けようか」

 

ジャラッと山を崩す。

まこは半分涙目になりながらそれを手伝った。

 

「あ、そうだなぁ・・・・・・ついでに罰ゲームでもやるか」

「ば、罰ゲーム?」

 

不意の秀介の言葉にまこの身体がビクッと跳ねる。

 

「この半荘が終了するまでトバずにいられたら回避、むしろ俺が罰ゲームを受けよう。

 しかし逆にもしも万が一、天文学的確率で、麻雀卓が置いてあるお店の従業員であり一人娘でもある染谷まこさんが、手牌を晒して打つ人物を相手にトンでしまったら・・・・・・お前が罰ゲーム」

「な、何させる気じゃ!?」

「終わるまでに考えておこうか」

「いやぁ! 先輩が怖いぃ!!」

 

 

それからも。

 

 

「ロン」

「ちょ! そんなところで待つ!?」

「でも出てきただろ?」

「うぐぅ・・・・・・こっち切っておけば・・・・・・」

 

 

秀介の上がりは。

 

 

「ロン」

「なっ!? 嘘っ!?」

「隠れてる所に惑わされて。

 捨て牌素直に見ればよかったのに」

「手牌が表んなっとったらそっちに目が行くじゃろ!」

 

 

しばらく続いた。

 

 

「ロン」

「七対子じゃのうて二盃口!?」

「安目だから平和一盃口だけどな」

「{7と8}入れ替えて隠すなんて!」

 

 

まこの点棒が空になるまで。

 

 

「ロン」

「嘘ぉ!? ツモ切りリーチしたから山越し一発狙いかと思っとったのに!」

「山越し狙い読み回避読み直撃。

 一発ついてトビだな」

「トビですよ! うえぇぇ・・・・・・久ぁ、志野崎先輩がいじめよる・・・・・・」

 

あまりの所業にまこはガシャッと手牌を崩すと久に泣きついた。

 

 

「・・・・・・」

 

 

久は何故か不機嫌だった。

まこはいつの間にか泣き止んでいて、その表情をじーっと見ながら言った。

 

「・・・・・・久、もしや志野崎先輩にいじめて欲しかったんか?」

「なっ!? ちちち違うわよ!? 何よいきなり!」

 

突然の発言に慌てる久。

秀介もそれに便乗してみる。

 

「久、俺は多少ならそういう趣味に理解はある方だと思うぞ」

「よかったなぁ、久」

「二人とも何言ってるの!?」

 

久は真っ赤になって騒ぎ立てる。

やはり久をからかうのは面白い、と思いつつ秀介は呟いた。

 

「御希望なら日を改めて「久いじめ」をやってやろう」

「いらないって言ってるでしょ!?」

「まぁ、とりあえず今日はまこが楽しんでくれたようでなによりだ」

「楽しめた要素がまったく無かったんですけど!?」

 

 

それは置いておいて、後日喫茶店にはネコミミを付けて語尾に「にゃ」を付けるまこの姿があったという。

 

大盛況だったらしい、常連に。

 

その陰で「シュウってば、ああいうのが好きなのかしら・・・・・・」と呟く久の姿があったり無かったりしたらしい。

 

 

 

そんな感じで和やかに過ごす毎日。

時々また喫茶店でお客さんを交えて打ったり、靖子を交えて打ったり。

 

靖子が煙草を吸うようになったのもこの頃だ。

いや、もしかしたらその前から吸っていたのかもしれないが、秀介達の目の前で吸い始めたのはこの頃だ。

突然懐から煙草を取り出したのを見た時は、秀介も久もキョトンとしたものだ。

しかも吸うようになった理由と言うのがまた。

 

「どうだ?」

「・・・・・・何が?」

 

煙草を銜えてにやっと笑う靖子に、今回は何が言いたいの?と言う表情で返事をする秀介。

靖子は笑顔のまま告げた。

 

「お前の銜える100点棒に対抗してみた」

「・・・・・・」

 

何か銜えれば強くなれるとでも言いたいのか、この人は。

と思っていると。

 

「ほんなら・・・・・・」

 

自腹でデザートを用意したまこが、その内の一つポッキーを銜えた。

 

「わしはこれで・・・・・・にゃ」

 

そう言うまこの頭にはネコミミが。

既に何度かやらされているようで、もはや慣れたものである。

靖子は「ほほう」と笑ったが秀介としては呆れるだけだ。

それはそれとして、久の方に視線が集まる。

 

「・・・・・・何もしないわよ?」

 

その言葉にちぇっと落胆する靖子とまこ。

何を言ってるんだか、と久は頼んでおいたジュースを飲む。

 

「・・・・・・それを銜えるというのはどうだ?」

「え? 何?」

 

靖子の言葉に止まる久。

 

「いや、その今飲んでるストローをそのまま銜えてみるというのは」

 

その言葉にまこも頷く。

 

「他に無いしそれでええにゃろ」

 

ポリポリとポッキーを齧りながらそう言った。

 

「あ、こら、齧ってどうする。

 銜えてろ」

「じゃけどこのままじゃ口ん周りがチョコまみれんなりますにゃ」

 

靖子の言葉も聞かず、結局まこはポッキーを食べきってしまった。

そんな様子を見つつ、何を言ってるんだかという表情で秀介に助けを求めてみる久。

 

「・・・・・・やるだけやってみたらどうだ?」

 

秀介も自棄になっていたのか、助けてはくれなかった。

仕方なく久もそれを銜えてみる。

 

 

・・・・・・・・・・・・。

 

 

「うっとい!」

 

ストローは5秒で投げ捨てられた。

 

とりあえず妙な事を言いだした靖子はやはりトバされた。

 

その後も靖子は煙草をやめることはしなかったが、煙管に変更した辺り反省したのかもしれない。

 

 

そうかと思いきや。

 

「シュウ! カツ丼でゲンを担いでお前に勝つ!」

 

そう言うわけでもないらしい。

 

「ところでこのカツ丼美味いな。

 うん、美味い、とても美味い、かなり美味いぞ」

「良ければまた頼みます?」

「是非頼む」

 

なんかカツ丼にハマったらしい。

 

 

 

それからまたしばらくして、パソコンをインターネットにつないでネット麻雀もやってみたりした。

今までは麻雀卓で打っていたり喫茶店に打ちに行ったりしていたし、久が調べ事や生徒会の資料作成に使う程度だったので、こうして麻雀部らしく使う機会は無かったのだ。

サイトに接続しソフトを起動したところで、久は秀介を見てにやりと笑ったものだ。

 

「シュウ、あんた普段はまるで山や人の手牌が見通せてるかのように打ってるけど。

 果たしてネット麻雀ではどうかしら?」

 

その言葉にまこもにやりと笑った。

 

「なるほど・・・・・・オカルトな能力を持つ人間はそれが発揮できないゲームや画面越しでは大きく弱体化するっちゅーのが定番じゃな」

「・・・・・・なんか俺が負けること期待されてる?」

「「別にー」」

 

二人の反応にやれやれと頭を抱える秀介。

そんな秀介を席に座らせ、二人はその後ろに立ちながら見学する事にした。

 

「まずは名前を決めるのよ」

「決める?」

「本名入れてもいいけど、ハンドルネームっていうネット上だけで使う名前を決めておくのがいいわね」

「そうなのか、ふむ・・・・・・」

 

「何にしようかしら?」「格好いい名前がいいじゃろ」などと勝手に言い合う久とまこを置いておいて、秀介はため息をつきながらキーボードに手を伸ばした。

正体不明というのなら別にこの名前を入れてもいいだろう、と考えながら。

 

 

3おgtぞ

 

 

「・・・・・・シュウ、ローマ字って分かるかしら?」

「ん?」

 

久にそう言われて秀介は初めて自分が入力した文字が意味を成していない事に気付いた。

キーボードの文字探しに集中していたせいである。

 

「ローマ字・・・・・・これローマ字で書くのか?」

「そうよ」

「何だその面倒くさいシステムは」

「パソコンはそう言うルールで作られてるんだから仕方ないじゃない。

 中学の時にもやってたでしょ?」

「記憶にない」

 

ため息をつきながらやれやれと頭を抱える久。

それとは別の理由でため息をつく秀介。

 

「・・・・・・しょうがないわね、私が打ってあげるわ。

 で、なんて入れようとしたの?」

「・・・・・・いや、何かもういいや。

 久が決めてくれ」

 

投げやりな答えにまたため息をつきながら、久は「シュウ」と入力した。

まんまじゃないか、なんて秀介の呟きは無視して。

そうして対戦環境が整ったところで、秀介の初めてのネット麻雀が始まった。

マウスの操作なんかも一緒に指導されながら。

 

 

実際打ってみるとなるほど、確かに山は見えないし手牌も見えない、牌の入れ替えなんてもっての外。

「死神の力」といえどもゲーム越しにまでその効果を発揮するわけではないようだ。

そこまでは久とまこの期待通り。

 

しかし忘れてはいけない。

彼は元々デジタル打ちの人間である。

 

普段の圧倒的な早上がりや狙い打ち、時折ある高打点などは影を潜めたものの、終始リードを保ち続けた。

半荘3回打ち、1回2位、2回トップである。

 

「・・・・・・シュウ、ここを押してみて」

「ん? こうか?」

 

久の指示に従い、画面のボタンを押してみる。

いくらか慣れてきたようだ。

 

「ここで過去の牌譜が見れるの。

 このゲームでは半荘10回分までだけどね」

「なるほど」

 

便利なものだな、と思いつつ今打った半荘3回分の牌譜を見てみる。

 

「ここ、この半荘のこの局を選んで。

 そうすると配牌から一打ずつ見れるから」

「こんなことまでできるのか」

 

感心しつつ全員の手牌が見える状態で一打ずつ進めていく。

 

「ここ、ちょっと気になったんだけど」

 

久に言われて手を止めた。

 

ドラ{⑧}

 

秀介手牌

 

{四五六六⑥⑦⑦(ドラ)⑨3445} {(ツモ)}

 

「シュウはここからほとんどノータイムで{⑦}切りよね?」

「ああ、そうだ」

 

カチッとクリックして手を進めると、秀介はそこから確かに{⑦}を切り出している。

 

「む、言われてみるとおかしいなぁ」

 

まこもそれに気づいたらしい。

当の秀介も何が言いたいのか分かっているようだ。

伊達に前世でプロの卵の面倒を見ていたわけではない。

 

「平和手で考えると一番受けが広いのは{六}打ち、って言いたいんだろ?」

「そうそう」

「ドラもあるし筒子は残しといた方がええと思うけど」

 

 

{四五六六と⑥⑦⑦⑧}、この形の場合どちらを残すか。

通常{⑥⑦⑦⑧}の方を残すべきである。

すなわち{六}打ちが正しい。

 

何故なら、{四五六六の場合両面待ちになるのは五六七}をツモった場合のみ。

他に両面の待ちがあれば別だが、{三をツモると頭と六のシャボ受け、八}を引けばカンチャン待ちとなってしまう。

{四}は他の手牌によりどちらにもなりうる。

頭があれば{四四五六六のカンチャン、なければ五を切って四と六}のシャボ。

また{六をツモると頭と三-六}の変則三面張となるが、上がり形で{六}か頭となっている牌が暗刻となり平和が消える。

聴牌になるだけなら{三四五六七八}の6種、うち両面は3種。

 

一方{⑥⑦⑦⑧の場合、⑦を引いた場合のみ頭と⑦のシャボ、⑤⑥⑧⑨}を引けば両面待ちとなる。

現に{⑨が重なって頭となるまで⑥⑦}両面の形になっていた。

頭が無い場合は{④ツモ⑧}切りでカンチャン待ちとすることもできる。

聴牌は{④⑤⑥⑦⑧⑨}でやはり6種、だが両面になるのは4種。

ちなみにこれは{⑥⑦⑦⑧}の場合であり、数字が一つ下がった{⑤⑥⑥⑦の場合は③④⑤⑥⑦⑧⑨}の7種が受け入れ可能となる。

 

 

「確かに通常なら{六}打ちで正解だろう」

 

そう言いつつ、「ただし」と秀介は言葉を続けた。

 

「捨て牌を見ると萬子の出が少し多い」

「・・・・・・そうかしら?」

 

秀介の指摘に久が首を傾げる。

が。

 

「ま、数でいえば確かに多いとも言い切れないだろう。

 だが上家と下家の捨て方は手牌に萬子が無く、他の面子を伸ばす為に切ってる切り方だ。

 面子のキーとなる{三七}がそれぞれ切られているからな。

 対面も同様、あっても上の{六七八九}辺りだろう。

 ・・・・・・って、今手牌見えちゃってるけど」

 

秀介の指摘通り、確かに他家の手牌に萬子はほとんど無い。

 

「・・・・・・つまり山に残ってるわけね?」

「そう、萬子は山に残っている。

 このゲームの山が牌の偏りまで再現してるかは分からなかったが、つまり王牌にも多めに入っている可能性があるわけだ。

 それも他家の捨て牌が上に寄ってることから察して下寄り、{一二三四}辺り」

 

実際その局で秀介がリーチをかけツモ上がりをした結果裏ドラ表示牌が{三}となり、裏1となったわけだ。

 

「それに対して筒子。

 こうして手牌を見ると予想より多かったが、対面は一盃口成すか崩れるか、下家は2面子分とさらに両面。

 上家に至っては染め手が狙えそうなほど。

 つまり・・・・・・」

「・・・・・・裏ドラが期待できないと」

「そういうこと。

 ついでにツモもな」

 

ふわぁ、とまこから声が上がる。

結局秀介の上がり系はこの形。

 

{四五六六七⑥⑦(ドラ)⑨⑨345} {(ツモ)}

 

リーヅモ平和ドラ1と裏1で満貫だ。

 

はぁ・・・・・・と二人からため息が漏れた。

 

「・・・・・・あんた普段はあんなにおかしな打ち方とかしてるくせに、何でネット麻雀だとデジタル打ちになるのよ」

「何を言うか、俺はデジタルの打ち手だぞ」

「あんな打ち方するデジタルがおるかい・・・・・・」

 

この日の久とまこの収穫は、ゲームなら勝てると思っていた予想が大幅に外れたという結果だけだった。

一方秀介はネット麻雀という新しい遊びを少しは気に入ったようだ。

 

しかし一人でパソコンを操作していると何故か唐突に画面が青くなったり「不正な操作が行われました」だの「コピーは禁止されています」だの「電源が入っていません」だの

意味不明なエラーが表示されるので、一人でいる時にネット麻雀に入り浸る事は無く上位に行くほど打てたわけでもなく、ネット界に彼の名前が広がる事も無かった。

 

パソコンが苦手なのかパソコンに嫌われているのか、その辺りは謎である。

 

 




まこ「にやにや」
久(ネコミミ)「・・・・・・にゃ・・・・・・はっ!?」


多分久が「だって私はシュウが大好きなんだもん!」って開き直ったら、ものすっごく甘ったるい空気になると思います。
指定席は秀介の膝の上、とか。
そう言うのも嫌いじゃないですが、これくらいの距離間の二人もいいんじゃないかなーと思います。

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